デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

無価値コインの終わりの始まり:中国のICO禁止

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 ICO(イニシャル・コイン・オファリング)にパリス・ヒルトンまで関心をもつようになった矢先、中国政府がICOを禁止しました。ロイターが国営の新華社から得た情報によると、オンライン上の金融活動を監視する政府組織のデータとして7月に伝えたところでは、中国では今年、65件のICOがあり、10万5000人から26億20000万元(3億9460万ドル)を調達したといいます。中国の中銀は企業はICOで得られた資金をリファンドすべきとの考えを示しています。

7月下旬には、米国証券取引委員会(SEC)がEthereumの上に生まれた分散型ファンド・組織である「The DAO」などがアメリカの1933年証券法ならびに1934年証券取引法に違反したかに関する調査し、「今回は罰則の適用を求める行動をとらない」としたものの、The DAOの行ったICO(イニシャルコインオファリング)で発行されたトークンは「有価証券の発行だった」と認定したことが発表されています。

米中という世界経済の双頭でICOに対して規制の方向性が示された形になったと思います。

それでもICOは終わらない

これでICOが死んだと考えるのは時期尚早でしょう。FTによると、海外のプラットフォームを活用すれば本土中国人はICOへの投資が可能です。海外のICO関連ウェブサイトが中国語バージョンをもつことを止める手立てはありません。 

ICO自体はスイス、シンガポール、香港などの金融のルールが「簡単」な国に法人、財団を設けて行われるのが通常です。これらを中国当局が規制することはできません。シンガポール、香港で本土中国人の存在感は増しているはずです。

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cegoh | Pixabay

中国人は海外旅行を好んでいますが、目的は観光だけではなく、シンガポールなどを活用したり、海外のネットワークを使えば、ICOへの参加は今後も可能になるでしょう。それにわれわれが想像できないループホールを開拓するのが中華系なんです。

感化できないレベルの資金流出

今回の判断の最も大きな背景は「資金流出への恐れ」です。中国では富裕層だけでなく中間層も、資金を海外に逃がすことに高い関心を示します。だからこそ、その手段になりうるビットコインに対して中国政府は厳しい態度をとり続けてきました。ICOもまた人民元をコインにして外貨でイグジットすることが可能になります。中国の企業社会はかなり腐敗しており、汚れた金をきれいなお金に変えるプロセスにも使えるでしょう。これは暗号通貨の問題ではなく、悪い人たちに問題があります。加えて資金洗浄の手段は他にもたくさんありますので暗号通貨が画期的なその手段ではありません。例えば、マカオのカジノでお金をチップに替えて、マカオダラーにしてその後、国際送金ネットワークを利用して欧州やシンガポールの口座に送金するという方法は(私が知っているくらい)有名でした。

上記記事では、中国国家外貨管理局の資料は「中国の資金流出傾向に歯止めがかかっている」と言っています。しかし、まずこれらがフォーマルな数字であることに留意しないといけません。インフォーマルはどうなっているのでしょうか…。

ICO自体は暗号通貨マニアック界隈ではすでに輝きを失ったスキームですが、新規参入者、特に既存の枠組みで資金調達を経験している金融関係者にとってはピカピカに光って見えています。ICOや暗号通貨はいわば金融機関、証券取引所監査法人などの枠組みで運用される伝統的なモデルをスキップできることが相当素晴らしい。この層が最近は「ICOコンサルティング」の提供者や顧客になろうとしており、最近のICOブームを盛り上げてきたでしょう(私もいろんなお誘いを受けました笑)。

前回の記事で指摘したように、アプリケーションにファンドレイジングの都合上、無理矢理据え付けたコインは価値が薄いはずです(ないかもしれません)。しかもこれらはアプリケーションのユーザー体験を低下するようにできています。

今後の暗号通貨の価値は、明確な価値を表現できそうなBitcoin(ゴールド)、Ethereum(分散型アプリケーション構築プラットフォーム、トークン)、Litecoin(マイクロペイメント)などに収斂していくのではないのでしょうか。いわゆるScamコインは厳しい市場環境を迎えており、宴が終わろうとしているのかもしれません。淘汰は長期的にみれば暗号通貨の信頼性を高めていくことに寄与するはずです。

あと、DIGIDAYで書いた伊藤穰一さんのお話も「長期的な視野」という点で参考になると思いますので、付記しておきます。

   参照