デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

『ゼロ・トゥ・ワン』と『Hard Things』を読み返してみた

お正月ということで一旦いろいろリセットするということで、著名な起業家、キャピタリストの本を読み返してみました。両者ともドットコムバブルの津波のなかで生き残った数少ない成功者であり、その経験に基づく洞察と、類推できる時代背景がとても愉しかったです。起業した後に読み返すと味がぜんぜん違いました。学びをメモしておこうと思います。

『ゼロ・トゥ・ワン』

スタートアップの成功には運が大きく関与しており「宝くじを引いている」側面は否定できません。しかし、複雑な世界の中では、起業家とそのチームが他者に対して大きく差を付けるポイントが存在している気もします。ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン』はまさにその考えに立脚しています。

『ゼロ・トゥ・ワン』のユニークな点は、明確に独占を賛美していることです。完全競争市場では利益はゼロに近くなって行きます。だけど、人々は競争が好きです。他人と同じフィールドに立ち、同じことをしていることに安心できるからでしょう。競争相手をやっつけることに思考をさくので、新しい何かを創造するよりも、むしろ「奴隷的な発想」で熱中できます。

ティールは独占を成し遂げるためにはマーケットにおいて5倍以上の競争力を持ったり、ネットワーク効果を起こしたりするのが良いと指摘しています。ニッチから初めてニッチを独占することからスタートアップの急成長は実現されると説くのです。

プロダクト開発の観点から考えると、まさしく小さな顧客層からスタートを開始することが重要だとわかります。Twitter創業者(諸説あり)のジャック・ドーシーはプロダクト開発に関して、早稲田での講演でこう説明しました。「最初はとにかく小さく。自分が使ってみたいものを作る。次は友達に勧める。フィードバックと更新を高速化して、どんどん良くしていく」。

独占を成し遂げるには他者がしないことをして、これまで存在しなかった価値を創造することが重要だとティールは説いています。ティールのチームのプロダクトをコピーして追走してきたX.comのイーロン・マスクは馬鹿に見えることをするのが合理的だと語っています。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

 

Hard Things

伝説のスタートアップ、ネットスケープに参画し、シリコンバレー最上級VCのアンドリーセン・ホロウィッツを率いる、ベン・ホロウィッツのこの本は素晴らしい読み物でした。クラウドというビジネスアイデアが90年代後半に会ったことに驚きます。

ホロウィッツが歩んだネットスケープ、ラウドクラウド、オプスウェアという歩みは、サーバークライアントからクラウドへの時代の変遷を見ることができます。仮想化技術の発展がオプスウェアの売却を決断させる一要因になったことが記されていますが、いまのクラウドサービスはまさしく仮想化をその成長の土台にしており、ホロウィッツの判断が正しかった。

ホロウィッツは、合理的な思考だけでは答えに到達できない決断を繰り返し、何度となく訪れた「死」を乗り越えることに至った経緯を記しています。スタートアップは常に「多腕バンディット問題」にぶつかっています。「どれを選択するれば最も効果が高いかを問われ続ける」ということです。その解答を探すのはペーパーテストとはわけが違います。奇妙なところに答えがすべて隠されていたり、まったく異なるロジックと不足した情報でプレーするプレイヤーが他の合理的なプレイヤーが獲得できる機会を大きく左右したりするのです。

そういうときにどうプレーすればいいのか、難問と困難が与えられたときに「死なない」ことが、生き残る術になるとホロウィッツは言います。スタートアップはどこまで行っても人間ドラマではあるのだな、と感じさせられました。

HARD THINGS

HARD THINGS

 

 まとめ

この二書を読みかえし、とてもやる気が出てきました。両者がオープンにしてくれた経験のおかげで、訓練すべきものが見えてきた気がします。小さなカテゴリで独占を築く力、困難な判断をする力は訓練次第で養えると考えられます。それを想定した、ロバストなチームを創るのにも、一定のいいロジックがある気がします。