デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

あなたは「デジタルエコノミー」の世界でどう生き残るか

今回はなぜブログ名を「デジタルエコノミー研究所」にしたかについて、自分の考えを話そうと思いました。

私は2007~2008年の世界金融危機とその後の量的緩和で、従来型の経済学の多くが難しくなったと憶測していました。金融政策と財政政策のミックスは確かに世界をどん底に落とさないのには寄与したかもしれません。

しかし、世界経済の根幹にある金融システムの脆弱性が露わになりましたし、彼らがとてもセルフィッシュな設計を施されていることを、世界中の人たちは知ることになりました(日本人には分かっていない人が多いかもしれません。あんなおかしい投資信託を買うんですから)。

こんにちは、不確実の世界

現行の民主主義が選ぶリーダーはロビーイングに対して余りにも脆弱です。証券会社が銀行業を同時に行えるようにする(投資銀行と名乗れるようにする)法制を整えたのはビル・クリントンです。オバマは金融業界に鉄槌を下すと意気込みましたが、骨抜きにされました。トランプを大統領に選んだことを非難する論調はたくさんありますが、ヒラリーのバックグラウンドを考えると、彼女はビフォア2008年の世界に忠実な古いリーダーでしょう。変化は起こせなかったと僕は思います。

f:id:taxi-yoshida:20170529175056j:plain

トランプは分かりづらくて誰のコントロールも受け付けない不確実性の塊のような男です。彼が奇妙なナショナリズムなどに拘泥せず、カンフー映画の主人公のように古いものをぶっ壊すことを私は静かに望んでいます。

アフター金融危機の世界では行動経済学がその地位を高めました。より小さな粒が見えはじめました。その粒たちはそれぞれ多様で、頭痛がするほど複雑で、今のところ予測不可能な存在です。

破壊的な暗号通貨 / ブロックチェーン

金融危機以降の金融業界の変化は政府や大企業の中から出てきませんでした。起業家やベンチャーキャピタリスト、開発者と人々(People)の間から生まれたのです。それがフィンテックというバズワードや暗号通貨 / ブロックチェーンに代表されるものです。

フィンテックは既存の金融をアンバンドルしています。フィンテックスタートアップの存在は私たちに大きな気づきを与えてくれます。既存の金融機関や政府がとても非効率的な手段に固執していること、ユーザーを無視して設計をされていること、非効率性に寄生したビジネスが存在していることを教えてくれます。

天才サトシ・ナカモトがビットコインという新しい貨幣を創造する論文を出したのが2008年。ビットコインのネットワークが動きはじめたのが2009年です。もちろん金融危機と無関係ではありません。

ビットコイン、暗号通貨の歩みはフィアット(法定通貨)やそこに吸着している金融システムの代替物を求めるムーブメントの側面があると私は考えています。金融危機後の世界ではバンキング(金融機能)を個人の手に戻すことを目的としています。いま暗号通貨 / ブロックチェーン界隈で起きているさまざまな挑戦の中には、10年後20年後も生き残り、やがて巨大なプラットフォームになるものが含まれているでしょう。

暗号通貨の世界では新しい経済学が生まれています。それはCripto Economics(暗号経済学)です。従来の経済学のなかで有用な理論とプログラマーたちの独自の経済学の理解がとても興味深い形で融合しています。そこには金融政策や財政政策を行う政府のような存在はなく、より分散型のガバナンスを志向する人たちが寄り添っています。暗号通貨やスマートコントラクトを活用することで、いまの世界で私たちを苦しめる非効率性や中間者を排除できます。

f:id:taxi-yoshida:20170615175146j:plain

 コンピューティングと経済

高齢化する日本にいると見えづらい事実ですが、経済のあり方を加速的に変えているのはコンピューティングです。先に言及したピア・ツー・ピアのデジタルマネーであるビットコインも、それからフィンテックもコンピューティングにより金融という経済の血液のディストリビューションの仕方が改善されようとしています。

インターネットでさまざまなものがつながる中で、コンピューティングの力を、どんな人でもあらゆる場所で活用できるようになりました。モバイルは世界中を覆い尽くそうとしています。インドでは毎年1億人のペースでインターネット人口が増えています。長期的にはデバイスが消失していくはずです。デバイスが私たちの意識に上らず、ARやVRのようなもので我々はさまざまなアプリケーションを動かし、物事を実現していきます。

タクシー産業にネットとコンピューティングの力をもたらしたのがUberです(最近評判悪いですね)。宿泊産業にネットとコンピューティングの力をもたらしたのがAirbnbです。時価総額ランクの上位はもうそういう企業ばかりですし、今後もテイクオーバーは終わらないでしょう。

最も尖ったトレンドはもちろん、機械知能(MI)です。今回は人工知能と呼ばないようにしたいと思います。特徴量の抽出などを自ずから行うインテリジェンスは私たちの暮らしをそっくりそのまま変えてしまう可能性があります。世界が放出するデータをその場で処理し、すぐさまアクションを起こすというビジョン。「データのつくられるところ、学習されるところ、それが利用されるところを同じにする」という挑戦であり、人間から見ればいつでもどこでもコンピュータの力を簡単に利用できるということです。

f:id:taxi-yoshida:20170615181632j:plain

2008年は「古い経済」が死んだ年

将来の歴史の教科書をみれば、2008年は古い経済が破綻した年として記録されるでしょう。そしてその後のデジタルエコノミー、あるいはコンピューティングエコノミーが花開いた年になり、人々は大いなる非効率性を乗り越えたと記録されるでしょう。実際、中国では先進国よりかなり進んだデジタル経済の実践がみられます。東南アジア、インド、アフリカでも先進国をリープフロッグする種がまかれ、一部は大きな木になる兆しを見せています。

日本がそれに乗り遅れているし、今後もそうなら、国家にとらわれない個人になることが重要です。私はすべての人間がそういう個人になれると自信を持っています。デジタルエコノミーの世界では、我々は後10年程度で政府をまっさらなサービス、コンピュータプログラム、機械知能、ブロックチェーンに記されたスマートコントラクトに変えることができるはずです。あらゆるコストから解き放たれた世界で、私たちは本当の幸福の意味を追求する機会を手に入れるでしょう。

テクノロジーの超高速な進化を現実世界に当てはめていくことが重要な時代になります。私もこの人類史空前の大変化を分析者ではなく、実行者という形で関与していきたいと考えています。

f:id:taxi-yoshida:20170621081935j:image

 

 

デジタル経済Newsまとめ_6/22朝

自分がその朝までにチェックしたデジタル経済ニュースのまとめを公開します。忙しくない限りは平日は毎日更新します。もともと個人的な日課にしていたのですが、なら公開して会話が生まれたらいいなと思いました。誤りの指摘や改善の提案、食事会から何から何まで受け付けています。Twitterなどでご連絡くださいませ。

f:id:taxi-yoshida:20170621185330j:plain

*ウーバーのカラニックCEO辞任。投資家の圧力により[Recode]。

*Statusのクラウドセール:開始直後から1万件のトランザクション詰まり、キャンセルの嵐[Status]

総務省有識者会議「音声アシスタント」官民挙げて開発すべきという報告書[NHKニュース]◁◁有識者音声認識プラットフォームを「音声対話システム」「AIスピーカー」と呼ぶ時点で極めて悪い予感。

高度な機能を持つ音声対話システム 官民で開発を | NHKニュース

*日銀レポート:モバイル決済利用率は日本6%、米国5.3%、中国98.3%◁◁今後は東南アジア、アフリカにも突き放される可能性あり。
http://www.boj.or.jp/research/brp/psr/psrb170620.htm/

*ATHENA BITCOINがLitecoinも取扱開始[ATHENA BITCOIN

Salesforce デジタルマーケティング・ビジネスユニット常務執行役員 笹俊文氏にインタビュー[DIGIDAY 吉田拓史]。昨年のSalesforceの総額50億ドル買収、AI on CRMとは何か。

*AOLプラットフォームズ・ジャパンは、2017年6月13日付で社名を「Oath Japan株式会社」に変更した[Marketzine]。
*データサイエンティスト勢のヒーロー、藤井四段28連勝 30年ぶり歴代最多の連勝記録に並ぶNHK

 

経営者よ、バーニングマンで燃えろ!

日本の経営者は従業員を罰したり「管理」したりするのが好き。経営者は概して報酬を渡すことを渋ったり新規投資の予定のないコストカットを好むので、従業員は働いているふりや、業務内容のくり抜き、ブラックボックス化に性を出すという悪循環が起きている。これが日本の生産性の低下、ROEの低さ、幸福度の低さ、国際競争力の低下のひとつの要因と考えられるかもしれない。大雑把な推論だがあながち間違いでもないだろう。

内閣府『賃金と物価・生産性の関係(国際比較)』はこう指摘する。

  • 諸外国では賃金上昇率が物価上昇率と同水準あるいはそれを上回る傾向
  • 日本だけ賃金の下落率が、消費者物価の下落率より大きく、労働生産性の伸び率よりも一人あたり雇用者報酬の伸び率が低い

 

f:id:taxi-yoshida:20170621101650p:plain

 

また、一年前のこのポストでも同様の議論をしている。「日本企業の多くは文句を言わない労働者の上にあぐらを書いて、ビジネスモデルの刷新、技術革新などをサボってきた。自動化を徹底的に行うことで格差社会自体が消失する」と私は指摘した。

taxi-yoshida.hatenablog.com

前近代農業のマインドセット

内部留保が390兆円に達したことはわかりやすいインディケーターだ。

jp.reuters.com

ギブアンドテイクが成り立たないので、経営者が持ち出す根性論に従う人はもういないだろう。仮に従業員から根性を引き出しても、自動化に簡単に追い越される。

マインドセットの変換が必要になる。しかし、日本のウォーターフォール型が長いとプログラムのようにアタマがカチカチになる。私は経営者とヒッピーと芸術家による「バーニングマン」みたいなイベントに皆で行って、砂漠で一カ月くらい物々交換しながら踊り暮らすことを提案したい。

f:id:taxi-yoshida:20170621101934j:plain

儒教権威主義に基いた「日本人」の特性が生きるのは1980年代まで。そもそも日本人だって一部の階層にとって都合のいい妄想だ。日本人と呼ばれる個人は、自分の損得に対して明確な態度をとらないといけない。それを押し殺しているからこそ経済全体や社会システムの改善を阻んでいる。

この記事で指摘される通り、人手不足にも関わらず平均賃金が上がらないのは、日本地域の謎だ。従業員を叩いて生き残る会社を存続させても余り意味がない。私たちは資本主義の世界を生きている。資本主義は時に正しい。

jp.reuters.com

テクノロジーはすでにあるし、ものすごい勢いでサイエンティストたちがそれを前に進めている。遅延しているのは人々の偏見だ。昔その偏見は評価されたかもしれないが、いまや足手まといだ。そんなガラクタをせっせと他の人や新規参入者にプログラムしようとしている仕組みには全く同意できない。

だからバーニングマンに行くのはとてもいい提案だと思います。燃えましょう。

f:id:taxi-yoshida:20170621104801j:plain

 

 

予測、群衆の叡智、ニューラルネット

先日とあるテック企業のカンファレンスに出席しました。人工知能を使って蓄積された顧客のデータから顧客の要望やコンタクトするべきタイミングなどを予測するというビジョンでした。

それを聞きながらGoogleのTGIFでのエピソードを思い出しました。Googleは検索結果を得られるまでの速度に恐ろしいほどの執着を見せていました。エンジニアがラリー・ページにこう聞いたといいます。「ねえ、ラリー、我々はどんどん検索速度を上げてきたけど、ゼロコンマ何秒(あるいはミリセカンド)で終着点なのかな?」。ラリーは「どうしてゼロコンマ何秒で終わりになるのか。マイナスを目指さないのか」と答えたと言います。つまり、ユーザーが咳き込んだら咳について検索することを前もって予測できる、というようなことです。

予測市場というものがあります。スポーツベッティングという賭けに類するものから、大統領選挙の2候補の模擬株式のようなものを発行して、選挙結果を予測するもの、会社の新商品を市場投入前にテストする場としてまで、さまざまな類例が存在します。

 

普通の人たちを予言者に変える 「予測市場」という新戦略―驚異の的中率がビジネスと社会を変革する

普通の人たちを予言者に変える 「予測市場」という新戦略―驚異の的中率がビジネスと社会を変革する

 

ギャンブルと同じ仕組みをもつ保険商品など応用分野が見込まれます。これは群衆の叡智という仮定されたメカニズムによっているのです。「みんなの意見は大体正しい」ということです。集合知とは少し違いますよ。

http://www.nature.com/news/the-power-of-prediction-markets-1.20820


f:id:taxi-yoshida:20170620183858j:image

ただ、ドナルド・トランプブレグジットはうまく予測できなかったのですが。Poll(世論調査)と予測市場のどちらが精度が高いかという議論になっています。

人工知能時代の競馬のオッズ

競馬のオッズはとても興味深く、比較的1番人気の正答率は高いと言います。オッズは支持率をひっくり返したもので、低ければ低いほど群衆による支持が高いことを意味します。18頭フルゲートでたっぷりとしたお金が注ぎ込まれる大レースのオッズの動き方は極めて興味があります。割安が指摘されていた銘柄がじわじわオッズを下げていったり、かなり確実と思われる1番人気の単勝オッズが2.0倍を目指して下降し、1.9, 1.8, 1.7...と重たそうに刻む様子も興味深いです。

より正確に勝つ馬を予測できるようになるから、1番人気の倍率が1.0倍に近づいて行くことになるかもしれません。予想された、誰もが疑わないものが予測不能なものに覆される瞬間を狙うのが勝ち方になるかもしれない。

競馬は20~30%程度を胴元が持っていくため、普通にやったら勝てません。だから、この胴元がいない競馬を生み出す方が、奇跡を起こそうとするよりいいのです。運営費のための手数料だけなら遥かに少なくて済みます。Ethereumの予測市場プロジェクトであるAugerやGnosisはぶっちゃけるとそういうことです。
f:id:taxi-yoshida:20170618224811j:image

すべてをゲームにしてしまおう

パラメータが手に入り、目的を設定できるのなら、深層強化学習が応用可能になりえます。現実世界で起きていることをゲームっぽく切り出せれば、与えられた情報から予測を試み、その精度を上げていくマシンを生み出せるのはないのでしょうか。

現実世界をゲームとして切り出すテクニックが、モデルが有用かどうかを確定しそうです。何しろディープラーニングやその他の学習方法は日進月歩で発展しています。

 

▼複雑なパックマンで人間のスコア超えを達成したMaluuba

https://twitter.com/MaluubaInc/status/874977770253815809

▼DeepmindのAGIへの次の一歩

https://www.technologyreview.com/s/608108/forget-alphago-deepminds-has-a-more-interesting-step-towards-general-ai/

 

日本の若者の冒険先はアジアデジタル経済に決まり

この若者にアジアに挑戦することを訴える記事は胸熱です。アジアには完成していない、今この瞬間にできあがっているものたちがたくさんあります。加えて私は週末にインドネシア人の友人と再会しました。友人がもってきたアジアの話は本当に面白かったです。当時の風景、肌感覚、そして心の持ち用が思い出されました。

自分が高齢化し、ぬるま湯に慣れきった日本に染まってしまっているのを感じます。あの頃の爆発的なエネルギーをもう一度思い出すタイミングが来ている気がします。

www.wantedly.com

私は大学を卒業して2010~2015年にインドネシアでジャーナリストとリサーチャーを同時にやっていました。「失われた30年」の多くを日本で過ごしてきた私としては、地域で沸騰する熱気は、味わったことのない鮮烈さでした。一定数の日本の独立した若い人たちが来ていて、起業をしていました。彼らは日本にいる若者とは打って変わってハングリーでやる気に満ちていました。ゴルフとカラオケばかりの駐在のおじさんやショッピングとグルーピングの駐在のおばさんとはぜんぜん違うわけです。

起業がしたくて、自分の考えるビジネスをスタートするのに適している日本に帰ってきました。紆余曲折あり、ジャカルタからバンコクに移る選択肢もありましたが、DIGIDAY[日本版]の立ち上げとその後の拡大に関わっているのは良かったと思います。

taxi-yoshida.hatenablog.com

Bain&Companyは昨年、東南アジアのネット接続人口が50%成長し2億人を超え、デジタル経済は500億ドルに達したと算定しました。Googleとテマセクのリサーチは2025年に東南アジアのインターネット経済が2000億ドルに達すると予想しました。

www.bain.com

taxi-yoshida.hatenablog.com

今後の日本発ビジネスはすべからくアジアにどう広がるかが問われるはずです。私が大学卒業後に取ったリスクが今後の人生に生きてくるはずですし、それをむざむざ寝かしておいて、世界の巨大な変化に関与できない事態は避けたいでしょう。

日本に帰ってくる前にフィリピンと東ティモールを除いた東南アジアと、中国、インドをバックパッカーをしました。

f:id:taxi-yoshida:20170619111848j:plain

ラオスから中国国境に向かうバスの中(2015年3月)

f:id:taxi-yoshida:20170619112313j:plain

インド、ムンバイの仏教徒の集落で記念撮影(2015年4月)

新しいものを作ってやるという強い意気込みと、巡ったすべての国に今度は自分自身のビジネスを携えて戻ってくると野心を持っていました。それは今でも変わりません。やっと日本でも既存の仕組みの崩壊が始まり私のようなタイプの人間を許容する感じは見受けられます。

中国、インド、東南アジアの急成長するデジタルエコノミーは楽しいとしか言いようがありません。ずっと変わらない志を抱き続けたいです。若い人が活躍する場はアジアという大きなフィールドなのです。

f:id:taxi-yoshida:20170619114431p:plain

 

 

長期的な利益を生むアクションは感情と知性のミックスによりもたらされる

私たちの感情は思考においてさまざまなバイアスを生み出します。感情は誤った意思決定を下す主要な要因です。金融市場が乱高下するとそのたびに私たちは一喜一憂します。感情が優先され、感情を基に論理が形作られ、それが群衆を伝うとそれは根拠なき神話になります。

長期的に見ると感情的な判断が素晴らしい結果をもたらさなくとも、人間はsystem1(感情的クイックな思考)に拘泥してsystem2(合理的なより足の長い思考)に移行することに失敗します。

 

ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 

 

私は重要な意思決定の場においては、感情を出来るだけ取り除くように自分を訓練してきました。なぜなら自分がとても感情的な人間だと知っていて、そのせいで長期的な利益を失うことを繰り返して来たためです。

感情によるアクションの利点

感情はときに速い意思決定を促してくれます。ぼくは将棋や麻雀が好きなので、モンテカルロ木探索のような推論を無意識に繰り返して意思決定する傾向があります。条件が狭まる、つまり完全情報ゲームに近づいて来ると、このやり方の勝率は高まってきます。

 

しかし、世界は目眩がするほど複雑です。とにかく試行回数を増やすことが求められる状況、あるいは何をしてもプラスばかりに転ぶ「ボーナスゲーム」的な状況においては、感情に委ねて意思決定を速くしてムーブファストになることは一理あります。つまり、感情の取捨はゲームの特性に依存します。
f:id:taxi-yoshida:20170618190400j:image

一方で長期的なビジョンを研ぎすませるだけでかなり優位性を発揮できることが往々にしてあります。たとえば、長期的で破壊的なトレンドに投資することは利益が大きいでしょう。私はAI / IoTが長期的なトレンドとして世界を変えると確信しています。そのトレンドに対して学習なりポジションづくりなりで自分なりの投資をしています。

大半のプレイヤーがこの分野への注力が少なすぎるか、生半可で消え去っていくでしょう。何故かわかりませんが、長期的なトレンドを確信でき、アクションするプレイヤーとそうでないプレイヤーに別れるのです。常に淘汰されるグループを生み出すというのは、人間のDNAの知恵なのでしょうか(私はネオダーウィニズムではないです)。

ここでモチベーションといファクターが浮かび上がります。感情に基づく意思決定にはモチベーションが付随しやすいです。自分の心のステートやそのステートが生み出したストーリーがモチベーションを焚き付けてくれます。しかし、合理的な判断を繰り返したり、キープしたりするのは、モチベーションを保つのが大変です。意図的に心のダイナミクスと決断を分離することで、燃えなくしているので、何かを生み出そうというエネルギーがわかなくなります。

ファストアンドスロー

速い思考と遅い思考を組み合わせることに一理あります。

私たちは常に感情による意思決定と合理的な意思決定をする2つのモデルを動かし続けなくていけません。しかも直面する状況は常に変化し続けますから、実際には2つ以上細やかなモデルを無意識ながらに活用していくことになります。これは相当苦しいですが、正しいビジョンに対して汗をかいていると何処かで、ブレークスルーが起きるはずです。子供らしさと老獪さを合わせ持つモデルになりたいところですね。

 

自分の常識の外にある新しい世界を常に獲得する:映画『メッセンジャー』感想

映画『メッセンジャー(原題Arrival)』を観賞しました。本筋とは異なりますが「異なる言語を習得することは、新しい世界を獲得すること」に類するセリフがあり感動しました。拙い英語と冗長なインドネシア語を話すぼくは、そのふたつの習得の過程で自分が変わるのを感じたからです。

f:id:taxi-yoshida:20170616191425j:plain

知識量により人間は見える風景が変わっていくと思います。それは単純にいい点だけがあるかというと、そうでもなく悪い点もあるはずです。

羽生善治三冠は七冠王になった後にスランプに陥りました。知識量が増えすぎたせいで踏み込めなくなったと語っていたと思います。知識をヤフー検索のようにディレクトリ型で溜め込んでいくのは望ましくないはずです。暗記マシンの価値は急落しています。だから知識が増えていくことで現れる悪さをいい感じに和らげながら生涯学習を続けて行けばいいと思います。ガラクタモデルでストップしている大人にはなりたくないのです。

戦略性と対話

映画では突如来訪した異星人に敵対的なアプローチをとる軍人と、相手を知ろうとする言語学者の主人公が対比的に描かれています。

f:id:taxi-yoshida:20170616192548j:plain

中国の軍人が麻雀牌でコミュニケーションを取ろうとしていることを知った彼女は、麻雀の敵対する四者間のゼロサムゲームという特性から、異星人と中国の関係が敵対、妥協だけの関係に落とし込まれると指摘します。主人公は異星人とゆっくりとお互いの言語を交換し、コミュニケーションを築いて彼らの意図を知ることになります。これも心を打たれました。

DIGIDAYの私の記事を読めばわかりますが、ビジネス上の戦略をテーマにしたものやプレイヤー間の戦略をめぐるインサイトなどがテーマです。記事だけでなくあらゆる局面で私は戦略性に絡まれています。人間は不必要なほどに戦略性をもった関係を築きます。そして遺伝子が生まれもった利己的な特性や、その利己的な特性を増長する組織やシステムのあり方のせいで、ときに不快な存在です。だからこそ彼女の対話のアプローチが素晴らしいと思いました。

f:id:taxi-yoshida:20170616192730j:plain

定期的に当然を覆す

彼女は異星人たちが持つ、人間とは完璧に異なる時間の感覚を手に入れます。彼女はつながっている時間として、人間が未来と考えている光景を体感することができます。異星人という人間ではない存在を置くことで、私たちが当然と思っていることが覆りそうになる、そういう体験こそ知識量の増加をポジティブに活かすためのコツではないでしょうか。

 

 

 

VALU試してみた。評価経済のテストも、偽装者の楽園をどう直す?

f:id:taxi-yoshida:20170614101618j:plain

話題になっているVALUを早速始めてみて、自分のVALU株式を発行しました。めちゃくちゃ安いので、冗談半分に買ってくれたらうれしいです。ぼくは自社株買いはしません。

valu.is

で、つかっている感想を話したいと思います。個人のインターネット上の評価を貨幣的に扱う試みは「最初の一歩」として面白いと思いました。しかし、評価を貨幣化するロジックが単純すぎであり、自身の評判(Reptation)を実力以上に見せることに成功しているタイプの人たちのパラダイスになっている気もします。

ネット上の身元証明の勝利

まず肯定的な部分について話しましょう。いまやFacebook認証などを使うと、サイトやアプリごとの個人情報登録を省くことができて、かなり便利です。個々人がIdentification(身分証明)の管理をプラットフォームに委託している形です。これを友だちという形でネットワークにしておくことで、お互いにその人だと確認し合っていることになり、身元証明の確実性を高めています。

役所に置いてある身元証明が余り融通が効かないため、ネット上の身元証明は今後リアル世界の認証をテイクオーバーしていくでしょう。重要なのは身元証明を他人に乗っ取られないようセキュアにすることです。生体認証のプロトコルの策定が進んでいたり、デバイスの使い方の傾向などから本人かどうか確かめる手段を提供するAPIが作られています。

オープンな個人データの有用性

最近はFacebookで友だち申請した後、私の目の前ですぐさま調べて「ああ、あなたはこういう仕事しているのね」「この人と友だちなんですね」と確かめる人がいます(余りいい気がしません)。そもそも会う前からFacebookやブログやなんやら調べ上げられているのも常態化していると感じています。私はかなりユニークなタイプなので、こっちの方が手っ取り早くていいなと考えています。平均点をとる気のない人を許容できる人と会いたいです。

Facebookは自身のサービスを通じてユーザのデータを収集しており、同時にIdentifier(識別子)を通じてあらゆるデバイスをまたいだユーザ行動をも手中に収めています。

だから身元証明とそれにまつわるデータを広告という形でマネタイズできるのです。彼らの広告事業はとても成功しています。ただ、最近のAI / IoTの発達を見ていると、今後のコンシューマーインターネットのビジネスモデルの着地点は広告ではないかもしれないと感じます。

誰がIDを握るのが一番いい?

誰が身元証明を握り、運用すればいいか。GoogleFacebookが100%善意のプレイヤーであればまあそれでいいでしょう。でも、その仮定が働かないときどうすれば良いのだろうか? VALUでは仕組みが不完全ながら自身の株式を発行することができます。身元証明を自分の手の上に引き戻そうとしているふうに感じられます。

ハックされやすい評判

Reputation(評判)はハックされやすいでしょう。Google検索はフェイクニュース量産サイトや信頼性の低い医療系サイトを上位にランクしました。

www.j-cast.com

VALUの参加者のスコアリングはかなり大雑把かもしれません。Facebookの友だち数やTwitterフォロワー数が時価総額に大きく影響しているようですし、自社株買いが有効です。でもこれらはお金をかけたりすればハックできます。

結論:テストケースとして面白い

VALUは一般層に気づきを与えていると思います。自分自身に価値があり、その価値に対して投資してもらうことができるということです。こういう気づきが行き渡れば、ブラック企業で働く人はいなくなると思います。

昭和の投資術が最適:暗号通貨のバリュー投資

f:id:taxi-yoshida:20170612160010j:plain

暗号通過に関してこういうツイッターがありました。

これで思いついたのは、暗号通貨はバリュー投資がワークするよなという推測です。バリュー投資はウォーレン・バフェットが長い間採用する投資手法として有名です。

 

億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術

億万長者をめざすバフェットの銘柄選択術

 

 

私の仮説は以下の通りです。

ある程度パフォーマンスを把握できる暗号通貨に対しては、Hodl(ホールドの意)する「ロイヤルユーザー」がつきやすい。そこにレイトマジョリティの新規ユーザーが加わる形で、長期的な価値上昇を期待できます。パフォーマンスを理解しないギャンブラーが集まる銘柄はボラティリティが激しく、ババ抜きになりがちです。

実際昨年から今年にかけてBitcoin, Ethereumは続伸しています。Rippleはどうなったでしょうか。しっかり研究していると群衆に対して相当情報優位に立てるのが、いまの暗号通貨市場です。GWから流入した日本の投機家は、5月中旬の暴落でかなり損を出したはずです。

バリュー投資自体は枯れた手法です。金融工学が発展しトレードのロジックは複雑化を極めています。市場に生まれた価格差を一瞬でなくしてしまうアルゴリズム、一見何者かよくわからないほど複雑なデリバティブ。複雑なものたちが、複雑なものを売り買いしています。

www.nikkei.com

しかし、暗号通貨はかなり難しいので、他人が見抜いていない価値を見つけることが容易です。価格の歪みを発見しやすいでしょう。私にとってはビットコインゲーム理論上の課題を解決している部分は興味深く、最近は勉強量を増やして技術面に詳しくなろうとしています。そうすればより勝ちやすくなるでしょう。

ただし、バリュー投資の敵もあります。それは暗号通貨市場では超不合理な投機家たちが、市場の効率性を大いに損ねているところです。バリューが必ずしも正しく評価されるかわかりません。でも、長期的に見れば、賢者は勝ちやすい、そういう単純な造りの部分が暗号通貨市場に残っていると信じます。

 

 

制約への洞察を磨き上げろ

週末は結婚式に出席してお酒をたくさん飲んだ。それを機に久しぶりにリラックスしてみた。休んでみると、どうも自分の脳みその中がバイアスだらけであると気づいた。

仕事を短時間で高いパフォーマンスを出すことに照準を合わせてきた。開いている時間は学習に費やしてきた。学習は楽しいのだが、もしかしたら過学習気味だったかもしれない。

いつの間にかぼくは制約に従順なっており、制約の枠内をはつかねずみのように走っていた。制約への屈服がさまざまな活動のボトルネックになっていることに気がついた。疲れ果てるほど頑張っているのに、その成果がオプティマイズされていなかったのだ。悔し過ぎる。


f:id:taxi-yoshida:20170612220953j:image

Googleの中居悦司氏のDevOpsに関する講演を聴いたが、Googleは技術的制約への恐ろしいほどの洞察を巡らせるという。制約を受け入れて得られること、制約を打破したら得られることを考える。仮にお金をかけてクリアできるならお金をたくさん使うことも厭わない。

製造業で用いられるTheory of Constrainmentは制約を見つけ出し排除するプロセスを繰り返す。
f:id:taxi-yoshida:20170612220117j:image

その制約条件自体は工夫やちょっと血を流せば、クリアできるものなのだが、いつの間にか怠惰になっていた。常に自分がやっていることを見つめ直して、制約を打破し続けようと考えている。

 

ご祝儀はデジタル決済、招待状はQRコードでどうぞ! ここがおかしい日本の結婚式

先週、友人の結婚式の受付をやりました。それに伴い結婚式についていろいろ考えました。友人の結婚に関しては本当に素晴らしいと思いました。しかし、結婚「式」をめぐっては考えたことも多々あります。今後の結婚するカップルを幸せ(?)にするために提案をしましょう。今回は冗談モードなので、勉強モードの方は読まないでください。

ご祝儀はデジタルペイメントでやりたい

f:id:taxi-yoshida:20170607101209j:plain

いちいちあのご祝儀袋を買ってもらい、詰め込まれた現金を回収するなんて、無用なコストが生じており、手続きが面倒臭すぎます(あの袋500円位します)。受付係として毎回袋をもらう度にううむうと感じてしまいました。

映画「カジノ」の序盤で、大量の現金を扱う危うさが説明されています。昔のラスベガスのカジノでは毎日、大量の現金を数えなくてはならず、計上の最中でぼろぼろと従業員たちの懐に落ちていくことが常態化していました(取り締まりが大変なので運営も看過していた部分もあったでしょう)。なのでこういう多数の人間が介在する大量の現金の授受はとても危険です。私は「麻雀放浪記」の出目徳のことを思い出しました。

f:id:taxi-yoshida:20170607101836p:plain

ご祝儀袋は出席者がいくら払ったかをふわっと時限爆弾的に覆い隠すけど、結局のところ、カップルには分かるわけです。だったら初っ端からデジタルな取引で済ませたいですね。

そこで課題なのは、クレカの手数料と銀行の振込手数料です。カップルはネット銀行の口座を用意して、出席者もネット銀行口座から振り込むというのが、いまの日本で一番安い決済方法でしょうか。レガシー金融インフラの非効率性は、わたしたちの結婚式をも非効率にしているかもしれません。

日本にも便利なデジタルウォレットがあればいいのですが…。おそらく結婚式のご祝儀のデジタル決済という点では、日本勢はインド勢にボロ負けするはずです。入り口に左下のようなQRコードがあってスマホで読み取ればおしまいです。

f:id:taxi-yoshida:20170607101441j:plain

マニアックなカップルとマニアックな出席者がそろった式なら、暗号通貨もいいと思います。ただBitcoinはそろそろブロックにトランザクションが収まりきらなくなりそうで、送金コストが上昇してます。したがってLitecoinがいいのではないだろうか。ちょうど先月、Blockstream社はSegwitを実装したLightning Paymentでスイス・チューリッヒとサンフランシスコ間で1.3ドルの送金に成功しています。手数料はゼロです。

招待状→出席確認はQRコード発給

結婚式の招待状も省略しましょう。あんな紙切れで業者をもうけさせてはいけませんよね。招待客には、免許証と自分の顔を一緒にとってもらったものを登録してもらって、そこでご祝儀をクレカ決済でもして(ご祝儀価格も指値にしてしまう。親族5万、友人3万みたいに)、そのプロセスを終えた人にQRコードGoogleマップで会場位置を渡せばいい。あとは式場でQRコードを読み取ればおしまい。

(というのも、私は当日音声検索で会場を調べたら、表参道に行くはずが、青山一丁目の違うホテルに行ってしまいました涙。すべての行動をどれだけマップアプリ・検索に頼り切っているのか思い知りました)

挙式会のイーロン・マスク

挙式の興味深い点は、カップルがご祝儀を期待して、自身の予算を積みませられる点です。つまり、カップルは界王拳を使った孫悟空になることができます。プレミアムの載ったフリーザーを与えられると、悟空は倒したくてしょうがなくなります。したがって(?)挙式ビジネスのマージンは大きいと想定できます。

 

ぼくは挙式ビジネス界にイーロン・マスクのようなやつが現れたら世界が変わると思いました。つまり、NASAがそれまで依存していたロケット提供企業に対して取った戦略ですね。マスクは現状のコストを徹底的に圧縮するという方法をとりました。しかもその余剰分をカップルのLTVの拡大みたいなものに振り向けるのがいいのではないでしょうか。高いマージンはキープしたままで、価値は拡大するはずです。

「挙式一発やって大儲け」→「挙式から子育てらへんまでの長期的価値」という方が素晴らしい気がしますが、おそらく既存業者には美味しすぎて転換できないというのが、本当のところでしょう。だからディスラプターが必要なのです。

 

Ethereumの最大のキラーアプリはトークン


f:id:taxi-yoshida:20170611191823j:image

イーサリムの最初のキラーアプリケーションが発見された。Eメールやインターネットように平凡であり、それは最初からあったものだ。トークンである。

コーネル大学のEmin Gun Sirer氏がこうツイートしています。最近のICOバブルが背景にあリます。株式を表現したトークンやアプリケーション内通貨を表現したトークンが群衆に対して売りに出されています。

私たちはあらゆる資産のトークンを発給できます(参考Consensys blog)。シンプルであり、なおかつ強烈な実用性を備えています。

面白いことにあなた個人のトークンも発給することができるのです。この面白い例は最近話題のVALUです。もしVALUでブロックチェーンに記載された身元証明=IDに紐付いたトークンが発給されていれば、より確実な形で運営ができるはずです。

アイデンティフィケーションがイーサのキラーアップになる可能性があリます。そうなればシェアリングエコノミーに必要な信用=トラスティなども整備されます。トークンエコノミーはテクノロジーの進歩に整合する社会が現れるはずです。

ビットコインは8月1日にUASFを控えています。送金手数料はすでにかなり高くなりつつあります。UASF以降もアップデートを重ねないといけないし、ファンジビリティの問題などはまだ解法に至っていません。

トークンの発給という単純なキラーアップはCripto / Blockchainに新しい価値をもたらそうとしています。8-9割は詐欺と揶揄されるICOのガバナンスを考えないといけないでしょう。

  1. 証取委のような存在がいない
  2. 証券会社、ベンチャーキャピタルなどがいない
  3. オープン

こういう特徴を損なわない、新しいガバナンスがICOには求められています。

 

東京にだって移民とイノベーターがクロスするイノベーション地域はある説を検証する

このブログを読んでいて、再び引っ越しについて考え始めた。紹介されている『年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学』は都市間の経済格差を様々な観点から比較しているという。

アメリカにおける都市間の経済格差、特にイノベーション産業のメッカとなっている都市(例:シリコンバレー)と衰退した都市(例:デトロイト)の比較を様々な観点から行っており、結論としては高付加価値産業は特定地域に留まる性質があり、それは計画的に達成されるのではなく偶然発生するだけ、ということだった。シリコンバレーであればショックレー電子、シアトルであればマイクロソフトがそこに居着いたのがいま栄えている理由の根本であって、周辺産業含めた収入の地域格差はそのように突出した地域が生まれる上で必要悪とも見なされるそうだ。

都市経済学の様々な論者が似たような説を出している。リチャード・フロリダもまた広義の「クリエイティブ階層」を定義して、資本主義のなかで差別化された価値を生み出す人たちは特定の場所に集住する傾向を指摘した。

www.amazon.co.jp

著書の内容をしっかり覚えていないところで、いい書評があったので引用しよう。

とは学 『クリエイティブ都市経済論-地域活性化の条件』リチャード・フロリダ

・「移入者(移民)」の多さは、「ハイテク産業」と関係している。外国生まれ人口の割合とハイテク成功との間の相関は極めて高い

ボヘミアン(作家、デザイナー、ミュージシャン、俳優、ディレクター、画家、彫刻家、写真家、ダンサーなど)指数が高い都市は、「ハイテク」基盤だけでなく、人口成長、雇用成長も高い都市

・クリエイティブ経済では、環境の質は、才能を引き付ける前提条件として重要。環境は、経済的競争力、生活の質(QOL)、才能の吸引力を高める

・オールド経済では、企業の立地決定こそが地域経済の原動力であり、人間の立地決定は、企業の立地決定に従うものであった。クリエイティブ経済の到来は、この立地を劇的に転換する

・若いクリエイティブ・ワーカーは、地下鉄やLRTといった大量公共交通機関を、より広い範囲の地域へ行く移動交通手段として好んでいる。それらがあるところを居住・就業地を選ぶ上で重要と見ている

・水辺は、高アメニティ地域にとって共通の重要要素。もっとも成功しているハイテク都市のうち、いくつかは水系の近くに立地し、水系の資源をうまく戦略的に利用し、環境の質を高め、レクリエーションや交通の機会を増やしている

・大学は、クリエイティブ経済を構成するインフラ。才能を生みだし、生かすメカニズムを提供する母体。イノベーションを生み出すだけでなく、創造の力によって、経済を増幅させる

・日本の社会は、ブルーカラーのクリエイティビティを引き出すシステムは最高だが、ホワイトカラーのクリエイティビティを引き出せない 

サンフランシスコ>東京

この記事は5月24日にbtraxが開催した「DESIGN for Innovation 2017-デザインが経営を加速させる」の講演をもとに執筆したんですが、主催者のbtraxのブランドンさんのお話を聞いていると、上に挙げられたクリエイティブ都市の条件がbtraxがオフィスを置くサンフランシスコにはあるが、東京には「今のところ」ない、というニュアンスがまあまあよく出てくる。

digiday.jp

ブランドンさんが日本からサンフランシスコに移住して起業につながるまでのストーリーは本当に好きだ。

私は高校生になったあたりから、その向こうに見える公官庁・大企業中心社会に全くなじめないことを確信し、大学時代は音楽を作ったりなんだりし、卒業後はインドネシアに渡った。インドネシアで5年過ごした後に起業したくなり、日本に帰ってきた。帰ってきたときは謎のナショナリズムの最潮期で、困難はかなり大きかった。なまじ比較対象をもっているために感じる日本の硬直的な慣行への強烈な違和感なども、ブランドンさんのブログを読んでいるとちらほらあり、そうだよなーと共感してしまう。

blog.btrax.com

東京にだって好ましい例外があると信じたい

社会システムが80年代の製造業の成功体験を基盤にしたものであり、昔を忘れられないオジサン・オバサンたちが必死にこの仕組みを維持している、悲しい日本。それを増強するための偽情報が流通させられている日本。自分のなかに内在する枯れたプログラムに支配され、新しい世代にも枯れたプログラムをせっせと教え込む人々であふれる日本。高齢化し活力が失われているように描かれる日本。ヤル気のある人を集団でイジメる日本。

f:id:taxi-yoshida:20170607190439j:plain

だけど私は楽観的だ。東京のなかには移民と若者のミックスにより多様性とアニマルスピリッツのパワーが噴き出す場所があるのではないか、という仮説をもっている。東京は依然として世界有数の大都市であり、経済基盤は大きい。偏見さえなくなれば途端にうまくいくかもしれない。

これはもう何も調べていなくて社会学という最も役立たずな学問的な肌感覚だが、新大久保、百人町、高田馬場らへんや東京東部の若いカップルの子供と移民たちが交差するらへんにチャンスがあるのではないか……。そういう、盲点になっている場所を付けば、創造性を生み出し続けられるのかなと思います。

これを検証するために引っ越しをしようかなーと考えています。いまは神奈川県の家族がマンションを買う街に住んでいて、ぼくのメンタリティと街が噛み合っていません。

物件・地域・コミュニティ紹介をお待ちしています。TwitterのDM、Facebookでコンタクトください!

私はこういうプロジェクトに取り組んでいます。

taxi-yoshida.hatenablog.com

 

【DIGIDAY記事解説】マーケティング業界がサイエンスやるなら今でしょ

Googleは先月、Google Attribution 360をリリースした。これはもうGoogleは「私たちは自分たちのデジタル広告だけじゃなくて、デジタル全般もテレビも評価できます。購買データもあります。ROASの「推定」だって今までより突き詰められます。貢献度分析から最適な予算配分をやれます。だって、私たちが一番たくさん世の中のデータを集めているんですから」と言う感じです。

Digital & TV Attribution Capabilities - Google Attribution 360 – Google

DIGIDAY USのYuyu Chen記者は代理店や代理店系のベンダー、独立系などを取材して、その反発の大きさを明らかにしています。

このソリューションが出てくるまでの経緯はこの通り。

  1. WPPが共通識別子トラッキングを作るといいはじめた。WPPはそれでテレビとデジタルの指標をつくろうとしているっぽかった
  2. Facebookが人ベース測定を広告主に開放した。WPPの目論見を防ぐことが目的だったのだろう。アトリビューション分析ができるという話で、そのツールを使うと、テレビなどのROASが新しい基準に載る

  3. GoogleFacebookと同じことをはじめた

サイエンスをやるのは今でしょ

細かい説明は省くとして、マーケティング業界は長い間サイエンスをサボってきたと思います。世界1位のWPPはプラスチック屋から身を立てたマーティン・ソレル氏、世界3位のピュブリシスのモーリス氏と、彼らが高齢で長期間CEOに在職している状況をみると、この業界は余り変化の風を浴びなかった。彼らはM&Aが上手で競争を避けることができてきたのだと思います。遊びの少ないファクトやデータに根ざすものを嫌ってきたかもしれません。

マーケティング業界ではサイエンスに根ざさない意思決定を山ほど見ることができます。キャンペーンの評価方法には目をむくほどマズいものがあると思います。これは代理店だけではなく、クライアントサイドにもたくさん問題がありました。

f:id:taxi-yoshida:20170607143431j:plain

テックジャイアントが大規模サービスでユーザーを囲い込み、そこから収穫されるデータを独占して、こういう形でマーケティングにサイエンスを突きつけているということだと思います。それ自体はいいような気もしますが、勝者がどれだけ残るのだろうかと考えると少し難しい気持ちにもなりますが。

 

 

 

 

人間とコンピュータの肩の上で天才棋士藤井四段が躍動する

将棋でコンピュータの方が強いのは明確です。佐藤名人も練習段階から「ほとんど」Ponanzaに勝てなかったと認めました。でも最近藤井聡太四段という天才が現れました。将棋ファンは大興奮しています。彼は14歳で本当に新しい世代です。

このYouTubeの解説チャンネルは本当に勉強になりますが、仕事の後だと重いです(笑)。

元奨励会員アユムの棋譜並べ39 藤井聡太 VS 羽生善治 炎の七番勝負第七局 - YouTube

「 角換わり」という戦型が採用され、途中から藤井が急戦を仕掛ける局面があります。仕掛けた段階で、ソフトの評価値は藤井氏が優位になっています。仕掛けの先の変化では、駒の総量で藤井氏が(人間にとって)不利に見える変化があります。しかし、ソフトはその場面で藤井氏の方が優位だと判定しています。これは従来の人間による判定が余り正しくなかったらしいのです(8分20秒頃)。

だから人間が築き上げてきた将棋の叡智をもとに、コンピュータが強くなり、今度はコンピュータによる探索により人間の叡智が前進をはじめている、と言えます。藤井は今後、コンピュータの力も借りて、人間のバイアスを超えた将棋の新しい世界を発明していくでしょう。藤井自体も14歳と若くバイアスが余りなく、巨人の肩の上で躍動できるのではないでしょうか。

f:id:taxi-yoshida:20170503211945j:plain

特化型人工知能=弱い人工知能の未来

私が取材したこの記事で人工知能学会 会長の山田誠二氏は弱い人工知能について触れています。

「AIを人間に近づけるのはなかなか難しい。人間は極めて複雑な生物だ。生物は何十万年かけて莫大な並列計算を行い、世代交代を繰り返し、それである種の条件に合うような機能を身に着けた。20〜30年で限られた演算しか行わないコンピュータで同じことをするのは直感的にも難しいと感じられる」

人工知能をめぐる、マスコミの報道はミスリード続きかもしれません。「AI開発ガイドライン(仮称)」の素案を策定するため総務省が設置した産官学会議から、AIスタートアップのPreferred Networks(PFN)が離脱していた件もありました。おそらくマスコミだけじゃなくてその周辺のあの界隈が難しい状況かもしれません。

人工知能技術の健全な発展のために | Preferred Research

このPFNのCSOである丸山氏の文章は本当にわかりやすくて素晴らしいと感じました。おそらく研究者にとっては汎用人工知能を生み出すことは、イーロン・マスクが火星に移住を考えるような夢ではないかな、とぼくは考えています。何かを作る人に重要なのは「絶対にできる」というマインドセットであり、だから取り組むわけですね。

DeepMindのDemis Hassabisは汎用人工知能の創出をビジョンに据えています。でも、医療方面やデータセンターの省電力化など特化型人工知能の開発を実際に進めてもいるのです。ここからも汎用人工知能が「究極のゴール」であることがわかります。

私はこのような変化をメディア産業に起こしたいと考えています。Googleが情報を整理する人工知能をつくって、あらゆることを面白くしましたが、私は人間が情報を生成する部分をサイボーグ化したらもっと面白いことになるよねと思っています。個人的なプロジェクトですが、ぜひ手伝ってくれる人を探しています。

Smart Node Project