デジタルエコノミー研究所

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格差社会を抹殺したいならAIとロボットで全員年収75,000ドル以上にしてしまえ

以下のグラフはOECDによる平均賃金の推移を記したものだ。多くの国の企業・公的機関などは十数年の間に賃金の増加で、人々をねぎらっている。しかし、日本は経済状況が難しい「欧州の問題児」イタリアと同様、賃金の横ばいが続いている。これが意味するところはかなり重たい。

次は年収ラボから日本人の平均年収の推移を持ってこよう。平成20年のリーマン・ショックから平均賃金が下がっている。企業側は非正規雇用を拡大し「サラリーマン」の賃金も抑えているようだ。

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そして内閣府『賃金と物価・生産性の関係(国際比較)』はこう指摘する。

  • 諸外国では賃金上昇率が物価上昇率と同水準あるいはそれを上回る傾向
  • 日本だけ賃金の下落率が、消費者物価の下落率より大きく、労働生産性の伸び率よりも一人あたり雇用者報酬の伸び率が低い

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従業員のインセンティブがおかしい方向を向き始めたことは、長期的な停滞の要因のひとつな気がする。「飯田香織ブログ 担々麺とアジサイとちょっと経済」によると、こうだ。

報酬の低さは、慎重すぎる日本のカルチャーに寄与していることは間違いない。日本ではリスクのある投資案件に賭けるよりも、内部留保をため込みたがる。ゴールドマン・サックスによると、より高い報酬を得ている役員ほど業績が良いということだ。
日本では、大胆な決断をするには金銭的なインセンティブはないばかりか、うまくいかなった場合の社会的な制裁が待っている。新たな進路がうまくいかなかった場合、メンツを失うばかりか、社員のリストラに直面し、退職後も顧問として残るという特権を失うことになるのだ。

ボス世代には他にも年金という、若年層には期待できない「Exit(出口)」まで用意されている。ボスが未来を拓くチャレンジをするインセンティブはなく、むしろ部下たちの意欲を削いだり、やり過ごしたりことに報酬がある。いわゆるサラリーマンの愚痴は『週間SPA!』を読めば分かる(細かく触れない。1冊買って出版不況に報いてほしい。この記事はわかりやすい)。

頑張った人に報いよう

『How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス)』によると、Googleは成果を出す人にはずば抜けた報酬を支払う。ソフトウェアの分野では個人個人で成果の差が大きく出やすいだろうから、成果を出すインセンティブをつくることはまっとうな判断だ。いいことをした人にはしっかり報いないといけない。

しかし、日本ではフラッシュメモリ青色LEDの発明者は賞賛されず、むしろ罰せられた。フラッシュメモリ発明者・舛岡富士雄氏のこの記事を読むと胸が痛くなる。やはりインセンティブがおかしい。細かい検討が必要だが、ブログなので大雑把に行こう。

  • 日本企業の多くは文句を言わない労働者の上にあぐらを書いて、ビジネスモデルの刷新、技術革新などをサボってきたのではないか。新しいアイデアを生み出すよりも人件費を絞るほうがラクだから、ブラック企業的アプローチ」が半ば普通になっている
  • 従業員に与えられているインセンティブがおかしいため、組織が上手く機能せず、革新的な面白いものは日本から出てこなくなる

多くの人が感じていることだと思う。

格差に関する議論は、分配の最適化の話に向かう。ジョセフ・スティグリッツ氏は金融セクターがあまり価値を創出していないのに富の多くをさらってると指摘してきた。トマ・ピケティの『21世紀の資本』 は富自体は拡大を続けているが、キャピタリストの取り分の伸びが、生産の伸びを超えているという議論だった。

確かにこれはとてもストレートな議論だが、ソリューションが分配だけにあるのだろうか。

もちろん、集中された富がどれだけわれわれの世界に寄与しているかは調査が必要だ。スティーブ・ジョブスiPhoneを開発し、サプライチェーンを築くための人的資源とお金があったのは幸運だった(最近のAppleはただ単にお金をためているだけだし、割高なiPhoneを売るだけの「インフラ企業」になってしまった、気がする)。イーロン・マスクのようなクールな起業家がいるおかげで、電気自動車、宇宙開発のような分野が色めき立っている。しかし、彼らはほんの一部だ。アノニマスなスーパーリッチたちのマネーは世界中で何をしているんだろう?

不透明な世界で、いまある手段で分配を実現するのは難しい気がする。高校の先輩である佐藤優こう指摘していた。「ピケティは、国家や官僚を中立的な分配機能を果たすと見ている。この見方は甘い」「ピケティが想像するような資本税の徴収が行われる状況では、国家と官僚による国民の支配が急速に強化される」。佐藤氏が元外務官僚で、日本の官僚機構と一戦交えた後に、今の評論家の立場にいる部分が重要だ。彼は官僚機構の機能性に関して熟知しているはずだ。官僚機構の目的は必ずしも「最適化」ではない。

生産性を爆発させろ!

ぼくはこの難しい部分に手を出さず、生産を爆発的に増やす方がスピーディな解決策になると思う。つまり日本の各領域でAIに投資するのがいいと思う。生産性を爆発させれば、大雑把だが解決策になる。分配という最適化の部分は、数理的にアプローチすればそんな難しい問題じゃない気がする(ただ何をもって価値創出とするかという議論が残っている)。

ダニエル・カーネマンは2010年に発表した有名な論文で、世帯年収と精神状態には相関があるが、年収75,000ドル(約750万円)を超えると精神への影響は見られなくなると、記している。 精神面へのポジティブな影響(Possitive affect)、悲観的にならない効果(Not blue)、ストレスからの解放(Stress free)の3点とも75,000ドル(横軸が年収)付近で伸びが止まったり、伸び悩んだりしている。

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 カーネマンらはこう指摘している。

ポジティブとブルー(悲観的)なデータはわれわれの当初からの問いに対し、予期しないシャープな答えを提供した。必ずしも、お金があればあるほど、よりたくさんの幸せを買えるわけではないが、お金がなければないほど、精神的苦痛に結びつきやすい。75,000ドルは、収入の増加がもはや感情の健康さに関係する個人の能力を向上しないことを意味する。この能力とは好ましい人と時間を過ごしたり、苦痛や病気を避けたり、余暇を楽しんだりすることを可能にするものだ。

ACSによると、米国の世帯平均年収は2008年に71,500ドルであり、3分の1の世帯は75,000ドルのしきい値を超えている。収入が増加しこの水準を超えたとき、ポジティブな経験を買える能力の増加が、何らかのネガティブな影響のために吊り合いがとれた状態になる。最新のプライミングメソッドを活用した心理学による研究は、高い収入と小さな喜びを味合う能力を失うことの間に結びつきがありうることについて示唆に富んだ証拠を提示している。

全員年収75,000ドル以上にしてしまえ

AIとロボットで全世帯とも年収75,000ドル以上にしてしまえば、格差議論は終わるのではなかろうか。生産(下図のP)が指数関数的に増加し、コスト(下図のC)がマシーンのおかげで減っていくという逆相関になるという奇跡が起きることは想像に難くない。

生産性はわれわれの想像を超越したレベルに達し、誰でも欲しいものは何でも手に入れられ、良い体験をし続けることができて、嫌なことを回避できるならば、貧富という概念自体がなくなるんじゃないか。スコールのように大地に降り注げば、濡れない大地などないはずだ。

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日本は超少子高齢化社会で、なおかつ富裕国では飛び抜けた水準で、移民を受け入れていない。マニュアルレイバーをやる日本系の若者もいない。さまざまな分野で労働力の大幅な欠損が現れるだろう。ここにAI+ロボットを大量投入する(いま多くの起業家が進めている)。

考えられる懸念点は、仕組みがリアリティに追いつかないことだ。企業はこのAI・ロボットがもたらす生産性が渡された時、従業員をクビを切りまくって、少数の人間でできた高収益型企業をつくろうとするかもしれない。多くの人が前時代の固定観念にとらわれるせいで、パニックに陥るだろう。短期的には大失業の時代を迎えるかもしれない。f:id:taxi-yoshida:20160830195319j:plain

しかし、異次元の生産性向上に対して前時代的な対応をすることは得策じゃない。やがて状況に慣れれば、仕組みを変えていくことは自然になるはずだ。そもそもこうなると、個人で十分な生産を生み出せるので、誰もが企業に雇われる意味を見出せなくなり、AIとロボットの生産能力で「サイボーグ化」した個人たちがパートナーシップで結びついていく社会に変わっていくだろう。

社会構成者全員に75,000ドルのしきい値を超えてもらうためには、ユニバーサル・ベーシック・インカムのような分配が重要な時間帯があると思う。人間がお金を分配するとそこに権力が生じる。私が学部時代、政治学から学んだことだ。お金の分配、人事権を握った人物は、かつての自民党の幹事長的な力をもつ。そして無駄な権力闘争を始めることになる。こういう仕組みはあまりパフォーマンスが高くないことケースが多いことを歴史は証明している。

だから分配はスケーラビリティが担保され、完璧な状態になった(そうなってほしい)パブリックブロックチェーンでされたらいい。人間だけでなく、AIの力を借りて最適化していけばいい。もちろん、完璧な最適化はありえないわけだけど、75,000ドルラインを超えたとなれば、その人が抱える不満も大したものではないだろう。