デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

核融合の発達、超時代遅れな日本の原発議論:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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C-2U device. Courtesy of Tri Alpha Energy Inc.

Google Researchがアメリカの主要な核融合技術開発企業「Tri Alpha Energy」の進めるプロジェクトに参画し、核融合発電の実現に向けて共同で研究を進めていることが発表した。両者は核融合時に発生する、超高エネルギーを有するプラズマを制御するための新しいアルゴリズム「Optometrist(検眼)」の開発を進めています。Microsoft共同設立者Paul Allenが出資するTri Alpha Energyは、5億ドル以上の資金を調達。米国ではアカデミア層がインダストリー側に移る動きがあり、投資家が巨額の研究費を融通する形で生まれたTriもその例のひとつです。そこにこの枠組みの最大のバッカーとも言えるGoogleがかんだこの取り組みは象徴的です。卓越した科学者にいいビジョンがあるとお金は集まる時代になりました。

Tri Alpha Energyが開発してきた「C-2U」という核融合実験マシンの中で、水素を太陽に存在するものと類似した超高温のガスである「プラズマ」になるまで加熱します。この高温下で非常に複雑な反応が起きます。それを制御するのは困難を極めます。今回開発されたOptometristアルゴリズムは、「C-2U」のなかで、プラズマがその発生から時間の経過とともに総量を減少させることを最小限に抑えることに役立っているようです(下図)。Googleと共同で開発したアルゴリズムにより、エネルギー損失が50%も少なくなり、プラズマエネルギーの総量を増加させることに成功したといいます。

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プラズマの「行動」は小さな変化が大きな結果の変化を生む非線形現象を含んでいます。TriとGoogleはC-2Uで8分ごとに実験を行いましたが、それは水素原子のビームをプラズマに吹きつけて、磁場中で最大10ミリ秒回転させ続けることを含みます。その目的はプラズマが理論が予測しているように動作するかどうかを調べることであり、消費するエネルギーよりも多くのエネルギーを生成する核融合炉を確立する有効な手段だと考えられています。

Optometristアルゴリズムは人間による実験とモンテカルロ法の双方に基づくもの。モンテカルロ法は「AlphaGo」などに応用されています。「乱数に依る試行を繰り返し、結果を統計的に読み解くことで、求めるものらしきものに近づく」手段です。カジノがあるモンテカルロの名前が付されていることからも分かる通り、ギャンブルなどの「ゲーム」の解法を得るために発達しました。

機械学習の知見によりハイパーパラメータの探索空間を広大にすることで、オペレーションに関わる人間の能力を拡張することができ、複雑で多面的なシステムを解明することが可能になったといいます。

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Toshiki Tajima and Michl Binderbauer. Courtesy of Tri Alpha Energy Inc. 

核融合発電が必要とする資源は地球上のいたる場所にあります。資源を巡って人間が争う問題を避ける大きな一手になりえます。核融合発電の理論上のコストパフォーマンスは既存の何よりも優れているはずですし、木星に宇宙基地を作る際も核融合技術はとても役に立つはずです。

核融合発電が社会にもたらす変化もまたカオスで予測不能だと思います。都市の形を大きく変えてしまうはずですし、石油価格が急落し、石油などと結びつきの強い王政やクローニーキャピタリズムが崩壊するかもしれません。インフラ整備が格段に楽になるため、発展途上国は物凄い勢いで発展し、発展国よりも優れたスマートシティに住むようになる可能性もあります。

日本の原発議論は超時代遅れ

日本で交わされている独特な原発議論は、完全に時代に置いて行かれていますし、核融合太陽光発電などの他の技術進歩が、それを化石のレベルまで貶める可能性があります。東芝ウェスティングハウスというジョーカーを引いて沈みました。これらの問題のコアには、ガバメントや周辺の利益集団などで形成される意思決定者(いわゆるエリート層)たちが、科学の進展とその社会適用速度の加速や、Googleを20年で巨大企業にした資本主義の決定的な変化に、明確についてきていないことがあると思います。

総務省のAI開発ガイドラインにおける「AIに殺される問題」でPreferred Networksが離脱しました。スマートスピーカーに「AIスピーカー」と素っ頓狂な名前を付けて顰蹙を買いました。

Plasma fusionテクノロジーが結果を出してくるとこれまでの常に政治的に行われてきた原発議論は何だったのか、ということになるはずです。もっと効率的で素晴らしい発電方法があったのにもかかわらず、効果的な投資をせず、個々人の政治的利益だけを鑑みて見当違いな議論をしているということです。

よりスマートなレギュレーター、よりスマートなガバナンスの開発こそ日本の課題であることは間違いないです。

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