デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

独自コインこそ最大の罠:日本人チーム初ICOのALISが示した教訓

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Via Pixabay

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)の熱は留まるところを知りません。ICOで生まれる価値は株式会社という仕組みをインターネットの時代に則した形にする可能性があります。また株式会社が内包するコストをカットできる可能性もあります。しかし、ICOは始まったばかりでさまざまな課題をもっています。今回はいくつかICOの課題を指摘し、今後のICOの発展に貢献したいなと思います。

東 晃慈(@Coin_and_Peace)の記事では、ICOプロジェクトでは特にプロダクト開発面での進捗が通常のスタートアップのプロジェクトに比べ遅くとも許容され、最初に何十億円も調達できてしまうので、MVPに達するインセンティブがなくなることが指摘されています。

48のプロジェクトのうち、Working productをリリース出来ているのは3つのみ。27(56.25%)は何もプロダクトを一般リリースできていない。またWorking productをローンチできたプロジェクトも実際にまだ大きな成果を出しているとは言い難い。アルファとベータプロダクトのクオリティーにはプロジェクトごとに大きな差異があり、アルファ状態から進捗が数年見られないようなプロジェクトも見受けられた。

さらにプロジェクトの進捗と資金調達額にはあまり相関性がないことも指摘されています。投資家と開発者の間の情報の非対称性は凄まじく、投資家は何がいいかを判断できないまま投資を決断している状況が指摘されています。つまり、ICOは壮大なレモン市場と化しているわけです。

瓜二つのALISとSteemit

現在、ALISが日本人で固めたチームによる初めてのIPOを行っています。日本に法人があるのではなく香港法人によるICOです。

ALISはホワイトペーパーにもある通り「Steemit」から着想を得ていますし、その仕組みはコピーキャットの域を出ていない印象です。このためSteemitのモデルを検討すれば、ALISがある程度わかると思います。実際にはALISはSteemitの複雑化して煙に向いている部分を取り外し、煙に巻いていないだけの形をしている、というのが私の印象です。

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ゼロから価値を創造し配りまくる「魔術」

Steemit自体が独自コインを発行し、それをユーザーに分けていく仕組みを採用しています。Steemは毎年ほぼ倍増する非常に高いインフレ供給モデルです(途中でユーザーの要望によりコインの増加量を限定しました)。

  • 基本的に外部からの価値供給がない。そもそもの価値がどこから生じたのかが明確ではありません。なぜSteemが価値があるのか。理論上は価値がどんどん落ちていく通貨を、コンテンツ提供者やコンテンツ発掘者に報酬として渡しても、インセンティブがうまれません
  • 先行者に優位。SteemitはSTEEM, Steem Dollars, Steem Powerとプラットフォーム内を流通する通貨に奇妙な分類を付けていますが、これに対し利子が生じます。初期参入者は複利を楽しめますし、コンテンツへの投票などで発言権がおおきくなるようです。
  • Steemitの価値は暗号通貨バブルで確保。取引所でのSTEEMの価格により、なんとなくSTEEMに価値があるということになっています。

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おそらくALISでも同様のできごとが想定できます。クリエイターへの報酬を保証し、信頼性を確保する仕組みを提供するという役割がALISトークンに期待されていますが、どちらかというとトークンを集める競争を誘発すると想定されます。 信頼を保証する通貨が増え続けることは、その信頼を保証する効果も薄れていきます。信頼や評価のようなもの(この場合はトークン)を囲い込むプレイヤーが優位に立てるゲームであり、先行者利益がおおきいのです。私はこの部分はより厳しいレーティングを当てるべきだと考えております。

トークン自体の金銭的価値も減少を続けていきます。しかも、交換相手として想定されるEthereumの価格は上昇を続けています。減価するトークンでユーザーをインセンティバイズすることは難しいでしょう。下記のように図になっているとインセンティブ設計がうまく言っているように感じられますが、基本的には資金調達上生み出さざるを得なくなったトークンに信頼の保証を依存しており、その信頼は無尽蔵に価値のバックがなく生み出され続けていきます。

しかしICOバブルはうますぎる

しかし、ICOをするプレイヤーとしてはファンドレイズの簡易さが大きいです。通常のシードラウンドで1000万円程度の調達と考えられる案件が、2億超に膨れ上がるわけです。そしてその際のコストはかなり低く抑えられているわけです。トークンが怪しいものであろうと運が良ければ、取引所で価格が上がりステークホルダーが喜びます。

不要なトークンを正当化して歪むプロダクト

私はここらへんにICOには罠があると思います。つまりプロダクトを歪めてしまう可能性が高いのです。資金調達のために独自トークンを設定する必要が生じ、プロダクト開発から観た際に、不要なトークンが組み込まれます。そのトークンを正当化するため他の部分にも手を入れざるを得なくなります。

トークンに「煩わしさ」を排除した株式の機能をもたせるのが最善策に思えるが、「有価証券」と認定されるやいなや規制の網の中に入ります。率直に言えば、日本では規制にコントロールされると、あらゆるイノベーションがうまくいかなくなる傾向があります。中国はICO禁止しましたが、日本はこれを機会と捉えて、もっと積極的な法制をとるべきではないかと考えます。

同じICOでも面白いのはタイのOmiseGoだと思います。OmiseGoにはアジアに暗号通貨ベースの安価で高パフォーマンスな決済を提供するというビジョンを持っており、すでにコインの時価総額は10億ドルです。ICO以前の2013年からプロダクトを開発してきた経緯があり、ICO後も必要な買収をしたり、提携先を確保しようとしたりと真面目です。お金集めておしまいとせず、どんどん事業を進めていく点が、日本人CEOの良いところなのではないでしょうか。OmiseGoは面白いです。

参照