デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

VALU試してみた。評価経済のテストも、偽装者の楽園をどう直す?

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話題になっているVALUを早速始めてみて、自分のVALU株式を発行しました。めちゃくちゃ安いので、冗談半分に買ってくれたらうれしいです。ぼくは自社株買いはしません。

valu.is

で、つかっている感想を話したいと思います。個人のインターネット上の評価を貨幣的に扱う試みは「最初の一歩」として面白いと思いました。しかし、評価を貨幣化するロジックが単純すぎであり、自身の評判(Reptation)を実力以上に見せることに成功しているタイプの人たちのパラダイスになっている気もします。

ネット上の身元証明の勝利

まず肯定的な部分について話しましょう。いまやFacebook認証などを使うと、サイトやアプリごとの個人情報登録を省くことができて、かなり便利です。個々人がIdentification(身分証明)の管理をプラットフォームに委託している形です。これを友だちという形でネットワークにしておくことで、お互いにその人だと確認し合っていることになり、身元証明の確実性を高めています。

役所に置いてある身元証明が余り融通が効かないため、ネット上の身元証明は今後リアル世界の認証をテイクオーバーしていくでしょう。重要なのは身元証明を他人に乗っ取られないようセキュアにすることです。生体認証のプロトコルの策定が進んでいたり、デバイスの使い方の傾向などから本人かどうか確かめる手段を提供するAPIが作られています。

オープンな個人データの有用性

最近はFacebookで友だち申請した後、私の目の前ですぐさま調べて「ああ、あなたはこういう仕事しているのね」「この人と友だちなんですね」と確かめる人がいます(余りいい気がしません)。そもそも会う前からFacebookやブログやなんやら調べ上げられているのも常態化していると感じています。私はかなりユニークなタイプなので、こっちの方が手っ取り早くていいなと考えています。平均点をとる気のない人を許容できる人と会いたいです。

Facebookは自身のサービスを通じてユーザのデータを収集しており、同時にIdentifier(識別子)を通じてあらゆるデバイスをまたいだユーザ行動をも手中に収めています。

だから身元証明とそれにまつわるデータを広告という形でマネタイズできるのです。彼らの広告事業はとても成功しています。ただ、最近のAI / IoTの発達を見ていると、今後のコンシューマーインターネットのビジネスモデルの着地点は広告ではないかもしれないと感じます。

誰がIDを握るのが一番いい?

誰が身元証明を握り、運用すればいいか。GoogleFacebookが100%善意のプレイヤーであればまあそれでいいでしょう。でも、その仮定が働かないときどうすれば良いのだろうか? VALUでは仕組みが不完全ながら自身の株式を発行することができます。身元証明を自分の手の上に引き戻そうとしているふうに感じられます。

ハックされやすい評判

Reputation(評判)はハックされやすいでしょう。Google検索はフェイクニュース量産サイトや信頼性の低い医療系サイトを上位にランクしました。

www.j-cast.com

VALUの参加者のスコアリングはかなり大雑把かもしれません。Facebookの友だち数やTwitterフォロワー数が時価総額に大きく影響しているようですし、自社株買いが有効です。でもこれらはお金をかけたりすればハックできます。

結論:テストケースとして面白い

VALUは一般層に気づきを与えていると思います。自分自身に価値があり、その価値に対して投資してもらうことができるということです。こういう気づきが行き渡れば、ブラック企業で働く人はいなくなると思います。

昭和の投資術が最適:暗号通貨のバリュー投資

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暗号通過に関してこういうツイッターがありました。

これで思いついたのは、暗号通貨はバリュー投資がワークするよなという推測です。バリュー投資はウォーレン・バフェットが長い間採用する投資手法として有名です。

 

億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術

億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術

 

 

私の仮説は以下の通りです。

ある程度パフォーマンスを把握できる暗号通貨に対しては、Hodl(ホールドの意)する「ロイヤルユーザー」がつきやすい。そこにレイトマジョリティの新規ユーザーが加わる形で、長期的な価値上昇を期待できます。パフォーマンスを理解しないギャンブラーが集まる銘柄はボラティリティが激しく、ババ抜きになりがちです。

実際昨年から今年にかけてBitcoin, Ethereumは続伸しています。Rippleはどうなったでしょうか。しっかり研究していると群衆に対して相当情報優位に立てるのが、いまの暗号通貨市場です。GWから流入した日本の投機家は、5月中旬の暴落でかなり損を出したはずです。

バリュー投資自体は枯れた手法です。金融工学が発展しトレードのロジックは複雑化を極めています。市場に生まれた価格差を一瞬でなくしてしまうアルゴリズム、一見何者かよくわからないほど複雑なデリバティブ。複雑なものたちが、複雑なものを売り買いしています。

www.nikkei.com

しかし、暗号通貨はかなり難しいので、他人が見抜いていない価値を見つけることが容易です。価格の歪みを発見しやすいでしょう。私にとってはビットコインゲーム理論上の課題を解決している部分は興味深く、最近は勉強量を増やして技術面に詳しくなろうとしています。そうすればより勝ちやすくなるでしょう。

ただし、バリュー投資の敵もあります。それは暗号通貨市場では超不合理な投機家たちが、市場の効率性を大いに損ねているところです。バリューが必ずしも正しく評価されるかわかりません。でも、長期的に見れば、賢者は勝ちやすい、そういう単純な造りの部分が暗号通貨市場に残っていると信じます。

 

 

制約への洞察を磨き上げろ

週末は結婚式に出席してお酒をたくさん飲んだ。それを機に久しぶりにリラックスしてみた。休んでみると、どうも自分の脳みその中がバイアスだらけであると気づいた。

仕事を短時間で高いパフォーマンスを出すことに照準を合わせてきた。開いている時間は学習に費やしてきた。学習は楽しいのだが、もしかしたら過学習気味だったかもしれない。

いつの間にかぼくは制約に従順なっており、制約の枠内をはつかねずみのように走っていた。制約への屈服がさまざまな活動のボトルネックになっていることに気がついた。疲れ果てるほど頑張っているのに、その成果がオプティマイズされていなかったのだ。悔し過ぎる。


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Googleの中居悦司氏のDevOpsに関する講演を聴いたが、Googleは技術的制約への恐ろしいほどの洞察を巡らせるという。制約を受け入れて得られること、制約を打破したら得られることを考える。仮にお金をかけてクリアできるならお金をたくさん使うことも厭わない。

製造業で用いられるTheory of Constrainmentは制約を見つけ出し排除するプロセスを繰り返す。
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その制約条件自体は工夫やちょっと血を流せば、クリアできるものなのだが、いつの間にか怠惰になっていた。常に自分がやっていることを見つめ直して、制約を打破し続けようと考えている。

 

ご祝儀はデジタル決済、招待状はQRコードでどうぞ! ここがおかしい日本の結婚式

先週、友人の結婚式の受付をやりました。それに伴い結婚式についていろいろ考えました。友人の結婚に関しては本当に素晴らしいと思いました。しかし、結婚「式」をめぐっては考えたことも多々あります。今後の結婚するカップルを幸せ(?)にするために提案をしましょう。今回は冗談モードなので、勉強モードの方は読まないでください。

ご祝儀はデジタルペイメントでやりたい

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いちいちあのご祝儀袋を買ってもらい、詰め込まれた現金を回収するなんて、無用なコストが生じており、手続きが面倒臭すぎます(あの袋500円位します)。受付係として毎回袋をもらう度にううむうと感じてしまいました。

映画「カジノ」の序盤で、大量の現金を扱う危うさが説明されています。昔のラスベガスのカジノでは毎日、大量の現金を数えなくてはならず、計上の最中でぼろぼろと従業員たちの懐に落ちていくことが常態化していました(取り締まりが大変なので運営も看過していた部分もあったでしょう)。なのでこういう多数の人間が介在する大量の現金の授受はとても危険です。私は「麻雀放浪記」の出目徳のことを思い出しました。

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ご祝儀袋は出席者がいくら払ったかをふわっと時限爆弾的に覆い隠すけど、結局のところ、カップルには分かるわけです。だったら初っ端からデジタルな取引で済ませたいですね。

そこで課題なのは、クレカの手数料と銀行の振込手数料です。カップルはネット銀行の口座を用意して、出席者もネット銀行口座から振り込むというのが、いまの日本で一番安い決済方法でしょうか。レガシー金融インフラの非効率性は、わたしたちの結婚式をも非効率にしているかもしれません。

日本にも便利なデジタルウォレットがあればいいのですが…。おそらく結婚式のご祝儀のデジタル決済という点では、日本勢はインド勢にボロ負けするはずです。入り口に左下のようなQRコードがあってスマホで読み取ればおしまいです。

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マニアックなカップルとマニアックな出席者がそろった式なら、暗号通貨もいいと思います。ただBitcoinはそろそろブロックにトランザクションが収まりきらなくなりそうで、送金コストが上昇してます。したがってLitecoinがいいのではないだろうか。ちょうど先月、Blockstream社はSegwitを実装したLightning Paymentでスイス・チューリッヒとサンフランシスコ間で1.3ドルの送金に成功しています。手数料はゼロです。

招待状→出席確認はQRコード発給

結婚式の招待状も省略しましょう。あんな紙切れで業者をもうけさせてはいけませんよね。招待客には、免許証と自分の顔を一緒にとってもらったものを登録してもらって、そこでご祝儀をクレカ決済でもして(ご祝儀価格も指値にしてしまう。親族5万、友人3万みたいに)、そのプロセスを終えた人にQRコードGoogleマップで会場位置を渡せばいい。あとは式場でQRコードを読み取ればおしまい。

(というのも、私は当日音声検索で会場を調べたら、表参道に行くはずが、青山一丁目の違うホテルに行ってしまいました涙。すべての行動をどれだけマップアプリ・検索に頼り切っているのか思い知りました)

挙式会のイーロン・マスク

挙式の興味深い点は、カップルがご祝儀を期待して、自身の予算を積みませられる点です。つまり、カップルは界王拳を使った孫悟空になることができます。プレミアムの載ったフリーザーを与えられると、悟空は倒したくてしょうがなくなります。したがって(?)挙式ビジネスのマージンは大きいと想定できます。

 

ぼくは挙式ビジネス界にイーロン・マスクのようなやつが現れたら世界が変わると思いました。つまり、NASAがそれまで依存していたロケット提供企業に対して取った戦略ですね。マスクは現状のコストを徹底的に圧縮するという方法をとりました。しかもその余剰分をカップルのLTVの拡大みたいなものに振り向けるのがいいのではないでしょうか。高いマージンはキープしたままで、価値は拡大するはずです。

「挙式一発やって大儲け」→「挙式から子育てらへんまでの長期的価値」という方が素晴らしい気がしますが、おそらく既存業者には美味しすぎて転換できないというのが、本当のところでしょう。だからディスラプターが必要なのです。

 

Ethereumの最大のキラーアプリはトークン


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イーサリムの最初のキラーアプリケーションが発見された。Eメールやインターネットように平凡であり、それは最初からあったものだ。トークンである。

コーネル大学のEmin Gun Sirer氏がこうツイートしています。最近のICOバブルが背景にあリます。株式を表現したトークンやアプリケーション内通貨を表現したトークンが群衆に対して売りに出されています。

私たちはあらゆる資産のトークンを発給できます(参考Consensys blog)。シンプルであり、なおかつ強烈な実用性を備えています。

面白いことにあなた個人のトークンも発給することができるのです。この面白い例は最近話題のVALUです。もしVALUでブロックチェーンに記載された身元証明=IDに紐付いたトークンが発給されていれば、より確実な形で運営ができるはずです。

アイデンティフィケーションがイーサのキラーアップになる可能性があリます。そうなればシェアリングエコノミーに必要な信用=トラスティなども整備されます。トークンエコノミーはテクノロジーの進歩に整合する社会が現れるはずです。

ビットコインは8月1日にUASFを控えています。送金手数料はすでにかなり高くなりつつあります。UASF以降もアップデートを重ねないといけないし、ファンジビリティの問題などはまだ解法に至っていません。

トークンの発給という単純なキラーアップはCripto / Blockchainに新しい価値をもたらそうとしています。8-9割は詐欺と揶揄されるICOのガバナンスを考えないといけないでしょう。

  1. 証取委のような存在がいない
  2. 証券会社、ベンチャーキャピタルなどがいない
  3. オープン

こういう特徴を損なわない、新しいガバナンスがICOには求められています。

 

東京にだって移民とイノベーターがクロスするイノベーション地域はある説を検証する

このブログを読んでいて、再び引っ越しについて考え始めた。紹介されている『年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学』は都市間の経済格差を様々な観点から比較しているという。

アメリカにおける都市間の経済格差、特にイノベーション産業のメッカとなっている都市(例:シリコンバレー)と衰退した都市(例:デトロイト)の比較を様々な観点から行っており、結論としては高付加価値産業は特定地域に留まる性質があり、それは計画的に達成されるのではなく偶然発生するだけ、ということだった。シリコンバレーであればショックレー電子、シアトルであればマイクロソフトがそこに居着いたのがいま栄えている理由の根本であって、周辺産業含めた収入の地域格差はそのように突出した地域が生まれる上で必要悪とも見なされるそうだ。

都市経済学の様々な論者が似たような説を出している。リチャード・フロリダもまた広義の「クリエイティブ階層」を定義して、資本主義のなかで差別化された価値を生み出す人たちは特定の場所に集住する傾向を指摘した。

www.amazon.co.jp

著書の内容をしっかり覚えていないところで、いい書評があったので引用しよう。

とは学 『クリエイティブ都市経済論-地域活性化の条件』リチャード・フロリダ

・「移入者(移民)」の多さは、「ハイテク産業」と関係している。外国生まれ人口の割合とハイテク成功との間の相関は極めて高い

ボヘミアン(作家、デザイナー、ミュージシャン、俳優、ディレクター、画家、彫刻家、写真家、ダンサーなど)指数が高い都市は、「ハイテク」基盤だけでなく、人口成長、雇用成長も高い都市

・クリエイティブ経済では、環境の質は、才能を引き付ける前提条件として重要。環境は、経済的競争力、生活の質(QOL)、才能の吸引力を高める

・オールド経済では、企業の立地決定こそが地域経済の原動力であり、人間の立地決定は、企業の立地決定に従うものであった。クリエイティブ経済の到来は、この立地を劇的に転換する

・若いクリエイティブ・ワーカーは、地下鉄やLRTといった大量公共交通機関を、より広い範囲の地域へ行く移動交通手段として好んでいる。それらがあるところを居住・就業地を選ぶ上で重要と見ている

・水辺は、高アメニティ地域にとって共通の重要要素。もっとも成功しているハイテク都市のうち、いくつかは水系の近くに立地し、水系の資源をうまく戦略的に利用し、環境の質を高め、レクリエーションや交通の機会を増やしている

・大学は、クリエイティブ経済を構成するインフラ。才能を生みだし、生かすメカニズムを提供する母体。イノベーションを生み出すだけでなく、創造の力によって、経済を増幅させる

・日本の社会は、ブルーカラーのクリエイティビティを引き出すシステムは最高だが、ホワイトカラーのクリエイティビティを引き出せない 

サンフランシスコ>東京

この記事は5月24日にbtraxが開催した「DESIGN for Innovation 2017-デザインが経営を加速させる」の講演をもとに執筆したんですが、主催者のbtraxのブランドンさんのお話を聞いていると、上に挙げられたクリエイティブ都市の条件がbtraxがオフィスを置くサンフランシスコにはあるが、東京には「今のところ」ない、というニュアンスがまあまあよく出てくる。

digiday.jp

ブランドンさんが日本からサンフランシスコに移住して起業につながるまでのストーリーは本当に好きだ。

私は高校生になったあたりから、その向こうに見える公官庁・大企業中心社会に全くなじめないことを確信し、大学時代は音楽を作ったりなんだりし、卒業後はインドネシアに渡った。インドネシアで5年過ごした後に起業したくなり、日本に帰ってきた。帰ってきたときは謎のナショナリズムの最潮期で、困難はかなり大きかった。なまじ比較対象をもっているために感じる日本の硬直的な慣行への強烈な違和感なども、ブランドンさんのブログを読んでいるとちらほらあり、そうだよなーと共感してしまう。

blog.btrax.com

東京にだって好ましい例外があると信じたい

社会システムが80年代の製造業の成功体験を基盤にしたものであり、昔を忘れられないオジサン・オバサンたちが必死にこの仕組みを維持している、悲しい日本。それを増強するための偽情報が流通させられている日本。自分のなかに内在する枯れたプログラムに支配され、新しい世代にも枯れたプログラムをせっせと教え込む人々であふれる日本。高齢化し活力が失われているように描かれる日本。ヤル気のある人を集団でイジメる日本。

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だけど私は楽観的だ。東京のなかには移民と若者のミックスにより多様性とアニマルスピリッツのパワーが噴き出す場所があるのではないか、という仮説をもっている。東京は依然として世界有数の大都市であり、経済基盤は大きい。偏見さえなくなれば途端にうまくいくかもしれない。

これはもう何も調べていなくて社会学という最も役立たずな学問的な肌感覚だが、新大久保、百人町、高田馬場らへんや東京東部の若いカップルの子供と移民たちが交差するらへんにチャンスがあるのではないか……。そういう、盲点になっている場所を付けば、創造性を生み出し続けられるのかなと思います。

これを検証するために引っ越しをしようかなーと考えています。いまは神奈川県の家族がマンションを買う街に住んでいて、ぼくのメンタリティと街が噛み合っていません。

物件・地域・コミュニティ紹介をお待ちしています。TwitterのDM、Facebookでコンタクトください!

私はこういうプロジェクトに取り組んでいます。

taxi-yoshida.hatenablog.com

 

【DIGIDAY記事解説】マーケティング業界がサイエンスやるなら今でしょ

Googleは先月、Google Attribution 360をリリースした。これはもうGoogleは「私たちは自分たちのデジタル広告だけじゃなくて、デジタル全般もテレビも評価できます。購買データもあります。ROASの「推定」だって今までより突き詰められます。貢献度分析から最適な予算配分をやれます。だって、私たちが一番たくさん世の中のデータを集めているんですから」と言う感じです。

Digital & TV Attribution Capabilities - Google Attribution 360 – Google

DIGIDAY USのYuyu Chen記者は代理店や代理店系のベンダー、独立系などを取材して、その反発の大きさを明らかにしています。

このソリューションが出てくるまでの経緯はこの通り。

  1. WPPが共通識別子トラッキングを作るといいはじめた。WPPはそれでテレビとデジタルの指標をつくろうとしているっぽかった
  2. Facebookが人ベース測定を広告主に開放した。WPPの目論見を防ぐことが目的だったのだろう。アトリビューション分析ができるという話で、そのツールを使うと、テレビなどのROASが新しい基準に載る

  3. GoogleFacebookと同じことをはじめた

サイエンスをやるのは今でしょ

細かい説明は省くとして、マーケティング業界は長い間サイエンスをサボってきたと思います。世界1位のWPPはプラスチック屋から身を立てたマーティン・ソレル氏、世界3位のピュブリシスのモーリス氏と、彼らが高齢で長期間CEOに在職している状況をみると、この業界は余り変化の風を浴びなかった。彼らはM&Aが上手で競争を避けることができてきたのだと思います。遊びの少ないファクトやデータに根ざすものを嫌ってきたかもしれません。

マーケティング業界ではサイエンスに根ざさない意思決定を山ほど見ることができます。キャンペーンの評価方法には目をむくほどマズいものがあると思います。これは代理店だけではなく、クライアントサイドにもたくさん問題がありました。

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テックジャイアントが大規模サービスでユーザーを囲い込み、そこから収穫されるデータを独占して、こういう形でマーケティングにサイエンスを突きつけているということだと思います。それ自体はいいような気もしますが、勝者がどれだけ残るのだろうかと考えると少し難しい気持ちにもなりますが。

 

 

 

 

人間とコンピュータの肩の上で天才棋士藤井四段が躍動する

将棋でコンピュータの方が強いのは明確です。佐藤名人も練習段階から「ほとんど」Ponanzaに勝てなかったと認めました。でも最近藤井聡太四段という天才が現れました。将棋ファンは大興奮しています。彼は14歳で本当に新しい世代です。

このYouTubeの解説チャンネルは本当に勉強になりますが、仕事の後だと重いです(笑)。

元奨励会員アユムの棋譜並べ39 藤井聡太 VS 羽生善治 炎の七番勝負第七局 - YouTube

「 角換わり」という戦型が採用され、途中から藤井が急戦を仕掛ける局面があります。仕掛けた段階で、ソフトの評価値は藤井氏が優位になっています。仕掛けの先の変化では、駒の総量で藤井氏が(人間にとって)不利に見える変化があります。しかし、ソフトはその場面で藤井氏の方が優位だと判定しています。これは従来の人間による判定が余り正しくなかったらしいのです(8分20秒頃)。

だから人間が築き上げてきた将棋の叡智をもとに、コンピュータが強くなり、今度はコンピュータによる探索により人間の叡智が前進をはじめている、と言えます。藤井は今後、コンピュータの力も借りて、人間のバイアスを超えた将棋の新しい世界を発明していくでしょう。藤井自体も14歳と若くバイアスが余りなく、巨人の肩の上で躍動できるのではないでしょうか。

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特化型人工知能=弱い人工知能の未来

私が取材したこの記事で人工知能学会 会長の山田誠二氏は弱い人工知能について触れています。

「AIを人間に近づけるのはなかなか難しい。人間は極めて複雑な生物だ。生物は何十万年かけて莫大な並列計算を行い、世代交代を繰り返し、それである種の条件に合うような機能を身に着けた。20〜30年で限られた演算しか行わないコンピュータで同じことをするのは直感的にも難しいと感じられる」

人工知能をめぐる、マスコミの報道はミスリード続きかもしれません。「AI開発ガイドライン(仮称)」の素案を策定するため総務省が設置した産官学会議から、AIスタートアップのPreferred Networks(PFN)が離脱していた件もありました。おそらくマスコミだけじゃなくてその周辺のあの界隈が難しい状況かもしれません。

人工知能技術の健全な発展のために | Preferred Research

このPFNのCSOである丸山氏の文章は本当にわかりやすくて素晴らしいと感じました。おそらく研究者にとっては汎用人工知能を生み出すことは、イーロン・マスクが火星に移住を考えるような夢ではないかな、とぼくは考えています。何かを作る人に重要なのは「絶対にできる」というマインドセットであり、だから取り組むわけですね。

DeepMindのDemis Hassabisは汎用人工知能の創出をビジョンに据えています。でも、医療方面やデータセンターの省電力化など特化型人工知能の開発を実際に進めてもいるのです。ここからも汎用人工知能が「究極のゴール」であることがわかります。

私はこのような変化をメディア産業に起こしたいと考えています。Googleが情報を整理する人工知能をつくって、あらゆることを面白くしましたが、私は人間が情報を生成する部分をサイボーグ化したらもっと面白いことになるよねと思っています。個人的なプロジェクトですが、ぜひ手伝ってくれる人を探しています。

Smart Node Project

 

 

 

 

 

 

メディア再発明する「Smartnode Project」をライフワークにしています

スマートノードプロジェクト(Smart Node Project)のウェブサイトを作りました。2010年頃からメディア企業で働いて「何かがおかしい」「こう変えたらうまくいく」とずっと考えてきました。旧態依然の世界の中で「こうすれば良くなる」という提案は常に厳しい、時にあまりにも辛い反応にさらされてきましたが、最近は時代が変わり、私の考え方に興味を持って貰える機会も多くなりました。よく診てもらうとわかりますが、別に目新しくありません。しかし、大事なアイデアでして、実現できると価値が高いでしょう。

Smart Node Project

小難しい名前ですが、構えないでください。格好をつけているだけです(笑)。スマートノードとは「賢い節」と捉えてもらえば結構です。ノードについてはNTT PCコミュニケーションズがこう解説しています。

コンピュータ・ネットワークの世界で使われている言葉で、基本的にはネットワークの接合点とか中継点、分岐点などのこと。(中略)コンピュータ・ネットワークを木に例えると、幹にあたる幹線ケーブルがあって、そこから枝葉のようにパソコンやプリンタなどが接続されている。そして、幹から枝に分岐している部分がノードということになる。

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情報を数学的に定式化したことで、通信が成長してきた経緯があります。ネットはその最たるものです。情報をデータとして定量化して移動させる技術の進化がもたらしたのが、この世界の有様です。人間の視点から見たとき、その情報の中身が「ゴミだらけじゃないか」というのが言われています(いいものもありますが)。データ量が拡大しており、データが発生した場所や、そのデータから得られる洞察がとても必要とされる場所でいち早く、解析されることが必要じゃないかという話になっています。

その解析を生み出すのがスマートノードだと認識しています。デジタルデバイスからあふれる多量の情報に沈没しそうな私たちにとって、そういう情報生成・解析装置が近くにあれば、頼もしいはずです。

コンピュータネットワークの言葉を、とても伝統的な「メディアの世界」に持ち込んだせいで少し混乱が生じているのはご容赦ください。その代わりビジョンは明確です。私は従来「マスメディア」が担っていた役割を、アフターインターネットの世界に合わせて、人々の細やかなニーズに応えるものにしたいと考えています。情報が伝達するネットワークの接合点で、情報を確かめ、必要とされないものや洞察に関与できなさそうなものを切り捨て、インテリジェンスを生み出したいのです。

従来的なメディア、つまりブロードキャストの情報は以下のような構造をしています。一方的です。発信者の流す情報の真偽や質に関して、チェックする方法があまりなかったのです。そうすると発信者が情報を好きに操る可能性をゼロにできない。

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Via Wikimedia Commons

 

これをもっと双方向的に、それぞれが絡み合う複雑な形、それこそ生物の世界が採用している形に変えていこうということです。以下はTwitterの情報拡散の構造をスタンフォード大学の研究室がビジュアライゼーションしたものです。情報を受け取り伝達するローカルサブセットがあります。

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Via Stanford Univ Library

 

インターネットが行き渡った時代には、さまざまなものが分散され、それぞれが自律して思考するように成り立つ方が自然ですよね。私たちの人間関係のネットワークも図示をしたら上のようになるはずです。「つながっている」のです。

この部分集合に対して「いいか、おれはエラいぞ。これはこういうことなんだ。鵜呑みにしなよ、わかったな!」というのが20世紀までのいわゆる「メディア」でしょう。正しく作られ、変動性、可変性がある柔らかい権威はいい仕事ができます。しかし、人間社会は必ずしもそういう権威を作ってきませんでした。あるいはいい権威もあるときから悪い権威に変わったりします。

「Medium」という言葉は「媒介するもの」という意味です。「媒介するもの」が自分勝手な権威を帯びていて、その上でふんぞり返り、自分に都合のいい情報をつくりがちなのが現代の「メディア」とその周辺のサークルのあり方です。私はこれではマズい気がします。

あと最後に言い訳をします。スマートノードは「情報伝達のなかで効果的な役割を果たす多様性ある節・接合点をつくろう」というプロジェクトですが、それがGoogleの標準化されたサーバーに載っていることはツッコまないでください。よろしくおねがいします。クラウドで提供されるリソースの方が使いやすいケースはありますし、私は「正しい利便性」には逆らわないのです。

https://sites.google.com/view/smartnode-project/

大手報道機関とその周辺の情報生成に疑問

私は現在のニュース・情報のつくられ方に疑問をもっています。レガシーメディアでは長い間権威的な立場に安住し過ぎたせいか、人々のためになる情報というよりは、自分の周りのサークルのための情報をつくる機械になっています。

私はとても素朴に「人を自由にできる、優れた情報」をつくりたいと考えます。人間が消費する情報の発生源として人間は依然として有力です。となると、情報生成の場で人間がクリエイティビティを発揮する機会は残ります。これはGoogleFacebookが達成していないことだと思います(フェイクニュースが最たる例ですね)。

近年のテクノロジーの変化、そして予測される変化は想像を絶しています。既得権益を守るためにテクノロジーやサイエンスに関する情報を歪んだ形に変えて「下々」に伝える装置は、「人工知能に殺される」という形の情報を流布させたり、反知性的な奇妙で興味深いナショナリズムを煽ったりと、かなり危険です。

情報生成は今後サイボーグ化していきます。それこそ攻殻機動隊草薙素子みたいに、脳味噌とネットが接続されていて、たくさんの情報の中から、有意なインテリジェンスを導きます。イーロン・マスクは脳とコンピュータをつなぐビジョンを明らかにしました。「Neuralink」ですね。

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これらの例は極端ですが、比喩としてわかりやすいと思い、採用しました。言いたいのは、コンピュータと協働してマニュアルレイバーから解放された人間たちのチーム、つまり、スマートノードがより高度な情報を、正しくメタ化された情報を人々に与えることにより、下の図のような分散・自律の世界がよりうまく動くようになるのではないか、と考えています。

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Via Stanford Univ Library

最後になりますが、以前公演で使ったスライドを添付します。

 

 

 

アリババの破壊的な「芝麻信用」:信用や評判のスコアリングは社会を変える

2015年に中国・重慶を旅行していてドルを中国元に両替しようと思って国有銀行にむかった。国有銀行のATMに向かうとおもむろに警備員が声をかけてきた。

「キミ、両替したいんだな?」。中国語だったがなぜかわかった。彼はぼくが両替しようとしているドルを見て、レートを提示してきた。麻雀のおかげで中国語の数字はわかる。レートはATMが提示するものよりよかった。

面白いことにもう一人の警備員のおじさんが現れ、彼はもっと良いレート提示してきた。2人が競争を始めたところで、異変を感じた職員が近づいてきた。このおじさんたちは一瞬で消えた。

この一件からも中国人の金融リテラシーの高さを感じられる。おじさんたちはもっといい両替ルートを知っているんだろう。それで差額を稼ごうというのだ。日本の警備員にはこういうアニマルスピリットを見出すことはできないだろう。

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高層アパートメントが乱立する重慶。開発のカオスさにSF感を感じてしまった。吉田拓史撮影(2015年)

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中心のないマンションの林。薄煕来氏が行った猛開発の結果。吉田拓史撮影(2015年)

中国は本当に面白い

今週は自分が書いてきた記事のおかげで議論や質問がまあまああったので、アリババの金融の仕組みを再び調べ直してみた。

中国人は本当にモバイルで金融を触っている。さまざまなことがモバイル上のUIの上に表現され、そこですべてを実行できる気にさせてくれる。国有銀行の警備員たちもモバイルを利用し、ものすごい速度でコネクションを発見し、ぼくのドルを人民元にする方法に行き当たるのだろう。微信/WeChatのタイムラインにドルを晒せばすぐさまドルの買い手は見つかるのではないだろうか。

東南アジアでもさまざまな華人の人と楽しく過ごさせてもらったけど、彼らの金融リテラシーには勉強させてもらうばかりだった。

芝麻信用という破壊的なクレジットスコア

アリババはコマースや金融取引履歴・ネット行動履歴、公共料金の支払履歴、デモグラフィック、社会的人脈などから、その人の「信頼」を独自にスコアリングしている。「芝麻信用」だ。

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アリババはサービスを拡大させることによりデータソースを拡大し、得られたデータ・セットにより素晴らしいモデルを生み出して、クレジットスコアを極めてわかりやすくしている。下の図を見てほしい。

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ぼくはこのシンプルさにほれぼれとしてしまう。彼らはある意味、信用を貨幣にすることに成功した。スコアをつくる後ろ側のシステムはとても複雑にもかかわらず、本当にわかりやすく表現されている。クレジットスコアはずっと金融機関の特権だったが、アリババは異なる方法でそれを実現した。アリババはクレジットスコアを活かして中小企業向けのローンや損保などに参入している。

保険会社のアクチュアリが触っているようなデータが皆に開かれたらもっと世の中良くなるんじゃないか、とよく考える。案件に対し、適正な保険商品を組成するモデルができてしまえば、社会は駅前にあるようなビルとか、そこに詰まっている人々をもっと異なる目的に活用できる。

「インターネットでつながることでさまざまな信用・評判をスコアリングするチャンスがある」と思う。レーティングの歴史は古くないが、スコアは付けられた後、秘匿されている場合が多い。皆が見れるようになると、人はそのスコアに影響された行動を取りやすい。

AirbnbのJoe GebbiaもTEDで「信用」を築くことに関して話している。Airbnbは家主と宿泊者の間に信用が生まれるかが非常に大事だろう。ブロックチェーン/ ビットコイン企業を買収した。ブロックチェーンに記載された情報は理論上は改ざんができない。しかも自動的に執行される契約などもシェアリングエコノミーに向いている。ブロックチェーンベースのレピュテーションシステムには多くの挑戦者がいる。

 繰り返しになるが、こういうスコアが存在すれば、もっとインドネシアから日本に来て、何かを始めるのが簡単だったのにと考えてしまう。なにしろ、東京に来た関西芸人の80倍くらい大変な目に合わされたからね。

繰り返しになるが、こういうスコアがあればインドネシアから日本に帰ってきて、何かを行うのに苦しい思いをしないで済んだのに、と思う。なにしろ、東京に出てきた関西芸人の80倍大変な目に合わされたからね。

 

 

ブロックチェーンが株式会社を必要なくする

株式会社は世紀の大発明でした。リスクを分散しながら、大きな資本のスケールをつくることができます。リスキーな貿易船の航海とそのネットワークの構築を可能にしたことから始まり、あらゆる事業を人々は株式会社のスキームで達成してきました。

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ベンチャーキャピタルの出資から短期間のうちにIPOをすることで、可能性のあるビジネスを素早く伸ばすことが可能になりました。

しかし、ブロックチェーンとトークンのおかげでこの仕組みは進化しています。あなたはプロジェクトを立ち上げます。そのプロジェクトの株式のようなものをブロックチェーンと紐付いたトークンとして発給すればいいのです。

法的な確かさと認知が進めば、株式をトークンで表現する方がより便利なはずです。法律や証券取引所には既得権が存在しており、彼らを養うためのコストが高いのです。もしこれがなければ社会はもっとイノベーションを許容できます。こういうときだけ、人間が合理的だという仮定を尊重して、株式会社は必要なくなる社会を想像します。

デジタルマネー、デジタルバンキングのビットコインと、サービスプラットフォームのEthereumの2つだけでブロックチェーン/暗号通貨のかなり部分を占領するのではないか、と私は考えています。いま百花繚乱のコインたちの殆どは目を凝らすと、素人目にもどうも設計おかしいな、というものが多いですし、いろんな人たちにこれみよがしに罵倒されてます。ピアツーピアの非中央集権型のカレンシーにもネットワーク効果が働くでしょう。

とにかく、トークンは本当に面白いです。この記事でデロイトの方々と議論したように、様々なものがマーケットプレイスに乗る可能性があり、シェアリングエコノミーの可能性を開きます。

今日ふっと自分のプロジェクトのトークンを作りたいなと思いました。それでプロジェクトが進んでいって、会社という面倒なものを作らないで済む。役所と銀行に行かないで済むんだからそっちのが全然いいです。僕は分散型の社会の方がうまく働くと考えています。

 

 

 

アドテクは音楽が鳴っている間は、踊り続けなければならない

ヘッダー入札、ユーザーデータに関わる問題が明らかに:深刻なセキュリティ上の懸念 | DIGIDAY[日本版]

本記事筆者のRoss Benesは凄い。売り買いされたり、漏洩されたユーザーに関するデータが、あまりかっこよくないロジックで活用されるので、アドテク不信が起きる面はあるでしょう。データをそのままではスケールと質がないはずなので、他サイトでリタゲなどするなどの換金方法をとっているのでしょうか。

「多くのアドエクスチェンジはDSPに入札参加を認めているので、事実上、資金を使わずともデータを『盗聴』できてしまう」と、フリーのアドテクコンサルタント、ブラッド・ホルセンバーグ氏は指摘する。「したがって、入札パートナーが多いほど、データが顧客の手に渡り、そこからさらにリークする可能性が高くなる」。

情報源の一部がヘッダー入札で劣勢気味のアドテク企業というのも、Ross Benesの情報収集能力の凄さを物語ります。

あと日本では余り語られませんがヘッダー入札は、SSP/エクスチェンジ数社を競わせることに妙味があります。この競争を引き出すためにいくつかのヘッダータグをまとめるサービスなどもあります。1社だけだと「競争が薄い」のでディマンドは余り膨れません。

はてのない嘘つき探しの旅へようこそ

しかし、需要を増やすのを助けてくれるこのラッパーにも落とし穴があります。このラッパーを提供するベンダーに特権らしきものを渡してしまうからです(これはあくまで可能性です)。同時にこういう情報をリグできるポイントがほかにもままあるため、ステークホルダー同士が「人狼ゲーム」に陥ります。

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人狼~嘘つきは誰だ?

本文で指摘されるように透明性が極めて低い部分があるため、ステークホルダーが偽情報を出しているか、正しい情報を出しているかを判別することができません。関係者が常に不信を抱き合うように設計されており、次々に現れるソリューションもこの複雑な多者間の情報の非対称性を自分に優位に導くような形のものが多いように見受けられます。

合意できない人たち:ビザンチン将軍問題

人狼もいい例ですが、「ビザンチン将軍問題」もこのアドテクエコシステムを考えるいい問題です。

ビザンチン将軍問題 - Wikipedia

ビットコインはこの問題を、マイナーにインセンティブを渡すことで、悪意を実行する利益を小さくすることで、上手くやっています。

じゃあ、それがアドテクにできるでしょうか。

クラウドベースのアドテクが「デジタル広告の罠」をぶっ壊せる? - Smart Node

私はそうは思いません。この記事で指摘した通り、ステークホルダーには情報の非対称性をついて、嘘を混ぜるインセンティブが強烈に働くのです。一部のステークホルダーは合理的なので、このインセンティブへの反応がよろしいです。GoogleFacebook、ヤフージャパンなどのプレイヤーが寡占する市場に残されたお金をこういう形で分配しているのが現状です。

低手数料・高流動性の世界へ

ウォール街流がアドテクを効率的にする:低手数料・高流動性の取引へ | DIGIDAY[日本版]

私は解決策のひとつが、この記事で紹介した予約在庫を証券取引所的なマーケットに入れて、売買記録をセキュアに管理し、明確な手数料ビジネスに変えることだと思っています。ディスプレイ広告在庫の先物取引です。これはナスダックのブロックチェーン技術の応用を目指します。

理論上は約定額が分散型台帳に記載され、高度な暗号化により改ざん不能。約定額のような情報をA→B→Cといった「伝言ゲーム」で伝えず、改ざんできない連なった売買データが、並列にプレイヤーに示されるため、透明性が高まる。エクスチェンジの収益化はトランザクションに対する手数料でされるため、この点でも透明性が高まるだろう。

利点は理論上は(1)セントラルサーバーのない効率的な分散型トランザクション処理、(2)改ざん不能な記帳による「トラストレス」な取引―です。

現行のアドテクが下図の左の部分のように、RTBやアドネットワークの手数料が広告主が投じた最初の予算の半数に上っている。この数値はもちろん上下するが、パブリッシャーが情報劣位に立たされている場合、取り分が20〜30%まで減じるケースもあるらしい。WELQなどではこの少ない取り分から利益を弾き出すために、リライト専門ライターを極めて厳しい労働条件で活用するなどの実践をとったとみられた。収益性がコンテンツ制作を歪めることは業界の大きな問題だ。
これを下図の右のように9割以上をパブリッシャーの収益にし、取引所が数%手数料をとる方が理にかなう可能性は高い(金融業界では1%未満のレベルに圧縮されている商品がある。高頻度取引が可能なのは取引コストが極めて小さいからだ)。

ブロックチェーンも使い方次第では、全く役に立たなくなります。取引履歴をブロックチェーンに記載したとしても、その取引の前にあらゆることができるからです。誤った情報を正しくブックキーピングすると、誤った情報の連なりができます。あと、日本の業界で耳にする、一部のブロックチェーンを活用したと唄われる商品には、私はそれが「本物」かどうか自信がもてません。

エコシステムの設計自体に課題山積みですが「音楽が鳴っている間は、踊り続けなければならない」というのが、言い当て妙でしょうか。これはサブプライムローン危機時にシティグループCEOのチャック・プリンスがFTに語った言葉です。

最後に無駄に村上春樹の「ダンス・ダンス・ダンス」を引用しておく。

「踊るんだよ」

「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい?踊るんだ。踊り続けるんだ何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなこと考えだしたら足が停まる。一度足が停まったら、もうおいらには何ともしてあげられなくなってしまう。あんたの繋がりはもう何もなくなってしまう。永遠になくなってしまうんだよ。そうするとあんたはこっちの世界の中でしか生きていけなくなってしまう。どんどんこっちの世界に引き込まれてしまうんだ。だから足を停めちゃいけない。どれだけ馬鹿馬鹿しく思えても、そんなこと気にしちゃいけない。きちんとステップを踏んで踊り続けるんだよ。そして固まってしまったものを少しずつでもいいからほぐしていくんだよ。まだ手遅れになっていないものもあるはずだ。使えるものは全部使うんだよ。ベストを尽くすんだよ。怖がることは何もない。あんたはたしかに疲れている。疲れて、脅えている。誰にでもそういう時がある。何もかもが間違っているように感じられるんだ。だから足が停まってしまう」

 

「ダンス・ダンス・ダンス」の名言集【村上春樹研究所】

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Image via 

「ダンス・ダンス・ダンス」: マイペース魔女の読書日記

ビジネスとして成立しなければいけない―—私が新興国援助の現場で感じたこと

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この村は池の上に浮かんでいます。 周りにある水草の下は水深数メートルの池になっています。水草は強固で上に立てるらしいのですが、村への唯一の入り口は、真ん中のコンクリの道です。

遠くから撮った写真がわかりやすいでしょうか。写真中心部が集落です。

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一応貯まった水を排水するポンプ車がいますが、長らく稼働を止めていました。現地に住んだ人ならわかると思いますが、よくあることです。

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不幸なことに、この池の下には墓がありました。墓は地盤沈下の後に周囲の排水やあるいは海水が流れ込んで出来上がりました。住民たちへの取材によると、周囲の建物はかさ上げを繰り返しそれは数メートルのレベルに達しています。 墓であるその土地はかさ上げが事実上不可能です。 しかもイスラム教徒の墓なので土葬です。

集落は海から数百メートルの近さで、海抜よりも土地が低い。 ジャカルタ地盤沈下は極めて深刻であり、特に沿岸部は数年後に海の下に沈んでしまう可能性が指摘されています。

なかにはむしろ攻めに出て、沖合に巨大防潮堤と埋立地を作ろうというチャレンジングな「グレートガルーダ案」まで出ていました。

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建築事務所「クーパー・コンパグノン」が作成した「グレートガルーダ」のイラスト

墓が水の下に沈んだ後、人々が移り住みました。地方からの移住者。インドネシアは2億5000万人の人口をもつ大国ですが、経済は4000万人程度のジャカルタ都市圏に集中しています。毎年あふれんばかりの移住者が退去して押し寄せますが、お金やコネがない人々が住むスペースは残っていないのです。だから墓の上の池にも人が移り住みます。

こういう移住者は法的に規定されない「インフォーマルセクター労働」(開発途上国にみられる経済活動において公式に記録されない経済部門)に依存しており、収入は最低賃金を大きく下回ります。

下のおじさんは、たくましいことに村の回りの水草を切って、キロ約3000ルピア(約25円)で販売しています。弾力のある食材になるそうです。毎日10キロ売っても250円の程度の収入。物価の高いジャカルタでは話にならないので、ほかの日雇い仕事もやっていると語っていました。

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しかも、ジャカルタ都市圏はインフラが整備される前に、経済ブームが来て地価の高騰が始まっています。都市のさまざまな集落が地上げの対象になっていまして、興味深い火事が頻発します。

時価のデータを参照しようと思ったのですが、統計局のデータを四半期ごとにめくって折れ線グラフをつくらないといけません。ここは端折りましょう。

それから安全な水を手に入れるのが大変です。ジャカルタは上下水ともに整備されていません。そのため多くの家庭、産業が地下水の汲み上げに頼っています。特に郊外の工業団地での水の汲み上げ量は相当なものだと言われています。

案内してくれた隣組長(インドネシアは日本が占領時に設定した行政区分を採用している)は池の底に管を通して、水を汲み上げていると話していました(下)。池の底は土葬の墓なので、ぞっとします。

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さらにその水を煮沸して瓶に保存し、飲料水にしているといいました。

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このおじさんのような方法をとらない浄水の入手方法がいくつかあります。ひとつは簡易な濾過装置による洗浄です。あとは山間部からタンクローリーで運ばれてくる水を買うことで、これが以外に一般的です。この水もタンクローリー直で買えるのはちょいアッパーミドルな人たちです。タンクローリーで運ばれた水が、分割されてボトル売りされるのです。1つのボトルあたり5000ルピア(約43円)程度だったと記憶しています。マイクロエコノミーはいたるところに存在するのです。興味深いですね。

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このような「インフォーマル集落」では登記されていない場所に家屋を建てて、それを貸す人たちがいます。この人たちはプレマン(チンピラ、ヤクザ)と呼ばれています。インドネシアは日本の70年代くらいの時代感でしょうか。プレマンのような組織は政治にも開発にも関与します。まだ政府と政府ではないものの境目があいまいな世界なのです。

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別件の土地紛争でとあるいわくつき財団を代表して土地占拠をするプレマン。極めてフレンドリーだった。

プレマンは賃料を得る代わりに地方政府や治安当局を牽制して、 収入源である住宅を守ります。住民とプレマンは安価な住居と賃料を互いに補い合う、抜き差しならぬ関係になりやすいです。ただ概ねプレマンは次第に様々な利権を生み出し、人々から搾り取る存在になることが往々にしてあります。ココらへんを上手くやるプレマンは慕われますし、なかには企業家や政治家になる人もいます。ただし、場合によっては危険な薬物の取引を始めたり、売春を持ち込んだりするプレマンもいます。

村は毎年沈下を続けているそうで、沈んだ家屋の上に新しい家屋を立てている。かなり汚い水の上に住居があり、住民の健康状態に悪い影響を及ぼす可能性があります。

この村に必要なのは移住だ。

援助の難しさ

この村は多量の援助を受けていましたが、その援助のほとんどがあまり役に立っていない印象です。このような援助を行うNGO / NPO などは、現地の状況をあまり真剣に調べないケースがインドネシアでは多いように感じられました。しかし、貧困世帯の生活扶助、教育無料化などが約立たないとは思いません。支援された側が必ずしも状況を活かせるわけではないが、マスでは効果は出ているというリサーチ内容もあります。

NGO / NPOモノによってはポリティカルリレイティッドです。私の取材相手だったプレマンは警備会社、右翼団体、環境保護団体の名刺を使い分けていました。彼は戦後上野のような街の有名なプレマン組織に所属しているのにもかかわらず、有名環境保護団体の幹部としてテレビに出ていて、それを観たときは顎が外れそうになりました。ガソリン価格を値上げする法案を国会が審議しているときは、ガソリン消費の拡大が環境破壊するというデモを起こしました。彼は2007年に当選した都知事と、都知事を担いだ政党の熱心な支持者でした。彼の同僚は警察官かつ警備会社幹部であり、富裕層を相手にした売春の斡旋にも関わっているようでした。

もちろんこれは極端な例かもしれませんが、上述の環境団体は日系企業を含む他国製企業の環境系CSRにも関与する例はたくさんあったと感じています。

とにかく、援助では企業や国際機関→NPO / NGOという「商流」が決まっています。富裕国から来たエスタブリッシュメントは予算を消化することを重視してます。援助案件を最後までトラックしたりインプリメントすることは面倒でかなわないのです。なかには予算の大半の所在が分からなくなることもあります。

援助を決定する統計、リサーチの危うさ

私のジャカルタ時代のオフィスの隣は発展途上国の開発推し進める国際組織だったが、彼らは毎日スターバックスを飲み、ホテルでのディナーを好んでいます。地元社会には興味が薄い方が多い印象です。この人たちはインドネシアには清潔な水が必要だというレポートをまとめ、いくつかの集落でその設備を渡す式典をやりますが、全て現地スタッフ任せで、現場は知りません。

新興国では情報が偏在しているので、公式統計が余り信用できません。中国のGDPをめぐってかわされた議論を思い浮かべてください。なので彼らがまとめた統計を基にしたアナリティクスは、バックグラウンドを読める玄人から見ると生ぬるいのです。ただ、とても説得力のある国際機関なので、私は自分の調べた内容を裏付けたいときは、ばんばんその統計やレポートを利用していました。

興味深いことに、これが日本の金融機関や商社系の研究所の資料になっている頃にはフィクションになっています。一度日本の大手出版社の人に、日本の研究機関のリサーチが基にしているイ国家予算の解釈が誤っていると伝える(研究員はインドネシア財務省を取材していた)と、相手はかなり機嫌を損ねていました。ペーペーだと思っている若者が自分たちが信じる世界観に疑問を呈しているからでしょう。

ぼくは馬鹿にしたいのではなく、情報は偏在しているということを伝えたいのです。統計はザラザラで粒度は合っていません。その数字が作られるに至る要因たちを推測し、重み付けするアルゴリズムを鍛えないといけないのです。これは分析というよりはハスラーの世界であり、ハスラーの才能と素晴らしいビジョンが重なったときに面白いものができると思うのです。

 溶けた援助

このまちに必要なのは移転です。しかし、多額の援助が注ぎ込まれ、住民に留まる理由を与えています。

1.電気と電灯

まず援助はこの村に電気と電灯を与えました。

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2.ウナギ養殖施設

英系銀行はウナギの養殖施設を与えました。輸出食材のウナギから得られる住民の生活費の糧になるとのことですが、隣組長は、うなぎの養殖に失敗を繰り返しているうちに、住民が興味をなくしてしまった、と話しています。取材当時設備は使われていませんでした。

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3.コンクリート歩道

村々の住宅は木橋でつながれていました。大雨が降ると壊れてしまうそうです。

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これを大量のコンクリートを、墓のある底まで埋めて、舗装道路にしました。冒頭のむらに続くコンクリートの道もこの供与によってされました。

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このコンクリ道路を供与した鉱山開発会社の慈善団体の残したボード。鉱山会社はパプアにある世界最大級の銅鉱山を採掘しています。

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4.貯水タンクとポンプ

住宅の近くに貯水タンクとそれを各住居に送るポンプをつくりました。水は先述した通りタンクローリーから購入します。写真はありませんが、村はシャワー場も供与されており、ここの水が利用されていました。村では清潔な水でシャワーや水浴びができないからです。しかし、ポンプが故障しておりこの設備は死んでいました。水の来ないシャワー設備も同様です。

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焼け焦げたあとのあるポンプ。かなり長期間の間動いていない様子だ。

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繰り返しますが、この援助は、移住が必要なアプン村に対し、要らない供与をして住民が留まる理由をつくってしまいました。序盤に登場した隣組長は援助にハマっているらしく「次は学校を建ててもらおう」と話していました。取材はまる2日行い、ほかの住民ともたくさん話しましたが「いい場所があって、いい条件があるなら移りたい」と行っていましたが、強制撤去を恐れていて、そうなるならグレーなままでもとどまり続けたいと語っていました。

この一例をとって「途上国援助はダメだ」という気はもちろんありません。意義のある援助はあるし、効果が目に見えづらい援助もあります。援助の効果の判定は、計量的に行わないといけません。ただし、援助を行う側のノウハウ不足を感じざるを得ない面は多々ありました。予算があったり、そういうアクティビティが義務付けられているからやるという側面が強いように感じられました。

結論:ビジネスとして成立していないといけない

この経験を通じてぼくが強い実感を覚えたのが、「ビジネスとして成立していないといけない」ということでした。援助は援助側の論理だけで行われても、それがそこにいる人間とそれを囲む環境の中に入り、ビジネスとして動かない限り、長期的に役に立たないのです。つまり、「援助」ではなく「投資」が必要なんだと思いました。

例えば、アプン村の中から有望そうな子どもを見つけて、その子どもを留学させて、雇用を作れる人間にしていくことは有用だと思います。あるいは、コネクティビティ(ネット接続)を村にも到達させ、スマートフォンと無料のデータ通信を渡す。特に学習や問題解決に使われる利用法を促していけば、住民が賢くなり、やがて村をでるためのさまざまな方策をとれるようになるかもしれません。

私は自分自身に対して投資をしていくことを続けていますし、ビジョンの面白い、スキルを高めていく人間に投資していきたいと思っています。「ビジネスとして成立」させるのは人間のソフト資産であり、それは学習や教育によって培われるものです。だから、人の学習に資するメディアに関わっているわけで、近い将来には学習や教育の分野でも面白いことをしたいと思っています。

アジアやアフリカの低所得者層の住処から、あっと驚く天才を輩出してみたいと思います。そうすれば、いまある援助はそのまま投資に変わるはずだからです。

参考文献

【ジャカルタ・フォーカス】墓は沈み、村が浮かんだ 西ジャカルタ・カプック 地盤沈下の波[上] | じゃかるた新聞 インドネシアの日刊邦字新聞

 

クラウドベースのアドテクが「デジタル広告の罠」をぶっ壊せる?

DIGIDAY USはRoss Benes記者を得て、かなりアドテク界隈のカバーが強力になりました。下記の記事は春頃導入が噂されるGoogleのExchange Biddingを前に米業界は変化のなかにあることに触れています。業界人の予測が集められた、とても有用な記事です。

現状のディスプレイ広告取引においては、ダブルクリックはGoogleにのみすべてのインプレッションの確認と入札を許可し、ほかのすべてのエクスチェンジの競合を排除しています。アドサーバーの独占により極めてGoogleにとって有利な取引形態が築かれているといっていいでしょう。オークションに関しても広告主、媒体から見えない地点がたくさんあり、不透明と言っていいでしょう。しかし、Google支配力はかなりのものがあります。

これをハックするのが「ヘッダー入札」でした。昨年春に書いた記事を引用しましょう。

ヘッダー入札は「ウォーターフォール」の代替策として浮上した。ウォーターフォールとは、パブリッシャーが在庫を優先順位を付けて振り分けていく広告販売手法のことだ。媒体社はまず優先する純広告用の広告在庫を確保する。その後、それぞれのSSP/エクスチェンジが支払える広告単価(CPM)を算定し、ランク付けし、在庫を振り分ける。最初のエクスチェンジには、高価格/低数量で在庫をリリースし、次のエクスチェンジ以降は滝(ウォーターフォール)のように少しずつ価格を落とし、数量を増やして入札を繰り返す。媒体社にとっては「純広告で売れなかった在庫」を、できるだけ高価格で売り、広告収益の最大化を目指す手法だった。

 

媒体社の広告在庫取引ではGoogleが大きなファクターになる。多くのパブリッシャーはDoubleClick for Publishers(DFP)に依存しており、その在庫が取引されるDoubleClick Ad Exchange(AdX)では媒体社が設定したフロアプライス(最低落札額)付近に落札が集中しがちだという。AdXは価格調整権に関して「特権的」と言われる。

 これから「ヘッダー入札」の話をしよう:メディア収益化の新星か | DIGIDAY[日本版]

Exchange WireRomany Reagan氏の記事の以下の図がとても分かりやすいので、参照しよう。

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ウォーターフォール→ヘッダー入札→S2S

いままではウォータフォールと呼ばれる手法で、順番に並列のオークションをこなしていったが、この仕組みをとるとGoogleがとても有利になるし、遅延するし、安くなったときを見計らって買い注文を入れるなどのテクニックなどで買い叩かれるのです(ウォータフォールは現状も多数派です)。

ここで図の下部のように並列したオークションをひとまとめにしようと、ヘッダー入札が生まれました。一部のパブリッシャーは効果を享受しているようだが、前述の通り、多数のタグをヘッダーに入れるのは、ロード時間遅延というユーザーの最も嫌うものを誘発します。また幾つものアドタグをラップしたものからデマンドたちを当たるのですが、最適解を弾き出す前に広告をサーブしないといけないことがままあるそうです。

それでヘッダー入札をサーバーに持ち込んだ「サーバー・トゥ・サーバー・ソリューション (S2S)」の開発が開始されました。サーバーとサーバーが「おれは◯円で入札する」「おれは◯円だ!」などと会話して、その会話で定められた勝者が広告を挿入します。

これは特段新しい技術というわけではなく、モバイルアップのアドネットワークなどはこの方式を利用していたりするそうです。

理論上はS2Sの方が、ヘッダーにジャバスクリプトを仕込むという無茶がないので、スムーズに多数のデマンドを競合させられる=価格上昇=を引き出せるはずです。

 

What are server-to-server connections

 

The winners and losers of the server-to-server programmatic arms race - Digiday

 

 

しかし、Googleのエクスチェンジビディング以外にS2Sのベンダーが何十社も並び立ち再び分断されたオークションを作るならば、ロード時間の遅延を回避しただけで元の木阿弥です。

サーバー・トゥ・サーバーではサーバー側で「どのDemandが一番高いか」をはかりにかけて、需要の取りまとめを一社のベンダーに任せる事になりうるのですが、そのベンダーが情報の非対称性をエンジョイできる可能性は大いにあります。ベンダー間で協定が生まれれば、それこそ、建設会社の談合入札を実現する機会が生まれます。

Server-side header bidding requires teamwork in a nontransparent environment. Publishers work with one vendor to do server-to-server header bidding. Because that vendor in turn rounds up bids from all the other demand partners, they must trust the vendor to run the auctions fairly.

While code run on the browser is visible to all, what happens on the server is invisible to both the publisher and the buyers. It’s possible that auctions could be conducted in a way where one demand partner gets preference or a final look. Or data could be leaked or hidden fees be taken. And that lack of transparency makes technical glitches more difficult to fix.

 

Server-Side Header Bidding: 6 Things You Should Know

デジタル広告の罠:情報優位者は自己利益最大化を目指す

ベンダーが一部のバイヤーを優遇してリベートを受け取ったり、Double Dipというのですが、パブリッシャー(セラー)とバイヤーの双方から手数料を取ったりできます。セラーとバイヤーに異なる成約額を知らせることにより、マージンを太らせられます。これらはこのソリューションに限った話でもないですが…。

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デジタル広告売買は罠を抱えていると思います。この三角形のなかで、アドテクベンダーは売り手と買い手の双方に対して情報優位に立っているのです。合理的なプレイヤーは自己利益の最大化を目指します(他者の利益は気にかけません)。仕組みの設計は「プレイヤーがワイルドになってもうまくいく」ようにしないといけません。

最高シナリオと最悪シナリオ

昨年春にGoogleはエクスチェンジ・ビディングを発表し、「ヘッダー入札の死」を匂わせました。これに対し、ベンダー各社は類似ソリューションの開発でGoogleのエクスチェンジ・ビディングに圧力をかけています。Googleのエクスチェンジビディングが本当のオープンオークションを生み出すのが最高シナリオです。Googleが今後どんな設計を示すかが巨大なイシューになります。

たくさんの需要を、たっぷりとした時間をとり、一回のオークションで競わせることで、「適正に近い価格」をつけることができるはずです。一応名目上は、業界はそこを目指しているはずです。

最悪シナリオはサーバーサイドのソリューションとヘッダーのソリューションが併存する状況です。アドテクでは市場が効率性を著しく欠いているので、有り得ます(効率性が高ければ、いい物に高い値をつけたり、悪い物に安い値をつけたりするとされています)。そしてその結果、もっと効率性の低い市場(分断されまくったオークションたち)が生まれる、というか「市場」とも呼べない代物がうまれるかもしれません。

クラウドベースエコノミーを持ち込んで欲しい

ここからは妄想の話ですが、Amazon Web Serviceのようなビジネスモデルがアドテクベンダーに現れたらそれは巨大なゲームチェンジャーじゃないか、と思います。つまり、アドテクベンダーはマージンという形でデジタル広告売買のサプライチェーンで収益を上げていますが、クラウドベースでサービスを「利用した分だけ払う」方が、サービスへの報酬として適切なのは間違いありません。アドのサーブ、オークションをサービスとして提供してくれれば、かなり不確実性がなくなり、参加者の利益が一致する可能性が高まりそうです。

Amazonは現行のベンダーがベンダーの役割だけでなく中間取引者の役割も担ってしまっている「歪み」をつけます。

 

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技術の差はもちろん大きな差別化要因になりえますが、報酬形態のクリアさもまた大きな差別化要因になるでしょう。

 

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AWS的にマーケットシェアを重視して「利益を出さない」攻め方が可能ならば、競合の多くはこれまで極めて短期的な利益を重視してきたので、押し出していける可能性があります。ボリュームが出るとこのアプローチは儲かるはずです。デジタル広告市場はグローバルで20兆円を超えているのです。GoogleFacebookが手にしていない部分だけでも10兆円あります。

 

 

【アドテク勉強会】RTBは建設会社の談合入札を見習うべき?

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この記事の筆者のRoss Benesと翻訳のガリレオの見識は本当にすごい。セカンドプライスオークションは経済学上は、高値入札も2番手の価格になるため、買い手に高値をつけるインセンティブを引き出すとされている。

本文では興味深い検討がされている。

たとえば、1つ目のSSPにおける上位2件の入札額が14ドルと4ドル、2つ目のSSPにおける上位2件の入札額が25ドルと2ドルだったとしよう。この場合、決済価格を決めるのは1つ目のSSPになる。なぜなら、両者の決定価格(セカンドプライス)を比較すると、4ドルの方が高くなるからだ(このケースの決済価格は4.01ドルとなる)。だが実際、入札全体を俯瞰して見ると、2番目に高い金額は14ドルになるのだが、それは採用されない。

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情報筋は米DIGIDAYに、サーバー・トゥ・サーバー接続は、こうした力学をいくつかの方法で変える可能性があると話した。

サーバーサイドでの接続が可能になれば、より高いセカンドプライスを引き出せる可能性はある。ただし、この25ドルや14ドルのような入札は、買い手がセカンドプライスでの「戦略」を実践した結果だ。仮にすべてのプライスが採用されるとなると、6ドルとか3ドルとかの入札を試みるかもしれない。

セカンドをファーストにすれば解決するわけではない

メンデス氏は、パブリッシャーが効率を上げたいならば、セカンドプライスモデルでSSPから入札を集めるより、(もっとも高い入札額が決済価格となる)ファーストプライスモデルを活用するほうが上手く行くと指摘する。だが、ほとんどのアドエクスチェンジは依然としてセカンドプライスオークションに依存しているので、パブリッシャーがファーストプライスモデルに切り替えることは難しいかもしれない。

複数の情報筋が米DIGIDAYに語ったことによると、セカンドプライスという技術は古い遺産だが、検索やディスプレイ広告の初期の時代にデジタル広告に定着して以来、多くのベンダーが慣習的に使っているそうだ。

セカンドをファーストに直せば、パブリッシャーが一位の入札額をそのまま楽しめるという考えは甘い気がする。今度は買い手が弱気になる可能性がある。

それから、基本的にRTBは経済理論上のいわゆるマーケットが成立しているとは言い難い場であることも重要だ。並列して市場が存在し、不透明性のレベルが高い。他にも価格の決定要因にが存在しているようにも見受けられる。解けないパズルかもしれない。

こうなってくると、日本の建設業界の談合入札にも一定の合理性を認めることができる気がしてくる。

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