デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

ICOだけじゃない、メルチャリ、Airbnbもトークン化できる

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今日メルカリがシェアサイクル「mercari」をリリースしました。中国で人気の出ている業態です。先日のライブ動画「メルカリチャンネル」と同様中国のトレンドを素早く取り入れる姿勢が見て取れます。中国ではサイクルシェア事業に各社累計で2016年には200万台以上の自転車が投入されましたが、2017年の投入台数は3000万台に達すると予測されています。

最近のICO騒動で感じるのはICOトークン活用のひとつに過ぎないとこうことが周知されるべきではないか。むしろ、こういうメルチャリのようなシェアリングエコノミー領域でこそトークンは面白いのではないかということです。それこそ、自転車のようなものの利用権をトークンにしてマーケットプレイスで売買することがあらゆるジャンルに拡大すれば、ユーザーは余計な所有に悩まされず、生活を豊かにできると思います。現行のmercariはメルカリが自転車の提供と同様、運営・管理を行います。仮にこれを参加者が自転車を出し合い、トークンで取引するとよりシンプルなサービスになると思います。

シェアサイクル各社は協定を結び、マナーが悪い顧客に関する情報を共有しています。ひとつのシェアサイクル企業のサービスでマナー違反を行えば、他企業のサービスも利用できなくなります。アリババはコマースや金融取引履歴・ネット行動履歴、公共料金の支払履歴、デモグラフィック、社会的人脈などから、その人の「信頼」を独自にスコアリングしています。この「芝麻信用」のようなものがサイクルシェアにも導入されています。「芝麻信用」はアリババが出資する損害保険企業の査定に直結します。

上記のケースでは個人のIDを巨大企業に委ねている形になります。あなたはFacebook認証を利用することがあると思いますが、あなたがあなたであることを証明するのを、Facebookにお願いしていることになります。個人のデジタルIDをブロックチェーン上で管理し、それにまつわる信用・評判情報が紐付けられていて、誰にも管理できないようになればいいのに、というふうに考える人は少なくありません(私もそうです)。

今度は、Airbnbトークナイズしたモデルを想定しましょう。貸出可能な宿泊をトークンに記載します。それをマーケットプレイスに入れて売買することができます。宿泊提供者と宿泊者の信頼を示すスコアが提示されていて、トークンの購入が簡単になりますし、「どのトークンに対してどれくらいの値をつければいいのか」というノウハウも発達します。トークンという簡易な形で、インターネット上のどこでも取引できるようにするお陰で情報の偏在性がある程度解消するのではないでしょうか。誰もが安全にトークンを発行し、それがアタックをうけないことを確実にできるのならば、Airbnbという「中央」の必要性が薄れていく可能性があります。

しかし、実際にはAirbnbの宿泊にはときにトラブルが発生します。自転車の利用頻度が高ければ修理の必要性が生じます。これらの状況に対応するために中央は必要です。非中央集権は素晴らしいアプローチですが目的ではありません。

誰もがトークンを発行できる

トークン化するものは最初は純粋にデジタルなものを選ぶべきでしょう。電力のトークン化取引が検討されているが、実際には、電気を配電網の中でうまい形でやり取りできる極めて高度なスマートグリッドが必要になります。

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今後はIoTが進展していくはずです。あらゆるモノがコネクティビティを獲得します。もののステータスをデジタルに管理できるため、その利用状況をもとに利用権をトークンの形に買えることが可能です。仮に行儀の悪いユーザーが自転車にダメージを与えて、それを隠し通そうとしても、センサーから自転車の状況が変化したことがわかり、それがその人のクレジットスコアを傷つけてしまいます。

Eterereum上のサービス・ビジネス開発を進めるConsensysブロックチェーントークンドリブンの未来を実現できると主張しています。

  1. セキュリティとコストの両面でトークン発行の障壁をなくす
  2. グローバルで自由なトークンの取引を許容する
  3. 透明性の確保されたグローバル台帳に基づいて、トークンが活用される。以前はすべてのトークンはそれぞれ個々の所有するサイロの中に閉じ込められていた。なめらかにグローバルスケールでトークンを交換することで、より効率性を増すことや新しい形体の協力を可能にします

結論

政府や独占的大企業などトークンを発行できる主体が特権を握ってきたのがこれまでの社会のあり方ですが、今後はトークン発行を誰でもできるようになります。ブログがジャーナリストとブロガーの垣根をなくしたように、トークンは投資家と個人投資家の垣根や、政府と国民の垣根をなくすのではないでしょうか。トークンの発行を代行するビジネスが最近盛り上がっていますが、トークンの秘密鍵は自分自身で管理するべきでしょう。この部分の教育が進むとトークンの真価が世の中にもたらされると思います。

参照

Facebook Watchはメディアの動画ピボットを「強制」する?

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FacebookはWatchを開始しました。FacebookYouTubeを追いかけようとしていると考えられていますが、過当競争の動画市場にどのような隙間があるのか、見ものです。

Facebook Watchが導入されると、利用時間上位Appのビデオ(動画)化がさらに濃くなります。FacebookInstagram、Messenger、AmazonNetflix、Alphabet、Twitter…と皆何らかの動画をやっています。特に記事消費にとても強いFacebookがWatchで動画色を濃くすることは、パブリッシャー(メディア企業)の動画ピボットを「強制」する力がありそうです。

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YouTubeは2015年の夏に広告在庫取引をプログラマティックに限定し、エクスチェンジでの他者の買い付けを排除しました。現在はその専売的な取引方法が、動画広告への予算の大移動という外部環境とともに、大きな収益を上げるようになりました。検索広告がAlphabetの収益の4割程度を占めていますが、YouTubeは同様の稼ぎ頭になろうとしています。

Facebookは広告の在庫数が臨界点に達しており、単価の高い動画広告にシフトすることで、収益拡大を目指そうとしています。動画、ライブ動画などの機能を追加し、ついに今回テレビのようなWatchを追加しました。

プロダクトデザインの観点から観ると、FacebookはWatchを独立したAppとして切り分けるか悩んだと考えられます。YouTubeNetflixがいい例ですが、動画視聴は一つのアプリケーションで完結している方がユーザは使いやすいはずです。Facebook messengerは別のアプリに切り分けることで大正解で、両者の連携も素晴らしく、FacebookはMAUが10数億人のAppを2個手に入れることになりました。

動画はそうはいきません。友人がシェアした動画を観るのは確かにFacebookInstagramは適していますが、エンターテイメント目的の視聴には「つながり」が余りいきてきません。視聴自体はそのAppでして、コメントはTwitterなどで行うという使い分けをするユーザー行動を認められるはずです。

Facebookはどう考えても機能過多です。タブやボタンがたくさんありかなり考えながらアプリを操作しないといけません。開発国(Developnig Contry)に提供されているFacebook Liteの方が明快な部分だけが残されている印象です。動画は機能としてボリュームがかなりでかく、Facebookを大改造して「YouTube化」しているふうに感じられます。

で、私が5月に最高製品責任者(CPO)のクリス・コックスにインタビューしたとき、彼はこのよう説明していました。

Facebookはビデオ(動画)に注力するが、それはテレビという形態をとらない」と答えた。ビデオはスクリーンに映る「モーションピクチャー」の総称であり、テレビもデジタル動画も含まれる。「テレビはビデオの一形態だが必ずしもインタラクティブ(双方向)ではない。私は動画の周辺で起きる会話、背後にある関係性、コミュニティがとても面白いと考えている。友人と動画を通じて双方向的に話し合うことについて考えてもらいたい」。

Watchにはパブリッシャーが参画していますが、彼らが得られるインセンティブを検討しましょう。Facebookコムキャストのようなケーブルテレビ事業者と、NBCのようなチャンネルを提供するテレビネットワークを兼ねていて、パブリッシャーがスタジオ、制作会社となっている。サプライチェーンを簡略化することに成功しています。

参画するVox Media、Buzzfeed、Group9 Media(Nowthisなどの持株会社)、Business Insiderはミレニアル世代向けのデジタル動画制作が強みで、すべてでBen Lerer一家が運営するベンチャーキャピタルの出資があります(日本には現状こういうVCはないですね。あったらいいのですが)。

上述のコックスCPOはビジネスモデルに関してこう説明しました。

「動画を制作した人は誰でも、Facebook上にビジネスモデルをもち、オーディエンスに対してプロダクトエクスペリエンスを表現できるようにしたい。人々はニュース、エンターテインメント、友人へのシェアとさまざまなソースからもたらされる情報を動画で得ることができるだろう」

動画に関してはクローズドな形でさまざまなフィルターを利用したやり取りを最初にAppの形で表現したのが、Snapchatでしたが、FacebookInstagramとともに機能をコピーし、その良さを取り込んでしまいました。そして次はテレビとUGC(ユーザー生成コンテンツ)にまたがるYouTubeの牙城に挑戦しようとしています。

動画の次と考えられる、VR/ARに関してはOculusの投資があり、ポストスマホとしてはメガネ的なデバイスも検討されています。ユーザーがVR/ARに移行しても、Facebookとしては困りません。

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Via Oculus

動画でもVR/ARでも最も重要なのはコンテンツです。いいコンテンツ群と継続してそれが生み出されるビジネスモデル、マーケットデザインが鍵を握ります。そして、本当に大変な制作においてもたくさんイノベーションが必要になります。

Facebookは最近ではインドクリケットリーグの5年間の放映権に対して6億ドルの入札をしました。ルパート・マードックの26億ドルに負けましたが、Facebookが巨額のスポーツ放映権入札のプレイヤーとして確立した瞬間です。DAZNJリーグの10年間の放映権に費やしたのが2100億円。インドのクリケットはそれよりも高いのです。

米国や中国のインターネット企業が動画に注力する背景は次のようなことがあります。

  1. テレビ広告予算とデジタル広告予算の融合 
  2. モバイル上での可処分時間の取り合い(動画はユーザーに長い時間を割かせられる)
  3. 動画配信コストの著しい下落

特に2に関しては、当たり前ですがモバイルアプリで動画が視聴されていることが重要です。あらゆる調査でAppがTime Spent(利用時間)の80〜90%を占めています。残りのWebは主に検索やソーシャルでの着地で基本的にはテキストと画像で出来たコンテンツに割かれていると考えられます。このため、ユーザーを動画視聴に足りるほどの長時間止め置けるAppを提供し、他者への還流を防いでしまうビッグプレイヤーに優位なゲームです。SnapchatがFacebookのコピー作戦以降減速したのにはこの部分も効いていそうです。

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参照

 

おじさんが「藤井聡太量産型」を攻略する方法:天才に投資しよう

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藤井聡太四段に関して考えるのは、コンピューティングの力を借りることで、これまで人間が培ってきた知識体系の一部が否定されたり、参照する必要がなくなってしまったりすることが、将棋の世界で起きていることです。藤井聡太四段の強さの要因はその類まれなる才能とともに将棋ソフトウェアの力により、バイアスレスな将棋知性を育んでいることが挙げられます。

藤井聡太四段の29連勝と将棋界の憂慮 | 元奨励会員アユムの将棋研究ブログ

彼らから吸収すべき要素というのはもう殆ど無いのかもしれない。正直な話ソフトで間に合ってしまっているのかもしれない。でなければ、現時点であんな勝ち方ができる訳がない。(中略)今後『突出した才能を持った者がソフトを使って効率よく研究すれば、あっさり将棋界のトップに立ててしまう』

藤井四段が将棋ソフトを研究に取り入れたのは1年程度前、三段のころと言われています。そこからメキメキと強くなったそうです。だから若い時期から藤井四段のトレーニング方法を採用すると、強いヤツがゴロゴロ生まれてくるでしょう。

今後はあらゆるカテゴリーで「藤井聡太量産型」が出現するはずです。もちろんあなたの前にも現れます。

もし両親が賢しきものならば、子どもには大人のポジショントークを無視するように強く言い聞かせ(いい大人の言葉は吸収するようにさせましょう)、大人にとって都合のいいプログラミングをされないように心がけて、コンピューティングパワーへのフルアクセスを与えることで、子どもは力強いサイボーグになっていくはずです。そうすると、私たちの世代、それ以上のミドル、シニア世代が苦しんださまざまな「罠」をすり抜けて、若い才能が爆発するはずです。

藤井聡太にはモンテッソーリ教育がされています。Google創業者の2人にもモンテッソーリ教育がされています。2人は英王宮のディナーに招かれたときにプティングにかけるシロップを飲み干して、同席したマリッサー・メイヤーがプディングにかけるものだと2人に言うと、2人はこう答えたといいます。

「誰がそんなことを決めたんだ?」

グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ

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先入観をもたないことがコンピューティングの力を借りたトレーニングに最適だと思います。ゼロから考えてみる。失敗しまくってみる。そのプロセスをコンピュータとともに高速化する。素晴らしい学習効率、新しいポイントオブビューの創造を達成するのではないでしょうか。

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壊れた文系教育の権威

私は政治経済学部政治学科の卒業で、卒業した後に経済学のほうが物事を分析するのに役に立つことがわかり、必死で勉強したことを思い出します。政治学もコンセンサス形成方法を考えたり、人間のイヤな性質を押さえ込む仕組みを設計するのに有用ですが、インセンティブについて考え、マーケットデザインを考えることには依然として大きな価値があります。

文系の学習は暗記でしかありません。暗記した内容は検索出てくるというのはよく言う話です。私はインドネシア時代に文系エリートサラリーマン・官僚をみる機会がありましたが、「封建社会」以外の何も感じませんでした。文系教育とは「優れた工場労働者」を生み出すためのものでしかないのに、それを施された人間が既得権益にふんぞり返って偉そうなクチをきいているのには悲しさを感じます。

儒教文化の罠にはまる日本

日本型、東アジア型の儒教文化的な教育の落とし穴は、年長者の誤りを年少者が律儀に引き継いでしまうことです。この年少者の従順さを利用して、毒まんじゅうを仕込む年長者がたくさんいて、社会が停滞している、というのがいまの日本です。採用する解法、それを選ぶ思想、組織・マーケットの設計あらゆるものが時代に置いて行かれています。

なぜ日本社会が課題を解けないまま30年をロスした(「失われた30年」)のは、こういうバックグラウンドが大きいのではないでしょうか。そしていま、そういう難しいミドル・シニア層が1000万〜2000万人以上の規模でいて、あらゆるイノベーションの芽を詰んでいるわけですし、若年層もどうしようもないくらい保守的な人が多数派です。この国は鎖国しているんでしょう。

しかし、コンピュータの力にアクセスし、何事も疑ったり、質問をする癖をつけた世代が台頭してくると、ミドル・シニア世代の「毒まんじゅう」は効かなくなります。世界は藤井聡太量産型で満たされていく。

では私を含めた非藤井聡太世代がすべきことはなんでしょうか。それはガンダムニュータイプみたいな新しい才能からばんばん天才をつくり、その子に投資することではないでしょうか。天才のおかげで私たちはどんどん幸せになっていきます。 

無価値コインの終わりの始まり:中国のICO禁止

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 ICO(イニシャル・コイン・オファリング)にパリス・ヒルトンまで関心をもつようになった矢先、中国政府がICOを禁止しました。ロイターが国営の新華社から得た情報によると、オンライン上の金融活動を監視する政府組織のデータとして7月に伝えたところでは、中国では今年、65件のICOがあり、10万5000人から26億20000万元(3億9460万ドル)を調達したといいます。中国の中銀は企業はICOで得られた資金をリファンドすべきとの考えを示しています。

7月下旬には、米国証券取引委員会(SEC)がEthereumの上に生まれた分散型ファンド・組織である「The DAO」などがアメリカの1933年証券法ならびに1934年証券取引法に違反したかに関する調査し、「今回は罰則の適用を求める行動をとらない」としたものの、The DAOの行ったICO(イニシャルコインオファリング)で発行されたトークンは「有価証券の発行だった」と認定したことが発表されています。

米中という世界経済の双頭でICOに対して規制の方向性が示された形になったと思います。

それでもICOは終わらない

これでICOが死んだと考えるのは時期尚早でしょう。FTによると、海外のプラットフォームを活用すれば本土中国人はICOへの投資が可能です。海外のICO関連ウェブサイトが中国語バージョンをもつことを止める手立てはありません。 

ICO自体はスイス、シンガポール、香港などの金融のルールが「簡単」な国に法人、財団を設けて行われるのが通常です。これらを中国当局が規制することはできません。シンガポール、香港で本土中国人の存在感は増しているはずです。

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cegoh | Pixabay

中国人は海外旅行を好んでいますが、目的は観光だけではなく、シンガポールなどを活用したり、海外のネットワークを使えば、ICOへの参加は今後も可能になるでしょう。それにわれわれが想像できないループホールを開拓するのが中華系なんです。

感化できないレベルの資金流出

今回の判断の最も大きな背景は「資金流出への恐れ」です。中国では富裕層だけでなく中間層も、資金を海外に逃がすことに高い関心を示します。だからこそ、その手段になりうるビットコインに対して中国政府は厳しい態度をとり続けてきました。ICOもまた人民元をコインにして外貨でイグジットすることが可能になります。中国の企業社会はかなり腐敗しており、汚れた金をきれいなお金に変えるプロセスにも使えるでしょう。これは暗号通貨の問題ではなく、悪い人たちに問題があります。加えて資金洗浄の手段は他にもたくさんありますので暗号通貨が画期的なその手段ではありません。例えば、マカオのカジノでお金をチップに替えて、マカオダラーにしてその後、国際送金ネットワークを利用して欧州やシンガポールの口座に送金するという方法は(私が知っているくらい)有名でした。

上記記事では、中国国家外貨管理局の資料は「中国の資金流出傾向に歯止めがかかっている」と言っています。しかし、まずこれらがフォーマルな数字であることに留意しないといけません。インフォーマルはどうなっているのでしょうか…。

ICO自体は暗号通貨マニアック界隈ではすでに輝きを失ったスキームですが、新規参入者、特に既存の枠組みで資金調達を経験している金融関係者にとってはピカピカに光って見えています。ICOや暗号通貨はいわば金融機関、証券取引所監査法人などの枠組みで運用される伝統的なモデルをスキップできることが相当素晴らしい。この層が最近は「ICOコンサルティング」の提供者や顧客になろうとしており、最近のICOブームを盛り上げてきたでしょう(私もいろんなお誘いを受けました笑)。

前回の記事で指摘したように、アプリケーションにファンドレイジングの都合上、無理矢理据え付けたコインは価値が薄いはずです(ないかもしれません)。しかもこれらはアプリケーションのユーザー体験を低下するようにできています。

今後の暗号通貨の価値は、明確な価値を表現できそうなBitcoin(ゴールド)、Ethereum(分散型アプリケーション構築プラットフォーム、トークン)、Litecoin(マイクロペイメント)などに収斂していくのではないのでしょうか。いわゆるScamコインは厳しい市場環境を迎えており、宴が終わろうとしているのかもしれません。淘汰は長期的にみれば暗号通貨の信頼性を高めていくことに寄与するはずです。

あと、DIGIDAYで書いた伊藤穰一さんのお話も「長期的な視野」という点で参考になると思いますので、付記しておきます。

   参照

独自コインこそ最大の罠:日本人チーム初ICOのALISが示した教訓

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Via Pixabay

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の熱は留まるところを知りません。ICOで生まれる価値は株式会社という仕組みをインターネットの時代に則した形にする可能性があります。また株式会社が内包するコストをカットできる可能性もあります。しかし、ICOは始まったばかりでさまざまな課題をもっています。今回はいくつかICOの課題を指摘し、今後のICOの発展に貢献したいなと思います。

東 晃慈(@Coin_and_Peace)の記事では、ICOプロジェクトでは特にプロダクト開発面での進捗が通常のスタートアップのプロジェクトに比べ遅くとも許容され、最初に何十億円も調達できてしまうので、MVPに達するインセンティブがなくなることが指摘されています。

48のプロジェクトのうち、Working productをリリース出来ているのは3つのみ。27(56.25%)は何もプロダクトを一般リリースできていない。またWorking productをローンチできたプロジェクトも実際にまだ大きな成果を出しているとは言い難い。アルファとベータプロダクトのクオリティーにはプロジェクトごとに大きな差異があり、アルファ状態から進捗が数年見られないようなプロジェクトも見受けられた。

さらにプロジェクトの進捗と資金調達額にはあまり相関性がないことも指摘されています。投資家と開発者の間の情報の非対称性は凄まじく、投資家は何がいいかを判断できないまま投資を決断している状況が指摘されています。つまり、ICOは壮大なレモン市場と化しているわけです。

瓜二つのALISとSteemit

現在、ALISが日本人で固めたチームによる初めてのIPOを行っています。日本に法人があるのではなく香港法人によるICOです。

ALISはホワイトペーパーにもある通り「Steemit」から着想を得ていますし、その仕組みはコピーキャットの域を出ていない印象です。このためSteemitのモデルを検討すれば、ALISがある程度わかると思います。実際にはALISはSteemitの複雑化して煙に向いている部分を取り外し、煙に巻いていないだけの形をしている、というのが私の印象です。

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ゼロから価値を創造し配りまくる「魔術」

Steemit自体が独自コインを発行し、それをユーザーに分けていく仕組みを採用しています。Steemは毎年ほぼ倍増する非常に高いインフレ供給モデルです(途中でユーザーの要望によりコインの増加量を限定しました)。

  • 基本的に外部からの価値供給がない。そもそもの価値がどこから生じたのかが明確ではありません。なぜSteemが価値があるのか。理論上は価値がどんどん落ちていく通貨を、コンテンツ提供者やコンテンツ発掘者に報酬として渡しても、インセンティブがうまれません
  • 先行者に優位。SteemitはSTEEM, Steem Dollars, Steem Powerとプラットフォーム内を流通する通貨に奇妙な分類を付けていますが、これに対し利子が生じます。初期参入者は複利を楽しめますし、コンテンツへの投票などで発言権がおおきくなるようです。
  • Steemitの価値は暗号通貨バブルで確保。取引所でのSTEEMの価格により、なんとなくSTEEMに価値があるということになっています。

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おそらくALISでも同様のできごとが想定できます。クリエイターへの報酬を保証し、信頼性を確保する仕組みを提供するという役割がALISトークンに期待されていますが、どちらかというとトークンを集める競争を誘発すると想定されます。 信頼を保証する通貨が増え続けることは、その信頼を保証する効果も薄れていきます。信頼や評価のようなもの(この場合はトークン)を囲い込むプレイヤーが優位に立てるゲームであり、先行者利益がおおきいのです。私はこの部分はより厳しいレーティングを当てるべきだと考えております。

トークン自体の金銭的価値も減少を続けていきます。しかも、交換相手として想定されるEthereumの価格は上昇を続けています。減価するトークンでユーザーをインセンティバイズすることは難しいでしょう。下記のように図になっているとインセンティブ設計がうまく言っているように感じられますが、基本的には資金調達上生み出さざるを得なくなったトークンに信頼の保証を依存しており、その信頼は無尽蔵に価値のバックがなく生み出され続けていきます。

しかしICOバブルはうますぎる

しかし、ICOをするプレイヤーとしてはファンドレイズの簡易さが大きいです。通常のシードラウンドで1000万円程度の調達と考えられる案件が、2億超に膨れ上がるわけです。そしてその際のコストはかなり低く抑えられているわけです。トークンが怪しいものであろうと運が良ければ、取引所で価格が上がりステークホルダーが喜びます。

不要なトークンを正当化して歪むプロダクト

私はここらへんにICOには罠があると思います。つまりプロダクトを歪めてしまう可能性が高いのです。資金調達のために独自トークンを設定する必要が生じ、プロダクト開発から観た際に、不要なトークンが組み込まれます。そのトークンを正当化するため他の部分にも手を入れざるを得なくなります。

トークンに「煩わしさ」を排除した株式の機能をもたせるのが最善策に思えるが、「有価証券」と認定されるやいなや規制の網の中に入ります。率直に言えば、日本では規制にコントロールされると、あらゆるイノベーションがうまくいかなくなる傾向があります。中国はICO禁止しましたが、日本はこれを機会と捉えて、もっと積極的な法制をとるべきではないかと考えます。

同じICOでも面白いのはタイのOmiseGoだと思います。OmiseGoにはアジアに暗号通貨ベースの安価で高パフォーマンスな決済を提供するというビジョンを持っており、すでにコインの時価総額は10億ドルです。ICO以前の2013年からプロダクトを開発してきた経緯があり、ICO後も必要な買収をしたり、提携先を確保しようとしたりと真面目です。お金集めておしまいとせず、どんどん事業を進めていく点が、日本人CEOの良いところなのではないでしょうか。OmiseGoは面白いです。

参照


 

核融合の発達、超時代遅れな日本の原発議論:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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C-2U device. Courtesy of Tri Alpha Energy Inc.

Google Researchがアメリカの主要な核融合技術開発企業「Tri Alpha Energy」の進めるプロジェクトに参画し、核融合発電の実現に向けて共同で研究を進めていることが発表した。両者は核融合時に発生する、超高エネルギーを有するプラズマを制御するための新しいアルゴリズム「Optometrist(検眼)」の開発を進めています。Microsoft共同設立者Paul Allenが出資するTri Alpha Energyは、5億ドル以上の資金を調達。米国ではアカデミア層がインダストリー側に移る動きがあり、投資家が巨額の研究費を融通する形で生まれたTriもその例のひとつです。そこにこの枠組みの最大のバッカーとも言えるGoogleがかんだこの取り組みは象徴的です。卓越した科学者にいいビジョンがあるとお金は集まる時代になりました。

Tri Alpha Energyが開発してきた「C-2U」という核融合実験マシンの中で、水素を太陽に存在するものと類似した超高温のガスである「プラズマ」になるまで加熱します。この高温下で非常に複雑な反応が起きます。それを制御するのは困難を極めます。今回開発されたOptometristアルゴリズムは、「C-2U」のなかで、プラズマがその発生から時間の経過とともに総量を減少させることを最小限に抑えることに役立っているようです(下図)。Googleと共同で開発したアルゴリズムにより、エネルギー損失が50%も少なくなり、プラズマエネルギーの総量を増加させることに成功したといいます。

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プラズマの「行動」は小さな変化が大きな結果の変化を生む非線形現象を含んでいます。TriとGoogleはC-2Uで8分ごとに実験を行いましたが、それは水素原子のビームをプラズマに吹きつけて、磁場中で最大10ミリ秒回転させ続けることを含みます。その目的はプラズマが理論が予測しているように動作するかどうかを調べることであり、消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生成する核融合炉を確立する有効な手段だと考えられています。

Optometristアルゴリズムは人間による実験とモンテカルロ法の双方に基づくもの。モンテカルロ法は「AlphaGo」などに応用されています。「乱数に依る試行を繰り返し、結果を統計的に読み解くことで、求めるものらしきものに近づく」手段です。カジノがあるモンテカルロの名前が付されていることからも分かる通り、ギャンブルなどの「ゲーム」の解法を得るために発達しました。

機械学習の知見によりハイパーパラメータの探索空間を広大にすることで、オペレーションに関わる人間の能力を拡張することができ、複雑で多面的なシステムを解明することが可能になったといいます。

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Toshiki Tajima and Michl Binderbauer. Courtesy of Tri Alpha Energy Inc. 

核融合発電が必要とする資源は地球上のいたる場所にあります。資源を巡って人間が争う問題を避ける大きな一手になりえます。核融合発電の理論上のコストパフォーマンスは既存の何よりも優れているはずですし、木星に宇宙基地を作る際も核融合技術はとても役に立つはずです。

核融合発電が社会にもたらす変化もまたカオスで予測不能だと思います。都市の形を大きく変えてしまうはずですし、石油価格が急落し、石油などと結びつきの強い王政やクローニーキャピタリズムが崩壊するかもしれません。インフラ整備が格段に楽になるため、発展途上国は物凄い勢いで発展し、発展国よりも優れたスマートシティに住むようになる可能性もあります。

日本の原発議論は超時代遅れ

日本で交わされている独特な原発議論は、完全に時代に置いて行かれていますし、核融合太陽光発電などの他の技術進歩が、それを化石のレベルまで貶める可能性があります。東芝ウェスティングハウスというジョーカーを引いて沈みました。これらの問題のコアには、ガバメントや周辺の利益集団などで形成される意思決定者(いわゆるエリート層)たちが、科学の進展とその社会適用速度の加速や、Googleを20年で巨大企業にした資本主義の決定的な変化に、明確についてきていないことがあると思います。

総務省のAI開発ガイドラインにおける「AIに殺される問題」でPreferred Networksが離脱しました。スマートスピーカーに「AIスピーカー」と素っ頓狂な名前を付けて顰蹙を買いました。

Plasma fusionテクノロジーが結果を出してくるとこれまでの常に政治的に行われてきた原発議論は何だったのか、ということになるはずです。もっと効率的で素晴らしい発電方法があったのにもかかわらず、効果的な投資をせず、個々人の政治的利益だけを鑑みて見当違いな議論をしているということです。

よりスマートなレギュレーター、よりスマートなガバナンスの開発こそ日本の課題であることは間違いないです。

 参照

 

 

AmazonとGoogleのコア事業が衝突:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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今週はGoogleWalmartの提携が最も大きなニュースだった。Google ExpressでWalmartの商品を注文し、発送されるようになった。デバイスはラップトップ、モバイルだけではなく、Google Homeを通じた音声での注文も可能になったという。

AmazonがWhole Foodsを買収しリアル小売に参入しており、敵の敵は味方の論理で、今回の協働に至ったと考えられている。Google ExpressはすでにCostcoなどを取り込んでいるが、GMV(総流通額)で大きなインパクトを出せていない。Walmartも自らのECを展開するものの、ECに関してはAmazonの支配力は本物だ。

Googleはコマーシャルハードウェアは余り得意ではない、というのが定説だが、物流などのとても泥臭い部分には知見はなく苦手そうな気がする。だからこそGoogle Expressに既存小売業者を載せる形態を採用しているだろう。

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収益規模ではWalmartAmazonを大きく突き放しているが、金融市場の評価ベースではAmazon時価総額4700億ドル)はウォルマート(同2400億ドル)の約2倍で、立場が逆転する。

購買行動の変化

今回の提携の興味深い点はGoogle Homeを利用してWalmartの商品を購買することが可能になることだ。音声デバイスを利用した購買がどの程度拡大するかは今後の状況を追うしかないが、音声での購買ではユーザーは少ない情報量で、購買の決断に至る可能性がある。特に日用品に関しては同じものを買い足していく可能性があり、スマートホームとの連携が高度化すれば、冷蔵庫の中のある製品が足りなくなってきたから購入するかと、パーソナルアシスタントが尋ねてきて、購買が終わる可能性もある。将来的には自動的に日用品の不足を補うスマートホームも考えられ、月定額で日用品を補充するサービスも検討されるだろう。

Voice Enable vs Serch

Googleはパーソナルアシスタントが普及した後の世界でどう収益源を探すのだろうか。検索広告はGoogleの収益の4割程度を占めていると推測される。

仮に購買行動が「すべてを音声で済ませる」方向に向かえば、検索後にスクリーン上で広告を見るプロセスは省略される。ボイスイネーブルとスマートホームや各種プロダクト / アプリケーションの連携はその方向性を帯びている。この流れはGoogleの主要な収益源の不安要因になりかねない。

一方でAmazonはコマースのバリューチェーンをがっちり握っておりユーザーは広告を見ようが見まいが関係がない。買ってもらえばそれでいい。音声認識によるコマースはAmazonに有利に働く可能性もある。

AmazonWhole Foods Marketのプライシングを28日から下げると明らかにしている。Whole Foodsの価格は高いと言われていた。Amazonがもつオンライン購買データやダイナミックプライシングなどのノウハウとミックスすることで、価格戦略を改善できるだろうか。ダイナミックプライシングは需給状況に応じて価格を変動させることによって需要の調整を図る手法であり、繁忙期の飛行機の値段などが上がるなどの例が最も有名だ。Amazonは、今後Amazon Prime会員のベネフィットを積みましていくと考えられる。

各地で狼煙が上がっている

GoogleAmazonの攻防はかなり熾烈になっている。Amazonは独自のモバイル、タブレット、OSを開発したが、市場は歓迎しなかった。Amazonが人々が高頻度で接触するデバイスやアプリケーションを持ちたいという欲求を叶えたのが、Amazon EchoでありAlexaだ。これらがスマートホームの時代にどれだけの価値を囲い込めるか。

また、今回のGoogleWalmart提携で小売での競争も激化し始めたが、AmazonGoogleの重要な収益源であるデジタル広告に厳しい攻勢をかけ始めている。AmazonのQ2のアーニングコールでは広告セールス部門の拡大が明言されていた。

Googleの巨大なデジタル広告の牙城の中で最も重要なのは検索広告で、ここは依然として競争相手を吹き飛ばしている状態が続くと考えられる。

ただし、ディスプレイ広告に関してはGoogleが買収したダブルクリックのエコシステムを育てた部分にAmazonがにじり寄っていると迫っていると考えていいだろう。もちろん、Googleはディスプレイ広告の重要な要素をがっちり固めていて、良い広告在庫は概ね自分らで扱える(他者はあんまり扱えない)状況を築いている。

ディスプレイ広告の景色を変えるか?

ここにAmazonはヘッダー入札という技術にテコを掛ける形で、広告在庫の流通を変えにかかっているのだ。ステークホルダーの多くがGoogleの支配力に不満を持っていると考えられるなか、Amazonが他者にどの程度のベネフィットをもたらすかが気になる。バイサイドのテクノロジーはすでに素晴らしく、ECに誘導する商品開発も興味深い。

しかし、Amazonは取引形態を変えていく欲望をもっていて、その結晶が「Transparent Ad Marketplace (TAM) 」だ。Googleが現行主導している取引形態とは以下が異なる。

  1. サーバーサイドでのソリューション提供によりクッキーのマッチングを改善できる、レイテンシの克服
  2. エクスチェンジが提示する「本当」の最高価格をとれる(?)
  3. ソフトウェアアズアサービス的な手数料形態の導入

Amazonの主張だけを聞いていると、かなりダブルクリックに優位な気がしてくるが、知らないことがたくさん潜んでいるのがアドテクの世界だ。

小売、広告とAmazonGoogleは両者のコアを攻めあっている。

 

 

 

 

 

 参照

 

https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-08-25/amazon-primes-whole-foods-for-more-visitors

ビットコイン衛星の誕生:デジタル経済デイリー

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ビットコインコア開発者を多数抱える、技術者集団ブロックストリームはビットコイン衛星を発表した。衛生からビットコインのネットワークとの接続性を地球上の様々な土地に飛ばせるという。受信にかかるコストは100ドル程度で、これはインターネットインフラがなく自国通貨の信頼性が低い開発国(Developing Country)にはもってこいだ。GoogleFacebookがインドやアフリカで行うコネクティビティプロジェクトや、ソフトバンクが買収した、衛星からインターネットを世界中に供給しようとするOneWebとアナロジーを感じる。

大石哲之氏がブロックストリームCSOのSamsonのコメントをゲット。そのブログから引用する。

砂漠の真ん中にパネルを立ててソーラーマイニングも可能になるよ。パネルを地上に設置し、マイニング機材は地中に置く。そして、ビットコインネットワークに接続できるんだ。ソーラーパワーや、地熱・水力などの自然エネルギーを利用し、砂漠や極北といった地でのマイニングが可能になれば、分散化という意味で、大きな意義があると思います。ビットコイン衛星でマイニングの分散化を図る、壮大なビジョンはすでに実現可能なテクノロジーとして動いています。面白いです。

 後は堀江貴文が、「宇宙太陽光発電でマイニングしたら採算取れるかも笑 」とツイートしていて、宇宙太陽光発電とマイニング用のコンピュータを積んだ衛星を飛ばして、ネットワークとの接続が噛み合うならば、宇宙でマイニングする未来があるかもと思った。このマイニング衛星に高度な独立性を渡せたら、Proof of Workはより美しくなるのではないか。

ただゲーム理論的な疑問として、ステークホルダーにその高度な独立性を認めさせるにはどうすればいいのだろうか、がある。合意できるだろうか。

 

ひとつはGoogleのようなスーパーパワーが他者を圧する形でそれを成し遂げてしまうことだ。ブロックストリームもアナーキスト然としてこっそりそれをやろうとしているかもしれない。

もうひとつは、その難解な問題を誰かが説いてしまうことだ。そういう天才を讃えたいという気持ちになってしまう。あるいは量子コンピュータが出てきたら難解だった問題が超楽勝になるかもしれない。

とりあえず、楽しみなプロジェクト。

参考

ブロックチェーン研究所

http://doublehash.me/bitcoin-satellite-mining-decentralization/

単純な世界の終わり: デジタル経済Newsletter_8/8

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先週末はマーケティングについて少し考える機会がありました。マーケティングはあまり科学的ではない発展の仕方をしてきたと断言していいでしょう。かなり都合のいい想定を皆で信じることで、業界が機能しています。丁度「想像の共同体」である国民国家が、皆が信じていることで機能しているのと同じようにです。従来型のマーケティング国民国家も同様に同じ課題を持っていると思います。それは、どうせ架空のものを使うならもっと良い物を使ったほうがいい、ということです。

下にリンクのある記事では、線形から非線形の世界へと移行することについて触れられています。私達の世界は(人間から見ると)どんどんカオスになっていきます。でもそれがあらゆるものの基からあるありかたですね。複雑なものを人間だけで動かすのは大変なので、機械の力を借りましょう。機械の力を借りた結果、機械が真似出来ない人間のクリエイティビティを発揮する機会に恵まれることになります。マーケティング国民国家ももちろんそうです。

http://digiday.jp/platforms/ai-change-society-business-data-harvest/

ソフトバンクがフリップカートに投資のうわさ: デジタル経済Newsletter_8/2

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ソフトバンクの孫さんがインド地場最大ECのフリップカートに、ビジョンファンド経由で投資とのうわさ。スナップディールへの投資が焼け付きそうなところで、両者を合併させようとしており、さらにフリップカートにナンピン買いをするところが、粘り強い。

Amazonが優位にゲームを進めていると言われるが、インドECの潜在性はマッシブ。インド政府も国内EC市場がAmazonだけに占拠されるのを指を加えてみているとは思えないので、フリップカートには勝算は残っている。フリップカートはAmazonを追い出すためにディスカウント合戦などに資金をじゃんじゃん注ぎ込んだのが大失敗だったわけだが、似たような失敗をジェフ・ベゾスも繰り返しまくってきた。その失敗を織り込んでいたり基礎部分のノウハウを持ち込んだりできるのが、Amazonの優位性。フリップカートも今後も失敗をたくさん犯すだろうが、巨大な国でECを立ち上げるのは並大抵ではなく、失敗のコストをどれだけ落とせるかが勝負所だろう。

 

http://timesofindia.indiatimes.com/business/india-business/softbank-may-invest-in-flipkart-through-fund-sources/articleshow/59860387.cms

ビットコインのトレードオフ: デジタル経済Newsletter_8/1

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※このブログは8/1 8:00AMに書きました。ビットコインに関する情報は流動的なので個人の責任での運用を宜しくお願いします。

 

今夜HFでBitcoin Cashが生まれる公算が高い。コア開発者と対立しているマイナーのJihan WuらがBitcoin Cashとして外に出る。JihanはAsic BoostやAnt Bleedなどの不品行を働いていたみたいなので、彼のアウトはビットコインにとってはかなり調子がいいだろう。SegWit実装以降のレイヤー2の開発、実装に望みを託せそうだ。

先週のデジガレのNCCでもビットコインコア開発者はレイヤー2への期待と、安全性を最重視した開発・実装プロセスをすすめることを主張していた。

ただしスケーラビリティ論争が終わったわけではない。スケールとセキュリティ、非中央集権型のデジタルマネーとしての独立性などは複雑なトレードオフの関係になっているようだ。世界通貨的なポジション、VISAを超える処理能力などを思い描くグループ(金融業界出身者、ビジネスに多い)がいる一方で、セキュリティと独立性を重んじるグループ(開発者や熱狂的なユーザに多い)もいる。また同様の対立は起こりうるだろう。

新しいコインを作るよりも、ビットコインからハードフォークする経済合理性が勝るので、今後も似たようなことが起きるはずだ。何しろステークホルダーの熱量は高いのだ。

モバイル動画がデスクトップ動画を超える: デジタル経済Newsletter_7/28

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来年米国ではモバイル動画広告費がデスクトップ動画広告費を超えるとZenithが予測した。様々な動画配信プラットフォームでモバイル利用がマジョリティであると言われていて、予算計上の都合、統計を見てからの意思決定などで広告費の上昇が遅れて追いかけてきていると見るのが妥当だろう。

  • 家の中でのWi-Fi利用は定着している。デスクトップ・ラップトップではなくタブレットスマートフォンを利用するケースが増えている
  • 高容量のデータ通信パッケージが発達しつつある

ネットフリックスのQ2発表があり1億サブスクライバを超えたとある。予想以上にユーザはスマホのスクリーンでネットフリックスを利用しているとQ2資料は言っている。

動画が商業インターネットのトラフィックに占める割合は拡大の一途。今朝DIGIDAYの記事にもしたが、動画とコマースの組み合わせなど動画を視聴して「消費」するというやり方の外に拡大・融合する傾向が強い。

https://ir.netflix.com/events.cfm

https://www.recode.net/platform/amp/2017/7/17/15981376/mobile-video-consumption-25-percent-in-2018-online-video-peaks

ソフトバンクのIoT戦略はどの程度成功するか: デジタル経済Newsletter_7/24

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先週末、ソフトバンクの年次イベントで孫正義が講演している。この記事で説明しているように孫のAI / IoT投資は半端がない。孫氏はデータこそが21世紀の石油と語っている。それで The Economist  のこの記事を思い出した。おそらく巨大企業のエグゼクティブ層にデータが最も価値の高い資源だと伝えることに成功したのがこの記事なのだろう。

www.economist.com

私の知っているシニアも喜々としてこの記事を上げていたが、少し意地悪を言えば、この記事はThe Economistの特集記事のかなり前のページに置かれている要約版であり、本編ではないのである。本編も読んだがまあ当たり前の内容がかかれている(当たり前の内容を書くことも大事だ!)。

以下の部分は失敗を恐れてはいけないことを教えてくれる。日本社会で育ち暮らしていると、どうしても失敗を恐れる心が生まれてしまう。失敗を恐れることが最も大きな失敗だ。

実はスプリントに投資して、すでにソフトバンク複利でですよ、複利で毎年48パーセントのリターンを得ているのが実績なのであります。スーパーセルも97パーセントの複利でのリターン。投資した資本に対してリターンを得ている。 つまり、これは我々が単に1回打席に立って1回ヒットを打ったというのではなくて、意図して、考えて、戦略的に何回も打席に立った。空振りもしました。たくさん失敗もしましたけれども、ヒットのほうが大きかったことを意味しているわけです。

孫正義「人間の知能はもっと拡張される」情報革命がもたらすパラダイムシフトとは? - ログミー

しかし我々は、同じ志を持っている起業家たちと、テクノロジー、そこに資金を集めて、同志的結合、志をともにする仲間たちと一緒に革命を起こそうと考えているわけです。

孫正義「革命は力を持たない人々が成せるもの」10兆円ファンドで“情報革命のジェントレ”を目指す - ログミー

ARM、Didi Chuxing、NVIDIA、OneWebなど同社のIoTアームがどういう未来を描くか興味深い。日本自体はこのアグレッシブな投資を高い通信費、端末費を払いながら支えるだけなのは少し悲しいが。

想像し計画する人工知能: : デジタル経済Newsletter_7/21


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Deepmindが2本の論文を発表して、その内容をブログに完結にまとめてくれている。「想像し、計画するエージェント」を紹介している。汎用人工知能(AGI)の創造をビジョンにする同社らしい研究だ。

ブログを抄訳する。

  • エージェントは自らの中で行ったシミュレーションを解釈することを学習する。これはエージェントに環境のダイナミクスを把握するモデルを使うことを許容する。把握されたダイナミクスは必ずしも正しくないが。彼らは想像を効率的に使う。
  • 想像されたいくつもの道筋、問題を解くためにその事象と適合させる。効率性はエンコーダによって強化される。エンコーダは報酬を無視して想像から追加情報を算定する。道筋(報酬)が高い報酬をもたらさなくとも、有用な情報を含むだろう。エージェントは計画を構築するための様々な戦略を学習できる。
  • あるいはエージェントは、正確性とコンピューティングコストの異なるモデルを同時に学習できる。
  • これは広範な種類の効果的な戦略策定を提供する。一つのものをすべてに適用するアプローチに制約を受け、不完全な環境への適応性が限定されかねないということではなく。

メッシがミリセカンドで相手DFの動きを見て、シミュレーションを繰り返し、DFを抜くというようなことを実現しようとしている。報酬に必ずしも引っ張られないのが、強化学習の進化を伺える。

これをビデオゲームで試行していい結果を得たという。もちろん生物が置かれている環境はもっともっと複雑だ。スポーツをしていていいプレイをするとアドレナリンがどっと出る。それはやはり解いている問題が難しいことと関係している気もする。そういうアドレナリンという報酬が設定されていることこそ、今後人間が重点的に注力するべきところだと思う。

デミス・ハサビスCEOはより脳神経学における人間の脳のメカニズムの解明が人工知能開発の要諦だと話している。

https://deepmind.com/blog/agents-imagine-and-plan/

https://www.theverge.com/2017/7/19/15998610/ai-neuroscience-machine-learning-deepmind-demis-hassabis-interview

 

 

量子コンピューティングの足音: デジタル経済Newsletter_7/20


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今日は米有名VC「a16z」のポッドキャストから量子コンピューティングの話。

最近は人工知能開発でGPUはスタンダードになりつつある。「謎の半導体メーカー」で有名になったNVIDIAはAI特化型チップに多大な投資をしていて、この領域の独占を試みている。NVIDIAディープラーニングのライブラリを整備しており自動運転者や医療に急速な成長を見込んでいる。GoogleはTPUという人工知能の学習にフォーカスしたチップを開発し、同社の人工知能ライブラリとクラウド人工知能を水や電気のように人々に提供するビジョンをもっている。

GPUは画像処理向けで発達し機械学習への利用可能性で世界が広がった。TPUは当初から機械学習向けに開発されている。しかし、量子コンピューティングは次元が全く異なるという。

従来の高性能コンピューターの1億倍のスピードが確認されたことで、世界に衝撃を与えた。演算能力は「組み合わせ最適化問題」という膨大なデータ処理で、大きな威力を発揮する。そしてこの「組み合わせ最適化問題」を解く力は、現代のさまざまな科学に応用可能であり、数百年解けないと言われる問題を解けるようになるかもしれない。

クラウドの形で量子コンピューティングを利用できるようになるかもしれない。アプリケーションが生まれて「キラーアップは何だろう」と議論されることになるだろう。量子コンピューティングのマシンの内部は冷凍庫で超電導状態になっている。これはマイクロプロセッサ中心で発展してきたコンピューティングとは別物。

これはラスボス的な存在だ。あらゆる事象を一気に進展させる劇薬のようなものだ。世界がスマートなところに変わっていくことに使われればいいと思う。

Listen to a16z Podcast: The Cloud Atlas to Real Quantum Computing by a16z #np on #SoundCloud
https://soundcloud.com/a16z/engineering-quantum-computing-today