デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

ビジネスパーソンが3分で復習できるビットコインメモ

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Via Pixabay

最近ビットコインの価格が上がっており、ビジネスパーソンの話題になることが増えています。ビットコイン時価総額は958億ドルに達しており、NTTドコモ(915億ドル)やMUFG(920億ドル)を凌いでおりソフトバンクに迫る勢いです(10/16時点)。

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by Takushi Yoshida

ビットコインとその根幹技術であるブロックチェーンはすでに巨大なお金を載せており、 影響力を高めています。ビットコインは少しずつ、しかし確実に世界を変えています。

ところが、ビットコインは説明がかなり難しいのです。でも、ここでは簡単にビットコインとそれがいまどんな意味を持つかを説明してみます。

発行者のいない非中央集権通貨

ビットコインには中央銀行のような発行者がいません。え、発行者がいない通貨なんて可能なんでしょうか? それを可能にしたことこそ、ビットコインのすごいところです。

ビットコインでは、取引の記録は世界中のコンピュータにおかれています。分散型台帳と表現されます。いままで銀行たちが行ってきたことを、ネットワークによって置き換えてしまったのです。すごいですよね、革命的でしょう。

この分散型台帳の正当性と新たに加わった取引を検証し、そのかわりに報酬を得る人のことをマイナー(採掘者)と呼びます。しかしこのような感じではありません。

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Via Pixabay

むしろ、彼らの多くは中国の山奥にいて、このような自分らで組み上げた特殊なコンピュータを使って(中には太陽光発電を同時に行うものもいます)「マイニング」をしているのです。

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Via Wikimedia commons

マイナーはコンピュータを使ってパズルを解く競争をします。最初にパズルを解いたマイナーは取引を入れたブロックを他の人たちに見せ、その妥当性が検証されます。検証が終わると、ブロックは世界中のつながり合うコンピュータたちに配られます。最初にパズルを解いたマイナーには一定量ビットコインが報酬として渡されます。この新しいブロックの生成は10分毎におこなわれています。

ブロックは鎖で繋がれたように最初から最後まで連なっており、ブロックとブロックを暗号でつなぎ留めてあるのです。これがブロックチェーンと呼ばれるゆえんです。

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仮に悪意の攻撃者がいたとします。仮に一カ所のデータを改ざんすることに成功しても他の場所にあるデータは変わらず、ブロックチェーンは常に多数派の取引データを優先する仕組みをとっているため、改ざんされたブロックを含むチェーンは消滅します。悪意の攻撃者がネットワークの力の過半数を握らない限りは、ブロックチェーンをめちゃくちゃにすることができないのです。

しかも、善意の人たちを圧倒する攻撃には莫大なコンピュータリソースを必要とするので、そもそもそれだけリソースがあるなら、ビットコインを攻撃するより、マイニングする方がするほうが確実にもうかるので、ますます攻撃する理由がなくなります。ここでゲーム理論上の極めて難解な問題を解決したと主張されているわけです。すごいですね。

トラストレス、中間者なし

このやり方は中央銀行のような集権的なプレイヤーを生まない、画期的ものです。既存の金融システムは、二者間で交わされた取引を保証する善意の第三者を必要としています。この第三者のコストを負担するのはあなたなのです。

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しかし、ビットコインの仕組みはこの「信用」を必要としないのです。トラストレスというこの概念は破壊的であり、多くの金融機関の必要性に疑問を投げかけてしまうかもしれません。

ネットワーク上で交わされた取引の記録は、誰もが改ざんできない台帳に書き込まれ、それは世界中のコンピュータに妥当性の検証を繰り返しながら保存されることにより、あなたが個人間で行う取引は安全になります。銀行という中間者を経由しないで、個人だけで金融機能を使うことができます。

鍵管理と自由のトレードオフ

あなたは自分のお金の管理権を金融機関に委ねる代わりに、渡された「鍵」を安全に保管することで、自分のものにできるのです。鍵の管理はあなたの自己責任です。この鍵の管理には細心の注意を払わなければいけません。この鍵はあなたが取り返した、自由や独立性を表現していると言って良いのです。

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ビットコインは既存の技術のコンビネーションによって生まれました。考案したのはサトシ・ナカモトという日本人らしき人です。

ビットコインの3つの背景

最後にビットコインの重要な3つの背景を指摘しましょう。

1. 世界金融危機

サトシ・ナカモト論文が発表された2008年は世界金融危機に世界が苦しんでいたときでした。危機は既存金融機関の状況を克明に明らかにしました。世界は新しいお金のあり方を求めていたのでしょう。

2. 国家 vs プライバシー

サイファーパンクと呼ばれる暗号学者たちはNSAなどに代表される、国家による市民監視をよしとせず、市民のプライバシーを守るため暗号学を発展させ、政府が独占しようとしていた暗号技術を民間の人々が利用できる激しい活動をしました。サトシ・ナカモトが最初に論文を投稿したのが、このサイファーパンクのメーリングリストなのです。

3.インターネット

ビットコインの利用はインターネット接続を前提にしており、ネットが現在のレベルまで発展をしたことが、ビットコインの成立要件をみたしました。インターネットがさまざまな領域で起こしている変化と同様、ビットコインにも個人をエンパワーする影響力があるのです。インターネットにまだつながっていない人は世界中にいます。彼らはデフォルトから暗号通貨に触れる機会を持っているかもしれません。変化はまだ始まったばかりです。

 

Ethereumが金融引締め マイナー影響力抑制の第一歩

 

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Via Pixabay

第2の時価総額を誇るブロックチェーンであるEthereumで「Byzantium」と名付けられたハードフォークが昨日行われました。ByzantiumはEthereumアップデート「Metoropolis」の第一弾ハードフォーク。この後にConstantinopleのフォークにより、Ethereumは現行のHomestedからMetoropolisに完全移行します。今回のフォークは遠大な金融引締め策の第一弾であり、マイナーの影響力を抑制する劇薬を投下したという意味合いがあります。

EthereumはDifficulty Bombというアルゴリズムを実装しています。このアルゴリズムのもとでは段階的にブロック生成時間が伸び、マイニングブロック数、マイニング報酬が縮小していきます。ETHの価格が上昇するか、ガスのプライスを釣り上げられない限りは、マイナーのETHマイニングのインセンティブが徐々に低下していきます。

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今後はETHの流通量の無尽蔵な増大が抑制されていくことを意味します。いわゆるデフレ政策です。デフレ政策の向こうには、Metoropolis移行とともに現行のコンセンサスアルゴリズムであるPoW(プルーフオブワーク)からPoS(プルーフオブステーク)の実装が待っています。開発者コミュニティはこのPoS実装の際にはステークホルダーが新しいチェーンに移行することを要求しているので、ある意味「ふりだしに戻る」が起きるということです。

PoSはコインを株式を保持する資本コストに置き換えます。コンピューティングパワーに関係なく、コインに基づいた利益を得るので、PoWで生じているような強者への集権化を防ぐことができると説明されています。そう、PoSは本質的にはマイナーというステークホルダーの力を劇的に抑制します。

皆で同じ問題を解くPoWは非効率的であり、PoSの説明が正しければ素晴らしい限りですが、さまざまな検証が必要だと考えられます。PoWはマイナーを分け隔てて報酬を設定し、マイナー間に競争と抑制をもたらしています。これによりある程度の非中央集権化に成功しています。PoSはこれより質の高い非中央集権化を目指しています。

他方、PoSは一部のコイン保有者連合が独占を成功させる恐れがあります。PoSがEthereumのような取引所での取引額がある通貨で試された例はありません。載っているお金が大きかったり、コインの特性が異なれば、ステークホルダーの行動は異なるものになる公算は高いです。ブロックチェーンの開発は引き返しづらいため、トライエラーを繰り返す手法が効かないのは少し苦しい。

Zcashの秘匿トランザクションを取り込む

今回のハードフォークではここが最も大きなアップデートは、Ethereumでも秘匿トランザクションが活用できるようになったことです。Ethereum上にZcashに使用されているゼロ知識証明を利用したzk-SNARKsを導入しました。ブロックチェーンはそれまでのトランザクションが連なっており、ノードであればそのすべてが開示されているという透明性を誇ります。スマートコントラクトは秘匿された方が好ましいものも含むことができます。

参考

Byzantium HF Announcement - Ethereum Blog

Releases · ethereum/mist · GitHub

IMFが予見する「銀行の終わり」:仮想通貨とデジタル金融のテイクオーバー

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Via Wikimedia commons

IMFのChristine Lagardeは9月29日に行われたイングランド中央銀行におけるディスカッションで、Bankingの終わりと暗号通貨の勝利を予見したことが話題になりました。半月前の話題ですが掘り下げてみたいです。

今のところ、Bitcoinのような仮想通貨は、法定通貨フィアットカレンシー)と中央銀行による既存の秩序に挑戦しているとはいえません。

仮想通貨はあまりにもボラティリティが高く、リスキーすぎたり、(ステイクホルダーの)エネルギーに頼りすぎており、基礎となる技術はまだスケーラブルではないためです。多くは規制者にとってはあまりにも不透明で、なかにはクラッキングされたものもあります。

一部の専門家はパーソナルコンピュータは決して採用されないと主張し、タブレットは高価なコーヒートレイとしてのみ使用されると主張したのはそうそう前のことではありません。だから私は無下に仮想通貨を退けることは賢明ではないかもしれないと思います。 

Lagardeは、国内金融機関と通貨が脆弱な国が、自国通貨の代わりに米ドルを利用する代わりに、仮想通貨の利用を拡大する可能性があると指摘します。アフリカのセーシェル共和国ではドルの利用率が2006年の20%から2008年の60%に急増したが、新しい通貨の採用にはティッピングポイントがあることをIMFの経験は示しているとLagardeは語っています。

なぜ市民は物理的なドル、ユーロなどではなく、仮想通貨を保有しているのでしょうか? (社会の治安が完全に確保されていない開発国の)地方では仮想通貨の方が、紙幣を手に入れるよりも、ずっと簡単で安全になるかもしれないからです。仮想通貨は実際により安定したものになりえます。

暗号通貨の決済はまだ先か

Lagardeは、仮想通貨がフィアットとその上に築かれた種々の決済手段より、優れたペイメントサービスになる可能性に触れています。ただし、ビットコインがスケーラブルな優れた決済手段になるかどうかはレイヤー2の開発次第であり(あるいは2xなどのブロックサイズの拡大)、まだまだ時間がかかる気がします。

それとは別に、金融にアクセスできない一般のケニア市民は安全性の観点から紙幣を貯めることよりM-Pesaに貯蓄することを選んでいますが、お金をデジタル上で扱おうとする最初の一歩をまたいでおり、最終的にはフィアットをデジタル上で表現するよりはデジタルネイティブなお金(暗号通貨)をやり取りしたほうがいいのではないかとなる可能性を秘めています。

スマートフォンとインターネット接続が金融機関へのアクセスより先に広まっている国は、ロジカルに考えると金融機関を構築するコストより、モバイルバンキングやインターネットカレンシーを採用するコストの方が遥かに安く、かつ利便性・効率性も高いという結果になります。

システムの観点によると、先進国のレガシーな金融システムは、中国や開発国で採用されているデジタル金融の採用するアーキテクチャに対して、パフォーマンスが激烈に劣ります。その仕組はいちいち「ビフォアインターネット」なのです。

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Via Kevin Dooley

インドや東南アジアでもモバイルペイメントのアプリケーションが瞬く間に広まり、最終的には金融機関の役割を果たそうとしているといます。仮想通貨はこれらのデジタルペイメントと強調する形を取ることもできますし、開発者の考え方によってはプロプライエタリな仕組みになっていくこともできます。

アフリカの野心な国は最初から仮想通貨・デジタルバンキングの採用に取り組めば、発展国に対してアドバンテージをとれるのです。リープフロッグです。

トラストレスの衝撃

Lagardeは仮想通貨やデジタル金融などを金融仲介機能における新しいモデルだと評価しているようです。レガシー金融は常にクリアリングハウスなどの善意の第三者を必要とします。ブロックチェーンの特徴はトラストレスな価値の移転を可能にすることで、中間者を排除できることであり、善意の第三者いらず。これにより、取引を行うピアたちを「中間者の支配」から解放することができるともいえます。

ひとつの可能性は銀行サービスのアンバンドルです。将来的には、電子ウォレットにおける決済サービスを利用するための残高を最小限に抑え続けることが可能かもしれません。残りの残高は、自動的なクレジットスコアに基づいた、人工知能やネットワーク上のエッジに蓄積されたビッグデータを伴うP2Pのレンディングサービスに投資されてもいいでしょう。

この一部はアリペイがウォレットとモバイル上で簡単に投資ができるマネー・マーケット・ファンドMMF)である「余額宝」ですでに実現しています。JPモルガンの米連邦政府MMFを超えて世界最大規模に発展しました。

これは、ソフトウェアを中心とした6カ月間の製品開発サイクルが絶えず更新された世界であり、シンプルなユーザーインターフェイスと信頼できるセキュリティに対する大きなプレミアムを備えています。データが王様な世界。ブランチオフィスを必要としない「多くの新しいプレーヤーによる世界」です。

銀行預金が少なくなり、新しいチャネルを通じてお金が経済に流入するようになると、これが現行の銀行モデルに疑問を投げかけていると主張する人が現れ始めるだろう。

おそらく近い将来に銀行に預金するという無駄な行為を行う人達は世界からいなくなるはずです。金融は暴力的な速度で民主化されています。金融を人々のためのソフトウェアに作り変える運動、それこそ近年の金融変革の重要な側面なのです。

結論

  • IMFは長い間、国際基軸通貨を米ドルの代わりにIMFが管理する特別引出権 (SDR) と呼ばれる国際準備資産に取り替えようとしていました。しかし、世界金融危機の後でもドル覇権は崩れていません。したがって、脆弱な経済の開発国がドルを通貨として採用したり、自国通貨をドルペッグにする代わりに仮想通貨を活用するというアイデアIMFにとっても理にかなうのではないでしょうか。
  • Lagardeは日本の中央銀行当局より先端領域の学習が深い気がしますし、世界各国で起きている金融上の革命を理解している印象を抱きます。日銀の中の人や周辺産業の「レガシーエリート」も「書を捨てよ、街に出よ」、というかバックパッカーしろ、ということで知見を広めてほしいなと思います。ちゃんと目を凝らしてモノをみれるのなら、日本は暗号通貨においていいポジションを取れる可能性があります。

参考

Photo via Wikimedia Commons, Kevin Dooley

 

中国のAI開発が台頭:巨大企業が牽引する「AI Everywhere(无处不在)」

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予測

中国がアメリカに並ぶAIの2強に躍り出ようとしています。BATなどの巨大企業が推進力の核になりますが、同時に有望なAIスタートアップとそれを育てるエコシステムが生まれつつあります。AI開発と社会への適用は産業のオートメーション化など中国社会に大きなインパクトを与えようとしています。13億人の国はAIと経済社会をめぐる巨大な実験場になる可能性を秘めています。

論拠

昨日のブログポストでAlibabaが最先端領域に対しムーンショット投資を開始することについて触れました。目を凝らしてみると、AI、IoTなどのバズワードで表現される各領域は不可分であり、一か所で起きた変化が、他の場所での変化を誘発するような状況です。

McKinsey Global Instituteからの引用で、グローバルにおけるAI領域に対するVCの投資額は5億8900万ドル(2012年)から50億ドル(2016年)まで拡大しました。MGIはAIが応用される市場の規模は2025年に1270億ドルに達すると予測しています。AI関連M&A件数(2011年1月〜2017年2月)を比較すると、米国が55件に対し、中国は10件と差があります。加えて、中国政府は米国政府に比べてデータの開示で大きく劣っており、両者にはまだ差があるように考えられます。

豊富な人材、データ、インフラ 

しかし、中国は急激に伸びているのです。中国のAIケイパビリティの急速な拡大は今年に入り著しいのです。The Economistから引用します。

ホワイトハウスは2016年10月、中国が深層学習に関する論文数において、アメリカを追い抜いたというレポートを発表。PwCは、AI関連の経済成長が2030年までにグローバルGDPを16兆ドル増加させると予測している。半分近くが中国の増加分に当たる可能性があると予測する。中国の研究者によるAI関連特許提出件数は近年では200%近く増加している。ただしアメリカはまだ絶対数で大きく先行しているわけだが。 

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  • 自国企業によるクラウドコンピューティングの成長。大企業からスタートアップまでデータセンター建設に勤しんでいる。ガートナーによると、クラウドコンピューティング市場は近年、年30%以上の成長を続けている
  • 民間AI投資の拡大。Wuzhen Institutによると、2012〜2016年に中国の「AI企業」の調達額は26億ドルに達している。アメリカの「AI企業」が調達した179億ドルより少ないが、急速に成長している
  • 豊富な人材。中国はAI科学者の5分の2を抱えている。各大学はAIプログラムを開設しようとしている。
  • 中国人は”プライバシー”を気にしない。バイクシェアではユーザーの利用方法をGPSなどでトラックし、スコアリングしている。Alibaba、Tencentのサービスでも信用スコアを可視化している

Tencentの猛追撃

中国最大のソーシャルメディアネットワークの運営者であるTencentは、機械学習、コンピュータビジョン、音声認識自然言語処理に携わる50人のAI科学者を抱えています。TencentはBeijing Automotive Group (BAIC)を結成して自動走行車においてBaiduと競争を開始しました。

テンセントはBATのなかで最もAIへの取り組みが遅れていると考えられていました。AI研究所を開設したのも今年です。以下のTencent取締役のベニー・ホー氏と2016年に行ったインタビューでは、ホー氏にAIに関する質問がすべて却下されてしまいました。 

しかし、TencentはAlibabaやBaiduよりも多くのデータを持っています。Tencentは約10億アカウントを持ち、支払いやニュースから地図、法務支援まで、何千ものサービスのプラットフォームとなっています。その他、リーグオブリーグやクラッシュ・オブ・クランなどの大ヒットゲームの運営元でもあるのです。

TencentにはAI開発における強力な利点があります。

  • SNS、チャットから収穫される豊富な行動データ
  • ユーザーがアップロードする豊富な画像、動画群
  • Wechat Pay(微信包銭)の決済データ
  • クレジットスコア

Alibabaもコマース・決済を中心にした莫大な行動・購買データを抱えています。Amazonが倉庫内で行うロボティクスも即座に真似をしてしまいました。

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Via Tech Insider

Baidu、Alibaba、Tencentが率いる中国のハイテク企業群はAI専門家を雇い、新しい研究所を作り出しています。AmazonGoogleMicrosoftが運営するものに匹敵するデータセンターに投資しています。中国の起業家や投資家がさまざまな業界でAIを活用する大きな機会を狙っているため、資金は無数の新興企業にも流入しています。TencentとAlibaba、ソフトバンクが出資する滴滴出行は現行のライドシェアを発展させた自動走行車サービス提供を目指しています。

AIスタートアップの台頭

大型企業の躍進だけでなく、北京の熱狂的なスタートアップシーンは既に強力なAI企業を生み出しています。2014年に設立されたSenseTime。すでに世界で最も貴重なAIの新興企業のひとつになっています。 SenseTimeは香港中文大学にあるXiaoou Tang教授のマルチメディア研究室を母体として2014年に設立。深層学習、コンピュータビジョンのトップレベルの研究者,GoogleMicrosoft、Baiduなどの産業界で活躍した優秀な人材を集めています。

SenseTimeは国有キャリアChina Mobileやオンライン小売大手JD.comなどの大手中国企業にコンピュータビジョン技術を提供しています。SnapchatとInstagramのコンピュータビジョンを活用したARフィルターなどを素早く模倣しています。顔認識や自動走行車に活用される歩行者・自動車などの即時物体認識を開発しています。

同社は現在、自動車システムなどの市場を研究しています。SenseTimeは今年7月に4億1000万ドルの資金調達を行い、15億ドルの評価額が付きました。日本のAIビジネスで唯一の希望(?)である製造業分野への応用についても、世界最大の製造業国である中国の引き離しが濃厚でしょう。

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SenseTimeの取引先。中国の巨大企業が軒を連ねる。

ニュースアグリゲーションのToutiaoは機械学習をニュースのアグリゲートやフェイクニュースの検出に使っており、時価総額10億ドル超のユニコーンになりました。他にも、iFlytekはマンダリンを複数の外国語に自動翻訳するボイスアシスタントを提供し、Megvii Technologyは人間の顔を即時に認識するコンピュータビジョンを提供しています。

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※日本では、Preffered Networkやマザーズで株価を暴騰させているPKSHA Technology にこれらの役割が期待されているようです。

急激なAIドリブン化の光と影

他方で13億人社会に光と影の両面を落とすことになる可能性があります。

AI技術は生産性を飛躍的に向上させる可能性があるため、中国の経済成長とその労働に大きなインパクトを与えるでしょう。中国の労働、一次産業だけでなく二次・三次産業の半分は自動化が可能と考えられ、中国は世界最大の自動化の舞台になる可能性があります。労働市場への影響は総じて漸進的であると考えられるが、それは突発的なものになる可能性も否定できません。特定の作業活動のレベルでその変化は劇的になり、一部の仕事はかなり早いタイミングで時代遅れになるはずです。

労働者のAI / デジタル技能に対するプレミアムを高めなければ、中堅・低技能労働者への需要が減るなかで、労働力の高付加価値産業への移転を成功させることは難しいでしょう。AIの活用は社会全体の所得の不平等を悪化させる側面をもっています。しかし、これらは分配の問題に過ぎず、むしろ生産性、生産には著しい改善が見られるはずなので、ユニバーサルベーシック・インカムなどの巨大な実験場になるかもしれません。

今後中国では、米国を先例として民間主導型の開発が進められていくはずです。BATはすでに世界有数の巨大企業となりグローバル企業化が進んでいます。ここにAI領域の力が備わるようになると、今後はBATと政府の関係などに大きな変化が現れると考えられます。Googleがワシントンでのロビーイングに最も資金を拠出している会社になったり、Amazonが米政界内幕話新聞のWashington Postのオーナーになったりということが中国でも起きてくる可能性は否定できません。

結論

中国のGDP成長は停滞を開始している模様であり、公式発表のGDP成長率を鵜呑みに出来ない状況を考えると、AIのようなディスラプティブな最先端領域への投資は、共産党としても避けがたいと考えられます。世界第2位のエコノミーではあるものの、すべての人が豊かになったとは言い難い状況です。マクロの数字の一部が光り輝いても、社会の一部には不満が渦巻いており、人々は政治的、経済的自由を求めているはずです。それが、中国政府が中国を2030年にAIイノベーションの中心にするという目標の背景になっています。

参考

www.mckinsey.com

Photo Via Pixabay

少数の超巨大企業が技術革新を牽引する時代:アリババの150億ドルムーンショット

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分析

  • AI、IoT、量子コンピュータなどの分野で中国勢の強烈な興隆が起きています。中国政府、産業界はこれらの新規領域への投資の重要性を理解しており、ムーンショット型の投資を進めようとしています。
  • 日本政府は社会保障関連の予算を大幅に圧縮し、電子化による効率性の高い機構へと改造される必要があります。その資金を子どもから若年層の科学教育や科学研究費に当てることが求められます。
  • 研究者がアカデミアからインダストリーへと活躍の機会を移す動きが主に機械知能領域で起きました。今回のアリババの動きはその動きを中国でもなぞろうというものです。日本でも企業の利益剰余金をこういう分野への投資にあてるべきではないでしょうか

アリババが今後3年間で150億ドルをグローバルR&Dに投資すると発表しました。プロジェクトは「DAMO Academy」との名前が付きました。「Academy for Discovery, Adventure, Momentum and Outlook」の略です。米国は米サンマテオ、米ベルビュー、モスクワ、テルアビブ、シンガポール、北京、杭州の7カ所に設立。100人程度の研究者を雇用する予定と言われます。

ブルームバーグによれば、アリババが過去3会計年度に投じた研究開発費は64億ドル。今回発表した支出額はその2倍以上に当たります。GoogleのGoogleXや買収したDeepmindなどのムーンショットを真似た試みを行おうとしています。

アリババの株価は今年うなぎのぼりを続け、時価総額は4690億ドルに到達しています。16:20現在、Amazon.comを超しています。財務基盤が固く、キャッシュも豊富であり、リスクの高いムーンショットが行えます。決算数値の検討に関してはStockclipを参照ください。

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人工知能で米国にキャッチアップ

ゴールドマン・サックスのレポートは、中国の人工知能領域は米国に急速に追いついていると指摘しました。中国政府は7月にAIの開発ガイドラインを策定。2030年までに人工知能領域でグローバルイノベーションセンターになることを目指すとしています。「人工知能市場」は1兆元に達すると予測しています。

日本の総務省情報通信政策研究所で起きたこととはかなり異なり、中国政府がこの点に関して、理性的な先見性を持っていると判断できます。

ジェフリー・ヒントン、フェイフェイ・リー、アンドリュー・ウンなど、研究者がアカデミアからインダストリーへと活躍の機会を移す動きが機械知能領域で起きました。アンドリュー・ウン氏は特にラディカルです。バイドゥを辞して自分でファンドレイズを行い、AIスタートアップを起業しました。

今回のアリババの動きはその動きを中国でもなぞろうというものです。Googleなどを中国でするのが、バイドゥ、アリババ、テンセントなのです。他の分野でも米中二強は中・長期的な構造と考えられそうです。

結論

The Economistが「Superstar」と呼ぶジャイアントがサイエンスとその社会適用を牽引していくというのが、その実質だと考えられます。

参考

JPモルガン「詐欺」発言にアオられない方法:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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予測

  • 暗号通貨では、価格やレガシー金融機関、中国政府の規制など、外的要因で大きな変化がありましたが、技術面は進展を続けています。最も重要な暗号通貨のファンダメンタルは技術と考えられます。人々は与えられるベネフィットに対してやがて率直な態度を示すようになると予測できるでしょう。

検討

レガシーは繰り返す

今週は暗号通貨界隈の話題が豊富でした。まずJ.P.モルガンのジェイミー・ダイモンCEOが「ビットコインは詐欺」と言いました。暴落の後にスウェーデンの取引所でJPモルガンが大量購入をしたとするスクリーンキャプチャがTwitterで出回りました。それがブローカレッジ用のポジションだったのか、自ら買い込んだのかどうか真偽の程はわかりません。ダイモンCEOはビットコインを扱ったトレーダーはクビにすると言っていましたが。

「こっちも世界金融危機のことを忘れていないぜ」と言い返したいところです。

JPモルガン世界金融危機のダメージが厳しかった。JPモルガンの最高投資責任者(CIO)はウォーレン・バフェットが「大量破壊兵器WMD)」と呼んだもの、つまりデリバティブに1000億ドルのベットをしていました。 CDS(クレジットデフォルトスワップ)などのさまざまなポジションが焼け付き、政府による250億ドルの巨額救済をうけています。あの狂乱のさなか、クレイジーなデリバティブの設計、顧客と利益相反する自己勘定取引、度重なるモラルハザードなどが公に知られました。

ビットコインには金融危機の後という文脈の中で、Banking(金融機能)をBank(金融機関)のものから個人のものに変えるという背景があります。この記事で紹介したとおり、ビットコインにはサイファーパンクの系譜があり、個人のプライバシーを為政者から守ろうとした人々のなかから生まれました。

最近の暗号通貨に関する報道の多くがプライスや規制、ICOなどに関するものなんですが、BitcoinやEthereumがオープンソースプロジェクトであるという側面はとても重要です。長期的な価格の構成要素でもあるはずですし、大手メディアの報道とそのものはかなり異なる形をしていまして、技術を見つめていると低質情報に踊らされずに未来を見つめることができます。7月末の「ネクストコンテクストカンファレンス(NCC)」ビットコインコア開発者のRusty Russell、Eric Lombrozo、Cory Fieldsの講演を聞いて「オープンソースプロジェクトなんだ」という実感が持てました。

今週はたくさんの暗号通貨の技術的アップデートが行われました。

Bitcoin

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Via Blockstream

  • 14日に「Bitcoin Core 0.15.0」がリリースされました。サトシ・ナカモトが9年前に提供したBitcoinソフトウェアクライアントの第15世代に当たります。このアップデートには≒100人の技術者が関わり、組織としてはChaincode Labs、 Blockstream、MIT’s Digital Currency Initiativeが関与しました。
  • 手数料算定部分で高止まりする手数料への対策が打たれました。マイナーは最も高い手数料を払うトランザクションをブロックに格納することを優先してきました。もしユーザーがクイックなカンファメーションを求めるなら、高い手数料を容認しないといけませんでした。Bitcoin Core 0.15.0はこの手数料の不確実性を低下させます。ソフトウェアの最新バージョンには、手数料を見積るアルゴリズムが大幅に改善されているそうです。
  • チェーンステートデータベースの再構築。新しいデータ構造の最大の利点は、新しいノードの初期同期時間が約40%短縮されることです。また、よりシンプルなコードを導入し、メモリ使用量を削減します。
  • Multiwallet。1つのBitcoinコア実行プログラムで複数のウォレットを簡単に管理できるようになりました。この機能はまだまだ新しく、エキスパートユーザーのみが利用できますが、今後はグラフィカルユーザーインターフェイスで利用できるようにしたいと考えています。
  • Blockstream - Gregory Maxwell Talks About Bitcoin 0.15

Ethereum

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うどんさんのブログにRaiden Network公式サイトの超意訳が載っていますので、そのまま引用します。

Ethereumのペイメントチャンネルネットワーク

Raiden は、オフチェーンネットワークを使って、資産移転において優れた特徴を持つEthereumを拡張するテクノロジーです。

  • スケーラブル:参加者の数に比例して性能が良くなります。(1,000,000tps以上が可能に。)
  • 高速:1秒未満で送信完了
  • 機密性:すべてのトランザクションがEthereum Blockchainに書き込まれるわけではない。
  • 互換性:Ethereumの標準化されたトークAPI
  • 低い手数料:取引手数料は、Ethereum Blockchainをそのまま利用するより7桁分手数料が低いかも。
  • マイクロペイメント:トランザクションの手数料が安いので、小さい金額を効率的に送受信可能

OSS間の熾烈な開発競争が透けて見えます。Bitcoinのレイヤー2の中にはEthereumのコア・バリューであるスマートコントラクトを取り込もうというプロジェクトが存在します。Ethereum側もRaiden Networkでビットコインが導入を目指しているマイクロペイメントの包含を狙っています。

  • 開発者はノードソフトウェアGethの最新版をリリースしました。イーサリアムのアップデート「Metropolis」の最初の段階である「 Byzantium(ビザンチウム)」ハードフォークが来月内に予定されています。 いくつかのアップデートはまだ最終確定していませんが、最終的にはピアツーピアプロトコルの帯域幅要件を33.6GBから13.5GBに削減することを約束しています。さらにメモリキャッシングの速度が向上も含まれます。 Megeraへのアップデートにはトランザクションプールの改善も含まれています。 これまでのバージョンのGethでは、高額トランザクションが無差別に優先順位付けされていましたが、この新しいバージョンでは、Gethユーザーのトランザクションは金額に関係なく優先されます。
  • Metropolisのデプロイにより「セキュリティ向上」「手数料の自由化と確認方法の改善」「アプリケーション構築作業の軽減」「マイニング報酬量の減少」「 PoWから PoSへの転換」が想定されています。

 結論

SegWitをめぐる停滞から一転してビットコインコアの動きは活発になっています。EthereumはMetropolisがどの程度のインパクトがあるアップデートなのかを見定めたいところかもしれません。二つのプロジェクトの進展する速度が加速している印象で、早い段階で暗号通貨クラスタ外にももっとインパクトを与えるのではないかと期待しています。

参照

邪悪になるな、iphone搭載の顔認識の光と影

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iphone Xに顔認識が搭載されました。多くの人が買い求めるiPhoneで、大規模なフェイシャルデータが集まることが想定できます。「Face ID」により今後は顔により様々な認証を行うことが可能になったり、 上の画像のように顔の動きとアバターの動きを同期させたりできるようです。顔認識技術自体は取り立てて新しい技術ではありません。Facebookの画像の被写体へのタグ付けは有名です。同社の顔認識研究プロジェクト「DeepFace」のソフトウェアは、人間の認識精度を2014年の段階で超えていました。精度は100%に近づいています。

プライバシーや監視社会の可能性

顔認識の活用に関してはプライバシーの議論があります。エコノミストは、万引き犯の検出やサッカーの試合中に違法行為を働いた人を摘発するほか、配車サービスの運転手の身元確認や決済における認証などへの応用を評価する一方、顔認識によりその人のセクシュアリティが暴かれたり、法執行機関が荒々しく利用したりとプライバシーの危機に警鐘を鳴らしています。この技術は他者を支配するという哲学で利活用されるとなるとかなり危険になります。個人の領域を力強く暴き出し、その行動を監視することに利用するができます。それこそ同性愛者の哲学者ミシェル・フーコーの論を思い出さざるを得ません。

Amazon, IBM, Microsoftは顔認証APIを提供しています。主に以下のようなことが可能になります。

  • 人間の顔を検出し似ているもの同士を比較
  • 類似性に基づいて画像をグループ化
  • タグ付け済みの人物を画像内で特定

以前から小売、セキュリティ関連で顔認識は導入されていました。特に万引被害が多い海外の小売業者は多数の監視カメラを配備して利用してきました。しかし、APIの登場により導入コストが落ちたため、多くの人・企業が顔認証を使うようになるでしょう。画像のなかの人物にタグを付ける機能を実装したアプリケーションが多くの人の手に渡っていくでしょう。

ただロシアの写真家Yegor Tsvetkovがその危うさを示すことに成功しています。彼は「Find Face」という顔認識アプリケーションを利用し、地下鉄で撮影した人々をSNSから探し出しそれを公開するというプロジェクト"Your Face Is Big Data (あなたの顔はビッグデータ)"を行いました。地下鉄で見ず知らずの人々を撮り続け、顔認証アプリ「Find Face」に画像を入力し、ロシア最大のSNSサイトVkontakteから本人を探し出した。結果、約7

顔認識を何に使うか?

顔データを何に使うかという点が重要です。マーケティングも有力な応用範囲の一つではあります。

消費者の購買行動がより細かに分かる可能性があります。買い物時の感情や検討した商品を把握し、その途中でその人がスマートフォンで情報収集をしたりしたとしても、それもスマホ経由でデータを取得できるかもしれません。最終的に購入したものも決済データから理解できるとします。

断片化しているこれらデータ群を統合できると仮定すると、一人ひとりのすべての購買に至るまでの行動に関してより細やかに理解することが可能になるかもしれません。それにより商品開発、マーケティング、生産計画の最適化が図れるかもしれません。もちろん顔認識だけでなく、大規模かつきれいなデータが手に入ることやそれを高度に解析する能力が必要になり、これらも一朝一夕の世界では成し遂げられません。

顔から感情を把握できる

もっとシンプルに利用者の顔から感情を読み取り、顧客体験の向上を図ることにも使えるでしょう。顧客から「楽しい」「幸福」などのポジティブな感情が発現されている割合が高ければ高いほど、いい店舗と呼ぶことはできそうです。品揃えや商品配置のほか、顧客から退屈を読み取ればゲリライベントやタイムセールなどのカンフル剤を入れたり、静かに商品価格を上下させたり(これはどうなんだろう笑)できるかもしれません。

飲食店で新商品を試す際にもこっそりカメラから感情を抽出して、新商品への感触をしることができるかもしれません。その商品の良さがうまく伝わらないせいで、人気化していないが、やり方を変えればヒットするものが、すぐに打ち切られてしまうという例もあるはずです。逆に人気商品ではあるものの、じわじわと顧客満足を削っている商品もあるのではないでしょうか。

結論 

顔認識技術を採用するにあたり「暗号化」ができるようにしたほうが良いと思います。「Be evil」な企業/政府/捜査機関などが巨大なデータを持ってしまうと私たちのあらゆる行動や感情を把握するビッグブラザーを生みうる技術であることは確かです。いままでのようにSocialで顔を晒していたいです。

参照

 

カーボンファイバーが自動車をプログラム可能にする:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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近年注目を浴びる炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced PlasticsCFRP)は金属類より軽く、強く、疲労も少ないといわれます。炭素繊維は航空機、風力発電ブレードなどで採用されていますが、巨大市場の自動車業界も触手を伸ばしています。

現状、自動車メーカーはホイールなどの部分でカーボンを採用しています。部品点数10万点といわれる自動車ですが、CFRPを使った製品をオートメーションで大量生産するするメソッドがその10万点に行き渡っていません。その活用が高価格帯の自動車に偏るのは、生産ロット数が豊かになっていないからでしょう。また、CFRPのリサイクル手段もまだ確立していません(金属はリサイクルが可能ですが、その過程で溶かす必要があるため効率的なリサイクルと言えるかは別です)。とはいえ、今後はさまざまな部品にCFRPを活用した部品生産の自動化の波が訪れることになるはずです。

炭素繊維の生産に関しては、東レが世界シェアの約4割を握り、2番手の帝人三菱レイヨンを足した3社で世界生産の6割超を占めています。中国などのアジア企業も参入済みですが、日本勢とは品質で大きな差があるそうです。

ただし、自動車業界に炭素繊維が普及する決定打があり、それが炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)という成形コストがやすい炭素繊維が出てきたことです。これによって広範な範囲での炭素繊維の活用が進むと考えられ、リサイクルの問題も解決できました。

2020年から2025年にかけて自動車用を中心にCFRTPの採用が進み、2030年にはCFRTPが炭素繊維複合材料市場の金額ベースで約10%、数量ベースで30%を占めるようになる見込みだ(中略)。

CFRPでは困難だった高速プレス加工や、スチール溶接並みの強度を持つ接合が可能になる。また、CFRTPに使うマトリクス樹脂がリサイクル可能であるため、生産工程で発生する廃棄材料や不良品、廃車後の部品を再利用できる。

炭素繊維強化プラスチックの世界市場、自動車用で熱可塑性が急成長へ - MONOist(モノイスト)

電気自動車の能力を拡大

同時に電気自動車のトレンドにも注意を払わなくてはいけません。内燃機関を搭載する必要がなく、部品点数はガソリン車より少なくなっていきます。ここに炭素繊維という素材革命が影響するはずです。電気自動車は電力のチャージをしなくてはならず、その充電ステーションを整備することや、バッテリーが貯めれるキャパシティを拡大する必要があります。車体自体が軽くなれば消費電力は減るので、充電の頻度を減らすことができます。自宅の屋根で太陽光発電し、自動車がそこから充電することで「化石燃料に頼らないモビリティ」を実現する。このビジョンを加速させる重要な一要素なのです。

さらに自動走行車のトレンドとの関係も考えてみましょう。自動走行車は理論上、都市を走る自動車の数を減らすと考えています。市民へのモビリティの提供をより高度化するからです。となると、そもそも自動車を大量生産する必要がなくなります。

結論:プログラマブルな自動車

だから自動車は部品が減るし、素材もどんどん質が高まります。Autodeskなど人間が高度な設計・デザインを行うことを助けてくれるツールも増えています。誰でも作れるようになっていくでしょう。20世紀型産業の覇者である自動車は、21世紀にはどんどんプログラマブル(プログラム可能)になっていくのではないでしょうか。ソフトウェア企業は、自動車という物体ではなく、モビリティという価値に焦点を当てたプロダクト開発を進めています。多層垂直型の産業構造で知られる自動車業界ですが、インターネットが通信などでおこした水平化の衝撃を受けることになるでしょう。そしてもちろん自動車それ自体も「接続」されることになります。

付記

私は高校時代にテニス部でした。当時カーボンファイバー製のラケットが登場してメインストリームを獲得するタイミングでした。カーボン製のラケットはショットの速度を飛躍的に向上させ、テニスを高速化しました。その結果、選手は超人的なフィットネスを要求されるようになっています。錦織圭さんはあの身長で強烈なショットを叩き出し、それを連続して行うスーパーマンなのです。

 

 

 

 

ICOだけじゃない、メルチャリ、Airbnbもトークン化できる

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今日メルカリがシェアサイクル「mercari」をリリースしました。中国で人気の出ている業態です。先日のライブ動画「メルカリチャンネル」と同様中国のトレンドを素早く取り入れる姿勢が見て取れます。中国ではサイクルシェア事業に各社累計で2016年には200万台以上の自転車が投入されましたが、2017年の投入台数は3000万台に達すると予測されています。

最近のICO騒動で感じるのはICOトークン活用のひとつに過ぎないとこうことが周知されるべきではないか。むしろ、こういうメルチャリのようなシェアリングエコノミー領域でこそトークンは面白いのではないかということです。それこそ、自転車のようなものの利用権をトークンにしてマーケットプレイスで売買することがあらゆるジャンルに拡大すれば、ユーザーは余計な所有に悩まされず、生活を豊かにできると思います。現行のmercariはメルカリが自転車の提供と同様、運営・管理を行います。仮にこれを参加者が自転車を出し合い、トークンで取引するとよりシンプルなサービスになると思います。

シェアサイクル各社は協定を結び、マナーが悪い顧客に関する情報を共有しています。ひとつのシェアサイクル企業のサービスでマナー違反を行えば、他企業のサービスも利用できなくなります。アリババはコマースや金融取引履歴・ネット行動履歴、公共料金の支払履歴、デモグラフィック、社会的人脈などから、その人の「信頼」を独自にスコアリングしています。この「芝麻信用」のようなものがサイクルシェアにも導入されています。「芝麻信用」はアリババが出資する損害保険企業の査定に直結します。

上記のケースでは個人のIDを巨大企業に委ねている形になります。あなたはFacebook認証を利用することがあると思いますが、あなたがあなたであることを証明するのを、Facebookにお願いしていることになります。個人のデジタルIDをブロックチェーン上で管理し、それにまつわる信用・評判情報が紐付けられていて、誰にも管理できないようになればいいのに、というふうに考える人は少なくありません(私もそうです)。

今度は、Airbnbトークナイズしたモデルを想定しましょう。貸出可能な宿泊をトークンに記載します。それをマーケットプレイスに入れて売買することができます。宿泊提供者と宿泊者の信頼を示すスコアが提示されていて、トークンの購入が簡単になりますし、「どのトークンに対してどれくらいの値をつければいいのか」というノウハウも発達します。トークンという簡易な形で、インターネット上のどこでも取引できるようにするお陰で情報の偏在性がある程度解消するのではないでしょうか。誰もが安全にトークンを発行し、それがアタックをうけないことを確実にできるのならば、Airbnbという「中央」の必要性が薄れていく可能性があります。

しかし、実際にはAirbnbの宿泊にはときにトラブルが発生します。自転車の利用頻度が高ければ修理の必要性が生じます。これらの状況に対応するために中央は必要です。非中央集権は素晴らしいアプローチですが目的ではありません。

誰もがトークンを発行できる

トークン化するものは最初は純粋にデジタルなものを選ぶべきでしょう。電力のトークン化取引が検討されているが、実際には、電気を配電網の中でうまい形でやり取りできる極めて高度なスマートグリッドが必要になります。

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今後はIoTが進展していくはずです。あらゆるモノがコネクティビティを獲得します。もののステータスをデジタルに管理できるため、その利用状況をもとに利用権をトークンの形に買えることが可能です。仮に行儀の悪いユーザーが自転車にダメージを与えて、それを隠し通そうとしても、センサーから自転車の状況が変化したことがわかり、それがその人のクレジットスコアを傷つけてしまいます。

Eterereum上のサービス・ビジネス開発を進めるConsensysブロックチェーントークンドリブンの未来を実現できると主張しています。

  1. セキュリティとコストの両面でトークン発行の障壁をなくす
  2. グローバルで自由なトークンの取引を許容する
  3. 透明性の確保されたグローバル台帳に基づいて、トークンが活用される。以前はすべてのトークンはそれぞれ個々の所有するサイロの中に閉じ込められていた。なめらかにグローバルスケールでトークンを交換することで、より効率性を増すことや新しい形体の協力を可能にします

結論

政府や独占的大企業などトークンを発行できる主体が特権を握ってきたのがこれまでの社会のあり方ですが、今後はトークン発行を誰でもできるようになります。ブログがジャーナリストとブロガーの垣根をなくしたように、トークンは投資家と個人投資家の垣根や、政府と国民の垣根をなくすのではないでしょうか。トークンの発行を代行するビジネスが最近盛り上がっていますが、トークンの秘密鍵は自分自身で管理するべきでしょう。この部分の教育が進むとトークンの真価が世の中にもたらされると思います。

参照

Facebook Watchはメディアの動画ピボットを「強制」する?

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FacebookはWatchを開始しました。FacebookYouTubeを追いかけようとしていると考えられていますが、過当競争の動画市場にどのような隙間があるのか、見ものです。

Facebook Watchが導入されると、利用時間上位Appのビデオ(動画)化がさらに濃くなります。FacebookInstagram、Messenger、AmazonNetflix、Alphabet、Twitter…と皆何らかの動画をやっています。特に記事消費にとても強いFacebookがWatchで動画色を濃くすることは、パブリッシャー(メディア企業)の動画ピボットを「強制」する力がありそうです。

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YouTubeは2015年の夏に広告在庫取引をプログラマティックに限定し、エクスチェンジでの他者の買い付けを排除しました。現在はその専売的な取引方法が、動画広告への予算の大移動という外部環境とともに、大きな収益を上げるようになりました。検索広告がAlphabetの収益の4割程度を占めていますが、YouTubeは同様の稼ぎ頭になろうとしています。

Facebookは広告の在庫数が臨界点に達しており、単価の高い動画広告にシフトすることで、収益拡大を目指そうとしています。動画、ライブ動画などの機能を追加し、ついに今回テレビのようなWatchを追加しました。

プロダクトデザインの観点から観ると、FacebookはWatchを独立したAppとして切り分けるか悩んだと考えられます。YouTubeNetflixがいい例ですが、動画視聴は一つのアプリケーションで完結している方がユーザは使いやすいはずです。Facebook messengerは別のアプリに切り分けることで大正解で、両者の連携も素晴らしく、FacebookはMAUが10数億人のAppを2個手に入れることになりました。

動画はそうはいきません。友人がシェアした動画を観るのは確かにFacebookInstagramは適していますが、エンターテイメント目的の視聴には「つながり」が余りいきてきません。視聴自体はそのAppでして、コメントはTwitterなどで行うという使い分けをするユーザー行動を認められるはずです。

Facebookはどう考えても機能過多です。タブやボタンがたくさんありかなり考えながらアプリを操作しないといけません。開発国(Developnig Contry)に提供されているFacebook Liteの方が明快な部分だけが残されている印象です。動画は機能としてボリュームがかなりでかく、Facebookを大改造して「YouTube化」しているふうに感じられます。

で、私が5月に最高製品責任者(CPO)のクリス・コックスにインタビューしたとき、彼はこのよう説明していました。

Facebookはビデオ(動画)に注力するが、それはテレビという形態をとらない」と答えた。ビデオはスクリーンに映る「モーションピクチャー」の総称であり、テレビもデジタル動画も含まれる。「テレビはビデオの一形態だが必ずしもインタラクティブ(双方向)ではない。私は動画の周辺で起きる会話、背後にある関係性、コミュニティがとても面白いと考えている。友人と動画を通じて双方向的に話し合うことについて考えてもらいたい」。

Watchにはパブリッシャーが参画していますが、彼らが得られるインセンティブを検討しましょう。Facebookコムキャストのようなケーブルテレビ事業者と、NBCのようなチャンネルを提供するテレビネットワークを兼ねていて、パブリッシャーがスタジオ、制作会社となっている。サプライチェーンを簡略化することに成功しています。

参画するVox Media、Buzzfeed、Group9 Media(Nowthisなどの持株会社)、Business Insiderはミレニアル世代向けのデジタル動画制作が強みで、すべてでBen Lerer一家が運営するベンチャーキャピタルの出資があります(日本には現状こういうVCはないですね。あったらいいのですが)。

上述のコックスCPOはビジネスモデルに関してこう説明しました。

「動画を制作した人は誰でも、Facebook上にビジネスモデルをもち、オーディエンスに対してプロダクトエクスペリエンスを表現できるようにしたい。人々はニュース、エンターテインメント、友人へのシェアとさまざまなソースからもたらされる情報を動画で得ることができるだろう」

動画に関してはクローズドな形でさまざまなフィルターを利用したやり取りを最初にAppの形で表現したのが、Snapchatでしたが、FacebookInstagramとともに機能をコピーし、その良さを取り込んでしまいました。そして次はテレビとUGC(ユーザー生成コンテンツ)にまたがるYouTubeの牙城に挑戦しようとしています。

動画の次と考えられる、VR/ARに関してはOculusの投資があり、ポストスマホとしてはメガネ的なデバイスも検討されています。ユーザーがVR/ARに移行しても、Facebookとしては困りません。

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Via Oculus

動画でもVR/ARでも最も重要なのはコンテンツです。いいコンテンツ群と継続してそれが生み出されるビジネスモデル、マーケットデザインが鍵を握ります。そして、本当に大変な制作においてもたくさんイノベーションが必要になります。

Facebookは最近ではインドクリケットリーグの5年間の放映権に対して6億ドルの入札をしました。ルパート・マードックの26億ドルに負けましたが、Facebookが巨額のスポーツ放映権入札のプレイヤーとして確立した瞬間です。DAZNJリーグの10年間の放映権に費やしたのが2100億円。インドのクリケットはそれよりも高いのです。

米国や中国のインターネット企業が動画に注力する背景は次のようなことがあります。

  1. テレビ広告予算とデジタル広告予算の融合 
  2. モバイル上での可処分時間の取り合い(動画はユーザーに長い時間を割かせられる)
  3. 動画配信コストの著しい下落

特に2に関しては、当たり前ですがモバイルアプリで動画が視聴されていることが重要です。あらゆる調査でAppがTime Spent(利用時間)の80〜90%を占めています。残りのWebは主に検索やソーシャルでの着地で基本的にはテキストと画像で出来たコンテンツに割かれていると考えられます。このため、ユーザーを動画視聴に足りるほどの長時間止め置けるAppを提供し、他者への還流を防いでしまうビッグプレイヤーに優位なゲームです。SnapchatがFacebookのコピー作戦以降減速したのにはこの部分も効いていそうです。

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参照

 

おじさんが「藤井聡太量産型」を攻略する方法:天才に投資しよう

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藤井聡太四段に関して考えるのは、コンピューティングの力を借りることで、これまで人間が培ってきた知識体系の一部が否定されたり、参照する必要がなくなってしまったりすることが、将棋の世界で起きていることです。藤井聡太四段の強さの要因はその類まれなる才能とともに将棋ソフトウェアの力により、バイアスレスな将棋知性を育んでいることが挙げられます。

藤井聡太四段の29連勝と将棋界の憂慮 | 元奨励会員アユムの将棋研究ブログ

彼らから吸収すべき要素というのはもう殆ど無いのかもしれない。正直な話ソフトで間に合ってしまっているのかもしれない。でなければ、現時点であんな勝ち方ができる訳がない。(中略)今後『突出した才能を持った者がソフトを使って効率よく研究すれば、あっさり将棋界のトップに立ててしまう』

藤井四段が将棋ソフトを研究に取り入れたのは1年程度前、三段のころと言われています。そこからメキメキと強くなったそうです。だから若い時期から藤井四段のトレーニング方法を採用すると、強いヤツがゴロゴロ生まれてくるでしょう。

今後はあらゆるカテゴリーで「藤井聡太量産型」が出現するはずです。もちろんあなたの前にも現れます。

もし両親が賢しきものならば、子どもには大人のポジショントークを無視するように強く言い聞かせ(いい大人の言葉は吸収するようにさせましょう)、大人にとって都合のいいプログラミングをされないように心がけて、コンピューティングパワーへのフルアクセスを与えることで、子どもは力強いサイボーグになっていくはずです。そうすると、私たちの世代、それ以上のミドル、シニア世代が苦しんださまざまな「罠」をすり抜けて、若い才能が爆発するはずです。

藤井聡太にはモンテッソーリ教育がされています。Google創業者の2人にもモンテッソーリ教育がされています。2人は英王宮のディナーに招かれたときにプティングにかけるシロップを飲み干して、同席したマリッサー・メイヤーがプディングにかけるものだと2人に言うと、2人はこう答えたといいます。

「誰がそんなことを決めたんだ?」

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先入観をもたないことがコンピューティングの力を借りたトレーニングに最適だと思います。ゼロから考えてみる。失敗しまくってみる。そのプロセスをコンピュータとともに高速化する。素晴らしい学習効率、新しいポイントオブビューの創造を達成するのではないでしょうか。

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壊れた文系教育の権威

私は政治経済学部政治学科の卒業で、卒業した後に経済学のほうが物事を分析するのに役に立つことがわかり、必死で勉強したことを思い出します。政治学もコンセンサス形成方法を考えたり、人間のイヤな性質を押さえ込む仕組みを設計するのに有用ですが、インセンティブについて考え、マーケットデザインを考えることには依然として大きな価値があります。

文系の学習は暗記でしかありません。暗記した内容は検索出てくるというのはよく言う話です。私はインドネシア時代に文系エリートサラリーマン・官僚をみる機会がありましたが、「封建社会」以外の何も感じませんでした。文系教育とは「優れた工場労働者」を生み出すためのものでしかないのに、それを施された人間が既得権益にふんぞり返って偉そうなクチをきいているのには悲しさを感じます。

儒教文化の罠にはまる日本

日本型、東アジア型の儒教文化的な教育の落とし穴は、年長者の誤りを年少者が律儀に引き継いでしまうことです。この年少者の従順さを利用して、毒まんじゅうを仕込む年長者がたくさんいて、社会が停滞している、というのがいまの日本です。採用する解法、それを選ぶ思想、組織・マーケットの設計あらゆるものが時代に置いて行かれています。

なぜ日本社会が課題を解けないまま30年をロスした(「失われた30年」)のは、こういうバックグラウンドが大きいのではないでしょうか。そしていま、そういう難しいミドル・シニア層が1000万〜2000万人以上の規模でいて、あらゆるイノベーションの芽を詰んでいるわけですし、若年層もどうしようもないくらい保守的な人が多数派です。この国は鎖国しているんでしょう。

しかし、コンピュータの力にアクセスし、何事も疑ったり、質問をする癖をつけた世代が台頭してくると、ミドル・シニア世代の「毒まんじゅう」は効かなくなります。世界は藤井聡太量産型で満たされていく。

では私を含めた非藤井聡太世代がすべきことはなんでしょうか。それはガンダムニュータイプみたいな新しい才能からばんばん天才をつくり、その子に投資することではないでしょうか。天才のおかげで私たちはどんどん幸せになっていきます。 

無価値コインの終わりの始まり:中国のICO禁止

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 ICO(イニシャル・コイン・オファリング)にパリス・ヒルトンまで関心をもつようになった矢先、中国政府がICOを禁止しました。ロイターが国営の新華社から得た情報によると、オンライン上の金融活動を監視する政府組織のデータとして7月に伝えたところでは、中国では今年、65件のICOがあり、10万5000人から26億20000万元(3億9460万ドル)を調達したといいます。中国の中銀は企業はICOで得られた資金をリファンドすべきとの考えを示しています。

7月下旬には、米国証券取引委員会(SEC)がEthereumの上に生まれた分散型ファンド・組織である「The DAO」などがアメリカの1933年証券法ならびに1934年証券取引法に違反したかに関する調査し、「今回は罰則の適用を求める行動をとらない」としたものの、The DAOの行ったICO(イニシャルコインオファリング)で発行されたトークンは「有価証券の発行だった」と認定したことが発表されています。

米中という世界経済の双頭でICOに対して規制の方向性が示された形になったと思います。

それでもICOは終わらない

これでICOが死んだと考えるのは時期尚早でしょう。FTによると、海外のプラットフォームを活用すれば本土中国人はICOへの投資が可能です。海外のICO関連ウェブサイトが中国語バージョンをもつことを止める手立てはありません。 

ICO自体はスイス、シンガポール、香港などの金融のルールが「簡単」な国に法人、財団を設けて行われるのが通常です。これらを中国当局が規制することはできません。シンガポール、香港で本土中国人の存在感は増しているはずです。

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cegoh | Pixabay

中国人は海外旅行を好んでいますが、目的は観光だけではなく、シンガポールなどを活用したり、海外のネットワークを使えば、ICOへの参加は今後も可能になるでしょう。それにわれわれが想像できないループホールを開拓するのが中華系なんです。

感化できないレベルの資金流出

今回の判断の最も大きな背景は「資金流出への恐れ」です。中国では富裕層だけでなく中間層も、資金を海外に逃がすことに高い関心を示します。だからこそ、その手段になりうるビットコインに対して中国政府は厳しい態度をとり続けてきました。ICOもまた人民元をコインにして外貨でイグジットすることが可能になります。中国の企業社会はかなり腐敗しており、汚れた金をきれいなお金に変えるプロセスにも使えるでしょう。これは暗号通貨の問題ではなく、悪い人たちに問題があります。加えて資金洗浄の手段は他にもたくさんありますので暗号通貨が画期的なその手段ではありません。例えば、マカオのカジノでお金をチップに替えて、マカオダラーにしてその後、国際送金ネットワークを利用して欧州やシンガポールの口座に送金するという方法は(私が知っているくらい)有名でした。

上記記事では、中国国家外貨管理局の資料は「中国の資金流出傾向に歯止めがかかっている」と言っています。しかし、まずこれらがフォーマルな数字であることに留意しないといけません。インフォーマルはどうなっているのでしょうか…。

ICO自体は暗号通貨マニアック界隈ではすでに輝きを失ったスキームですが、新規参入者、特に既存の枠組みで資金調達を経験している金融関係者にとってはピカピカに光って見えています。ICOや暗号通貨はいわば金融機関、証券取引所監査法人などの枠組みで運用される伝統的なモデルをスキップできることが相当素晴らしい。この層が最近は「ICOコンサルティング」の提供者や顧客になろうとしており、最近のICOブームを盛り上げてきたでしょう(私もいろんなお誘いを受けました笑)。

前回の記事で指摘したように、アプリケーションにファンドレイジングの都合上、無理矢理据え付けたコインは価値が薄いはずです(ないかもしれません)。しかもこれらはアプリケーションのユーザー体験を低下するようにできています。

今後の暗号通貨の価値は、明確な価値を表現できそうなBitcoin(ゴールド)、Ethereum(分散型アプリケーション構築プラットフォーム、トークン)、Litecoin(マイクロペイメント)などに収斂していくのではないのでしょうか。いわゆるScamコインは厳しい市場環境を迎えており、宴が終わろうとしているのかもしれません。淘汰は長期的にみれば暗号通貨の信頼性を高めていくことに寄与するはずです。

あと、DIGIDAYで書いた伊藤穰一さんのお話も「長期的な視野」という点で参考になると思いますので、付記しておきます。

   参照

独自コインこそ最大の罠:日本人チーム初ICOのALISが示した教訓

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Via Pixabay

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の熱は留まるところを知りません。ICOで生まれる価値は株式会社という仕組みをインターネットの時代に則した形にする可能性があります。また株式会社が内包するコストをカットできる可能性もあります。しかし、ICOは始まったばかりでさまざまな課題をもっています。今回はいくつかICOの課題を指摘し、今後のICOの発展に貢献したいなと思います。

東 晃慈(@Coin_and_Peace)の記事では、ICOプロジェクトでは特にプロダクト開発面での進捗が通常のスタートアップのプロジェクトに比べ遅くとも許容され、最初に何十億円も調達できてしまうので、MVPに達するインセンティブがなくなることが指摘されています。

48のプロジェクトのうち、Working productをリリース出来ているのは3つのみ。27(56.25%)は何もプロダクトを一般リリースできていない。またWorking productをローンチできたプロジェクトも実際にまだ大きな成果を出しているとは言い難い。アルファとベータプロダクトのクオリティーにはプロジェクトごとに大きな差異があり、アルファ状態から進捗が数年見られないようなプロジェクトも見受けられた。

さらにプロジェクトの進捗と資金調達額にはあまり相関性がないことも指摘されています。投資家と開発者の間の情報の非対称性は凄まじく、投資家は何がいいかを判断できないまま投資を決断している状況が指摘されています。つまり、ICOは壮大なレモン市場と化しているわけです。

瓜二つのALISとSteemit

現在、ALISが日本人で固めたチームによる初めてのIPOを行っています。日本に法人があるのではなく香港法人によるICOです。

ALISはホワイトペーパーにもある通り「Steemit」から着想を得ていますし、その仕組みはコピーキャットの域を出ていない印象です。このためSteemitのモデルを検討すれば、ALISがある程度わかると思います。実際にはALISはSteemitの複雑化して煙に向いている部分を取り外し、煙に巻いていないだけの形をしている、というのが私の印象です。

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ゼロから価値を創造し配りまくる「魔術」

Steemit自体が独自コインを発行し、それをユーザーに分けていく仕組みを採用しています。Steemは毎年ほぼ倍増する非常に高いインフレ供給モデルです(途中でユーザーの要望によりコインの増加量を限定しました)。

  • 基本的に外部からの価値供給がない。そもそもの価値がどこから生じたのかが明確ではありません。なぜSteemが価値があるのか。理論上は価値がどんどん落ちていく通貨を、コンテンツ提供者やコンテンツ発掘者に報酬として渡しても、インセンティブがうまれません
  • 先行者に優位。SteemitはSTEEM, Steem Dollars, Steem Powerとプラットフォーム内を流通する通貨に奇妙な分類を付けていますが、これに対し利子が生じます。初期参入者は複利を楽しめますし、コンテンツへの投票などで発言権がおおきくなるようです。
  • Steemitの価値は暗号通貨バブルで確保。取引所でのSTEEMの価格により、なんとなくSTEEMに価値があるということになっています。

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おそらくALISでも同様のできごとが想定できます。クリエイターへの報酬を保証し、信頼性を確保する仕組みを提供するという役割がALISトークンに期待されていますが、どちらかというとトークンを集める競争を誘発すると想定されます。 信頼を保証する通貨が増え続けることは、その信頼を保証する効果も薄れていきます。信頼や評価のようなもの(この場合はトークン)を囲い込むプレイヤーが優位に立てるゲームであり、先行者利益がおおきいのです。私はこの部分はより厳しいレーティングを当てるべきだと考えております。

トークン自体の金銭的価値も減少を続けていきます。しかも、交換相手として想定されるEthereumの価格は上昇を続けています。減価するトークンでユーザーをインセンティバイズすることは難しいでしょう。下記のように図になっているとインセンティブ設計がうまく言っているように感じられますが、基本的には資金調達上生み出さざるを得なくなったトークンに信頼の保証を依存しており、その信頼は無尽蔵に価値のバックがなく生み出され続けていきます。

しかしICOバブルはうますぎる

しかし、ICOをするプレイヤーとしてはファンドレイズの簡易さが大きいです。通常のシードラウンドで1000万円程度の調達と考えられる案件が、2億超に膨れ上がるわけです。そしてその際のコストはかなり低く抑えられているわけです。トークンが怪しいものであろうと運が良ければ、取引所で価格が上がりステークホルダーが喜びます。

不要なトークンを正当化して歪むプロダクト

私はここらへんにICOには罠があると思います。つまりプロダクトを歪めてしまう可能性が高いのです。資金調達のために独自トークンを設定する必要が生じ、プロダクト開発から観た際に、不要なトークンが組み込まれます。そのトークンを正当化するため他の部分にも手を入れざるを得なくなります。

トークンに「煩わしさ」を排除した株式の機能をもたせるのが最善策に思えるが、「有価証券」と認定されるやいなや規制の網の中に入ります。率直に言えば、日本では規制にコントロールされると、あらゆるイノベーションがうまくいかなくなる傾向があります。中国はICO禁止しましたが、日本はこれを機会と捉えて、もっと積極的な法制をとるべきではないかと考えます。

同じICOでも面白いのはタイのOmiseGoだと思います。OmiseGoにはアジアに暗号通貨ベースの安価で高パフォーマンスな決済を提供するというビジョンを持っており、すでにコインの時価総額は10億ドルです。ICO以前の2013年からプロダクトを開発してきた経緯があり、ICO後も必要な買収をしたり、提携先を確保しようとしたりと真面目です。お金集めておしまいとせず、どんどん事業を進めていく点が、日本人CEOの良いところなのではないでしょうか。OmiseGoは面白いです。

参照


 

核融合の発達、超時代遅れな日本の原発議論:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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C-2U device. Courtesy of Tri Alpha Energy Inc.

Google Researchがアメリカの主要な核融合技術開発企業「Tri Alpha Energy」の進めるプロジェクトに参画し、核融合発電の実現に向けて共同で研究を進めていることが発表した。両者は核融合時に発生する、超高エネルギーを有するプラズマを制御するための新しいアルゴリズム「Optometrist(検眼)」の開発を進めています。Microsoft共同設立者Paul Allenが出資するTri Alpha Energyは、5億ドル以上の資金を調達。米国ではアカデミア層がインダストリー側に移る動きがあり、投資家が巨額の研究費を融通する形で生まれたTriもその例のひとつです。そこにこの枠組みの最大のバッカーとも言えるGoogleがかんだこの取り組みは象徴的です。卓越した科学者にいいビジョンがあるとお金は集まる時代になりました。

Tri Alpha Energyが開発してきた「C-2U」という核融合実験マシンの中で、水素を太陽に存在するものと類似した超高温のガスである「プラズマ」になるまで加熱します。この高温下で非常に複雑な反応が起きます。それを制御するのは困難を極めます。今回開発されたOptometristアルゴリズムは、「C-2U」のなかで、プラズマがその発生から時間の経過とともに総量を減少させることを最小限に抑えることに役立っているようです(下図)。Googleと共同で開発したアルゴリズムにより、エネルギー損失が50%も少なくなり、プラズマエネルギーの総量を増加させることに成功したといいます。

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プラズマの「行動」は小さな変化が大きな結果の変化を生む非線形現象を含んでいます。TriとGoogleはC-2Uで8分ごとに実験を行いましたが、それは水素原子のビームをプラズマに吹きつけて、磁場中で最大10ミリ秒回転させ続けることを含みます。その目的はプラズマが理論が予測しているように動作するかどうかを調べることであり、消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生成する核融合炉を確立する有効な手段だと考えられています。

Optometristアルゴリズムは人間による実験とモンテカルロ法の双方に基づくもの。モンテカルロ法は「AlphaGo」などに応用されています。「乱数に依る試行を繰り返し、結果を統計的に読み解くことで、求めるものらしきものに近づく」手段です。カジノがあるモンテカルロの名前が付されていることからも分かる通り、ギャンブルなどの「ゲーム」の解法を得るために発達しました。

機械学習の知見によりハイパーパラメータの探索空間を広大にすることで、オペレーションに関わる人間の能力を拡張することができ、複雑で多面的なシステムを解明することが可能になったといいます。

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Toshiki Tajima and Michl Binderbauer. Courtesy of Tri Alpha Energy Inc. 

核融合発電が必要とする資源は地球上のいたる場所にあります。資源を巡って人間が争う問題を避ける大きな一手になりえます。核融合発電の理論上のコストパフォーマンスは既存の何よりも優れているはずですし、木星に宇宙基地を作る際も核融合技術はとても役に立つはずです。

核融合発電が社会にもたらす変化もまたカオスで予測不能だと思います。都市の形を大きく変えてしまうはずですし、石油価格が急落し、石油などと結びつきの強い王政やクローニーキャピタリズムが崩壊するかもしれません。インフラ整備が格段に楽になるため、発展途上国は物凄い勢いで発展し、発展国よりも優れたスマートシティに住むようになる可能性もあります。

日本の原発議論は超時代遅れ

日本で交わされている独特な原発議論は、完全に時代に置いて行かれていますし、核融合太陽光発電などの他の技術進歩が、それを化石のレベルまで貶める可能性があります。東芝ウェスティングハウスというジョーカーを引いて沈みました。これらの問題のコアには、ガバメントや周辺の利益集団などで形成される意思決定者(いわゆるエリート層)たちが、科学の進展とその社会適用速度の加速や、Googleを20年で巨大企業にした資本主義の決定的な変化に、明確についてきていないことがあると思います。

総務省のAI開発ガイドラインにおける「AIに殺される問題」でPreferred Networksが離脱しました。スマートスピーカーに「AIスピーカー」と素っ頓狂な名前を付けて顰蹙を買いました。

Plasma fusionテクノロジーが結果を出してくるとこれまでの常に政治的に行われてきた原発議論は何だったのか、ということになるはずです。もっと効率的で素晴らしい発電方法があったのにもかかわらず、効果的な投資をせず、個々人の政治的利益だけを鑑みて見当違いな議論をしているということです。

よりスマートなレギュレーター、よりスマートなガバナンスの開発こそ日本の課題であることは間違いないです。

 参照

 

 

AmazonとGoogleのコア事業が衝突:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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今週はGoogleWalmartの提携が最も大きなニュースだった。Google ExpressでWalmartの商品を注文し、発送されるようになった。デバイスはラップトップ、モバイルだけではなく、Google Homeを通じた音声での注文も可能になったという。

AmazonがWhole Foodsを買収しリアル小売に参入しており、敵の敵は味方の論理で、今回の協働に至ったと考えられている。Google ExpressはすでにCostcoなどを取り込んでいるが、GMV(総流通額)で大きなインパクトを出せていない。Walmartも自らのECを展開するものの、ECに関してはAmazonの支配力は本物だ。

Googleはコマーシャルハードウェアは余り得意ではない、というのが定説だが、物流などのとても泥臭い部分には知見はなく苦手そうな気がする。だからこそGoogle Expressに既存小売業者を載せる形態を採用しているだろう。

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収益規模ではWalmartAmazonを大きく突き放しているが、金融市場の評価ベースではAmazon時価総額4700億ドル)はウォルマート(同2400億ドル)の約2倍で、立場が逆転する。

購買行動の変化

今回の提携の興味深い点はGoogle Homeを利用してWalmartの商品を購買することが可能になることだ。音声デバイスを利用した購買がどの程度拡大するかは今後の状況を追うしかないが、音声での購買ではユーザーは少ない情報量で、購買の決断に至る可能性がある。特に日用品に関しては同じものを買い足していく可能性があり、スマートホームとの連携が高度化すれば、冷蔵庫の中のある製品が足りなくなってきたから購入するかと、パーソナルアシスタントが尋ねてきて、購買が終わる可能性もある。将来的には自動的に日用品の不足を補うスマートホームも考えられ、月定額で日用品を補充するサービスも検討されるだろう。

Voice Enable vs Serch

Googleはパーソナルアシスタントが普及した後の世界でどう収益源を探すのだろうか。検索広告はGoogleの収益の4割程度を占めていると推測される。

仮に購買行動が「すべてを音声で済ませる」方向に向かえば、検索後にスクリーン上で広告を見るプロセスは省略される。ボイスイネーブルとスマートホームや各種プロダクト / アプリケーションの連携はその方向性を帯びている。この流れはGoogleの主要な収益源の不安要因になりかねない。

一方でAmazonはコマースのバリューチェーンをがっちり握っておりユーザーは広告を見ようが見まいが関係がない。買ってもらえばそれでいい。音声認識によるコマースはAmazonに有利に働く可能性もある。

AmazonWhole Foods Marketのプライシングを28日から下げると明らかにしている。Whole Foodsの価格は高いと言われていた。Amazonがもつオンライン購買データやダイナミックプライシングなどのノウハウとミックスすることで、価格戦略を改善できるだろうか。ダイナミックプライシングは需給状況に応じて価格を変動させることによって需要の調整を図る手法であり、繁忙期の飛行機の値段などが上がるなどの例が最も有名だ。Amazonは、今後Amazon Prime会員のベネフィットを積みましていくと考えられる。

各地で狼煙が上がっている

GoogleAmazonの攻防はかなり熾烈になっている。Amazonは独自のモバイル、タブレット、OSを開発したが、市場は歓迎しなかった。Amazonが人々が高頻度で接触するデバイスやアプリケーションを持ちたいという欲求を叶えたのが、Amazon EchoでありAlexaだ。これらがスマートホームの時代にどれだけの価値を囲い込めるか。

また、今回のGoogleWalmart提携で小売での競争も激化し始めたが、AmazonGoogleの重要な収益源であるデジタル広告に厳しい攻勢をかけ始めている。AmazonのQ2のアーニングコールでは広告セールス部門の拡大が明言されていた。

Googleの巨大なデジタル広告の牙城の中で最も重要なのは検索広告で、ここは依然として競争相手を吹き飛ばしている状態が続くと考えられる。

ただし、ディスプレイ広告に関してはGoogleが買収したダブルクリックのエコシステムを育てた部分にAmazonがにじり寄っていると迫っていると考えていいだろう。もちろん、Googleはディスプレイ広告の重要な要素をがっちり固めていて、良い広告在庫は概ね自分らで扱える(他者はあんまり扱えない)状況を築いている。

ディスプレイ広告の景色を変えるか?

ここにAmazonはヘッダー入札という技術にテコを掛ける形で、広告在庫の流通を変えにかかっているのだ。ステークホルダーの多くがGoogleの支配力に不満を持っていると考えられるなか、Amazonが他者にどの程度のベネフィットをもたらすかが気になる。バイサイドのテクノロジーはすでに素晴らしく、ECに誘導する商品開発も興味深い。

しかし、Amazonは取引形態を変えていく欲望をもっていて、その結晶が「Transparent Ad Marketplace (TAM) 」だ。Googleが現行主導している取引形態とは以下が異なる。

  1. サーバーサイドでのソリューション提供によりクッキーのマッチングを改善できる、レイテンシの克服
  2. エクスチェンジが提示する「本当」の最高価格をとれる(?)
  3. ソフトウェアアズアサービス的な手数料形態の導入

Amazonの主張だけを聞いていると、かなりダブルクリックに優位な気がしてくるが、知らないことがたくさん潜んでいるのがアドテクの世界だ。

小売、広告とAmazonGoogleは両者のコアを攻めあっている。

 

 

 

 

 

 参照

 

https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-08-25/amazon-primes-whole-foods-for-more-visitors