デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

日本という高齢化社会で高齢者と若者が仲良くなるために:オールドマネーがスタートアップを育てるとき

 

Day 21 Occupy Wall Street October 6 2011 Shankbone 16www.flickr.com

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2007-2008年の世界金融危機の後は、世界中で高齢者と若者の断裂が起きてしまった気がする。一番分かりやすい指標は若者の失業率だ。欧州では常軌を逸したレベルに達し、米国でも最近回復したが、かなり厳しい水準だった。

Unemployment, youth total (% of total labor force ages 15-24) (modeled ILO estimate) | Data | Table


source: tradingeconomics.com

若者の失業が深刻なスペインは、回復基調だけど20.9%。
 
欧州の若者たちの状況についてはこのポストで触れた。若者は高齢者が仕事を独占しているから、若者にパイが回ってこないと考えている。若者と高齢者のゼロサムゲーム、という世界観だ。
日本では、若年層の完全失業率は7%と諸外国より低い水準だが、全体の失業率よりも高い水準にあるのは確かだ。また若者の間で増えている非正規雇用は、正規との間に深刻な利益の対立を生んでいる。労働組合はかなり限定された人々を代表するだけではなく、そもそもが御用化しているケースが多い。政権が圧力をかけても春闘は盛り上がらない。

 

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日本には高齢者と若者の仲が悪くなる要因がたくさんある。収益力と創造性を失った会社を無理矢理「国策」として蘇生させるお国柄だ。がんじがらめで何も変わらないし、フィンテックのような新規領域では馬群の後方を走ることになれてしまった。そうなってくると、縮小する経済の中でのゼロサム(マイナス)ゲーム的世界感が首をもたげてくる。相手を椅子から引きずりおろして自分のパイを確保するというふうな。

 

若者にとって愉しくない点はこんな感じだろうか。

①国の莫大な借金を返済するのが若者だということ

②年金制度も現在の受給者にとってはおいしいが、若者からみると、すでに破綻していること
正規雇用の割合が親世代に比べ低下しており、平均賃金の漸減がみてとれる。 
米国や新興国では、結婚、住宅の購入などのイベントを控えるミレニアル世代が消費の中心を担うが、日本ではこの世代はあんま金を持たず消費を控えている。若者の懐が温まらず、消費日和でも金を貯め込む傾向があるなら、日本の個人消費が長期的に低迷する可能性は高い(そもそも人口が減る)。
 
まあ、これはダウンサイドばかりじゃない。消費に夢を抱かないせいで、古典的な消費に拠らない新しいカルチャーは生まれつつあるし、どんどんアップデートできると思う。
 
ただし、格差は政治的歪みの土壌になりうる。欧州の極右やフーリガンの構成員は低所得者が主だし、ドナルド・トランプの支持者は所得水準が低めの白人男性がコアだ。日本でも極右的な情報でネット空間で勝利を収めているのは、人より柔軟に時間を使える立場の男性なのではないだろうか。彼らは発する情報量が圧倒的でネット上の情報流通について精通しており、受け手に対する相当量の接触頻度(フリクエンシー)を確保できる。
 
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しかも、これからはロボットと人工知能が人間の仕事を奪う時代になるかもしれない。分配がうまくなされれば、人間の代わりにロボットが働き、人間は休めるが、果実は少ない人間が噛みしめる可能性が高い。グーグルとトヨタ自動車の従業員数を比べてみれば明白だ。
 
じゃあどうすればいいのか。自動化した後は次々に新しい領域を切り開いて、自分の働く場所を自分で生み出さなくてはいけなくなるだろう。
 
もちろん、ゾンビは退場をせまられるだろう。千年企業だって? とんでもない!! 企業の寿命は30年くらいでいいかも。莫大な個人資産を預かる銀行や指導する政府は資金の置き場所を大きく誤っているのだ。堀江貴文が言うように、企業ではなくプロジェクトという形で物事を進めるのも有用だろう。組織の目的が明確になる。
 
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つまり、日本は新しいことががんがん始まる仕組みを創らないといけない。ここで活きてくるのが、高齢者が貯めている莫大な貯蓄だ。貯蓄は国債を買い支えるために使われているが、これをベンチャーキャピタルの原資にすれば、世界でも類をみない、イノベーションの経済的基盤を作ることができる。
 
スタートアップは若者を雇用せざるを得ない。多数のスタートアップが潰れて雇用が霧散したとしても、建設が生み出す雇用と似たようなものになるだけだ。100分の1が大きく育てば、恒常的に雇用や税をもたらしてくれる。
 
 
世界経済が余談を許さない中、各国で財政政策は今後も必要になる。財政政策はいま、何をやればいいのかわからない。新国立問題で分かるように必要のないものをつくらざるを得ないし、建設作業員の確保も大変になっている。財政政策の一部もまたスタートアップ育成のエコシステム造りに振り向けるのはどうだろう。公共事業の次の役割は、新規産業の創出だ。つまり投資である。
 
それから、GPIFのポートフォリオの一部もベンチャーキャピタルにすればいい。正直自分の世代が年金をもらえるとは思っていないから、もっと創造的で、若者の雇用に繋がる投資に向ければいい。このジャイアントの一欠片でも、スタートアップ界隈に注ぎこまれるなら、山が動いた、って感じになる。
 
高齢者世代が、抱き込んだ財産を次世代に投資するなら、若者と高齢者の間の崖はなくなるだろう。どころか、高齢化社会の乗り越え方として、新しいモデルを世界に示せるだろう。