デジタルエコノミー研究所

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Facebook Watchはメディアの動画ピボットを「強制」する?

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FacebookはWatchを開始しました。FacebookYouTubeを追いかけようとしていると考えられていますが、過当競争の動画市場にどのような隙間があるのか、見ものです。

Facebook Watchが導入されると、利用時間上位Appのビデオ(動画)化がさらに濃くなります。FacebookInstagram、Messenger、AmazonNetflix、Alphabet、Twitter…と皆何らかの動画をやっています。特に記事消費にとても強いFacebookがWatchで動画色を濃くすることは、パブリッシャー(メディア企業)の動画ピボットを「強制」する力がありそうです。

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YouTubeは2015年の夏に広告在庫取引をプログラマティックに限定し、エクスチェンジでの他者の買い付けを排除しました。現在はその専売的な取引方法が、動画広告への予算の大移動という外部環境とともに、大きな収益を上げるようになりました。検索広告がAlphabetの収益の4割程度を占めていますが、YouTubeは同様の稼ぎ頭になろうとしています。

Facebookは広告の在庫数が臨界点に達しており、単価の高い動画広告にシフトすることで、収益拡大を目指そうとしています。動画、ライブ動画などの機能を追加し、ついに今回テレビのようなWatchを追加しました。

プロダクトデザインの観点から観ると、FacebookはWatchを独立したAppとして切り分けるか悩んだと考えられます。YouTubeNetflixがいい例ですが、動画視聴は一つのアプリケーションで完結している方がユーザは使いやすいはずです。Facebook messengerは別のアプリに切り分けることで大正解で、両者の連携も素晴らしく、FacebookはMAUが10数億人のAppを2個手に入れることになりました。

動画はそうはいきません。友人がシェアした動画を観るのは確かにFacebookInstagramは適していますが、エンターテイメント目的の視聴には「つながり」が余りいきてきません。視聴自体はそのAppでして、コメントはTwitterなどで行うという使い分けをするユーザー行動を認められるはずです。

Facebookはどう考えても機能過多です。タブやボタンがたくさんありかなり考えながらアプリを操作しないといけません。開発国(Developnig Contry)に提供されているFacebook Liteの方が明快な部分だけが残されている印象です。動画は機能としてボリュームがかなりでかく、Facebookを大改造して「YouTube化」しているふうに感じられます。

で、私が5月に最高製品責任者(CPO)のクリス・コックスにインタビューしたとき、彼はこのよう説明していました。

Facebookはビデオ(動画)に注力するが、それはテレビという形態をとらない」と答えた。ビデオはスクリーンに映る「モーションピクチャー」の総称であり、テレビもデジタル動画も含まれる。「テレビはビデオの一形態だが必ずしもインタラクティブ(双方向)ではない。私は動画の周辺で起きる会話、背後にある関係性、コミュニティがとても面白いと考えている。友人と動画を通じて双方向的に話し合うことについて考えてもらいたい」。

Watchにはパブリッシャーが参画していますが、彼らが得られるインセンティブを検討しましょう。Facebookコムキャストのようなケーブルテレビ事業者と、NBCのようなチャンネルを提供するテレビネットワークを兼ねていて、パブリッシャーがスタジオ、制作会社となっている。サプライチェーンを簡略化することに成功しています。

参画するVox Media、Buzzfeed、Group9 Media(Nowthisなどの持株会社)、Business Insiderはミレニアル世代向けのデジタル動画制作が強みで、すべてでBen Lerer一家が運営するベンチャーキャピタルの出資があります(日本には現状こういうVCはないですね。あったらいいのですが)。

上述のコックスCPOはビジネスモデルに関してこう説明しました。

「動画を制作した人は誰でも、Facebook上にビジネスモデルをもち、オーディエンスに対してプロダクトエクスペリエンスを表現できるようにしたい。人々はニュース、エンターテインメント、友人へのシェアとさまざまなソースからもたらされる情報を動画で得ることができるだろう」

動画に関してはクローズドな形でさまざまなフィルターを利用したやり取りを最初にAppの形で表現したのが、Snapchatでしたが、FacebookInstagramとともに機能をコピーし、その良さを取り込んでしまいました。そして次はテレビとUGC(ユーザー生成コンテンツ)にまたがるYouTubeの牙城に挑戦しようとしています。

動画の次と考えられる、VR/ARに関してはOculusの投資があり、ポストスマホとしてはメガネ的なデバイスも検討されています。ユーザーがVR/ARに移行しても、Facebookとしては困りません。

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Via Oculus

動画でもVR/ARでも最も重要なのはコンテンツです。いいコンテンツ群と継続してそれが生み出されるビジネスモデル、マーケットデザインが鍵を握ります。そして、本当に大変な制作においてもたくさんイノベーションが必要になります。

Facebookは最近ではインドクリケットリーグの5年間の放映権に対して6億ドルの入札をしました。ルパート・マードックの26億ドルに負けましたが、Facebookが巨額のスポーツ放映権入札のプレイヤーとして確立した瞬間です。DAZNJリーグの10年間の放映権に費やしたのが2100億円。インドのクリケットはそれよりも高いのです。

米国や中国のインターネット企業が動画に注力する背景は次のようなことがあります。

  1. テレビ広告予算とデジタル広告予算の融合 
  2. モバイル上での可処分時間の取り合い(動画はユーザーに長い時間を割かせられる)
  3. 動画配信コストの著しい下落

特に2に関しては、当たり前ですがモバイルアプリで動画が視聴されていることが重要です。あらゆる調査でAppがTime Spent(利用時間)の80〜90%を占めています。残りのWebは主に検索やソーシャルでの着地で基本的にはテキストと画像で出来たコンテンツに割かれていると考えられます。このため、ユーザーを動画視聴に足りるほどの長時間止め置けるAppを提供し、他者への還流を防いでしまうビッグプレイヤーに優位なゲームです。SnapchatがFacebookのコピー作戦以降減速したのにはこの部分も効いていそうです。

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参照