デジタルエコノミー研究所

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井深大の『私の履歴書』に学ぶクリエイティブなグループの作り方

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週末に井深大『私の履歴書』を読んだ。昔は日本にこういう人がいて、いまは余りいないか、いても日の目を見ないのは、つまらない気がする。でも、高度経済成長期から安定成長期まで、ソニーのような現場がとても熱かったのは事実。どんなことも試してみる。技術者がワクワクする職場をつくるための学びがあった。

1.顧客中心の観点

第12回 テープレコーダー 日夜苦心、やっと成功 手をとり合ってうれし泣き

私はこれまでいろいろな物をこしらえて商売にしてきたが、たいてい軍とか役所とか放送局のもので与えられた仕様書によって作ったものばかりだった。それで何か大衆に直結した商品をかねがねやってみたいと思っていた。大衆は製品のきびしい審判官であり、正しい評価をするものだと信じていたので、大衆商品はいちばんやりがいがあるような気がしていた。

これは現在のユーザーエクスペリエンスに通底する考え方だ。いま耳にタコができそうなほど聞かされる「顧客中心型」を当時の井深大氏は気づいていた。だからウォークマンを開発できた。

2.リスクをとる

第14回 小型ラジオ 部品屋くどいて製作 全世界へ50万台以上売る

歩どまり5%、つまり100個こしらえて及第するものが5個になったとき、ラジオの生産に踏み切った。前にも書いたように世界で2番目のトランジスターラジオの商品化はかくしてできあがったのだが、世界で2番になれるのは当然である。あたりまえの企業家だったらこんなむちゃな計画は立てるわけがない。

しかし歩どまりは必ず向上する目算があったので私は思い切って決断したのである。もしあの時、アメリカでものになってからとか、欧州の様子をみてからこれに従ってなどと考えていたとしたら日本が年間500億円の輸出をするトランジスターラジオ王国になっていたかどうかははなはだ疑わしく、したがって今日のソニーもありえなかっただろうし、この無謀ははなはだ貴重な無謀だったと考えている。 

当時、新規事業で抱えるリスクは大きかった。しかし現在、技術革新はどんどんリスクを抑え、失敗のコストを減らしている。つまり「試してみないとわからない」を実践できる。すべてがコモディティ化する時代には、リスクテイクするから他社に差をつけ、独占を築くことができる。

 3.技術屋だから「次」がわかる

1992年にはソフトウェアについて先見の明を見せている。当時、商用インターネットの黎明期で、その後「情報技術(IT)革命」と形容された変化が起きている。

Marc andreesenの「Software is eating the world」はこの約20年後だ。

それはどういうことかと言いますと、「デカルトがモノと心というのは二元的で両方独立するんだ」という表現をしている。これを話していたら1時間くらいかかるから、このぐらいにしておきますけど、モノと心と、あるいは人間と心というのは表裏一体である、というのが自然の姿だと思うんですよね。

それを考慮に入れることが、近代の科学のパラダイムを打ち破る、一番大きなキーだと思う。それが割に近いところで、我々がどういう商品を作ろうか、さっき話のあったカスタマーを満足させるためのモノをこしらえようか、というのは人間の心の問題だと思う。

ハードウエアからだんだんソフトウエアーズが入ってきて、だいぶ人間の「心的」なものが出てきたんですけども、まだソフトウエアーズというと、なんだか分かんないんですよね。 ソフトウエアーズの意味もいろいろありますけど。もっと単刀直入に人間の心を満足させる、そういうことではじめて科学の科学たる所以があるので、そういうことを考えていかないと21世紀には通用しなくなる、ということをひとつ覚えて頂きたいと思います。

4.物量戦ではなく、独自のことをやる

「管理屋の跋扈でソニーからヒットが消えた」ウォークマンの父、大曽根幸三が鳴らす警鐘(上)

「立ち上がれ!ソニーの中の“不良社員”」ウォークマンの父、大曽根幸三が鳴らす警鐘(下)

デジタル化の時代になって、韓国勢や中国勢、台湾勢が、その製造装置を買うことができれば、日本企業と同じ品質やスペックの製品が作れるようになってしまった。半導体は物理学の世界で、原理原則をきちんとやると、後は論理的に同じ結果が出る世界なんだ。だから同じ装置を使えば、同じ品質のものが作れる。

結局、半導体や液晶パネルは、中国勢や韓国勢に急速に追いつかれて、抜かれてしまった。こうなると技術力うんぬんではなく、いかに質の高い設備を大量に買うことができるかという投資余力の有無で勝負がつく。パワーゲームになってしまうんだ。日本勢には分が悪いよね。そういう戦い方に慣れてないから。

ソニートランジスタラジオで一世を風靡したのは、世界のどこを探してもトランジスタの製造装置なんてなかった時代だからだよ。ソニーは自分で独自の製造装置を作って、トランジスタラジオを作った。だから競争力のある製品だったんだ。

「次は何をしようか」が井深の口癖だったというが、常に革新的なことに挑戦するグループをつくることが重要だ。半導体は物理学の世界で、原理原則をきちんとやると、後は論理的に同じ結果が出る世界なんだ。だから同じ装置を使えば、同じ品質のものが作れる」。

この傾向はAI、IoTなどのバズワードが示すトレンドの進展により、さまざまな分野に波及していくだろう。よく言う話だが20世紀は物理学の時代であり、21世紀は生物学の時代だ。変化を織り込んではじめて、野心的な目標は掲げられるのだろう。

履歴書の序盤、ソニー初期で、触れられているが「やってみればできる」とグループが信じていることが重要だ。どうやってワクワクする、面白いことを実現するグループをつくれるか、今後も研究していきたい。

Photo via Sony