デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

中盤のねじり合い 今週の進捗 #25

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更新が三週間ぶりになってしまいました。こんなことがありました。

・(投資をめぐる交渉能力を維持するため)実家に引っ越し ・株式会社の登記申請 ・財務モデルの構築と検証

来週会社が爆誕するので、

・法人口座の開設プロセス

があります。これには金融機関が好む事業計画書の策定、ホムペ、名刺などを揃える必要があります。

3月には以下の3つを同時に進めていく戦略をすると言いました。

*将来的な資金調達の可能性を模索

*創業メンバーを確保する、あるいは将来的にチームの一員になる人を探すために人に会う

*プロダクトのカイゼン

https://taxi-yoshida.hatenablog.com/entry/2019/03/24/101413

これらはとてもうまくワークしています。しかし、ただ一つのアクションごとに新しく有用な情報にたくさん出会うのでその都度、深く考え込むようにしています。ここに引っ越しや法人登記申請などが加わりとても混乱してしまいました。

ゲームプランの策定には著しい進捗がありました。将棋みたいに一手進んだらそれまでの構想を捨てて次の構想を描いてみる、というふうです。

僕はゴールデンウィークが巨大な壁としてプロセスを遅くさせることにイライラしています。なぜこの人は物事をここまでゆっくり進めるのかと疑問に思う人もいるかもしれません。しかし、自分はいま不可逆性の決断を求められています。いまこの瞬間の決断がロケットが進んでいく方向を決めるのです。現時点ではロケットの発射時期を調整できます。僕はロケットをグローバルマクロに飛ばしたい。そのためなら遅くなっても構いません。

募集

ゴールデンウィークの間、僕には予定がありません。仕事をしています。プロジェクトに興味のある、ジャーナリスト、編集者、ウェブ開発者の方はぜひお茶、食事などしましょう

確率的な世界の中でどのような戦略とプレイヤースキルを持つべきかをめぐる考察 今週の進捗#24

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予測財務諸表を作ろうと思っています。私がしようとしている事業の性質上綿密にこういうものを組み上げたほうがいいと指摘を受けました。予測財務諸表を作るには目標を達成するためにお金をどう使うかを明確に算定する必要があります。コンテンツ制作はコストがかさみますからそれで得られる効果をしっかりと予見できているとありがたいのです。

スタークラフトのようなリアルタイム戦略ゲームで、機械学習モデルが人間のチームを打ち負かす例があります。そこでは研究者はゲーミングの能力を戦略とプレイヤースキルに分けて考えています。

予測財務諸表を作ることはいわゆる戦略に類すると考えてみましょう。人間の世界では戦略は基本的にはあまり動かさないのが得策ですが、機械はガンガン変更しています。

プレイヤースキルは状況に応じて臨機応変に繰り出されるものです。インターネット関連のビジネスでは、往々にしてユーザーは流動的であり、極めて細やかな判断の連続が必要になります。それに対応する短期的な動きや技法などがプレイヤースキルに類すると考えられます。

競合が殺到する市場の場合は、プレイヤーには目的遂行までの時間制限が課せられることになりますが、私の想定する市場はそこまでそうではありません。

ということは戦略が素晴らしいのは大事なことです。

ただし先の機械学習で作ったモデルの話ですが、それらは決定的に将来を予見して勝っているのではなく、確率的な意思決定の精度を人間を上回るようにしているのです。だから世界を正確に予測できるわけではないのですが、恐ろしいことに人間はときにそういう妄想に駆られてしまいます。

とはいえ、シミュレーションは大事で、シミュレーションは複雑な世界では完璧に裏切られますが、それでも大事なことです。少なくとも単純な落とし穴に落ちること避けることができます。大体の人はそういう失敗でプレイグラウンドから去ります。

来週はここに重点を置きます。学ぶことを楽しみながらやろうと思っています。

桐島、部活やめてアジアに帰るってよ 今週の進捗#23

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22 Jan 2011, ジャカルタにて、高校生たちと記念写真

(タイトルは釣りです)。ブログに生々しいことを書くのはあまり得策ではないが、これが僕の物事の進め方なので書いてしまいます。書くことで頭が整理されるし、次にやることが明確化されます。その書いたものが人に読まれることで、それを実行するモチベーションが高まります。

いまやっていることは3つあります。

*将来的な資金調達の可能性を模索

*創業メンバーを確保する、あるいは将来的にチームの一員になる人を探すために人に会う

*プロダクトのカイゼン

どれも時間を大きく使うため、この全てに全力投球することはできません。この3つにどう時間を割いていくか、それぞれをどのような手段で進めるか、は南海ホークス(難解)です。多腕バンディット問題よりも難しいはずです。

自分の戦略はこんな感じ。

*VCとエンジェルのところに行くと「宿題」が出てくるので、その「宿題」をこなし、プロジェクトのカイゼンを続けていく。カイゼンを終えたらまたVCとエンジェルに会いに行く

*交渉をしながら材料を揃えていく。材料とは(1)記事数。現状のプロトタイプの記事数は30。検索が僕らのことを意識してくれる水準である100記事まで積み上げる。私の独自メソッドで100記事を検証すれば、プロダクトの将来性を説明できるはずである。(2) グロースハックのストーリー。どうサービスを成長させていくか。僕は収益性よりは企業価値に重きを置く。量よりは質に重きを置く。泥臭いこともかなりやる。(3) これらを実現するメンバー。試行錯誤の末に目標に対してどういう人間が必要かということがわかってきた。

アジアへ向かおう

今週はAnyMindがシリーズBをクローズしました。タイ企業の VGI Global Media も参加しています。このニュースを見て、私のプロジェクトでも海外投資家を受け入れていきたいし、進出先での便宜を図る上でアジアの投資家は欠かせないと考えました。もともと考えていたことですが、カイシャの構成員を国際化し、アジア各国の出身者で構成することにより、将来の彼らの出身国への展開の布石にしておくことが好ましいという考えがより固まりました。日本人だけで現地に赴くよりもまったく物事の速度や相手の信頼が変わってくるはずです。

日本市場は十分なサイズがある一方で、マージナルコストを負わずして収益の拡大を続けていく典型的なテック企業のスタイルが、この市場単体では、うまく効果を示さないでしょう。日本においてはリスクマネーの流通が未発達であり、リスクマネーに占める事業会社の資金の割合が高く、保守的な傾向があります。日本市場でだけ活躍するかというだけのマインドセットでは、スタートアップのゲームは退屈なのです。

このブログには自分の人生を回想するシーンが出てきますが、まず退屈なこと、ミドルリスクローリターンであること、それから、退屈なことが僕は大嫌いなので、退屈なことはやりません。そして新卒でインドネシア5年、インドネシアの政治経済事情は学者をしのいだ僕なのだし、英語も話すし、地域の肌感を掴んでいるので、会社の初期であるいまからアジアのことをにらめ付けていこうと思っています。

スタートアップをどうプレイするか?

以下の文章を読んでみている。頭が混乱したら何度でもここに戻ってこよう。

gengo.com

Want to start a startup? Get funded by Y Combinator.

paulgraham.com

スタートアップのシード資金調達ガイド(Geoff Ralston)

https://review.foundx.jp/entry/aguidetoseedfundraising

スタートアップ プレイブック

https://review.foundx.jp/entry/startupplaybooksamaltmany_combinator#CEO%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B

こういう難しい問題をとくときはとにかく致命的な悪手をうたないことが重要です。ゲームを続けさえすれば、遅かれ早かれ問題は解くことができるはずです。

運動

今週は水泳に避ける時間が減り、2500㍍泳いだだけ。泳ぐ速度を高速化している。68㌔歩いた。

キャッシュフローのおもひで 今週の進捗#22

ええ、まあ、なんというか疲労の蓄積を感じるのでしっかり休もうとしていますが、週一の出来事を記述して翌週の戦略を練る習慣にはそれなりの意義があるので今日も書いています。

資金調達に絡んで将来に渡る予測ベースの損益計算書を書いてみていますが、これがなかなか検討に検討を重ねると将棋のようにどんどん条件分岐をしていくので、大変なのでした。もちろん将来の予測はそうそうできるものではありませんから、ざっくりとしたものにとどめておこうと思います。シミュレーションをしていることは本当に重要なことなのであります。

とはいえ、「財務3表」についてはしっかりやろうと思います。というのも、調査のときに Finacial Result などを読むことはあったのですが、実務として扱うというのは初めてです。「批評家」の立場から「実務家」の立場へと変わってきているのを実感します。ここらへんは穴が空いていると簡単に会社が死んでしまいますから、しっかりと押さえておかないといけません。

財務3表のひとつであるキャッシュフロー計算書については本当に面白い思い出があります。僕が中学生のときにキャッシュフローの概念を物語風に解説してくれるナイスな本である『ザ・ゴール』に出会いました。母親が読んでいたのを読んだのか何故か潤沢に持っていた図書券で買ったのかはなんだのかは忘れましたが、すぐさま僕はこの本に夢中になりました。従来型の会計手法だと、在庫を積み上げていってもそれが売上のようになってしまいますが、この84年に出版された本はキャッシュフローに注目し、現在では当たり前となっている手法が提唱されています。

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キャシュフローの図 「いらすとや」から

こういう感じの読書は子供ころよくしていました。多分最初は大河ドラマの『秀吉』が面白くて、原作の堺屋太一の『秀吉』を読みました。商売人と武将というふたつのあり方をもつ彼の凄さを知って感動し、ビジネス系の読書がスタートしたんだと思うんです。

高校生になった頃には日本版ネットバブルが起きてました。僕は『マーケットの魔術師』とかいうやつとか、大前研一の本とか、株式投資関連の雑誌とかを読んでまして、割と自由な高校だったので、机の上にそれらを積み重ねておいたら、担任の生物教師が僕とは名指ししないまま「金のことを考えている人はなんて浅ましいものだ」とクラス全員の前で説教してきました。

僕は当時すでにとんでもない天の邪鬼ではあったものの素直さを同居させている少年だったので、それを真に受けて一度それを懐にしまいこんで、学校の図書館の本を読んで足りない知識を足していこうとしました。図書館の司書さんは左寄りの方が多い印象ですが、僕の学校の司書さんもたぶんそれで、その左寄りの方が集めた書籍を読んでいると、「お金を巡る考えというのはなんとも浅ましいものだ」とじわじわと洗脳されていきました。そして十年以上たった今ぼくはスタートアップをしています。めぐり合わせとは本当に面白いものですね。

それで、今週したことはまあいろんな人に会うことです。いろんな人に会うことで、これから何をするべきかについてどんどん知識を得ることができましたし、自分のポジションもどんどん変化していくのを感じました。人と話すことは本当に良いことです。

某社オフィスを訪問してこの人が通りかかって少し話す機会がありました。とても感動したのですがいきなりすごい人に会ったので緊張しすぎて「すごいですね!」とすら言えませんでした。なんか自分のシャイさが悲しくなりました。

www.bbc.com

いずれにしても、逐次的に戦略を変化させ使うべくプレイヤースキルを選択する、とてもおもしろいゲームを僕はやっています。能力開発のひとつのかぎは楽しんでいることなので、来週以降も楽しんでいきたいです。疲れたら休みましょう。はい休みます。

運動と体調

今週は営業マン的だったので84キロ歩いた。4000㍍泳いだ。花粉症がかなり深刻化している。マクドナルドは一食程度しか食べていない。

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

 
秀吉―夢を超えた男 (上)

秀吉―夢を超えた男 (上)

 

 

 

 

”独善的な妄想にひたる創業者” 今週の進捗#21

 

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法務、会計、コーポレート・ファイナンス、資本市場などをめぐる学習もある程度の段階に到達しました。今週で一区切りにして、これ以降は専門家の力を借りればいいと思います。最初のうちは「なんでこんなことまで学習しないといけないんだ!」という感じでしたが、途中からは「なかなか面白いじゃん」となり、「これはなんか非効率。絶対に改善できる」みたいなことも考えるようになりました。すべてのことに言えますが、実務は机上で学んだことよりもワイルドで不合理なものです。それはこれから資金調達をすればわかることです。

来週以降、進めていくことは2つあります。ひとつは投資家への売り込みを開始することです。月曜日からロードショーの仕込みを始めようと思っています。

もうひとつはチーム構築です。繰り返しますが現状は1人でコンテンツ、開発、ビジネス開発、マーケティング等をしており、あからさまに自分がボトルネックになっているのを実感しています。僕は明確な計画を完成させました。これを遂行すれば大成功というあま~い話ではなく、後々線の引き直しが求められるのが想定できますが、最初に線を引いて、シミュレーションを入らせていることが大事なのです。

エンジェル投資家

ジェイソン・カラカニスのエンジェル投資家の本が最高でした。エンジェル投資家の実務から創業者がどのような心構えで物事を進めていけばいいか、どうやって投資家と共通の利点を構築すればいいか、を推測することができました。

リターンの大半を稼ぎ出すのは、独善的な妄想にひたるわがままで付き合いにくい起業家たちが多いそうです。他の人が敬遠するような「ワイルドカード」こそ大きなリターンを生む創業者だといいます。恥ずかしいけど多分僕はそれなんです。この日本という国に生まれてはや数十年、一度も日本人的な横並びの習慣に馴染んだことがなく、平均的な人間から不思議がられ、敬遠され、ときに攻撃されてきました。海外で外国人という立場で生きていくことが心地よくて、日本人村とは一定の距離を置き続けました。

この axion のビジョンは"独善的な妄想"そのものです。

https://axion.zone/about/

同書に出現する以下の質問にはこの本を読む前から準備ができていました。本気を出すと呆れ返るほどのロングストーリーを聞かせることができます。

▼創業者に尋ねるべき4つの質問

  1. あなたは今どんな仕事をしていますか?
  2. あなたはなぜこれをやっているのですか?
  3. なぜ今なのか?
  4. あなたの不当なまでの優位性は何か?

このエンジェル投資家と戦略的関係を築くことが重要だと考えています。

コーポレートベンチャーキャピタル

あとはスタートアップの資本政策に欠かせない存在であるCVCについても数冊本を読んでみました。中央経済社はいい出版社だなあと思いました。大企業中心社会で新陳代謝が起きない日本では、CVCはとても重要な存在になると僕は見ています(というかすでにそうかも知れません)。日本企業はたくさんのキャッシュを溜め込んではいるものの、その使いみちを持っていません。超勝手な妄想をすると、彼らはマルクス主義に傾倒する社会主義者であり、資本主義のプレイブックをもっていないのかもしれません。

CVCは彼らが苦しむ硬直化した組織の外におけるR&D、新規事業投資の重要な手段です。同時に既存事業とシナジーがあったりあるいはそれをリプレイスするビジネスへの投資手段でもあります。イノベーターのジレンマは実証経済学が実証しており、日本企業はその典型的な例であるのです。表紙の絵をしっかりみてくださいね。

このCVCと戦略的関係を築くことは近い将来とても重要になってくるはずです。

Reference

エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか

エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか

 
CVC コーポレートベンチャーキャピタル――グローバルビジネスを勝ち抜く新たな経営戦略

CVC コーポレートベンチャーキャピタル――グローバルビジネスを勝ち抜く新たな経営戦略

 
コーポレートベンチャーキャピタルの実務

コーポレートベンチャーキャピタルの実務

 
実践 CVC ―戦略策定から設立・投資評価まで

実践 CVC ―戦略策定から設立・投資評価まで

 
「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

 

 

 

採用と資金調達のジレンマとその解き方 今週の進捗#20

今週も先週に引き続きファイナンスと法務について調べました。基本的なプレイブックについては頭の中に入ってきたと思います。中期、後期のラウンドまでのキャップテーブルのイメージとそれに伴うプロダクト/ビジネス開発の進捗の感じもわかってきました。

株式会社設立、資本構成、株数、生株(common stock)の分与、ストックオプションの発行についておおまかなプランができました。しかし、まだある程度知識が足りていない気がしますから、来週もやっていこうと思います。資本政策や法務のなかには不可逆なものが含まれています。

来週の途中からは、自分がいままでに達成したことを整理し、次に調達する資金でどんな投資をして何を達成するのか、次の次の調達はいつに設定するのかを明確にしたいと思います。以下の事業計画書は公開してありますが、実際にロングバージョンのものが存在します。今後の役職員のためにも、資本政策の大まかなプランとプロダクトとビジネスの開発のプランも並行して計画し、付け足そうと思っています。

英語版 https://drive.google.com/open?id=1njrKU_oRaCSc2sgj5w9XFkXmXfe9zWNa

日本語版 https://drive.google.com/open?id=1t-gHwMJnxYrybdq3pFeOJLETCUdgsboS

上記のことが整ったら資金調達活動とネットワークキング、仲間探しに移行したいと思います。一人の限られた時間を効率良く使わなくてはいけないためネットワーキングなどの時間を完全にカットせざるをえないまま、いままでやってきています。この進捗報告で仲間探しをするぞと宣言したりしていますが、実際のところは開発したり、学習したりすることに時間を全投入していて、手が伸びていません。3月2週目くらいから本格的に手が伸ばしたいと思っています。

採用と資金調達のジレンマ

僕が最近悩んでいるのは、①お金を集めてから人を集めるか②人を集めてからお金を集めるか―の二択をどう選択するかです。①のように先にお金を集めたほうが「信用力」がつくのでいい採用ができる可能性がありますが、一人で交渉すると投資家がディスカウントを要望し株の希薄化が進む可能性があります。②のように人を先に集める場合は信用力がないので良い採用ができない可能性がありますが、人が揃っている方が投資家はチームを評価し、よりいい株価を付ける可能性があります。最高シナリオは、最高のチームを集めて最高の値段で株を売ることです。

この問題への自分の解法は両方を同時にすすめることです。採用と資金調達はともに最終的な決定をくださなければ、そのプロセスから離脱が効きます。だから両方の交渉を同時多数の状況でおこなうことですべての方面に対しての交渉力が上がっていく可能性があります。ひとつ留意すべきは、他のプレイヤーの共謀です。共謀が起きていて不利な取引に持ち込まされそうだと判断したら、真っ先に離脱すべきです。こういう戦略への対抗策としては、僕は交渉を進めながら、同時にソフトウェア開発、マーケティングを継続していくことです。これで長期的には交渉力が増していきます。

この戦略にはダウンサイドがあります。それは時間を失いうることです。相手にゲーム理論の素養があれば、交渉はすぐに決着するのでしょうが、そんなことはこの世界線では期待できません。仮に自分が取り組んでいるのが、同じビジネスモデルに100社が集中する競争環境だとしたら、この戦略はとれないでしょう。でも僕がやっていることはそうでもないのです。そして、メディア事業は当初は多量の赤字を計上します。アーリーステージで希薄化が進むとそのままリビングデッドになってしまいます。

運動

2850㍍泳いだ、51㌔歩いた。食生活を野菜と果物を多いものに変えていきたい。マクドナルドを食べる回数を減らしていきたい。

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Yoshi, 神保町にて、2/3 2019

 

採用のときに読むべき書籍、ブログのメモ

スタートアップが最初の資金調達以降最初にやることは採用だと思います。ここでは僕が幸運にも目標とする資金を集められたときに読むべき書籍、ブログをリストアップしておきました。すべて一度から二度読んだのですが、実務やりながらもう一度読もうと思います。最近あまりにも記憶喪失がひどいので書いて残しておきました。

書籍

  1. ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える
  2. ベンチャー企業の法務AtoZ
  3. ベンチャー企業の法務・財務戦略
  4. ベンチャー経営を支える法務ハンドブック

ブログ

より少ない時間でエンジニアを採用する (Sequoia Capital)

リファラル採用で社員紹介率を3倍にする方法 (Sequoia Capital)

エンジニアに入社してもらえるように説得する方法 (Harj Taggar)

どうやって最初のエンジニアを雇うのか? (Harj Taggar)

CFO を雇う (Jeff Jordan)

スタートアップの採用での典型的な失敗事例と対策を教えてもらったよ!!

株式会社ミラティブ_採用候補者様への手紙 / mirrativ-letter

面接用スライドを公開した結果、全部見せます!(宮田昇始)

課題

初期参画者への株式の譲渡時に、毎年25%のベスティングと、議席権を創業者に無期限で譲渡する(あるいは委託する)株主間契約を結ばないといけなくなります。これは法律家に相談しましょう。

#6 会社設立から雇用までの流れ スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

今回は株式会社の設立から雇用などの創業の初期についてまとめます。Yコンビネータが提案するガイドラインを日本でも適応する手法をとります。

この記事によると、Y combinatorは会社設立していない企業に資金提供を決断することがあるそうです。日本の慣行はどうなのか知りませんが、資金の調達が確定するまでは会社を設立しなくていいかな、と僕は思います。投資家にとって好ましい会社設立のやり方だったり、株式の発行数があるはずで、その採用で将来的な費用を減らせるのなら好ましいと思います。

medium.com

まだ会社設立していない人たちに資金を提供することを YC が決めたとき、私たちは Clerky を使って会社設立するように言っています。

とのことですが、会社設立、給与計算には日本にも似た仕組みのプロダクトが存在しています。マネーフォワードのほうが税理士さんの採用率が高いため、マネフォにベンダーロックインされるのが好ましい気がします。

標準化されたインセンティブ付与

付与する生株の量まで言及されているのは本当に最高だと思います。「会社の10%を最初の10人の従業員に与える」とのことです。共同創業者間で分ける創業者株式にはベスティングという仕組みを導入します。

経験則として、会社の10%を最初の10人の従業員に与えることを考えてください。おちろん、規模は徐々にスライドさせてください。1人目の従業員は2人目の従業員よりも多く貰い、2番目の従業員は3番目の従業員よりも多くもあります。これがギャンブルではない理由は、これらすべてにべスティングが設けられていることです。従業員全員が株式に対してべスティングを持っています。 

以下のブログに書きましたが、生株に関してはベスティングを採用します。ベスティングに加えて退職時には、創業者に株を売るしくみを採用します。

同時にストックオプションについても同様のベスティングを活用します。税制適格無償ストックオプションについては、日本の税法上2年以上10年未満に行使するとのが決まってしまっています。2年がクリフ(崖)になり、2年で50パーセント。3年で75パーセント。4年で100パーセントという構造にするのが一般的です。

僕の場合は単独創業者なので、カスタマイズができるかなと践んでいます。最初の十数人20%、その後は税制適格無償SO、その後は有償SOを配るのが単独創業者の僕にとってのベストプラクティスである、と僕は考えています。

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Via YC

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採用、マネジメントにおける「透明性」

役職員に対する「透明性」が重要とも言います。上記のYコンの記事から参照します。

オーディエンス:あなたが本当に成功していると思う特定の会社はありますか? 会社名は言わなくてもいいですが、会社にとって本当にうまくいったと思う特定のモットーはあると思いますか?

Kristy Nathoo:すばらしい質問ですね。私はうまくやっている企業には透明性があると思います。従業員と一緒に座って、これらのことが何を意味し、どのようなオプションがあり、べスティングの仕組みを話したりする会社です。会社のシナリオとしてこういうものがあって、会社がこの金額で Exit すると、あなたにとってどういう意味があるのかとか、一方この金額で会社が Exit するとどのようになるか、などです。そうした企業はこれらの計算をすべて完了し、従業員の理解を確実にするようにしています。私はそれが本当に良い習慣だと思います。

創業者がそれを深く理解している必要性も言及されています。クリアに理解しクリアに説明することが重要です。

最初に必要とされるのは、創業者がこれを理解する必要があることです。これは実際には驚くほど一般的に理解されていません。私は創始者と多くの会話をしていますが、彼らはこの種のことを理解していません。だから彼らは自分の従業員にそれを説明することができません。だから、それを自分で理解し、従業員に対して非常にクリアになっていること、それが良い組織だと思います。

採用とマネジメント

以下の記事を参照します。Sam Altmanと翻訳したFound Xに感謝します。 プレイブックは必読だと思います。リンクからどうぞみてください。

https://review.foundx.jp/entry/startupplaybooksamaltmany_combinator

採用について、私が一番最初に伝えたいアドバイスは、採用するな、ということです。私たちがYCで関わってきた最も成功している会社では、採用を始めるまでかなりの長い時間をかけています。従業員には非常にお金がかかります。従業員を雇うことにより、組織に複雑性とコミュニケーションのオーバーヘッドが加わります。共同創業者に言いたくても、従業員のいる前では言えないこともでてきます。従業員により、物事に慣性が加わります —チームに人が増えるにつれて、方向転換をするのが指数関数的に難しくなります。従業員数に会社の価値を求めたくなる衝動をこらえてください。

会社が採用をする体制に入ってから (すなわち、Product/Market Fit が時間を無限大に伸ばしても成立するようになってから)、あなたの時間の25%ほどを割くようにしてください。少なくとも創業者のひとり、通常はCEOが、採用に関して得意にならなければいけません。それは、ほとんどのCEOの、時間を最も使う活動になります。皆がCEOは採用に時間をかけるべきだと言いますが、実際は、素晴らしいCEO以外はそうしていません。そこには恐らく何かがあるのでしょう。

僕の少ないスタートアップの経験を通じて、採用はコストとリターンを同時に引き受ける行為だと思いました。言い換えれば制約と報酬のセットのものなのです。とても慎重に行わないといけません。

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決して妥協をするな、とSam Altmanは指摘しています。

あなたが採用する人材について、決して妥協しないでください。皆それを知っているにも関わらず、必要に迫られて、皆ある程度は妥協してしまいます。皆、それを後悔し続け、そして時には、それは会社の危機をもたらします。良い人物も悪い人物もどちらも影響力があり、そしてもし会社の採用を平凡な人々から始めれば、平均は普通上昇することはありえません。早期に平凡な従業員から始めた会社は、ほぼ常に回復することはできません。あなたの人に対する直観を信じてください。もし疑念があるなら、答えはノーです。

この辺は日本人の特徴を勘案する必要がありそうですが真実でしょう。

Sam Altmanは解雇についても明確な意見を書いています。

最後に、解雇するときは速やかに行いましょう。理屈としては皆がこの事を知っていますが、実際、誰もそうはしません。しかし何れにせよ、私は伝えておくべきだと考えました。さらに、たとえどんなに仕事ができようとも企業文化の毒となるような人は解雇してください。企業文化は、あなたがどんな人物を雇うか、解雇するか、昇進させるかによって決まります。

日本には厳しい解雇規制が存在します。これはスタートアップで採用をするときに大きな足かせになっていると思います。ストックオプションの行使においては、「行使は上場以降」というのが日本の慣行なんですが、ぼくとしてはより公正に「ベスティング条項」を盛り込みたいと考えています。しかし、日本の解雇規制のもとでは抜け穴があります。それは「入社したら仕事はむちゃくちゃにして、オプションがベスティングされるまで何もしないまま待つ」というモラルハザードの可能性があります。この穴を塞ぐ手段のひとつが「行使は上場以降」の条件であり、もうひとつが「後出しジャンケン」の信託型ストックオプションです。以下の記事で言及したとおり僕は信託型は採用しません。

taxi-yoshida.hatenablog.com

ということで、SOにはすべからく「行使は上場以降」の条件を盛り込まざるをえないかもしれません。仮にこれが著しく悪いことをしたときは解雇される、それでちゃんと成果を出して勤めていけばオプションを獲得できる、というふうにできればなんといいことでしょう。

解雇規制はスタートアップの採用のコストも引き上げており、日本のビジネス界隈を著しく硬直化しています。無数のブラック企業や実習生搾取がうまれる遠因のひとつでもあると僕は考えます。厚生労働省は経済学Ph.Dを採用し、その人達が政策立案すべきであり、立法の人間は解雇規制に関するロビーイングを抑え込むことと同時に日本型の長時間働かせて賃金を下げるという日本企業に一般的な慣行には厳しい態度をみせることを期待したいです。すでに優秀人材の海外逃避は始まっており、日本には悪いモチベーションを胸のうちに秘めた平凡な人が集うブラック企業がどんどん増えています。寄り道しすぎました。そろそろ本題に戻りましょう。

ソフトウェアエンジニアの獲得

最近は日本でもソフトウェアエンジニアの獲得競争が激化しています。スタートアップが一定の水準を超えたエンジニアの獲得をすることはかなり難しくなりつつあります。以下の記事はその状況を詳細に伝えています。

https://review.foundx.jp/entry/convincingengineerstojoinyour_team

https://review.foundx.jp/entry/howtohireyourfirst_engineer

構造化面接

Google re:Workによると、構造化された面接は以下のような要件を満たすものです。

構造化された面接とは、簡単に言えば、同じ職務に応募している応募者に同じ面接手法を使って評価するということです。構造化面接を行うと、応募した職務自体が構造化されていない場合でも、応募者のパフォーマンスを予測できるという調査結果があります。Google では構造化面接を採用しています。つまり、すべての応募者に同じ質問をして、同じ尺度で回答を採点し、事前に決められた一貫した採用要件に基づいて採用を決定しています。

rework.withgoogle.com

正式なオファーレターのテンプレート

人を雇用するにはそのための制度を整えないといけません。いかの制度を整え、それを説明する文書を作ります。

  • 給与と諸給付
  • 健康保険の詳細
  • 休暇

エクイティ

  • 提供される株式/ストック・オプションの総数
  • 発行済株式の総数
  • 株式保有割合
  • オプションの権利行使価格
  • ベスティング・スケジュールの詳細

コメント

  • 会社設立は最初の投資を受けるときまで引き伸ばすことにしよう
  • ずっと採用を先送りした自分の判断は悪くない
  • 資金調達で「信用力」を増幅してから採用をした方が「平凡」を採用する可能性を最小化できそうだよな?→資金調達から先にやるか
  • スタートアップにはするべきことが山程ある。そのため「標準化された手法」が好ましい。”スタートアップゲーム”には僕が勝手に「不可逆性の罠」と読んでいる、一度落ちたら戻れない落とし穴が存在します。それに落ちないようにするのに標準化された手法はとても効率的です。ファイナンス、会計、法務、税務などはその理解のために深い専門性を必要とします。そこをブリッジするのが標準化された手法です。会社にとって重要な差別化要因になる点については標準化されたライブラリをカスタマイズしようと思う

#5 信託型ストックオプションとRSU(譲渡制限株式ユニット) スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

TL;DR

信託型ストックオプションはやめておけ! 特殊な条件が揃わない限り悪手。上場後のインセンティブとしてならRSU(譲渡制限付株式)もあるぞ!


以前、この記事でストックオプションの種類について整理してみました。

taxi-yoshida.hatenablog.com

この記事の執筆時の結論としては、僕のスタートアップでは初期は税制適格無償ストックオプションを発行し、中期以降は有償ストックオプションを発行するのがいいよね、です。しかし、仮に信託ストック・オプションを掛け合わせたらどうなるのかというのが気になっていました。そのときの理解は雑で「信託というラッパーをかませた有償ストックオプションで、信託した金銭に法人税40%が乗るやん」というものだったのです。ということで、さあ深掘りしていきましょう。

信託ストックオプションとは?

もう一度整理してみると、信託型ストックオプションとは、発行時点の比較的安価な行使価額の新株予約権を、将来に渡って配布することができるスキームです。信託設定の際に大株主(概ね創業者)が金銭を贈与し、受託者が受贈益課税を受ける、というスキームです。

通常のストックオプションは発行時の社員にのみ配布することができます。したがって急成長している会社は何度も何度もストックオプションを発行することになります。

この煩雑さを付与対象者および付与規模を『後決め』することで克服できます。同時にこのスキームが好ましいと考えている人は、その付与について「個人のパフォーマンスを考慮した事後的な付与や将来の入社予定者への実質付与が可能」と説明します(ここが大きな争点になります)。

法人課税信託

信託型ストックオプションには2つのコストが存在します。ひとつは先にも触れたとおり、40%に及ぶ法人課税ですが、これはなかなか興味深いのです。

www.kabushikikoukai.com

この記事が参照する『松田良成・山田昌史、「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン(上)、旬刊商事法務No2042 62頁-63頁』によるとこの通り。

① 委託者となるオーナーが、信託銀行と信託契約を締結し、金銭を信託する。

② 受託者たる信託銀行は、信託財産である金銭を、有償新株予約権の払込資金や税金の支払等に使用する。

③ 信託銀行は、信託契約に定められた受益者確定手続が完了し、将来の一時点における従業員等に有償新株予約権が交付されるまでの間、これを保管する。

④ 信託銀行は、信託契約に定められた受益者確定手続が開始された時点で、予め定めた条件に基づき、発行会社の従業員等の受益者を確定する。

⑤ 信託期間満了日をもって、受益者確定手続を完了した従業員等は信託受益権を取得する。

⑥ 信託受益権を取得した従業員は、信託期間の満了に伴い、ただちに有償ストックオプションが交付され、これに伴い、信託受益権は消滅する。

詳しくは社団法人信託協会のこちらの記事の「受託者に発生時に法人税が課税される信託」を参照してみてください。

www.shintaku-kyokai.or.jp

受益権をもつ受益者または”みなし受益者”が存在しない信託は、法人課税信託として取り扱われます。つまり、このストックオプションのスキームでは法人課税信託に該当するということです。ただし、発行者が有償部分が極めて僅少になるように行使条件を設定すれば、40%の法人税が課せられても少額の出費に留まります。ここが税制的に”おいしいところ”です。

リーガルコスト

もう1つのコストが存在します。信託を組成するためのリーガルコストです。ダウンサイドとしては、導入時のコストが高額な点が挙げられます。「時価発行新株予約権信託」スキームを構築、アドバイスできるコンサル会社はほぼ1社に限られるとも言われており、お高いコンサルティング費用が発生します。1000万円を超えるケースもあるようです。

会社の得損

この二点を勘案したとき、会社が成長基調で、ストックオプションの行使価格がぐんぐん上がってしまいそうで、将来的に優秀な人材をどんどん獲得したいとき、コンサル料を勘案しても税制上は安上がりになるはずなので、採用を検討したい気もするのですが、しかし看過できない点があります。

社員に対し不公正

シバタナオキさん(@shibataism)のこのコメントはこのスキームの問題点を指摘しています。

https://twitter.com/shibataism/status/1074571659170856960

信託型ストックオプションは創業者が役職員を搾取しうるスキームです。スタートアップに参画した人がとったリスクに応えることを確約しないで後ろにスライドさせていく”毒まんじゅう”にもなり得ます。これを利用して「公正」にストックオプションを付与できる創業者ははたしているのでしょうか。信託型ストックオプションはフィーが高いので、フィーを貰う側の人は肯定的なことしか言いません。

例外

信託型ストックオプションが流行するきっかけが、PKSHAの上場申請書で税理士にストックオプションを信託しているのが分かってからですが、PKSHAはとても少ない資金調達の回数で創業者が高い持ち分を維持しており、社員数も少なく、社員全員に利益が行き届いた上で、上場後のインセンティブとしてストックオプションを信託しているということに留意する必要があります。上場後はストックオプションの行使価格が時価となってしまうので、ストックオプションが誘因として働きづらくなるのを見越して、行使価格を一定にできるという点を活かし、信託型にしてあるのです。この信託型を行使条件も「営業利益が280百万円を超過した場合に50%が行使可能、400百万円を超過した場合には100%が行使可能」とし、業績をトリガーイベントとしているのです。うまくできています。

www.kabushikikoukai.com

だったらRSUはいかが?

ただしこの目的の場合はRestricted stock units (RSUs)が日本でも選択肢に入ってきました。メルカリ、楽天、YJ等のテック企業がRSUを報酬として設定したからです。平成28年税制改正により、法人税法上、損金算入の対象となる事前確定届出給与の範囲に、一定の要件を満たすRSUが含まれることになっています。これ以降採用する企業が増加しています。RSUは簡単で「株をまるっとあげるけど、Vestingで段階的に渡すよ」という制度です。付与された社員としては業績好調で株価が上がれば、その分リターンが増えるので、貢献することへの誘因が生まれます。

mercan.mercari.com

https://irnote.com/n/n6a64644e47c3

発行者は既存の株を希薄化することになるので、年間の発行数は、発行済み株式の1%未満に抑える、そうです。メルカリが自社株買いしてそれをRSUにあてるということも可能なのでしょうか。

www.nikkei.com

それから税務ですが、渡された役職員からみたとき、付与時に所得課税されて、そのあと株を売却すると譲渡税がかかるみたいなことになるのかしら?

これらの会計事務所系のブログだと会社側の税務については説明がありますが、付与された側の税務は説明がありません。

www.shinnihon.or.jp

www2.deloitte.com

外資系企業のソフトウェアエンジニアマネージャーのブログだと、こんな感じです。

sdm.hatenablog.com

なお、日本に住んでいる社員が外資系企業でRSUをもらった場合、やや厄介なのが確定申告が必要になることでしょうか。源泉徴収される会社からの給与とは別に、1年のうちの特定のタイミングで株を譲渡されることになるので、RSUがVestされた翌年には確定申告が必須となります。慣れてしまえばどうってことはないですが、住宅ローンとか医療費の控除で確定申告の経験のないサラリーマンにとってはやや大変かもしれません。(中略)VestされたRSUは普通の所得として計上されるので、所得税率はその他の収入とあわせたものが適用されます。

(中略)株式などの譲渡益(キャピタルゲイン)は一律で20%の税率がかかるので(NISAが始まる前までは10%だったはず)、ここでもまた税金を払うことになります。

他にもこのような記事があるので興味深いです。

sdm.hatenablog.com

sdm.hatenablog.com

GrantからVestまでの間の居住国の割合に応じてVestされたRSUの所得税を支払うというコーナーケースも扱ってくれており興味深いです。

sdm.hatenablog.com

この人の場合は外資系なので日本企業が日本に居住する人に付与したときにどうなるのか、教えてほしいですね。所得税がかかり譲渡税がかかる、かもしれない、くらいが現時点で得られる情報です。あとは上場しそうになったら考えようじゃないか。

コメント 

信託は「後出しジャンケン」だからこれを採用するのは役職員に対して余りに公正でないと感じました。僕は起業前は”従業員”をやっていて壮絶にカモられた経験が二度あり、不透明な手法が職場環境、人間の行動、会社のパフォーマンスに壮大なる悪影響を与えているのを深く実感しました。会社で働いている間その被害を大きく受けたとも感じています。僕はこれを個人的な「恨み節」としてではなく冷静に定性的に調べた結果得られた知見だと考えています。足の引っ張り合い、嫉妬、横並び主義、出る杭は抜く……日本の雇用慣行を採用するとこういうことがわりかし起こりやすいのではないでしょうか。

Yコンビネータの資料は役職員に対する透明性は成功するスタートアップの重要な要素と指摘していました。僕のような独立自尊マインドの人は必ず役職員にいるはずなので、そういう人は信託型ストックオプションの”からくり”を見抜いた途端、「それは何でもないな」と判断して会社を辞めてしまいます。辞めた先では率先して情報の共有を行います。同時にそういう人のなかには事業に対し大きな貢献をする人が少なくありません。また、将来の紛糾の種を社内にまいておくことにもなりそうです。なんとまあ好ましくないメカニズム設計ですね😊。

難しいときはメルカリをパクっておこう。最初は無償ストックオプション、次は有償ストックオプション、上場後はRSUというのがメルカリが行ったプラクティスであり、現状の日本のベストプラクティス気味かと推測します。検討するべき点としては、ストックオプションの行使時期について「上場後」とするか「ベスティング」するかではないかと思います。僕はベスティングしたいと思います。その理由は別のブログで書きたいと思います。

#4 創業株主間契約 スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

創業株主間契約にはある程度標準化された手段が存在するので、オリジナリティを発揮するのは全く割に合わないと僕は考えています。

この契約は主に仲違いで共同創業者が去ったときにケースを想定しています。FacebookTwitterなど共同創業者の仲違いで危機的な状況を迎えたスタートアップは枚挙に暇がありません。辞めた役職員が引き続き会社の株を保有していると会社経営がデッドロックに陥ったり、悪意の攻撃を受けたりする可能性が生まれます。

AZX総合法律事務所の雛形は以下のようになってます。

www.azx.co.jp

土台はこの雛形で補完できますが、ある程度のチューニングが必要になってきます。僕がチューニングする必要があると感じるのは以下の点であり、おそらく創業株主間契約のキモである部分です。

リバースヴェスティング

リバースべスティングとは、勤続年数に応じて保有できる株式比率が変化していく仕組みのことです。1年未満で辞めた場合はその人が持っている株の割合のうち、100%を返還しなければいけませんが、1年以上、2年未満の期間働いているのならば25%の株を保持できる(以後、1年ごとに所持比率が25%増加)……というように、年々保有できる株式の比率が増えていく仕組みです。この1年毎に25%付与が最も重要な一般的です。創業者間契約の中であらかじめこの条件を埋め込んでおくのです。

これに対して、Shion Okamotoさんのブログはこう指摘します。

リバース・ベスティングの条項はシリコンバレーの実務において一般的であると言われています。もっとも、私見ですが、日本のベンチャー実務においてはまだ一般的とまではいえないように思います。リバース・ベスティング条項がある場合、一定期間経過後は退任創業者に株が残ることになりますので、上記1で記載したような困った事態が生じるリスクが残ることになります。勤続年数に応じた株式を共同創業者にも与えるというのはフェアな条項である一方で、万が一の場合に会社運営を困難にするリスクをはらんだ規定でもありますので、慎重にメリット・デメリットを検討することをおすすめします。

medium.com

買い取り

ということで、創業者間契約の中には退任時に「株をおいていく」ことを埋め込んでおく方法もあります。買い取りの価格は勤めた年数と退任する理由に基づいて「場合分け」をするのが通常のやり方です。Taejunさんの『スタートアップ資本政策の6箇条』から以下の図を引用します。

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またこのようなタームも記述しておくといいそうです。

  • 退職後X年間は同業他社で働かないこと
  • 退職後X年間は同種の事業を始めないこと
  • 自社の業務を通じて得た情報について、秘密を保持すること
  • 退職後自社についてのネガティブキャンペーンを行わないこと

note.mu

始めた時は蜜月関係にあっても、人間関係がほころぶことはよく起きる。そして、創業者間契約を結んでいないと、30%の株を持っている共同創業者が退職して類似事業を始め、彼の持っている株を買い取れない、なんてことになる。こういう最悪の事態が時々起きる。こういったトラブルを抱えた会社が外部投資家から出資を受けることは難しいし、それが解消されるまでは会社が前に進むことはできない。そうやってゆっくりと時間を浪費しているうちに、同業他社があっという間にキャッチアップして自社を追い抜いていく、なんてことになったら悪夢だ。

創業者個人が買い取るのがメジャーな手段です。共同創業者3人のときは「三国志」ライクな争いが起きてしまう気がします。

コメント

僕はMVPの作成、事業可能性の検証等など一人で済ませました(途中途中で参加者はいましたが)。そのため仮に今後「パートナー」に類する人を招き入れてもこの創業者間契約が想定する株の断片化の状況にはならないのかな、と想定します。序盤戦は僕が支配株主として状況をコントロールし、私の持ち分の20%程度を初期参画者たちに渡すことにする予定です。

問題は私が退任しないといけないケースです。この場合、誰に株を売ればいいのだろうか? なるほど、こういうときの「転んだ先の杖」として投資家は共同創業者を立てることを奨めるわけですね。まあ、会社の二人目(二人目が辞めていたら三人目)以降に譲渡するようにしておけばいいでしょうか。あるいは、役職員のためにプールされる形にすればいいでしょうか。そうすると、新たな争いの種になる気はします。会社に関わるすべての人にとって好ましいメカニズムを設計したいという気持ちと、自分のプロジェクトが崩壊する脆弱性を塞いでおきたいという気持ちがまだうまく釣り合いが取れていませんね。幻影旅団のような感じの組織運営でいけばいいんですが、あれは漫画の中の絵空事ですよね。人間はもっともっと人間らしいものです。

精神と時とファイナンスの部屋 今週の進捗#19

今週はファイナンスの学習をしました。資本政策を最も好ましい形で進めたいからです。学習をすればするほど自分が何も知らないまま物事を進めようとしていたことに気づきました。基本的には Yコンビネーターの教えるところを日本の状況に適合しスタートアップを前に進めていきたいと考えています。

Yコンはシード期のスタートアップにコンバーティブル・エクイティを推奨しており日本にも同様の枠組みが存在します。コンバーティブル・エクイティには好ましい調達額の上限が存在しており1億円以上の調達の場合は通常の株での調達を検討するほうが好ましいという説明があります。これは次の調達がどのくらいのサイズになるかによって決めようと思います。

最初に参加した人にどのくらいの生株を渡すべきかからストックオプション付与の仕方、法的手続きなどワイコンビネーターには「標準化」されたスタートアップの作り方が用意されています。もちろん 日本とアメリカでは法規や税制、ビジネス慣行も異なるのでそのまま適用するわけにはいきませんが、 日本の状況を詳しく学習することによりかなり上手くやれるのではないかと想定しています。同時にこれらを日本化する 試みを しているエコシステムの構成員の方々にとても感謝しています。

企業価値評価については有名なマッキンゼーの本を読んでいますが、スタートアップの評価はよりアーティスティックに決められていると思います。近年は後ろの方のラウンドでプライベートエクイティなどが投資をするケースがあります。その時は 一応厳密な企業価値評価をしているとは考えられます。しかしこの評価の枠組みはあまりサイエンス とは言い難くむしろテクニックと呼ぶべきものでしょう。

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

ストックオプションの税制はとてもややこしいと感じています。国税庁のコメントが出てはいるもののあまり明快でない 部分も存在しているので、この分野では 行政立法の方々に努力していただいて明快かつ簡潔なものにしていただけたら幸いです。ストックオプションの発行量を どの程度にすればいいのかには様々な意見が存在します。株を希釈化させるので既存株主あるいは未来の株主からは抑制的にして欲しいとの要望があります。10%というのがしばしば日本の投資家が引きたがる線ではありますが、 メルカリの先行例では20%まで発行 しています。 つまり事業が成長してストックオプションでさらに優秀な人材を集めることでその成長が加速するならば、既存投資家も ある程度は許容してくれるのではないかと想像しています。Google の新規株式上場時のレターでは会社はまあ株主のものではあるが、社員のものでもあるというニュアンスがあります。先に触れた企業価値評価の本でも、社員に対する報酬の高さはその企業への Return of investment Capital の高さ と相関することに触れられています。ワークルールズという Google の職場環境に関する本では報酬は不公平に設定するべきだと指摘されています。つまりストックオプションなどで担保できるインセンティブは年俸とは別に不公平に付与するべきではないのかもしれません。例えば、最初期の参画者にはとったリスクに応じて大きなパイを渡すのは合理的でしょう。同時に会社の未来に対して大きな可能性を与えた、あるいは与えうる人にも、同様に大きなパイを渡すことは合理的でしょう。

今週学習した内容はこのブログの後ろの三つのポストに書いてあるので興味があったら読んでみてください。来週も腰を据えてファイナンスの勉強を継続します特にタームシートについて知識を深めたいと思っています。実際の資金調達時にはもちろん専門家のレビューを受けて物事を進める用意がありますがそれでも自分で物事が理解できるのならおそらく条件や進行速度が著しく改善すると予測します。12月は経済学を学んで1月はソフトウェア開発を学んで2月は金融を学んでいます。

ということで来週もよろしくお願いします。私と話したい人は連絡してきてね。

運動

4000㍍泳いだ。60キロ歩いた。花粉症に気をつけよう🙂 f:id:taxi-yoshida:20190223144416j:plain

#3 優先株 スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

前回のこの記事では、種類株式の話をしてみて、今回は優先株について調べてみようと思いました。「優先株」というのは、普通株に対して特定の権利を追加で有し、投資家により有利な条件で発行される株式のことを指します。

増島雅和さんのStartup Innovators『優先株式の基礎』が明快な説明だと思いました。増島さんは優先株のスコープを以下の4点に定めています。

  1. 創業者のフリーライド防止(投資家の優先権確保)
  2. ストック・オプションの実効性確保
  3. 稀釈化防止(優先株式の価値の維持)
  4. スタートアップのモニタリング等

優先株式を採用する最も主要なモチベーションは1です。

同時に優先株主の権利を保全するための「装置」が組み込まれています。優先株主の権利は、新株発行によって希釈化されるため、投資家は経営陣による一定の新株発行を防止するための規定を設けます。投資家は他にも普通株主と経営陣が優先株主の権利を害するさまざまなケースを想定し、優先株の付帯条件を設計します。それは、会社資産の流出、優先権の劣後化、経営陣の私的利益、経営陣によるリスクテイク、経営陣によるアーリーエグジットです。それぞれこれらを防止する条件があります。詳しくは『優先株主の権利の毀損とそれに対応する契約上の規定』(喜多野 恭夫)を参照ください。

残余財産分配権

残余財産分配権は、ベンチャー投資で用いられる優先株式の権利の中でも、最も重要なもののひとつです。

この優先株式は「参加型」と言って、分配額が増えれば増えるほど、株式数に比例してたくさんの分配を受けられるようになっています。たとえば残余財産が10億円の場合には、先に優先株主に2億円を分配したあと、残りの8億円を、創業者と投資家の持株比率で分配することになります。

これが優先株の核となる部分です。こういう条件になっているからこそ、投資家は、リスクの高いシードステージやアーリーステージのベンチャーに対しても、思い切った額を投資できるわけです。

ただし、精算時の残余財産が、投資された資金の総量を上回る場合、最初に投資額を優先株主に戻してから、持ち株比率で分けるスキームをとると、誤差が出ます。残余財産の規模が大きければ大きいほどその誤差は許容し難くなってくるはずです。『起業のエクイティファイナンス』磯崎哲也)では分与の仕方として「AND型」「OR型」「3倍」などを紹介しています。詳細は書籍に譲りますが、私は「OR型」を好みます。優先株主が投資額を保全した後は、普通株主と同様の分配に沿ってもらうのが最もフェアだと感じます。アーリーステージ投資家にとっては「AND型」「3倍」(投資額の3倍に対する残余財産への優先権)で、麻雀で言うところの「ドラが乗る」のが嬉しいのかもしれませんが、優先株の目的は「OR型」で満たせます。「AND型」でドラを付ける必要はありませんし「3倍」に関してはドラがのりすぎです。これは資金調達を経験する前である現段階での個人的意見です。

ストックオプションの実効性

ストックオプション普通株への転換が規定された新株予約権です。ストックオプションを割り当てるとき、投資家に対して優先株式ではなく普通株式を発行した場合、おおむねストックオプションの行使価格は、投資家に対する普通株式の発行価格よりも高くなければ税制適格要件を満たしません。これはストックオプションホルダーのキャピタルゲインの圧迫要因になります。

優先株普通株よりも高い価格でも取引されても良いというのがシリコンバレーでは一般的になっています。ストックオプション普通株に転換するときの価格を、その時点での優先株価格よりかなり低く設定することも可能になっています。ストックオプションのホルダーのキャピタルゲインを大きくし誘因の作用を高めます。これを優秀人材確保のために活かせるはずです。日本でも経産省のサイトで種類株の取引価格を普通株の価格とはしなくてもいいということが確認されています。

希釈化防止

3の希釈化防止では種類株における転換請求権が活用されています。転換請求権はいわばダウングレード請求権です。Startup Innovatorsの『転換請求権 (2/2)』で増島さんはこう説明しています。

A種優先株主としては、このような株式価値の低下が自らのあずかり知らないところでB種優先株主の引受投資家と創業者との間で決められてしまってはたまりません。そこで、A種優先株主は、このような形で自らの株式の取得価額よりも低い価額で新規投資が行われる場合には、その時点のA種優先株式の転換価額を下方に調整し、普通株式転換ベースでの株式数を増加させることで、保有株式の価値の維持を図ることを考えます。このための仕組みが稀釈化防止条項(Anti dilution provision)と呼ばれるものです。

希釈化防止条項には以下の三種類があるそうです。

① フルラチェット方式(Full Ratchet Adjustment) ② ナローベース加重平均方式(Narrow-based Weighted Avarage Adjustment) ③ ブロードベース加重平均方式(Broad-based Weighted Avarage Adjustment)

この話は細かいので、リンク先にも詳細な説明がありますし、もっと知りたい人はぜひ自分で調べてみてください。正直、自分が調べた限りではどれがベストプラクティスかはわかりませんでした。「何をもって正当とするべきか」はやはりとても主観的なものなのです。

強制転換条項

優先株には一定の条件が成立したときに会社の決定によって優先株を一斉に普通株に転換することができる旨の条項が含まれています。会社法では取得条項と呼ばれます。強制転換条項が発動する条件としては、IPOと経営悪化時が考えられます。優先株式が残存している状態でIPOを行わないのが現実的であること、会社の経営状態が悪化したときに、一度すべての優先株式普通株化した上で新たな投資家を募ることがこの条項に含意されています。

普通株への転換は比率1対1が通常のようですが、転換する株式数に細かい調整を付けるケースがあるようです。正直、余分な労力を割いているのではないかというのが現時点での僕の感想です。

拒否権

それを防ぐためにさまざまな”防衛手段”を優先株の中にビルトインしておくという考え方があります(優先株主の権利保護のための拒否権(Protective Provisions)(1))。

拒否権はそのひとつで、投資家に一定の重要事項に拒否権を持てるようにします。拒否権の適用範囲が広ければ広いほど会社運営が大変になってきます。新株発行やM&Aなど優先権を脅かすのに十分なものに絞るのが好ましいとされています。

タグアロングとドラッグアロング

タグアロング(Tag Along right)は特定の株主が株式売却の際、他の株主も同条件で買い手に売却する権利を指します。「あなただけ売り抜けるのはずるいから一緒に売却させてね」という感じ。大株主が大きな影響力をもっている場合、当該大株主の離脱は企業価値に大きな影響を与えるため、少数株主が大株主の売却条件と同条件で買手に自己の株式を売却するケースはひとつの典型です。この場合は少数株主の保護が目的とされています。

ドラッグアロング(Drag Along right)は大株主の株式売却に際して、他の株主も同条件で売却をしなければならない条項をさします。典型例としては、優先株主の総議決権の3分の2以上の承認等の一定の要件を満たす場合に、他の株主に対して買収に応じるべきことを請求できる権利があります。大株主が事業売却案などを即時的に実行すべきと判断した際に即時的に実行できるので、機動性のメリットがあると考えられます。この条項が盛り込まれるというのは大株主への信頼が優先株主の間で確立していることの現れにも見えます。

汐留パートナーズグループCEO 公認会計士前川研吾のブログの『タグアロングとドラッグアロング』では、「タグアロングは権利であり、ドラッグアロングは義務であるということが、両社の大きな相違点です。いずれも、投資家株主間の問題として、「少数株主の保護」と「大株主(支配株主)のエグジット」を調整し実行するための権利調整です」と説明されています。

役員選解任権

文字通り、優先株主が◯人の取締役を選任、解任する権利です。投資先を多数抱えるアーリーステージ投資家の場合、コストがとてつもないのでむしろ付けない、という考え方をするのではないかと推測します。好ましいスタートアップの選定に時間を割いて、逐次取締役会に参加するコストを無くすようにするのではないでしょうか。

優先株のコスト

優先株を発行した場合、会社は種類株主総会を通常の株主総会とパラレルに開催しないといけません。開催は成長期にあるスタートアップにとって大きな負担となります。この開催を忘れていたことが上場審査においても問題になるケースがあったそうです。種類株主総会については『種類株主総会はどのように運営すればよいか』(高谷裕介 弁護士)が詳しいです。これが優先株発行の主要なコストであり調達資金の多寡によりコストを許容できるかいなかが異なるそうです。

猪木俊宏さんは 『優先株の普及と問題点ーースタートアップ目線で考える最近のシード資金調達(1)』で「シード投資において優先株を利用するのは、種類株主総会の負担と開催忘れリスクを考えるとまだ難しいと考えている人が多いのが現状です」と主張しています。猪木さんは『シード期における優先株利用の可能性ーースタートアップ目線で考える最近のシード資金調達(3)』では、こう説明しています。

現在でも、普通株での投資を行うシード投資家は少なくありません。その理由は、普通株での他の投資方法に比べて圧倒的にシンプルであり、起業家・スタートアップと投資家双方にとって理解しやすく、事務的・費用的な負担がかからないことが基本であり、特にエンジェル投資では、投資契約(株主間契約)も締結されず、登記に必要な書類のみで投資されるケースも多く、シンプルさは際立っています。

優先株をシード期に用いることは、スタートアップにとっていくつかの問題があることは、第1回で見たとおりです。その中で残された最大の問題は、現在のところ、種類株主総会開催の負担と開催忘れリスクによる上場審査への影響ですが、これを軽減する環境が整えば、シード段階でも優先株が利用されるようになる可能性も高いと考えられます。

シリーズA以降で優先株の利用が進んだことにより、当然、種類株主総会の開催事例も増加しており、実務的な知見も蓄積してきています。

スタートアップにとっては、種類株主総会の開催を含めた事務的・費用的な負担を受け入れるだけの金額を調達できるか、という点が重要になると猪木氏は説明します。

現時点で調達金額と優先株の利用について、スタートアップ目線で大雑把にいうと、1億円以上の調達は優先株で問題ない、5000万円以上1億円未満はケースによる、3000万以上5000万未満は優先株を使うのはケースによるが基本的にはやや微妙、3000万未満はかなり微妙なので基本的にやめた方がよい、という感じですが、今後種類株主総会についてのノウハウがまとめられ、かつ、シード期にふさわしい優先株の設計がなされれば、シード期において優先株が利用される事例が増加する可能性も高いと思います。

コメント

投資家のリスク防衛、経済的利得の最大化のためのスキームだと僕は感じました。起業家の中にはモラルハザードをする人もいるのでしょう。起業家の僕としては、この条件群は好ましい企業価値評価とセットならフェアになりうると思います。私も実戦を践んでいないのでなんとも言えませんが、実戦で目にする優先株については「善意の第三者」となりうる法律家のレビューを受け、自分自身でも深く読み込まないといけないでしょう。実戦を践んだ人の多くはNDA等で縛られていて何も語れないことが多いので、このように推測しています。

自分のプロジェクトは自己資金でコンバーティブルエクイティが好ましい段階を越え、投資家が好むのなら優先株を採用する、というレンジにあると想定しています。

「僕が考える最高の優先株」を一度作ってみたいです。

  •  盛り込まれる条項については、シンプルなものに留め、リガールコスト、オペレーショナルコストを削減する
  • 信頼できる可能性が高い人と取引をする
  • インセンティブの一致が信用できる人と取引をする
  • いいアドバイザーを見つける

これらのことに留意していきたいです。

#2 種類株 スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

起業家の僕は、資金調達に際して資本政策に関する知識を学ぼうとおもっています。調べてブログを書くことが、自分にとって好ましい学習法であり、このブログを将来の社内文書の土台にしようという目論見もあります。

このブログは完璧ではありませんが、スタートアップの起業家や参画者の方の「はじめの一歩」になるようには努力しました。あなたがここに書いてあることを実行する際は法律家等の専門家とよく話し合うことを推奨します。

種類株式の種類

種類株式にはさまざまな種類があります。会社法に照らし合わせて大別すると定めることができる内容はこの「種類株式を活用して創業メンバーの会社支配権を守る方法」(高谷 裕介弁護士)のテーブルがわかりやすいです。勝手に転載して訴訟を仕掛けられると困るので、リンク先を参照してください。会社法108条がこれらを規定しています。Wikibooks ”会社法108条”を参照、一部読みやすく改変しています。

1)剰余金の配当

2)残余財産の分配

3)株主総会において議決権を行使することができる事項

4)譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。

5)当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。

6)当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。

7)当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。

8)株主総会取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第478条第8項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの。

9)当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第9号及び第112条第1項において同じ。)又は監査役を選任すること。

これを明快に表現すると以下のようになります。

  1. 剰余金の配当
  2. 残余財産の分配
  3. 議決権制限株式
  4. 譲渡制限株式
  5. 取得請求権付株式
  6. 取得条項付株式
  7. 全部取得条項付株式
  8. 拒否権付株式(黄金株)
  9. 役員選解任権

法律家はこれらの種類株式の特性を組み合わせて、スタートアップファイナンスに適した株式を設計します。2について投資家に一定の優先規定を設けることがあります。それは後ほど”優先株”で触れようと思います。3は株主総会での議決権を制限できます。4は株主が株式を第三者へ譲渡する際に会社の承認を得る必要があり、株主の意思だけでは自由に譲渡することができない株式であり、株主が頻繁に入れ替わる状況を防ぐために利用されます。5に当たる「取得請求権付株式」とは株主が発行会社にその取得を請求する権利が付与されている株式です。スタートアップの場合、金銭に変える、普通株式に替える、この両方を定めていることが多いようです。

6の「取得条項付株式」は会社側から株主に対して、強制的に株を買い取ったり、優先株式(後述)を別の種類の株(普通株式など)に替えることができる株式です。株主の中には、今はまだ上場すべきタイミングではないとして、普通株式への転換を拒否する株主が出てくる可能性があります。上場することが確定したら、会社側から強制的に種類株式を普通株式に転換できるように設計しておけば、強制的に普通株式への転換が行えます。

7の全部取得条項付種類株式は会社が株主総会の決議によって、その全部を取得することができる株式です。M&AMBO、完全子会社化など、様々な場面で、分散した株式を集約するべく少数株主を締め出すために利用されていました。税制面でもっとも扱いやすのが採用の主たる理由ですが、会社法改正後は株式併合の方が目的に合致しているとされています。

8の拒否権付種類株式は「ベンチャーキャピタルが少数株主となりつつ、新株発行やM&Aなど一定の重要事項のみ拒否権を持つケースが典型例」と言います。これは「黄金株」と呼ばれます。黄金株の典型的な利用例は、敵対的買収です。合併・株式交換・営業譲渡などの事前に規定されたことに拒否権を発動することができます。拒否権を所与の条件としたとき、攻撃者の攻撃の誘因が減ります。詳しく知りたければこちらの『持株会社における敵対的買収防衛策の検討』(http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/graspp-old/courses/2007/50010/documents/50010-4.pdf)を読んでください。ただし、敵対的買収防衛策には「デュアル・クラス・ストック」が好ましい場合があります。これについては後で触れます。

9の役員選解任権は名前の通り役員を選任、解任する権利をもつ株式です。

優先株

いわゆる”優先株式”では、増島雅和さんのStartup Innovators『優先株式の基礎』が明快な説明と感じました。増島さんは優先株のスコープを以下の4点に定めています。

  1. 創業者のフリーライド防止(投資家の優先権確保)
  2. ストック・オプションの実効性確保
  3. 稀釈化防止(優先株式の価値の維持)
  4. ベンチャー企業のモニタリング等

多くの優先株の説明は1をなぞるものが多い印象です。2、3、4についてはとても勉強になったという印象です。3はダウンラウンドを想定したもので、普通株式ベースでの持株数を増やすことで、エグジットの際の既存投資家の取り分を保全することを目的としています。4では取締役選任権を株の要件にくっつけることで、投資家が取締役としてベンチャー企業のモニタリングを実施する枠組みです。

優先株式という名称は、投資家が最も興味のある剰余金、残余財産の分配での優先権にフォーカスしていますが、上記の種類株式のさまざまな特性をミックスしたものです。”優先株式”という言葉自体は会社法の中にはなく、おそらく投資家、法律家ごとに”優先株式”が指すスコープが異なると僕は推測しています。上記の定義も増島さんが好ましいと考える”優先株式”のかたちだと考えられます。投資家との交渉時に、投資家が優先株式の活用を好んだ場合、「おれの考える最高の優先株式」が起業家のあなたに提示されることが想定されます。優先株式はかなりスタックが深く、同時に重要性が高いので別のポストで触れます。

起業家としては、信用ベースで普通株の取引ができたほうがものごとが簡明ですし、リーガルコストも圧縮できると考えています。

付記) デュアル・クラス・ストック

デュアル・クラス・ストックは、その名前が示す通り「2つのクラスの株」を発行する仕組みです。クラスAとクラスBという2種類の株式を発行します。これら2つの株式は、金銭的価値は同じなのですが、各株の持つ議決権に差をつけているのです。有名なグーグル社の場合は、クラスAとBとで議決権に1:10の差をつけているのです。

持株比率と議決権の比率を分離することによって、株式市場からの資金調達という上場会社のメリットと、創業者や経営者が会社のコントロール権を持ち続けるという非上場のメリットとの両方の利点を享受できることになります。

攻撃者が敵対的買収を仕掛けたとしても創業者が腰を割らなければ企業支配権は攻撃者の手に渡りません。デュアル・クラス・ストックの採用は上場直前に勘案するのが自然と想定しています。

#1 ストックオプション スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

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Via "Silicon Valley", HBO,

僕は起業家として従業員を増やそうとしています。そのときに通常の福利厚生に加えてストックオプション(SO)を設計することにしました。しかしSOの理解には掘り進めていくととても深い専門知識が必要なことがわかりました。僕は創業当初の大事な時期に何度も行ったり来たりすることになりました。学習を進めるうちにブログを書いた方が学習が簡単だと思いました。後々社内文書等を整備するときに活用しようという目論見もあります。

このブログは完璧ではありませんが、スタートアップの起業家や参画者の方の「はじめの一歩」になるようには努力しました。Webにある断片化された知識群(ポジショントーク混ざり)をパズルに組み合わせるよりは、このポストの末尾にある「参考になった書籍、記事」を読んだほうが早いと思います。ここに書いてあることを実行する際は法律家等の専門家とよく話し合うことを推奨します。

想定読者

  • スタートアップ経営者
  • スタートアップ役職員
  • このふたつのいずれかになりたい人

SOとは?

SOは「会社の株を、将来、過去に設定された価格で購入できる権利」です。行使価格と譲渡価格の差分が付与された人の利益になります。「ストックオプション税制のご案内」(経済産業省)では以下のように説明されています。

ストックオプション制度とは、会社が取締役や従業員に対して、あらかじめ定められた価額(権利行使価額)で会社の株式を取得することのできる権利を付与し、取締役や従業員は将来、株価が上昇した時点で権利行使を行い、会社の株式を取得し、売却することにより、株価上昇分の報酬が得られるという一種の報酬制度を指します。報酬額が企業の業績向上による株価の上昇と直接連動することから、権利を付与された取締役や従業員の株価に対する意識は高まり、業績向上のインセンティブとなります。

オプションとは金融派生商品の一種です。オプションという言葉は英語で選択権という意味です(和製英語だと付随するものの意味合いがありますね)。金融業界では、ある商品(為替、株式、債券)を将来の一定期日に、あるいは一定期間内に特定の価格で買う、または売ることができる権利の売買をオプション取引と呼んでいます。「ストック(株式)」の「オプション(選択権、この場合は予約権の方が正確です)」ということでストックオプションなのです。

ストックオプション制度においては、役職員の増加の都度、新たなストックオプションを発行しなければいけません。また発行したストックオプションの内容変更・消却・行使等があった際にも変更登記等の手続を行う必要があります。管理コストもかなりの負担となるため、スタートアップ・ベンチャー企業においてストックオプションの管理が不十分であるケースも少なくないようです。先輩たちが踏んだバグをめぐっては、後進はそれを検証し、二度とバグを踏まないようにしたいですね。

SOが打ち出の小槌であるかというとそうではなく、さまざまなコーナーケースがあります。それは後で触れるとしましょう。

入り口としては『起業のファイナンス 増補改訂版』ストックオプションの章がわかりやすいです。ブログで読みたい場合は、FincのSOを検討した記事の「1.ストックオプションとはどのようなインセンティブか」がわかりやすかったです。もっと砕けた説明から入りたい方は「スタートアップと株の話」がおすすめです

行使条件

ストックオプションを行使して株を取得するための、 行使条件を設定することがあります。ストックオプション保有者は、この条件を満たしてはじめて、権利を行使して株を予定価格で得ることができます。

典型的な行使条件としては「会社が上場すること」が挙げられます。会社が成長しストックオプションが十分魅力的な場合、起業家側は上場を行使条件にすると、より上場への誘因を駆り立てることができそうです。

ただ、日本でもシリコンバレーと同じように段階的な行使可能割合の拡大であるベスティングの条件を盛り込む例が出てきました。行使条件を満たすため上場するまで会社に留まることを事実上強制するのはあまり好ましくない気がします。スタートアップには出会いもあれば別れもあるので、別れた人にも合理的な範疇での報酬が設定されている必要を私は感じています。

調整条項

株式の分割又は併合が生じた場合に、その比率に応じて目的株数及び行使価額を増減させる内容が典型的なケースです。また、ダウンラウンドが生じた場合に株式時価の低下割合を一定の加重平均方式の計算式により算定して、その割合で行使価額を引き下げ調整する調整条項も一般的とのことです。ダウンラウンド調整の計算式において株式の「時価」にしっかりとした定義がないと紛争の大元になりうるようです。上場前の「時価」は「調整前の行使価額」を意味し、上場後の「時価」は、直近一定期間の終値平均を意味するというふうに調整計算式における「時価」を明確に定義する必要があります。

発行手続

  1. 取締役会 / 株主総会招集、議案(ストックオプション内容)確定
  2. 株主総会招集通知発送
  3. 株主総会決議(特別決議)
  4. 申込をしようとする者に対する通知・申込
  5. 割当の決定・通知
  6. 変更の登記申請

全株主が株主総会の招集手続の省略に同意し、かつ総数引受契約を締結すれば、2、4、5の手続を省略できます。

課税と種類

ここでは以下のように分類します。

  • 税制非適格無償SO
  • 税制適格無償SO
  • 有償SO
  • 信託SO

税について留意しなければいけません。SOがインセンティブとしてワークするためには利益への課税が一定の割合である必要があります。ストックオプションは原則として、権利を行使した時点で行使時の時価が権利行使価額を上回っている部分について給与所得として課税され、また当該株式を売却した時点で、譲渡価額と権利行使時の時価との差額部分について譲渡所得として課税がされます。

  • 税制適格として取り扱われると、株式売却時にキャピタルゲイン税(譲渡税)が課されます。税率は20%であり、低い税率で課税関係が終了します。
  • 他方、税制適格でない場合には、権利行使時に所得税が課され、株式売却時にもキャピタルゲイン課税がされます。役員や従業員の場合には、所得税・住民税の税率は最高で55%に達します。
  • ゆえにストックオプションを発行するときには、税制適格をみたすように設計する必要があります。
  • 税制適格は、行使期間や行使価格の年間合計額に制限があります。ただ一般の役員や従業員ならば、無理なくストックオプションを設計することができます(仮に税制適格を満たせなくなると想定されるときは、補完的な枠組みか、まったく別の枠組みを活用するべきです)。

無償SOでは税制適格か否かの面への留意が必要です。有償SOの場合は付与者がエクイティを購入し後に売却するという形式をとり譲渡税(20%)の適用となります。信託SOは企業価値を「冷凍保存」するような効果があります。スタートアップが利益規模などが大きくなった後に割当先を決め、貢献度の高い役員・社員に大きく報いる方式です。最近採用が拡大しており、特に昨年の機械学習スタートアップPKSHAのIPOで注目を浴びました。

このKazy Hataさんの『スタートアップのStockOption、特に税制周りについて』の記事にとても有用なテーブルがあるので参照をお薦めします。では、順番に説明していきましょう。

税制非適格無償SO

最大で給与課税55%、譲渡課税20%が課せられてしまいます。スタートアップでは活用することがないため、あなたは調べる必要がありません。あなたができるかぎり大量の税金を払いたい場合はかなり有用そうな印象があります。

税制適格無償SO

創業当初に無償SOを付与することがあると思います。そこには「2年間は行使できない」条項が盛り込まれることが多いと言います。国税は2年以内の行使を給与課税とする可能性が高いからです(税制適格ではなくなります)。このため後に説明するベスティングを盛り込む場合には、就業1年目から付与するものの行使は2年経過まで待たないと大損するということを創業期参加の従業員に説明する必要があります。おそらく信頼関係を基にしてレールに乗せてあげるほうがいいでしょう。

行使時期が付与から2〜10年であれば税制適格キープされます。税制適格要件としては、前出の「ストックオプション税制のご案内」(経済産業省)](http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stock_option/index.html)では以下のように説明されています(抜粋)。

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この「2年間は行使できない」条項は、行使期間中における従業員の権利行使可能数を段階的に引き上げるベスティング(後述)とぶつかるはずなので、例えば2年以降から50%行使可能、在籍3年75%、在籍4年100%が行使可能と設計するべきと勝手に想定しています。

行使価格を「新株予約権発行の取締役会決議日の前日の終値」とした場合でも「取締役会決議日以後速やかに付与契約が締結される場合には、税制適格ストックオプションとして取り扱って差し支えない」(国税コメント)とされています。

非常に重要なコーナーケースが「税制適格SOの発行から2年以内のM&Aでの行使」です。この場合、国税庁の見解がわからないみたいんです(このブログからのまた聞きです)。

AZX法律事務所のブログでは以下のように説明されています。これは法律家に助言を仰いだ方がいいと思います。またコメント頂けるようであればぜひお願いします。

将来のM&Aの可能性を踏まえて、上記(2)①の行使制限の2年間の間でもM&Aの場合には行使できるようにしたいという要請を受けることがあるが、このような形にしてしまうと税制適格とならなくなってしまうリスクがあるので注意が必要である。

「行使価格が年間1200万円を超えない」との条件があるので、ビッグプレイヤーと取引するときは後述の有償SOか生株の譲渡をしないといけないと想定しています。スタートアップがメルカリ並の成長を遂げたときは、行使価格が年間1200万円を超える人が出てくるでしょう。そういう人には次の有償SOで予約権を買ってもらう必要性が生じるはずです。

有償SO

有償SOとは、従来型のSOのように職務執行の報酬として付与されるものではなく、公正価値による新株予約権の発行価格を金銭で払い込むことにより新株予約権を購入するもので、付与対象者が発行会社の新株予約権に対して投資を行うスキームです。従来の無償SOのように会社から付与されたものを受動的に受け取るのではなく、付与対象者が自らの判断で能動的に投資することになります。

有償SOは、公正価値による新株予約権の発行価格を金銭で払い込むことにより新株予約権を取得する投資スキームであり、報酬として発行するSOではないため、会社法上の取締役が付与対象者となる場合でも株主総会による報酬決議は不要です。すなわち、有償SOは、取締役会決議のみで機動的に発行することができます。

SOを取得した役職員は、設定された業績や株価に関する目標を達成すると、株価上昇分の利益を得ることができるため、業績・株価に関する意識づけおよびその目標達成への動機づけ効果は、通常の無償型ストック・オプションよりも高いものが期待できるという考えられます。

信託型SO

信託活用型SOとは、発行時点の比較的安価な行使価額の新株予約権を、将来に渡って配布することができるスキームです。付与対象者および付与規模を『後決め』することができる点が特徴です。個人のパフォーマンスを考慮した事後的な付与や、将来の入社予定者への実質付与が可能です。

信託型SOは低めの価格で発行されるため、付与された者は上場などで企業価値が上昇した後に権利行使して株式を取得し、市場で売却すると大きな利益を得やすい。現時点で入社していない役員・社員でも業績などへの貢献度に応じて後から付与することができます。オプション価値に相当する購入資金は、従業員は負担せず、信託への拠出時に大株主(概ね創業社長)が負担します。

同時に一定の期間が経過した後にストックオプションの対象者・配分等を決定することとなるため、当該期間までの役職員の実際の貢献度を考慮することが可能となります。

ダウンサイドとしては、導入時のコストが高額な点が挙げられます。「時価発行新株予約権信託」スキームを構築、アドバイスできるコンサル会社はプルータス1社とも言われており、このコンサルティング費用が発生します。1000万円を超えるケースもあるようです。発行する企業はこの費用をカバーできるスケールメリットを表現する必要があります。ただ、今後この制度自体が普及してくれば導入コストは下がると予想されます。 

「発行時において、対象者・配分等を確定しなくてよい」ということは、逆にいうと、「発行時には役職員に確定的に帰属していない」ということになります。付与する側が事後調整をかけられるため、付与側を優位にする制度であることは間違いありません。付与する側に公正な判断基準と良心をもつことが含みにされていると感じられます。シビアな考え方をする従業員はそれに期待せず、他の職を探す行動をとることを促してしまう側面もあるでしょう。仮に僕が役職員として付与されたとしたら「存在しないもの」と考えると思います。お金が絡んだとき人間の良心など信じるに足りません。そして評価というものは常に主観的になされるからです。

信託型SOは会計士、税理士、法律家の他、助言してくれる専門家の皆様にプレゼントしたいな、というときに有効なケースが有るかもしれない、という考え方をしています。

ベスティング

従業員等の在籍期間等に応じ行使期間中における従業員の権利行使可能数を段階的に引き上げることを指します。具体的には、各付与対象者の入社からの在籍年数に応じるもの、新株予約権発行からの経過年数に応じるもの、株式公開後の経過年数に応じるものなど、いくつかのパターンが見受けられます。このようなベスティングの条件は、全対象者一律の内容として規定可能なものであれば新株予約権の「内容」に盛り込むことも可能です。

対象者毎に条件を変えるケースがあります。その場合には新株予約権の付与契約の方に規定を入れることになります。日本の実務では、前述のとおり従業員等の地位の保持が行使条件とされ、かかる地位の継続保持を前提として、一定の経過期間に応じた行使を認める形のベスティングが一般的です。米国のストックオプションでは、退職までの在籍経過期間等に応じて、付与数の一定割合を退職後も行使できるようなベスティング条件が設定されるケースが多いそうです。

M&A

買収企業の視点からみて、特に被買収企業を 100%子会社化することを想定しているような場合、被買収企業が発行していたストックオプションが買収後に行使されると、100%子会社化が実現しません。そこで、このような場合には、被買収企業が発行していたSOを買収前に整理する取引をすることになります。ホルダーが税制適格SOを買収企業に譲渡するときの税制適格が担保されるのかいなかはふたつの国税コメントがぶつかっており、不透明です。

M&Aのときに役職員に付与されたインセンティブが失効してしまう設計にしてはいけません。このコーナーケースをなくしSOを設計する必要があります。特に発行から2年経っていない税制適格SOの扱いなどについては深い検討が必要です。

従業員のためのガイドラインを設ける必要性

Y Combinator卒業生のGustoは”guide to employee equity” を作ったそうです。Gusto CEOのJoshua Reevesは従業員のSOの理解が少ないこと言及しています。

このガイドは、私が作成して社内で共有したドキュメントに基づいています。 多くの従業員は、ストックオプションの価値と財務上の影響を理解していません。 このことは混乱を招く可能性があるので、私たちが行うべき正しいことは、私たちの成功の最大の利点を得るための知識を従業員に与えることであると感じました。 このガイドの概念は、基本的に私が従業員にオファーをしたときに経験したことであり、それが他の起業家にも役立つことに気付いたことです。

どうやら付与したSOが実際にどの程度の株式に相当することになるか等、とても基本的なことから教育が始まっている印象です。

最初のものは実際のオファープロセスに関するものだと思います。 多くの場合、人々は自分の持分の詳細を知らないので、すべてのオファーで伝達する必要があることが3つあります。 人々は彼らが提供されている株式の数を知る必要があります、彼らは彼らの株の価格を知る必要がありますそして彼らはまた会社の評価または会社の発行済株式数を知る必要があります。 それらは、他のものを計算することができます。

理解してもらえないと誘因としての効果が薄まります。世界は本当に複雑で誘因に反する行動をとる役職員も現れるはずで、会社のメカニズム設計が歪んでしまうでしょう。

ソフトウェア・エンジニアには『SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル』を読んでもらうことから始めてもらいましょう。

自分が現段階で想定する手筋

リスクに応じて初期の参加者には生株、中期後期の参加者にはストックオプション(SO)という構成を想定しています。

生株に関しては無議決権株式か議決権を創業者の私に無期限で付与する形式を採用できないか検討しています。つまり株式が付与するものをキャピタルゲインに絞ります。理由としては、議決権が断片化すると意思決定の速度が鈍化してしまう可能性があり、また取締役会への”脆弱性攻撃”の誘因が増す可能性もあることが挙げられます。

生株の分配においての課題は、分配された参加者が一定期間の後にチームから離脱するケースへの対応です。離脱者の株は創業者の吉田が買い取ることを、契約書において規定します。買取価格については付与から年数、離脱する理由の合理性の有無等に応じて場合分けをし設定します。この条件に関しては公開しませんので、吉田と話してみてください。

SOに関しては専門家を交えて税制適格のものを設計する予定です。初期においては無償SO、中期においては有償SOを付与することを予定してます。税制適格であれば、譲渡税の20%の課税にとどまります。両者ともにベスティング(Vesting)を採用します。新株予約権の付与から1年ごとに付与新株予約権数の25%ずつの行使を認めていきますが、前述の通り無償SOの場合は2年以内の行使だと、税制適格から外れてしまうので、「2年以内の行使はできない」の条項を入れる予定です。

感想

  • メルカリ、Fincの例を見てみると、当初は無償SO、会社の将来性が明るくなり始めたころから有償SOへと変化しています。有償SOを買う蓄えがない人には給与の一部から天引きするなどのスキームを作ってあげるといい気がします。
  • 僕はまだ正式に事業を開始する前ですが、SOは資本政策の重要な一部であり、資本政策ともに綿密に計画することが肝要と考えるようになりました。その「不可逆性」と保有者をインセンティヴァイズするための教育には細心の注意が必要です。私は学部で経済学を学び、8年程度の職歴のなかでも経済学の学習を続けてきたので、従業員が誘因に適切に反応するという想定を持っています。そのため経営者目線ではなくむしろメカニズムデザインの観点でストックオプションの設計を行いたいと考えています。
  • いいSOを設計して”Skin in the game”(身銭を切ってゲームに参画する)を実現させましょう。

参考になった書籍、記事

柳田 恭兵 スタートアップ経営者必見!ベンチャーファイナンスの法律実務、第1回 ストックオプション制度の新潮流

これからのインセンティブプランの形 第1回 有償ストック・オプションとは

スタートアップのStockOption、特に税制周りについて

太ったらストック・オプション没収です。攻めるFiNCの資本政策【SO設計編】

スタートアップこそ導入すべき、「ストックオプション信託」とは? -法律事務所ZeLoの弁護士がベンチャーファイナンスの法務を解説する(第1回)

木内・橋本会計事務所、ベンチャー企業であれば、必ず「時価発行新株予約権信託」は検討すべき

 

たったひとつの冴えたやりかた 今週の進捗#18

今週はベータ版をローンチしました。メンバー募集中です。この記事の(5)に福利厚生、給与、インセンティブなどの諸条件が記載されています。

axion.zone

長い道のりだったとかなんだとか言うつもりはありません。挑戦はずっと続いていくので、始まったばかりだ、という感想です。でもやっぱり楽しくなってきました。スタートアップというゲームの全貌が分かってきました。やはり僕が好みとしている不確実性の高いゲームなのです。そして自分は悪くないプレーをしてきたと自信を持つようになりました。

資本政策

近い内に資金調達をしようと思っています。 axion はシード、プレシリーズA、シリーズAのどこかに存在しています。もしビジネスに確証を与えるチームを組織できれば、去年のサイトのトラフィックのほか、ビジネスの見通しなどを勘案して、シリーズAから始められる気がしています。

日本には合計350社超、CVCだけでも250社以上、VCだけでも100社以上あるそうです。日本は世界のものさしで見たときに中堅規模の上場企業が多いですが、その企業群は現金をたくさん持っています(従業員の賃金をカットしている傾向があります)。そのお金たちはシャドーバンキングを含むさまざまな形態で世界中に蓄積されています。彼らはCVCという形で余ったお金のほんの一部を日本経済に投じているわけです。このすべてがアーリーステージの投資をするわけではありませんが、基本的にはアーリーステージの投資が膨張している傾向がシリコンバレーで先にあり、日本も同じ傾向があると考えられます。

note.mu

同時に日本は未曾有の金融緩和により資本調達コストが落ちており、積もりに積もった個人資産は行く宛を失い「ホームレス」になっています。このホームレスマネーがVCにも流入していると推測することができます。日本のVCの資金源は国際化しているようであり、近年は中華系のプレイヤーの存在感が高いと聞いています。

上記の状況を勘案すると「安心してください。お金ありますよ」と僕は考えています(古いしうまくない洒落です)。だから資本調達に関しては即座に好ましい条件に到達することが重要ですが、何が起こるかわかりません。仮に苦戦するようなら、親のスネをかじってでも粘ろうかと思っています。丁度今日、母親の誕生日で埼玉県さいたま市の実家に行くので、誕生日にもかかわらず、状況が長期化するときはスネをかじらせてくださいと頼みに行こうと思っています。本当にダサくて死にたいですが、それで会社の未来を数倍、数十倍よくできるのなら、将来に起こりうる困難を削減できるなら、恥なんて死ぬほどかいてやろうと考えています。

以下の記事によると「東大創業者の会応援ファンド」が発足し1号案件が決まったそうです。私が卒業した早稲田大学でも同様の試みがあればいいなあとは思いました。調達額の規模としてはかなり違うので、そのままこれに当てはまる必要はないのですが、まあ卒業大学という属性を活用することもやぶさかではないなと思うわけです。もちろん早稲田ということに固執していませんし、僕は卒業からコネゼロでやってきたし、そういうの好きじゃないんです。

jp.techcrunch.com

それで上記のローンチに関するブログを書いているとき、雇用条件について勘案しました。参画者に生株、ストックオプションの譲渡をするケースを想定したとき、僕は自分が詳細な資本政策を描いていないことに思い当たりました。それで調べ始めると本当に奥が深かったのです。調べるのは今回が三周目くらいなのですが、すでに前に知ったことの半分を忘れていました。

丁度そのとき以下の記事をTwitterで読みました。五常・アンド・カンパニー株式会社のTaejunさんがNoteを無料公開してくれたのです。「株の持分はやり直しがきかない。特に序盤でコケると本当に大変な目に遭う」そうなので、とてもためになりました。

note.mu

ここは腰を据えてしっかり学習するときです。ベンチャーファイナンスの知識は基本的には「覚えゲー」で、覚えれば覚えるほどリターンがありそうです。それでも実践の経験でそれらが補強されるだろうし、そればかりやっている投資家と起業家の力の差は如実にあるはずです。信頼できる法律家を見つけないといけませんし、そういう人に株式を譲渡するなどで共通する利害関係を構築するのも手だと思います。以下に現状の学習の課題を列挙しておきましょう。

  • 自分で想定するキャップテーブルを描く。そのとおりにはならないが、最初に自分で描いておくことが重要。
  • 投資契約とタームシートにおける交渉の前知識をつけておく
  • 創業者株式の仕組みと種類株式の知識
  • ストックオプション税制

もっと知識を深めて、頭の中に全体像を持とうと思います。ここで勉強した後、またこのことを学べる時間がいつ与えられるのかわかりません。ここから先はものすごい加速的に物事が起きていく気がしてならないのです。

仲間探し

事業の酸いも甘いも吸い尽くした人とこの段階まで来ることが好ましかったのですが、そうはいきませんでした。ということで、これから仲間探しをやっていきます。エンジニア、編集者、経済ジャーナリストを募集しています。

axion.zone

開発

開発の側面では、axion ver 0.1 と考えています。まだ掘っ建て小屋のようなもので、途中で今あるものをすべて捨て去るときが来るでしょう。それが早いタイミングになればなるほど、僕らがうまくやっている証左になるはずです。

僕は今後バックエンドの開発手段を学んで行こうと思います。多くの先達たちがPHP, Railsのようなフルスタックフレームワークで開発し、その制約に苦しんでいます。クラウドでマイクロサービスを構築するモダンなウェブアプリケーションの開発に、PHP, Rails はそぐわなくなっています。プログラミングスクールや教材にとって、PHP, Railsを教えることが”美味しい”ので、これらを学んだ新規参入者が業界に流れ込んでくるわけです。投資家の一部にはPHP, Railsのクソハックで構築されたアプリを好む人がいると僕は推測しています。でも、そういうものは最初から制約を抱えてるいため、大きく成長することはないでしょう。マーク・ザッカーバーグやジャック・ドーシーがそれらの言語で最初のプロダクトを作ってから、長い時間が経過しています。

Go言語が有望です。Goは,CやC++などが使用されるシステムプログラミングの領域で,より効率良くプログラムを書くことを目的に作られました。UnixC言語の開発者Ken Thompson,UTF-8の開発者Rob Pike,memcachedの開発者Brad FitzpatrickがGoを開発しました。Goを選定するには以下の理由があります。

ベンチャーファイナンス、法務の学習が優先事項ですが、Golangにも相応の時間をさけるようにしたいです。エンジニア獲得に失敗したときには、僕自身が唯一の開発資源になる期間が生まれるシナリオもありうるわけですからね。

gihyo.jp

The Go Programming Language

運動

今週は3975㍍泳ぎ、52キロ歩いた。気候が暖かくなりそうですから3月買うらいからマラソンを復活させようかと思案しています。

感想

顔がむくんでいる気がします。毎日トライして一歩一歩実現していけば、必ず形になっていきます。目標の設定とその実現の仕方が大事です。

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Takushi Yoshida, 麹町のカフェにて、Feb 16, 2019