デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

プロダクトマネジャーあるいはプロダクトマネジメントをめぐる考察

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Via google news room 

TL;DR

最初のうちは自分でPMをやる。だけど長期的にはCSや経済学(特にマーケットデザイン)のバックグラウンドがあるPMを育てたい。


※今回はかなりごった煮のままなので、まとまったものを期待する人はここで読むのをヤメてください。メモの意味を込めてブログを書いています。間違っていてもご愛嬌😉

僕はサブスクリプションモデルのメディアスタートアップを始めるとして最初期に6人のチームを持つと想定します。で、そのうちの2人がエンジニアを想定しています。創業者の僕は創業してから独学でコンピュータサイエンスを甘噛して、それからプログラミングを学習してMVPを作りましたが、長期的に開発を続けていくには都度都度学習しながらになってしまいます。しかも、開発と同時にコンテンツの両輪で進んでいくビジネスなので、開発自体から手を引き、プロダクトマネジャー(Pdn Manager)を自分がやるという形でアーリーステージを切り抜けようと思いました(他にも課題があるので、これでもまずい気はしますが…)。

必要な開発陣はこのとおりです。ぜひどんどん私にDM等してください。

https://taxiyoshida.github.io/jobs/

しかしいろいろ忙しくてPMに関する結論を保留したままになってしまいました。とても気持ちが悪いです。

ということで、GWでもあることだし、今日も図書館でいろいろ読んでみて、それからこれまでの読書、経験、インタビュー等の成果などもミックスしてPMについて一定の結論を得ることにしました。


 『世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 トップIT企業のPMとして就職する方法』。この本は本当に素晴らしいと思いますし、翻訳してくれた方にも感謝したいです。

PMとエンジニアの人数比にも、大きな幅があります。Microsoftにはおおぜいいて、チームによっては1:3ほどの高い比率です。その他の企業では1:10が一般的です。GoogleTwitterは、エンジニアの人数に対してPMがとても少ないことで知られています。人数比は、PMがエンジニアの日々の仕事にどの程度密接に関わるか、PMが担当するプロダクトの規模はどの程度かということに大きな影響を与えます。

Amazon「チームは2枚のピザで収まる数がいい」とする考え方は有名です。1つのチームが5人から8人くらいに収まるとすると、このなかに1人PMが入りうるでしょう。

Amazonでは、プロダクトマネジャーの役割にはMBA取得者が好まれます。技術的なバックグラウンドが必須とは考えられていません。新卒者をプロダクトマネジャーとして採用しない、数少ない企業のひとつです。ただし、新卒者をプログラムマネジャーまたはテクニカルマネジャーとして受け入れています。これはプロダクトデザインよりプロジェクトデザイン寄りの役割です。

Facebookは本書で紹介する企業の中では最も技術面を重視し、技術に明るいプロダクトマネジャーを求めています。起業家精神を持った「ハッカー」文化があることを重んじていて、買収などにより取得した企業の設立者だったPMが相当数います。Googleの元PMも少なくありません。新卒者は1チームにつき4ヵ月、計3チームをローテーションするものです。

この記事で触れた『サルたちの狂宴』の著者アントニオ・ガルシア・マルティネスも自身が起業したアドテクスタートアップからFacebook Exchange(FBX)のPMに転身しています。2010年台前半でFacebookの「ハック」文化の頂点のような時期です。FBは他社が成功したプロダクトの特徴を即座に模倣する力があります。FBは当時はゲーミングプラットフォームとしての成功を目指し、メッセージングアプリの隆盛にもFacebook Messagerで乗ることに成功し、Snapchatの機能はすべて、買収したInstagramに取り込み、Bytedanceの機能もまたすぐさま取り込んでしまいました。この速度感は起業家出身のPMが多数いる証左のような気がします。

こういう記述もありました。

FacebookのPMは独特です。

Facebookは技術力が高く起業家精神を持ったPMを求めます。Facebookではプロダクトマネジャーの誰もがコードを書くこと(少なくとも基本を学ぶこと)を期待されていて、6週間のFacebookブートキャンプを経験します。これはPMとエンジニアがツールについて学びバグを修正するプログラムです。これは、なんでも自分でやる企業文化にふさわしいものです。PMが自分の担当プロダクトの初期プロトタイプを自分でコーディングすることは、めずしくありません。

お、僕はこの要件は全然満たしていますね😊

Facebookは他社の従業員を雇用する目的でその会社を買収することがあり、これをacqui-hiring(訳注: 人材の獲得を狙って買収すること)と呼ばれています。人材の獲得を狙ってチームを買収する場合、Facebookは通常、10人未満、しかもその大半がエンジニアで構成される小規模なチームを狙います。その企業の設立者やCEOがプロダクトマネジャーとして迎え入れられることが、しばしばあります。

なるほど。確かにチームが10人未満の段階で、リスクがかなり高いゲームを戦っている最中に高額のバイアウトプランを提示され、さらに最高水準の給与で迎えられるのが決まるので、普通の創業者はオッケーするに違いありません。

Googleは、主にコンピュータサイエンス専攻の新卒者を積極的に採用しています。新卒者はまずアソシエイトプロダクトマネジャー(APM)プログラムからスタートします。これは2年間のローテーションプログラムです。MBAを持っているPMもいますが、Googleではむしろ修士号や博士号を重要視しています。

Googleは本当にコンピュータサイエンスの会社なのだなと思います。ただ、CEOのSundar PichaiはウォートンMBAマッキンゼーGoogleのPMというキャリアなので、ビジネスに強い人もPMとして活躍しているのでしょうか。

多くのプロダクトではPMは1人しかいません。複数のPMがいるプロダクトでは、通常は業務が明確に分割されて、各PMがひとつの範囲の全体を担当します。GoogleのPMとして日々の仕事では、エンジニアリングチームやデザイナーと最も密接に連携します。PM、エンジニア、デザイナーはホワイトボードに描きながらたくさんのアイディアを出します。そして、すぐにプロダクトを作ります。

Googleは、PMの分析のスキルをたいへん重視します。データ分析がPMの仕事の大きな部分を占めることがあるからです。検索と広告の部門では、PMは利用状況のログをしょっちゅう見て、新しいプロジェクトのアイディアを考え出します。Googleでは、チームが何かを作ると、ごく一部のユーザーに対して簡単にそれを試すことができます。データが入り始めると、PMはそのデータを分析して(またはデータアナリストと協力して)、その変更がカイゼンにつながっているかどうかを検討します。

なるほどGoogleは検索、広告において「即座にハックする」というFacebookとは全く異なる世界観で開発を進めていることがわかります。

で、マイクロソフトは異色で、他のビッグテックよりも多くのPMを抱えているそうです。そしてそのバックグラウンドはそこまでCSのものである必要がないみたいです。

Microsoftは、プログラムマネジャーとして新卒者も経験者も雇用しています。技術的なバックグラウンドはあるものが良いものの、コンピュータサイエンスに限定していません。それとは別に、Microsoftでは国際的な採用活動が成功していて、米国外からもPMをおおぜい雇用しています。

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スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術』にはトヨタ生産方式のオマージュが溢れています。トヨタ生産方式とは、トヨタ自動車工業(当時)の大野耐一氏や鈴村喜久雄氏らが生産ラインのムダを徹底的に排除するために確立した生産方式のことです。石油ショックに見舞われ安定成長期へと突入した日本で、高度成長期の、大量生産、大量販売を基本とするシステムはもはや完全に通用しなくなった。それに代わって、低成長でも利益の稼ぎ出せる新しいシステムの構築をするという文脈で生まれました。すぐれた生産システムであると同時に最小限の運転資金で、商品開発を行い、カイゼンを繰り返すことができるという経営面での旨味もあります。

ソフトウェア開発に広く浸透したスクラムには”プロダクトオーナー”という概念があります。スクラムの生みの親であるジェフ・サザーランドはプロダクトオーナーの存在で、製品開発プロセスが効率性を増すと主張しています。

ジェフは本書でプロダクトオーナーは「トヨタのチーフエンジニアのようなもの」であると説明しています。チーフエンジニアは、担当車種に関する企画(商品計画、製品企画、販売企画、利益計画など)、開発(工業意匠、設計、試作、評価など)、生産・販売(設備投資、生産管理、販売促進)の全般を主導し、その結果について、すべての責任を負う人なのです。

最初期のやり方

ということで、最初期の方針をこの通り。

私と2人程度のエンジニア陣でスクラム

  • 毎朝スタンドアップミーティング
  • 週1回のスプリントミーティング
  • プロジェクトのはじまりにはキックオフ
  • 区切りごとに振り返りカイゼン

PMFまでに作る機能は、課金型ニュースサービスなのでそこまで複雑化しないため、この体制で問題はないはず。

PMの定義をどうするか

PMの定義自体が会社の文化と密接な関係が生まれるはずだ。さまざまなPMがいると思うし

  • コンピュータサイエンスバックグラウンドのある人にPMになってもらう
  • 経済学(特にマーケットデザイン)バックグラウンドの人にCS、ソフトウェア工学を学んでもらいPMになってもらう
  • 起業家、あるいはサービス運営経験のある人にPMになってもらう

JOINする人、あるいは雑談したい人を募集

ここまで読んでくれた人、どうもありがとうございます。「経済ニュースのネットフリックス」を目指す axion はフロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、編集者、ビジネス開発を募集しています。

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雑談だけでもいいので、食事、お茶などしたい人はぜひTwitterのYoshi 吉田拓史 @taxiyoshida か yoshi@axion.zoneまで。もともと新聞記者だったので雑談慣れしています。給与は業界と同水準、福利厚生は”Work Rule"あるいはメルカリの先例に準拠します。初期メンバーにはできる限り議決権が制限された Common Stock(生株)を配る方針です。

世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 ~トップIT企業のPMとして就職する方法~

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スクラム 仕事が4倍速くなる“世界標準”のチーム戦術

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トヨタ生産方式――脱規模の経営をめざして

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”IPO or M&A ?” の問に答えるために読んだ6冊

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"Aprovação do MROSC na Câmara dos Deputados"by Marco Regulatório das Organizações da Sociedade Civil . is licensed under CC BY 2.0

会社をやるにつけ、うまく行けば上場、万が一のときには事業売却するというシナリオを描いていた。僕がしていることは、大きなテクノロジー企業の「将来の一製品」になりそうなものを開発し売却するというプロジェクトではない。新しいものを作り、社会の中でそれに価値を宿らせることだからその価値を本物にすることだけを考えていた。

でも、お金を集めるためのお話をするときには「IPO or M&A ?」と聞かれるが常だった。最初期にどちらに目標を定めるかによってかなりルールブックが異なるようなのである。なるほど、”なんらかの状況”があるのだなと僕は理解し始めた。

さてこの状況に直面した僕は、二つの方針を持った。一つはこのブログでも書いたように「できるだけ早く事業スコープをアジアに広げる」ということだ。「スーパーファミコンだと思って買ったゲーム機がメガドライブだったけども意地でもスーパーファミコンを買うぞ任天堂!」という考え方だ。これは僕の人生のプレースタイルを物語る手口であり気に入っている。

taxi-yoshida.hatenablog.com

もう一つはメガドライブを改造してドリームキャストにすることである。僕はデイトレーダーの玩具にされない会社をIPOをすることを目指すことにした。自分が実現したいことを満たすのは、M&Aを見越した事業開発ではなく、IPOへの道しかないのだから。上場するのは必ずしも東京の証券取引所である必要はないが、まあ現実的には東京の可能性が高くなるかもしれない。「IPOを制するものがゲームを制す」のである。待ってろよ山王工業!

ということで、GWでもあるし急がばまわれ。図書館に行き関連書籍を漁ってみた。

 IPOをやさしく解説! 上場準備ガイドブック(第3版)

IPOをやさしく解説! 上場準備ガイドブック(第3版)

IPOをやさしく解説! 上場準備ガイドブック(第3版)

 

これは流石にやさしすぎた。第3章の事業計画に関する内容については、三版重ねている古い本というのもあるが、この事業計画が現実世界でワークすることは全く考えがたいぞ、という感想を持った。だけど第4章、資本政策についてはやはり専門家だなという印象だった。経営者が決めるべき事項としてこんなことがある。

  1. 安定株主対策
  2. 資金調達
  3. インセンティブプラン
  4. 創業者利益
  5. IPO 後の株主像

なかでも、3. インセンティブプランについては明確な方針が必要だ。IPOにはそれまで潜在的だったSO等のインセンティブを本当のことにするという意義もある。僕の戦略はシード期は生株(common stock)をインセンティブとし、Series A以降の参画者にはSOを活用する。SOに関する方針はシリーズAを行う前に確定しているのが好ましい、という感じだ。

最近は信託型SOが流行しているようだが、僕はインセンティブ後出しジャンケンできる仕組みは関心しないので、仮に信託型SOを使うときは最初に付与する株数を確定させたい。行使価格を信託時のままにしておけることと役職員の税制上の利点が好ましい。ただし、これを生成するためのコンサルティングフィーが高いのが課題である。

信託型SOの利点を生株と組合で表現する手段を磯崎哲也さんが指摘している。まだ実例がなく”枯れていない”手法だがシンプルで好ましい印象を僕は持っている。

僕の会社は早期のアジアへの進出とアジア人の雇用を見据えているので、SOのクロスボーダー対応が必要になるはずだ。SOをもらい日米で二重課税の状態になった人の話を聞いたことがある。

4. 創業者利益。創業者利益とは、その大部分は絵に描いた餅である。キャッシュではなく、株価×株数のバーチャルな資産である。上場時に創業者は持ち分の5−10%程度株を売れるみたいだけど、僕はそうするつもりはない。

キャッシュリッチになりたければ、事業売却を見越したスタートアップ運営を選んだ方がいい。僕は自由になれる程度にはお金がほしいけど、そこまで金だけがほしいわけでもなくて、それを満たそうとすれば、いままでたくさんの選択肢があり、いまでもいくつかの選択肢がある。だが実際にはそれを選んでいないのだ。あまりワクワクしないからだ。

僕には目標があり、目標を実現する手段として、いままで嫌いだった資本主義を活用することが効果的だとわかったからそうしているわけである。

https://axion.zone/our-vision-japanese/

この1冊ですべてがわかる 経営者のためのIPOバイブル 

この1冊ですべてがわかる 経営者のためのIPOバイブル

この1冊ですべてがわかる 経営者のためのIPOバイブル

 

IPOを目指す企業の成長戦略-株式上場で飛躍する企業のためのハンドブック

この2冊がかなりためになった。詳細に記述された実務的な書籍であり、経営者が知るべき最大限の範囲をカバーしてくれている。よりIPOを意識するタイミングの際に前もう一度深く読み直そうと思った。

松本大さんの書籍では、精神論的な部分も書かれていた。松本さんはIPOの主幹事などで上場をビジネスにしているが、同時にマネックスを上場するという経営者側の立場に立ったことがあるので、響くものがある。

IPO実現へのあくなき意欲

成せば為るや、意思なきところに道はなし、という諺がありますが、IPOをやり遂げるのだという強い意欲は、最も重要な前提条件と思われます。筆者はこれまで技術的プロセスを中心に述べてきましたが、最後はいわゆる気合であり精神論も重要性を帯びることをまったく否定しません。実際、上場への過程はうまくいかず期待通りに’進まないことの連続であり、かつ長期にわたることも手伝って、もうだめかという暗い気持ちになることは多々あります。

そのような場合は深刻にならず、IPOを思い立ったときの考えであるとか、これまで対応してきた過程を思い出して、予定通りではないものの進捗していることを再認識する時間を持つべきです。そうすることで、IPO実現への飽くなき意欲が復活することでしょう。

IPOまでの役職員株

IPO以前の役職員に生株を付与した場合、議決権を吉田に委任する株主間契約を結ぼうと考えている。 

上場後も、20~30%を保有していれば、実質的に会社支配を行うことも可能であり、もっと少ない比率で事実上の支配株主となっている場合もある。つまりIPOの前段階で、役職員20~30%の状態を作るべきであり、欲を言えば、特別決議を拒否できる33.3%以上を保有しているのが好ましいだろうか。

business.bengo4.com

やり方はいろいろある。創業メンバーの株式が希薄化しても創業メンバーの会社支配権を守る手段は存在する。

提携先企業に無議決権株式の優先配当株式を発行したり、創業メンバーだけに過半数の取締役を選任することが可能な種類株式を発行することで、創業メンバーの会社支配権を守ることが考えられます

議決権の異なる種類株(議決権種類株式 = Dual class structure)の採用は、将来の投資家と話し合うべきものだろう。Googleの例が有名だが、他方Snapchatのような極端な例もある。シード期にはこれを考えるのは早すぎるが、Series Aまでには一定の結論を持っていていいと考えられる。 テクノロジー業界というのは波乱万丈であるわけで多分敵対的買収を避けるためにもIPO以前には深い議論が必要になるのは間違いがない。

コスト & スモールIPO

お次はIPOのコストを考えてみた。上場コストと上場維持コストがかかる。維持コストはどんなに少なく見積もっても年間1億円はくだらないと言われる。これに見合うメリットをIPOが提供していないといけない。時間についてはどうだろうか。証券会社と証券取引所の審査には上場を目標とする月の三期前から取りかかる必要がある。とても長い道のりだ。シード投資以前のいまからそこまで数年は絶対にかかるだろう。経営・業務管理体制の整備が求められるが、これは大企業病への一歩のような匂いもする。

日本は時価総額が50億~100億円でも新規株式公開(IPO)ができる。いわゆるスモールIPOだ。だが上述したIPOのコストを勘案すると、十分な規模とビジネスを持って、少なくとも300億~500億円の規模のIPOにしたいだろう。

独立系VCがアーリーステージに力を注ぐようになっている。ミドル以降では、事業会社やCVCの存在感が増している。機関投資家のマネーが日本のVCにも注がれるようになり、スタートアップには日本国内での資金調達の選択肢が増えている。そのため、日本単体で考えたとしても、かつてのような早急なIPOを目指す必要はなくなりつつあるかもしれない。

国際的にはPEや機関投資家等の本来上場株を扱っていたプレイヤーが一部の大型スタートアップのレイターステージに参画するようになっている。Vision Fundのようなケタが違うプレイヤーすら現れている。

つまり、最高のシナリオは早急なIPOではなくPre-IPOを長期に続きながら企業価値を拡大していくことである。このロングタームのゲームを戦うことを予期するのならアーリーステージの希釈化にはかなり慎重になる必要がある。自分としてはYコンビネータが定義する25%以下の希釈化で切り抜けたい。 

上場後に訪れる第2の死の谷

レオス・キャピタルワークスの藤野 英人氏さんは「上場後に訪れる第2の死の谷」があると指摘している。

それは時価総額100億ないしは200億円以下の企業ですと、なかなかアナリストがカバーしてくれなかったりして、そこの時価総額帯が真空地帯になっているのです。

そのため、上場はしているけれど、資本調達がしにくいということがあります。

ここをどのように突破するかというのが非常に重要です。

そのためには、「第2の死の谷」を上手く抜けていった会社というのは、実はIRで(株価を)多少割高になりながらも、注目を集めることで上手に資本調達をして、生き延びたという会社が多いです。

industry-co-creation.com

おそらく上場ゴールの会社はこの谷を乗り越えないのだろう。もちろん上場してしまったほうが生き残りやすくなるケースもあるようなので、この谷を越えずともその会社としてはやるだけやったと評価できることもあるのだろう。ただ、この谷の存在を最初から知っているのならそうならないようにするのが正着なのは確かだ。ということでスタートアップにはIPO以降が重要になってくる。

Post IPO

Post-IPOスタートアップの状況についてはこの記事が詳しかった。

Signifiant Style 小林 賢治 ”Post-IPOスタートアップが直面するリスクマネー獲得の課題 —日本の株式市場のあり方に関する試案— Vol.3”

signifiant.jp

日本ではIPO時の公開価格が非常に低く抑えられる傾向があり、また売出しの規模も小さく留められる。同時に市場側の要因を加えるとこのような傾向があるようです。引用します。

マザーズ上場企業のIPO時の平均調達額を示したものですが、5億円前後と非常に低い規模に収斂している

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東証 ”市場構造の在り方等の検討に係る意見募集(論点ペーパー)" https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/nlsgeu000003pz9u-att/nlsgeu000003qgkg.pdf

売買回転率が高いことは、一見すると流動性が高いという意味にも思えますし、ポジティブにも見えます。一方で売買回転率は、一部の投資家が高頻度に売買を繰り返す状況でも数値が高くなります。マザーズの場合、創業者の持分が高く、市場に出回る株式の比率が低いにも関わらず、これだけ売買回転率が高いということからは、一部の投資家たちの間で少数の株式が高頻度に取引がされていることが推測されます。これがデイトレーダーなどの個人によるものなのかどうかは明言できませんが、少なくともマザーズが「突出して短期志向の投資家向け」の市場であることは間違いありません。

つまり、スモールIPO銘柄は、ビッグプレイヤーの目には止まらず、個人投資家、特にデイトレーダーの投資対象になってしまっている。

続編の以下の記事によると、ロングオンリー投資家を呼び込むためには「魅力のある発行体企業」であることが重要だけど、それだけではなくてオファリングサイズが必要だ、と小林賢治さんは指摘している。ロングオンリー投資家は1社に対して数十億円前半(数百億円の時価総額の会社の5%程度)の規模で投資する。その受け皿になるには、100億円以上のオファリングサイズが必要になる。同時に主幹事証券会社がロングオンリー投資家を呼び込むカスタマイズされたサービスを提供する気になるのが”100億円以上”からだとも小林さんは指摘している。

signifiant.jp

グローバルの超大手機関投資家も日本に触手を伸ばしている。ラクスル上場の9ヶ月前にフィデリティが5%超の大株主になっていて、Sansan社が、ティー・ロウ・プライスからの出資を受け入れている

以上を踏まえると、改めて問うべきは、発行体企業であるスタートアップ経営者の努力が足りているのかという点です。自社の資本戦略を長期的に考え、上場後の新たな長期目線の株主を探し出し、既存株主からうまくバトンを渡すという努力を、発行体企業の経営者は真摯に取り組んでいるのでしょうか。

つまり、スタートアップのPost / Pre IPOの状況は変わりつつあり、それをレバレッジする強い意思があれば、その機会は十分にあると予想する。だから強い意思をもとうと僕は考えている。

長期的視点のリスクマネーがほしいなら、IPOを急がずに、シリーズを数珠つなぎにしていくべきだと思った。そのためには継続的な企業価値の拡大が必要だ。日本では企業価値について数理的なアプローチをする人が少ないせいか「このカイシャの売上はいくらだ。だからこれくらいだな」に収斂する傾向をなんとなく僕は感じている。日本の実務の現場ではビジネスの評価の仕方が、短期的な損益計算書(PL)に意識が集中してしまった形でなされているかもしれない。

で、Signifiant Style を運営するシニフィアン朝倉祐介さんが出した『ファイナンス思考』がこの状況を詳細に説明している。よく考えると極めて当たり前のことなのだが、群衆が超短期思考な「PL脳」でスタックしているのが、日本の産業界の現状らしい。それは自分の経験とも合致する。

企業価値とは非常に南海ホークス(難解)なものである。ここは数理ファイナンス屋のプロの出番なんだと思いまっせ(お頼み申します)😉僕はこの本をざっと読んだだけで、もっと数理よりの書籍をぱらぱらめくってみたら難しすぎて笑ってしまった。

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

 

あと、値付けで手っ取り早くて理論的裏付けがある有力な方法はオークションだ。僕はICOに注目しているけど、その理由のひとつはオークションの実践だからだ。オークションの難しいところは、古典的な取引方法と同様に胴元にも買い手にもイカサマをする余地がたくさんあることであり、ICOの短期的な失敗の理由の1つはそれであるのだが…。

感想

IPOを目指す会社の創業者になるということはある種の「生贄」になることを意味している気がした。IPOまで最短でも数年。長い期間そのプロジェクトとともに生きていくことが求められる。興味深いことに、サラリーマンを2社やってずっと自分の目標を実現することを考えてきた自分にとっては、この生贄になることはすでに織り込み済みの状況のように感じられる。また、僕のモチベーションの構造上南海ホークスな(難解な)ゲームが続かないと飽きてしまう(いい大学から大企業に就職する、年功序列、終身雇用はその典型)からピッタリ。

資本政策においては、企業価値をどう算定するかが非常に重要なのだが、ここはサイエンスとアートが混じり合うとても難解なものなので、GWということで掘り下げたい。あと、望ましい形で企業価値を上げながら資金調達した日本での例の検証をやろうと思った。7300字を超えたので今回はここで終わり。

株式会社が爆誕 今週の進捗 #26

f:id:taxi-yoshida:20190428122545j:plain via いらすとや

ついに株式会社が爆誕しました。次は法人口座を爆誕させようとしています。事務仕事がいろいろあるのでそれをこなしながら、ゴールデンウィーク明けに進めることを明確にしようと思います。

まだシード/エンジェル投資を受けていませんが、シリーズAを見越して人に会っていきたいと思っています。じっくり物事を進めたおかげで次第に情報が揃いつつあり、意思決定の質を上げていくことに成功しています。しかし調子に乗ってはいけません。

日本のスタートアップ業界については、好ましく定式化され公開されたプロセスがあれば楽なのにな、と思います。しかしまだそれが十分ではないのだから、しっかり着実に進めていけばいいと思います。

常に退却という選択肢を持っておくこと。それから自分がしていることに夢中になりすぎないこと。悪いディールならカードを伏せてバーにいけばいい。砂漠から出て他の街にいけばいい。サンクコストは砂漠に埋めたままにすればいい。

生きている限り「強くてニューゲーム」がプレイできます。人生は長くなっています。僕はまだ人生の半分も生きていないのだから焦る必要はありません。

人間は感情的になっているときこそ致命的な悪手を打ちます。

感情は健康状態をキープすることである程度確保できます。ゴールデンウィークは体を鍛え、効果的に休ませながら、暑い夏に備えようと思います。もちろん事務仕事もします。プロジェクトに興味のあるWebエンジニア、記者、編集者、アナリスト、リサーチャーの方、ぜひご連絡くださいませ。お茶やランチでもしましょう☺

中盤のねじり合い 今週の進捗 #25

f:id:taxi-yoshida:20190421202814j:plain

更新が三週間ぶりになってしまいました。こんなことがありました。

・(投資をめぐる交渉能力を維持するため)実家に引っ越し ・株式会社の登記申請 ・財務モデルの構築と検証

来週会社が爆誕するので、

・法人口座の開設プロセス

があります。これには金融機関が好む事業計画書の策定、ホムペ、名刺などを揃える必要があります。

3月には以下の3つを同時に進めていく戦略をすると言いました。

*将来的な資金調達の可能性を模索

*創業メンバーを確保する、あるいは将来的にチームの一員になる人を探すために人に会う

*プロダクトのカイゼン

https://taxi-yoshida.hatenablog.com/entry/2019/03/24/101413

これらはとてもうまくワークしています。しかし、ただ一つのアクションごとに新しく有用な情報にたくさん出会うのでその都度、深く考え込むようにしています。ここに引っ越しや法人登記申請などが加わりとても混乱してしまいました。

ゲームプランの策定には著しい進捗がありました。将棋みたいに一手進んだらそれまでの構想を捨てて次の構想を描いてみる、というふうです。

僕はゴールデンウィークが巨大な壁としてプロセスを遅くさせることにイライラしています。なぜこの人は物事をここまでゆっくり進めるのかと疑問に思う人もいるかもしれません。しかし、自分はいま不可逆性の決断を求められています。いまこの瞬間の決断がロケットが進んでいく方向を決めるのです。現時点ではロケットの発射時期を調整できます。僕はロケットをグローバルマクロに飛ばしたい。そのためなら遅くなっても構いません。

募集

ゴールデンウィークの間、僕には予定がありません。仕事をしています。プロジェクトに興味のある、ジャーナリスト、編集者、ウェブ開発者の方はぜひお茶、食事などしましょう

確率的な世界の中でどのような戦略とプレイヤースキルを持つべきかをめぐる考察 今週の進捗#24

f:id:taxi-yoshida:20190331213205j:plain Via いらすとや

予測財務諸表を作ろうと思っています。私がしようとしている事業の性質上綿密にこういうものを組み上げたほうがいいと指摘を受けました。予測財務諸表を作るには目標を達成するためにお金をどう使うかを明確に算定する必要があります。コンテンツ制作はコストがかさみますからそれで得られる効果をしっかりと予見できているとありがたいのです。

スタークラフトのようなリアルタイム戦略ゲームで、機械学習モデルが人間のチームを打ち負かす例があります。そこでは研究者はゲーミングの能力を戦略とプレイヤースキルに分けて考えています。

予測財務諸表を作ることはいわゆる戦略に類すると考えてみましょう。人間の世界では戦略は基本的にはあまり動かさないのが得策ですが、機械はガンガン変更しています。

プレイヤースキルは状況に応じて臨機応変に繰り出されるものです。インターネット関連のビジネスでは、往々にしてユーザーは流動的であり、極めて細やかな判断の連続が必要になります。それに対応する短期的な動きや技法などがプレイヤースキルに類すると考えられます。

競合が殺到する市場の場合は、プレイヤーには目的遂行までの時間制限が課せられることになりますが、私の想定する市場はそこまでそうではありません。

ということは戦略が素晴らしいのは大事なことです。

ただし先の機械学習で作ったモデルの話ですが、それらは決定的に将来を予見して勝っているのではなく、確率的な意思決定の精度を人間を上回るようにしているのです。だから世界を正確に予測できるわけではないのですが、恐ろしいことに人間はときにそういう妄想に駆られてしまいます。

とはいえ、シミュレーションは大事で、シミュレーションは複雑な世界では完璧に裏切られますが、それでも大事なことです。少なくとも単純な落とし穴に落ちること避けることができます。大体の人はそういう失敗でプレイグラウンドから去ります。

来週はここに重点を置きます。学ぶことを楽しみながらやろうと思っています。

桐島、部活やめてアジアに帰るってよ 今週の進捗#23

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22 Jan 2011, ジャカルタにて、高校生たちと記念写真

(タイトルは釣りです)。ブログに生々しいことを書くのはあまり得策ではないが、これが僕の物事の進め方なので書いてしまいます。書くことで頭が整理されるし、次にやることが明確化されます。その書いたものが人に読まれることで、それを実行するモチベーションが高まります。

いまやっていることは3つあります。

*将来的な資金調達の可能性を模索

*創業メンバーを確保する、あるいは将来的にチームの一員になる人を探すために人に会う

*プロダクトのカイゼン

どれも時間を大きく使うため、この全てに全力投球することはできません。この3つにどう時間を割いていくか、それぞれをどのような手段で進めるか、は南海ホークス(難解)です。多腕バンディット問題よりも難しいはずです。

自分の戦略はこんな感じ。

*VCとエンジェルのところに行くと「宿題」が出てくるので、その「宿題」をこなし、プロジェクトのカイゼンを続けていく。カイゼンを終えたらまたVCとエンジェルに会いに行く

*交渉をしながら材料を揃えていく。材料とは(1)記事数。現状のプロトタイプの記事数は30。検索が僕らのことを意識してくれる水準である100記事まで積み上げる。私の独自メソッドで100記事を検証すれば、プロダクトの将来性を説明できるはずである。(2) グロースハックのストーリー。どうサービスを成長させていくか。僕は収益性よりは企業価値に重きを置く。量よりは質に重きを置く。泥臭いこともかなりやる。(3) これらを実現するメンバー。試行錯誤の末に目標に対してどういう人間が必要かということがわかってきた。

アジアへ向かおう

今週はAnyMindがシリーズBをクローズしました。タイ企業の VGI Global Media も参加しています。このニュースを見て、私のプロジェクトでも海外投資家を受け入れていきたいし、進出先での便宜を図る上でアジアの投資家は欠かせないと考えました。もともと考えていたことですが、カイシャの構成員を国際化し、アジア各国の出身者で構成することにより、将来の彼らの出身国への展開の布石にしておくことが好ましいという考えがより固まりました。日本人だけで現地に赴くよりもまったく物事の速度や相手の信頼が変わってくるはずです。

日本市場は十分なサイズがある一方で、マージナルコストを負わずして収益の拡大を続けていく典型的なテック企業のスタイルが、この市場単体では、うまく効果を示さないでしょう。日本においてはリスクマネーの流通が未発達であり、リスクマネーに占める事業会社の資金の割合が高く、保守的な傾向があります。日本市場でだけ活躍するかというだけのマインドセットでは、スタートアップのゲームは退屈なのです。

このブログには自分の人生を回想するシーンが出てきますが、まず退屈なこと、ミドルリスクローリターンであること、それから、退屈なことが僕は大嫌いなので、退屈なことはやりません。そして新卒でインドネシア5年、インドネシアの政治経済事情は学者をしのいだ僕なのだし、英語も話すし、地域の肌感を掴んでいるので、会社の初期であるいまからアジアのことをにらめ付けていこうと思っています。

スタートアップをどうプレイするか?

以下の文章を読んでみている。頭が混乱したら何度でもここに戻ってこよう。

gengo.com

Want to start a startup? Get funded by Y Combinator.

paulgraham.com

スタートアップのシード資金調達ガイド(Geoff Ralston)

https://review.foundx.jp/entry/aguidetoseedfundraising

スタートアップ プレイブック

https://review.foundx.jp/entry/startupplaybooksamaltmany_combinator#CEO%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B

こういう難しい問題をとくときはとにかく致命的な悪手をうたないことが重要です。ゲームを続けさえすれば、遅かれ早かれ問題は解くことができるはずです。

運動

今週は水泳に避ける時間が減り、2500㍍泳いだだけ。泳ぐ速度を高速化している。68㌔歩いた。

キャッシュフローのおもひで 今週の進捗#22

ええ、まあ、なんというか疲労の蓄積を感じるのでしっかり休もうとしていますが、週一の出来事を記述して翌週の戦略を練る習慣にはそれなりの意義があるので今日も書いています。

資金調達に絡んで将来に渡る予測ベースの損益計算書を書いてみていますが、これがなかなか検討に検討を重ねると将棋のようにどんどん条件分岐をしていくので、大変なのでした。もちろん将来の予測はそうそうできるものではありませんから、ざっくりとしたものにとどめておこうと思います。シミュレーションをしていることは本当に重要なことなのであります。

とはいえ、「財務3表」についてはしっかりやろうと思います。というのも、調査のときに Finacial Result などを読むことはあったのですが、実務として扱うというのは初めてです。「批評家」の立場から「実務家」の立場へと変わってきているのを実感します。ここらへんは穴が空いていると簡単に会社が死んでしまいますから、しっかりと押さえておかないといけません。

財務3表のひとつであるキャッシュフロー計算書については本当に面白い思い出があります。僕が中学生のときにキャッシュフローの概念を物語風に解説してくれるナイスな本である『ザ・ゴール』に出会いました。母親が読んでいたのを読んだのか何故か潤沢に持っていた図書券で買ったのかはなんだのかは忘れましたが、すぐさま僕はこの本に夢中になりました。従来型の会計手法だと、在庫を積み上げていってもそれが売上のようになってしまいますが、この84年に出版された本はキャッシュフローに注目し、現在では当たり前となっている手法が提唱されています。

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キャシュフローの図 「いらすとや」から

こういう感じの読書は子供ころよくしていました。多分最初は大河ドラマの『秀吉』が面白くて、原作の堺屋太一の『秀吉』を読みました。商売人と武将というふたつのあり方をもつ彼の凄さを知って感動し、ビジネス系の読書がスタートしたんだと思うんです。

高校生になった頃には日本版ネットバブルが起きてました。僕は『マーケットの魔術師』とかいうやつとか、大前研一の本とか、株式投資関連の雑誌とかを読んでまして、割と自由な高校だったので、机の上にそれらを積み重ねておいたら、担任の生物教師が僕とは名指ししないまま「金のことを考えている人はなんて浅ましいものだ」とクラス全員の前で説教してきました。

僕は当時すでにとんでもない天の邪鬼ではあったものの素直さを同居させている少年だったので、それを真に受けて一度それを懐にしまいこんで、学校の図書館の本を読んで足りない知識を足していこうとしました。図書館の司書さんは左寄りの方が多い印象ですが、僕の学校の司書さんもたぶんそれで、その左寄りの方が集めた書籍を読んでいると、「お金を巡る考えというのはなんとも浅ましいものだ」とじわじわと洗脳されていきました。そして十年以上たった今ぼくはスタートアップをしています。めぐり合わせとは本当に面白いものですね。

それで、今週したことはまあいろんな人に会うことです。いろんな人に会うことで、これから何をするべきかについてどんどん知識を得ることができましたし、自分のポジションもどんどん変化していくのを感じました。人と話すことは本当に良いことです。

某社オフィスを訪問してこの人が通りかかって少し話す機会がありました。とても感動したのですがいきなりすごい人に会ったので緊張しすぎて「すごいですね!」とすら言えませんでした。なんか自分のシャイさが悲しくなりました。

www.bbc.com

いずれにしても、逐次的に戦略を変化させ使うべくプレイヤースキルを選択する、とてもおもしろいゲームを僕はやっています。能力開発のひとつのかぎは楽しんでいることなので、来週以降も楽しんでいきたいです。疲れたら休みましょう。はい休みます。

運動と体調

今週は営業マン的だったので84キロ歩いた。4000㍍泳いだ。花粉症がかなり深刻化している。マクドナルドは一食程度しか食べていない。

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

 
秀吉―夢を超えた男 (上)

秀吉―夢を超えた男 (上)

 

 

 

 

”独善的な妄想にひたる創業者” 今週の進捗#21

 

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法務、会計、コーポレート・ファイナンス、資本市場などをめぐる学習もある程度の段階に到達しました。今週で一区切りにして、これ以降は専門家の力を借りればいいと思います。最初のうちは「なんでこんなことまで学習しないといけないんだ!」という感じでしたが、途中からは「なかなか面白いじゃん」となり、「これはなんか非効率。絶対に改善できる」みたいなことも考えるようになりました。すべてのことに言えますが、実務は机上で学んだことよりもワイルドで不合理なものです。それはこれから資金調達をすればわかることです。

来週以降、進めていくことは2つあります。ひとつは投資家への売り込みを開始することです。月曜日からロードショーの仕込みを始めようと思っています。

もうひとつはチーム構築です。繰り返しますが現状は1人でコンテンツ、開発、ビジネス開発、マーケティング等をしており、あからさまに自分がボトルネックになっているのを実感しています。僕は明確な計画を完成させました。これを遂行すれば大成功というあま~い話ではなく、後々線の引き直しが求められるのが想定できますが、最初に線を引いて、シミュレーションを入らせていることが大事なのです。

エンジェル投資家

ジェイソン・カラカニスのエンジェル投資家の本が最高でした。エンジェル投資家の実務から創業者がどのような心構えで物事を進めていけばいいか、どうやって投資家と共通の利点を構築すればいいか、を推測することができました。

リターンの大半を稼ぎ出すのは、独善的な妄想にひたるわがままで付き合いにくい起業家たちが多いそうです。他の人が敬遠するような「ワイルドカード」こそ大きなリターンを生む創業者だといいます。恥ずかしいけど多分僕はそれなんです。この日本という国に生まれてはや数十年、一度も日本人的な横並びの習慣に馴染んだことがなく、平均的な人間から不思議がられ、敬遠され、ときに攻撃されてきました。海外で外国人という立場で生きていくことが心地よくて、日本人村とは一定の距離を置き続けました。

この axion のビジョンは"独善的な妄想"そのものです。

https://axion.zone/about/

同書に出現する以下の質問にはこの本を読む前から準備ができていました。本気を出すと呆れ返るほどのロングストーリーを聞かせることができます。

▼創業者に尋ねるべき4つの質問

  1. あなたは今どんな仕事をしていますか?
  2. あなたはなぜこれをやっているのですか?
  3. なぜ今なのか?
  4. あなたの不当なまでの優位性は何か?

このエンジェル投資家と戦略的関係を築くことが重要だと考えています。

コーポレートベンチャーキャピタル

あとはスタートアップの資本政策に欠かせない存在であるCVCについても数冊本を読んでみました。中央経済社はいい出版社だなあと思いました。大企業中心社会で新陳代謝が起きない日本では、CVCはとても重要な存在になると僕は見ています(というかすでにそうかも知れません)。日本企業はたくさんのキャッシュを溜め込んではいるものの、その使いみちを持っていません。超勝手な妄想をすると、彼らはマルクス主義に傾倒する社会主義者であり、資本主義のプレイブックをもっていないのかもしれません。

CVCは彼らが苦しむ硬直化した組織の外におけるR&D、新規事業投資の重要な手段です。同時に既存事業とシナジーがあったりあるいはそれをリプレイスするビジネスへの投資手段でもあります。イノベーターのジレンマは実証経済学が実証しており、日本企業はその典型的な例であるのです。表紙の絵をしっかりみてくださいね。

このCVCと戦略的関係を築くことは近い将来とても重要になってくるはずです。

Reference

エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか

エンジェル投資家 リスクを大胆に取り巨額のリターンを得る人は何を見抜くのか

 
CVC コーポレートベンチャーキャピタル――グローバルビジネスを勝ち抜く新たな経営戦略

CVC コーポレートベンチャーキャピタル――グローバルビジネスを勝ち抜く新たな経営戦略

 
コーポレートベンチャーキャピタルの実務

コーポレートベンチャーキャピタルの実務

 
実践 CVC ―戦略策定から設立・投資評価まで

実践 CVC ―戦略策定から設立・投資評価まで

 
「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

 

 

 

採用と資金調達のジレンマとその解き方 今週の進捗#20

今週も先週に引き続きファイナンスと法務について調べました。基本的なプレイブックについては頭の中に入ってきたと思います。中期、後期のラウンドまでのキャップテーブルのイメージとそれに伴うプロダクト/ビジネス開発の進捗の感じもわかってきました。

株式会社設立、資本構成、株数、生株(common stock)の分与、ストックオプションの発行についておおまかなプランができました。しかし、まだある程度知識が足りていない気がしますから、来週もやっていこうと思います。資本政策や法務のなかには不可逆なものが含まれています。

来週の途中からは、自分がいままでに達成したことを整理し、次に調達する資金でどんな投資をして何を達成するのか、次の次の調達はいつに設定するのかを明確にしたいと思います。以下の事業計画書は公開してありますが、実際にロングバージョンのものが存在します。今後の役職員のためにも、資本政策の大まかなプランとプロダクトとビジネスの開発のプランも並行して計画し、付け足そうと思っています。

英語版 https://drive.google.com/open?id=1njrKU_oRaCSc2sgj5w9XFkXmXfe9zWNa

日本語版 https://drive.google.com/open?id=1t-gHwMJnxYrybdq3pFeOJLETCUdgsboS

上記のことが整ったら資金調達活動とネットワークキング、仲間探しに移行したいと思います。一人の限られた時間を効率良く使わなくてはいけないためネットワーキングなどの時間を完全にカットせざるをえないまま、いままでやってきています。この進捗報告で仲間探しをするぞと宣言したりしていますが、実際のところは開発したり、学習したりすることに時間を全投入していて、手が伸びていません。3月2週目くらいから本格的に手が伸ばしたいと思っています。

採用と資金調達のジレンマ

僕が最近悩んでいるのは、①お金を集めてから人を集めるか②人を集めてからお金を集めるか―の二択をどう選択するかです。①のように先にお金を集めたほうが「信用力」がつくのでいい採用ができる可能性がありますが、一人で交渉すると投資家がディスカウントを要望し株の希薄化が進む可能性があります。②のように人を先に集める場合は信用力がないので良い採用ができない可能性がありますが、人が揃っている方が投資家はチームを評価し、よりいい株価を付ける可能性があります。最高シナリオは、最高のチームを集めて最高の値段で株を売ることです。

この問題への自分の解法は両方を同時にすすめることです。採用と資金調達はともに最終的な決定をくださなければ、そのプロセスから離脱が効きます。だから両方の交渉を同時多数の状況でおこなうことですべての方面に対しての交渉力が上がっていく可能性があります。ひとつ留意すべきは、他のプレイヤーの共謀です。共謀が起きていて不利な取引に持ち込まされそうだと判断したら、真っ先に離脱すべきです。こういう戦略への対抗策としては、僕は交渉を進めながら、同時にソフトウェア開発、マーケティングを継続していくことです。これで長期的には交渉力が増していきます。

この戦略にはダウンサイドがあります。それは時間を失いうることです。相手にゲーム理論の素養があれば、交渉はすぐに決着するのでしょうが、そんなことはこの世界線では期待できません。仮に自分が取り組んでいるのが、同じビジネスモデルに100社が集中する競争環境だとしたら、この戦略はとれないでしょう。でも僕がやっていることはそうでもないのです。そして、メディア事業は当初は多量の赤字を計上します。アーリーステージで希薄化が進むとそのままリビングデッドになってしまいます。

運動

2850㍍泳いだ、51㌔歩いた。食生活を野菜と果物を多いものに変えていきたい。マクドナルドを食べる回数を減らしていきたい。

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Yoshi, 神保町にて、2/3 2019

 

採用のときに読むべき書籍、ブログのメモ

スタートアップが最初の資金調達以降最初にやることは採用だと思います。ここでは僕が幸運にも目標とする資金を集められたときに読むべき書籍、ブログをリストアップしておきました。すべて一度から二度読んだのですが、実務やりながらもう一度読もうと思います。最近あまりにも記憶喪失がひどいので書いて残しておきました。

書籍

  1. ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える
  2. ベンチャー企業の法務AtoZ
  3. ベンチャー企業の法務・財務戦略
  4. ベンチャー経営を支える法務ハンドブック

ブログ

より少ない時間でエンジニアを採用する (Sequoia Capital)

リファラル採用で社員紹介率を3倍にする方法 (Sequoia Capital)

エンジニアに入社してもらえるように説得する方法 (Harj Taggar)

どうやって最初のエンジニアを雇うのか? (Harj Taggar)

CFO を雇う (Jeff Jordan)

スタートアップの採用での典型的な失敗事例と対策を教えてもらったよ!!

株式会社ミラティブ_採用候補者様への手紙 / mirrativ-letter

面接用スライドを公開した結果、全部見せます!(宮田昇始)

課題

初期参画者への株式の譲渡時に、毎年25%のベスティングと、議席権を創業者に無期限で譲渡する(あるいは委託する)株主間契約を結ばないといけなくなります。これは法律家に相談しましょう。

#6 会社設立から雇用までの流れ スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

今回は株式会社の設立から雇用などの創業の初期についてまとめます。Yコンビネータが提案するガイドラインを日本でも適応する手法をとります。

この記事によると、Y combinatorは会社設立していない企業に資金提供を決断することがあるそうです。日本の慣行はどうなのか知りませんが、資金の調達が確定するまでは会社を設立しなくていいかな、と僕は思います。投資家にとって好ましい会社設立のやり方だったり、株式の発行数があるはずで、その採用で将来的な費用を減らせるのなら好ましいと思います。

medium.com

まだ会社設立していない人たちに資金を提供することを YC が決めたとき、私たちは Clerky を使って会社設立するように言っています。

とのことですが、会社設立、給与計算には日本にも似た仕組みのプロダクトが存在しています。マネーフォワードのほうが税理士さんの採用率が高いため、マネフォにベンダーロックインされるのが好ましい気がします。

標準化されたインセンティブ付与

付与する生株の量まで言及されているのは本当に最高だと思います。「会社の10%を最初の10人の従業員に与える」とのことです。共同創業者間で分ける創業者株式にはベスティングという仕組みを導入します。

経験則として、会社の10%を最初の10人の従業員に与えることを考えてください。おちろん、規模は徐々にスライドさせてください。1人目の従業員は2人目の従業員よりも多く貰い、2番目の従業員は3番目の従業員よりも多くもあります。これがギャンブルではない理由は、これらすべてにべスティングが設けられていることです。従業員全員が株式に対してべスティングを持っています。 

以下のブログに書きましたが、生株に関してはベスティングを採用します。ベスティングに加えて退職時には、創業者に株を売るしくみを採用します。

同時にストックオプションについても同様のベスティングを活用します。税制適格無償ストックオプションについては、日本の税法上2年以上10年未満に行使するとのが決まってしまっています。2年がクリフ(崖)になり、2年で50パーセント。3年で75パーセント。4年で100パーセントという構造にするのが一般的です。

僕の場合は単独創業者なので、カスタマイズができるかなと践んでいます。最初の十数人20%、その後は税制適格無償SO、その後は有償SOを配るのが単独創業者の僕にとってのベストプラクティスである、と僕は考えています。

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Via YC

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採用、マネジメントにおける「透明性」

役職員に対する「透明性」が重要とも言います。上記のYコンの記事から参照します。

オーディエンス:あなたが本当に成功していると思う特定の会社はありますか? 会社名は言わなくてもいいですが、会社にとって本当にうまくいったと思う特定のモットーはあると思いますか?

Kristy Nathoo:すばらしい質問ですね。私はうまくやっている企業には透明性があると思います。従業員と一緒に座って、これらのことが何を意味し、どのようなオプションがあり、べスティングの仕組みを話したりする会社です。会社のシナリオとしてこういうものがあって、会社がこの金額で Exit すると、あなたにとってどういう意味があるのかとか、一方この金額で会社が Exit するとどのようになるか、などです。そうした企業はこれらの計算をすべて完了し、従業員の理解を確実にするようにしています。私はそれが本当に良い習慣だと思います。

創業者がそれを深く理解している必要性も言及されています。クリアに理解しクリアに説明することが重要です。

最初に必要とされるのは、創業者がこれを理解する必要があることです。これは実際には驚くほど一般的に理解されていません。私は創始者と多くの会話をしていますが、彼らはこの種のことを理解していません。だから彼らは自分の従業員にそれを説明することができません。だから、それを自分で理解し、従業員に対して非常にクリアになっていること、それが良い組織だと思います。

採用とマネジメント

以下の記事を参照します。Sam Altmanと翻訳したFound Xに感謝します。 プレイブックは必読だと思います。リンクからどうぞみてください。

https://review.foundx.jp/entry/startupplaybooksamaltmany_combinator

採用について、私が一番最初に伝えたいアドバイスは、採用するな、ということです。私たちがYCで関わってきた最も成功している会社では、採用を始めるまでかなりの長い時間をかけています。従業員には非常にお金がかかります。従業員を雇うことにより、組織に複雑性とコミュニケーションのオーバーヘッドが加わります。共同創業者に言いたくても、従業員のいる前では言えないこともでてきます。従業員により、物事に慣性が加わります —チームに人が増えるにつれて、方向転換をするのが指数関数的に難しくなります。従業員数に会社の価値を求めたくなる衝動をこらえてください。

会社が採用をする体制に入ってから (すなわち、Product/Market Fit が時間を無限大に伸ばしても成立するようになってから)、あなたの時間の25%ほどを割くようにしてください。少なくとも創業者のひとり、通常はCEOが、採用に関して得意にならなければいけません。それは、ほとんどのCEOの、時間を最も使う活動になります。皆がCEOは採用に時間をかけるべきだと言いますが、実際は、素晴らしいCEO以外はそうしていません。そこには恐らく何かがあるのでしょう。

僕の少ないスタートアップの経験を通じて、採用はコストとリターンを同時に引き受ける行為だと思いました。言い換えれば制約と報酬のセットのものなのです。とても慎重に行わないといけません。

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決して妥協をするな、とSam Altmanは指摘しています。

あなたが採用する人材について、決して妥協しないでください。皆それを知っているにも関わらず、必要に迫られて、皆ある程度は妥協してしまいます。皆、それを後悔し続け、そして時には、それは会社の危機をもたらします。良い人物も悪い人物もどちらも影響力があり、そしてもし会社の採用を平凡な人々から始めれば、平均は普通上昇することはありえません。早期に平凡な従業員から始めた会社は、ほぼ常に回復することはできません。あなたの人に対する直観を信じてください。もし疑念があるなら、答えはノーです。

この辺は日本人の特徴を勘案する必要がありそうですが真実でしょう。

Sam Altmanは解雇についても明確な意見を書いています。

最後に、解雇するときは速やかに行いましょう。理屈としては皆がこの事を知っていますが、実際、誰もそうはしません。しかし何れにせよ、私は伝えておくべきだと考えました。さらに、たとえどんなに仕事ができようとも企業文化の毒となるような人は解雇してください。企業文化は、あなたがどんな人物を雇うか、解雇するか、昇進させるかによって決まります。

日本には厳しい解雇規制が存在します。これはスタートアップで採用をするときに大きな足かせになっていると思います。ストックオプションの行使においては、「行使は上場以降」というのが日本の慣行なんですが、ぼくとしてはより公正に「ベスティング条項」を盛り込みたいと考えています。しかし、日本の解雇規制のもとでは抜け穴があります。それは「入社したら仕事はむちゃくちゃにして、オプションがベスティングされるまで何もしないまま待つ」というモラルハザードの可能性があります。この穴を塞ぐ手段のひとつが「行使は上場以降」の条件であり、もうひとつが「後出しジャンケン」の信託型ストックオプションです。以下の記事で言及したとおり僕は信託型は採用しません。

taxi-yoshida.hatenablog.com

ということで、SOにはすべからく「行使は上場以降」の条件を盛り込まざるをえないかもしれません。仮にこれが著しく悪いことをしたときは解雇される、それでちゃんと成果を出して勤めていけばオプションを獲得できる、というふうにできればなんといいことでしょう。

解雇規制はスタートアップの採用のコストも引き上げており、日本のビジネス界隈を著しく硬直化しています。無数のブラック企業や実習生搾取がうまれる遠因のひとつでもあると僕は考えます。厚生労働省は経済学Ph.Dを採用し、その人達が政策立案すべきであり、立法の人間は解雇規制に関するロビーイングを抑え込むことと同時に日本型の長時間働かせて賃金を下げるという日本企業に一般的な慣行には厳しい態度をみせることを期待したいです。すでに優秀人材の海外逃避は始まっており、日本には悪いモチベーションを胸のうちに秘めた平凡な人が集うブラック企業がどんどん増えています。寄り道しすぎました。そろそろ本題に戻りましょう。

ソフトウェアエンジニアの獲得

最近は日本でもソフトウェアエンジニアの獲得競争が激化しています。スタートアップが一定の水準を超えたエンジニアの獲得をすることはかなり難しくなりつつあります。以下の記事はその状況を詳細に伝えています。

https://review.foundx.jp/entry/convincingengineerstojoinyour_team

https://review.foundx.jp/entry/howtohireyourfirst_engineer

構造化面接

Google re:Workによると、構造化された面接は以下のような要件を満たすものです。

構造化された面接とは、簡単に言えば、同じ職務に応募している応募者に同じ面接手法を使って評価するということです。構造化面接を行うと、応募した職務自体が構造化されていない場合でも、応募者のパフォーマンスを予測できるという調査結果があります。Google では構造化面接を採用しています。つまり、すべての応募者に同じ質問をして、同じ尺度で回答を採点し、事前に決められた一貫した採用要件に基づいて採用を決定しています。

rework.withgoogle.com

正式なオファーレターのテンプレート

人を雇用するにはそのための制度を整えないといけません。いかの制度を整え、それを説明する文書を作ります。

  • 給与と諸給付
  • 健康保険の詳細
  • 休暇

エクイティ

  • 提供される株式/ストック・オプションの総数
  • 発行済株式の総数
  • 株式保有割合
  • オプションの権利行使価格
  • ベスティング・スケジュールの詳細

コメント

  • 会社設立は最初の投資を受けるときまで引き伸ばすことにしよう
  • ずっと採用を先送りした自分の判断は悪くない
  • 資金調達で「信用力」を増幅してから採用をした方が「平凡」を採用する可能性を最小化できそうだよな?→資金調達から先にやるか
  • スタートアップにはするべきことが山程ある。そのため「標準化された手法」が好ましい。”スタートアップゲーム”には僕が勝手に「不可逆性の罠」と読んでいる、一度落ちたら戻れない落とし穴が存在します。それに落ちないようにするのに標準化された手法はとても効率的です。ファイナンス、会計、法務、税務などはその理解のために深い専門性を必要とします。そこをブリッジするのが標準化された手法です。会社にとって重要な差別化要因になる点については標準化されたライブラリをカスタマイズしようと思う

#5 信託型ストックオプションとRSU(譲渡制限株式ユニット) スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

TL;DR

信託型ストックオプションはやめておけ! 特殊な条件が揃わない限り悪手。上場後のインセンティブとしてならRSU(譲渡制限付株式)もあるぞ!


以前、この記事でストックオプションの種類について整理してみました。

taxi-yoshida.hatenablog.com

この記事の執筆時の結論としては、僕のスタートアップでは初期は税制適格無償ストックオプションを発行し、中期以降は有償ストックオプションを発行するのがいいよね、です。しかし、仮に信託ストック・オプションを掛け合わせたらどうなるのかというのが気になっていました。そのときの理解は雑で「信託というラッパーをかませた有償ストックオプションで、信託した金銭に法人税40%が乗るやん」というものだったのです。ということで、さあ深掘りしていきましょう。

信託ストックオプションとは?

もう一度整理してみると、信託型ストックオプションとは、発行時点の比較的安価な行使価額の新株予約権を、将来に渡って配布することができるスキームです。信託設定の際に大株主(概ね創業者)が金銭を贈与し、受託者が受贈益課税を受ける、というスキームです。

通常のストックオプションは発行時の社員にのみ配布することができます。したがって急成長している会社は何度も何度もストックオプションを発行することになります。

この煩雑さを付与対象者および付与規模を『後決め』することで克服できます。同時にこのスキームが好ましいと考えている人は、その付与について「個人のパフォーマンスを考慮した事後的な付与や将来の入社予定者への実質付与が可能」と説明します(ここが大きな争点になります)。

法人課税信託

信託型ストックオプションには2つのコストが存在します。ひとつは先にも触れたとおり、40%に及ぶ法人課税ですが、これはなかなか興味深いのです。

www.kabushikikoukai.com

この記事が参照する『松田良成・山田昌史、「新株予約権と信託を組み合わせた新たなインセンティブ・プラン(上)、旬刊商事法務No2042 62頁-63頁』によるとこの通り。

① 委託者となるオーナーが、信託銀行と信託契約を締結し、金銭を信託する。

② 受託者たる信託銀行は、信託財産である金銭を、有償新株予約権の払込資金や税金の支払等に使用する。

③ 信託銀行は、信託契約に定められた受益者確定手続が完了し、将来の一時点における従業員等に有償新株予約権が交付されるまでの間、これを保管する。

④ 信託銀行は、信託契約に定められた受益者確定手続が開始された時点で、予め定めた条件に基づき、発行会社の従業員等の受益者を確定する。

⑤ 信託期間満了日をもって、受益者確定手続を完了した従業員等は信託受益権を取得する。

⑥ 信託受益権を取得した従業員は、信託期間の満了に伴い、ただちに有償ストックオプションが交付され、これに伴い、信託受益権は消滅する。

詳しくは社団法人信託協会のこちらの記事の「受託者に発生時に法人税が課税される信託」を参照してみてください。

www.shintaku-kyokai.or.jp

受益権をもつ受益者または”みなし受益者”が存在しない信託は、法人課税信託として取り扱われます。つまり、このストックオプションのスキームでは法人課税信託に該当するということです。ただし、発行者が有償部分が極めて僅少になるように行使条件を設定すれば、40%の法人税が課せられても少額の出費に留まります。ここが税制的に”おいしいところ”です。

リーガルコスト

もう1つのコストが存在します。信託を組成するためのリーガルコストです。ダウンサイドとしては、導入時のコストが高額な点が挙げられます。「時価発行新株予約権信託」スキームを構築、アドバイスできるコンサル会社はほぼ1社に限られるとも言われており、お高いコンサルティング費用が発生します。1000万円を超えるケースもあるようです。

会社の得損

この二点を勘案したとき、会社が成長基調で、ストックオプションの行使価格がぐんぐん上がってしまいそうで、将来的に優秀な人材をどんどん獲得したいとき、コンサル料を勘案しても税制上は安上がりになるはずなので、採用を検討したい気もするのですが、しかし看過できない点があります。

社員に対し不公正

シバタナオキさん(@shibataism)のこのコメントはこのスキームの問題点を指摘しています。

https://twitter.com/shibataism/status/1074571659170856960

信託型ストックオプションは創業者が役職員を搾取しうるスキームです。スタートアップに参画した人がとったリスクに応えることを確約しないで後ろにスライドさせていく”毒まんじゅう”にもなり得ます。これを利用して「公正」にストックオプションを付与できる創業者ははたしているのでしょうか。信託型ストックオプションはフィーが高いので、フィーを貰う側の人は肯定的なことしか言いません。

例外

信託型ストックオプションが流行するきっかけが、PKSHAの上場申請書で税理士にストックオプションを信託しているのが分かってからですが、PKSHAはとても少ない資金調達の回数で創業者が高い持ち分を維持しており、社員数も少なく、社員全員に利益が行き届いた上で、上場後のインセンティブとしてストックオプションを信託しているということに留意する必要があります。上場後はストックオプションの行使価格が時価となってしまうので、ストックオプションが誘因として働きづらくなるのを見越して、行使価格を一定にできるという点を活かし、信託型にしてあるのです。この信託型を行使条件も「営業利益が280百万円を超過した場合に50%が行使可能、400百万円を超過した場合には100%が行使可能」とし、業績をトリガーイベントとしているのです。うまくできています。

www.kabushikikoukai.com

だったらRSUはいかが?

ただしこの目的の場合はRestricted stock units (RSUs)が日本でも選択肢に入ってきました。メルカリ、楽天、YJ等のテック企業がRSUを報酬として設定したからです。平成28年税制改正により、法人税法上、損金算入の対象となる事前確定届出給与の範囲に、一定の要件を満たすRSUが含まれることになっています。これ以降採用する企業が増加しています。RSUは簡単で「株をまるっとあげるけど、Vestingで段階的に渡すよ」という制度です。付与された社員としては業績好調で株価が上がれば、その分リターンが増えるので、貢献することへの誘因が生まれます。

mercan.mercari.com

https://irnote.com/n/n6a64644e47c3

発行者は既存の株を希薄化することになるので、年間の発行数は、発行済み株式の1%未満に抑える、そうです。メルカリが自社株買いしてそれをRSUにあてるということも可能なのでしょうか。

www.nikkei.com

それから税務ですが、渡された役職員からみたとき、付与時に所得課税されて、そのあと株を売却すると譲渡税がかかるみたいなことになるのかしら?

これらの会計事務所系のブログだと会社側の税務については説明がありますが、付与された側の税務は説明がありません。

www.shinnihon.or.jp

www2.deloitte.com

外資系企業のソフトウェアエンジニアマネージャーのブログだと、こんな感じです。

sdm.hatenablog.com

なお、日本に住んでいる社員が外資系企業でRSUをもらった場合、やや厄介なのが確定申告が必要になることでしょうか。源泉徴収される会社からの給与とは別に、1年のうちの特定のタイミングで株を譲渡されることになるので、RSUがVestされた翌年には確定申告が必須となります。慣れてしまえばどうってことはないですが、住宅ローンとか医療費の控除で確定申告の経験のないサラリーマンにとってはやや大変かもしれません。(中略)VestされたRSUは普通の所得として計上されるので、所得税率はその他の収入とあわせたものが適用されます。

(中略)株式などの譲渡益(キャピタルゲイン)は一律で20%の税率がかかるので(NISAが始まる前までは10%だったはず)、ここでもまた税金を払うことになります。

他にもこのような記事があるので興味深いです。

sdm.hatenablog.com

sdm.hatenablog.com

GrantからVestまでの間の居住国の割合に応じてVestされたRSUの所得税を支払うというコーナーケースも扱ってくれており興味深いです。

sdm.hatenablog.com

この人の場合は外資系なので日本企業が日本に居住する人に付与したときにどうなるのか、教えてほしいですね。所得税がかかり譲渡税がかかる、かもしれない、くらいが現時点で得られる情報です。あとは上場しそうになったら考えようじゃないか。

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信託は「後出しジャンケン」だからこれを採用するのは役職員に対して余りに公正でないと感じました。僕は起業前は”従業員”をやっていて壮絶にカモられた経験が二度あり、不透明な手法が職場環境、人間の行動、会社のパフォーマンスに壮大なる悪影響を与えているのを深く実感しました。会社で働いている間その被害を大きく受けたとも感じています。僕はこれを個人的な「恨み節」としてではなく冷静に定性的に調べた結果得られた知見だと考えています。足の引っ張り合い、嫉妬、横並び主義、出る杭は抜く……日本の雇用慣行を採用するとこういうことがわりかし起こりやすいのではないでしょうか。

Yコンビネータの資料は役職員に対する透明性は成功するスタートアップの重要な要素と指摘していました。僕のような独立自尊マインドの人は必ず役職員にいるはずなので、そういう人は信託型ストックオプションの”からくり”を見抜いた途端、「それは何でもないな」と判断して会社を辞めてしまいます。辞めた先では率先して情報の共有を行います。同時にそういう人のなかには事業に対し大きな貢献をする人が少なくありません。また、将来の紛糾の種を社内にまいておくことにもなりそうです。なんとまあ好ましくないメカニズム設計ですね😊。

難しいときはメルカリをパクっておこう。最初は無償ストックオプション、次は有償ストックオプション、上場後はRSUというのがメルカリが行ったプラクティスであり、現状の日本のベストプラクティス気味かと推測します。検討するべき点としては、ストックオプションの行使時期について「上場後」とするか「ベスティング」するかではないかと思います。僕はベスティングしたいと思います。その理由は別のブログで書きたいと思います。

#4 創業株主間契約 スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

創業株主間契約にはある程度標準化された手段が存在するので、オリジナリティを発揮するのは全く割に合わないと僕は考えています。

この契約は主に仲違いで共同創業者が去ったときにケースを想定しています。FacebookTwitterなど共同創業者の仲違いで危機的な状況を迎えたスタートアップは枚挙に暇がありません。辞めた役職員が引き続き会社の株を保有していると会社経営がデッドロックに陥ったり、悪意の攻撃を受けたりする可能性が生まれます。

AZX総合法律事務所の雛形は以下のようになってます。

www.azx.co.jp

土台はこの雛形で補完できますが、ある程度のチューニングが必要になってきます。僕がチューニングする必要があると感じるのは以下の点であり、おそらく創業株主間契約のキモである部分です。

リバースヴェスティング

リバースべスティングとは、勤続年数に応じて保有できる株式比率が変化していく仕組みのことです。1年未満で辞めた場合はその人が持っている株の割合のうち、100%を返還しなければいけませんが、1年以上、2年未満の期間働いているのならば25%の株を保持できる(以後、1年ごとに所持比率が25%増加)……というように、年々保有できる株式の比率が増えていく仕組みです。この1年毎に25%付与が最も重要な一般的です。創業者間契約の中であらかじめこの条件を埋め込んでおくのです。

これに対して、Shion Okamotoさんのブログはこう指摘します。

リバース・ベスティングの条項はシリコンバレーの実務において一般的であると言われています。もっとも、私見ですが、日本のベンチャー実務においてはまだ一般的とまではいえないように思います。リバース・ベスティング条項がある場合、一定期間経過後は退任創業者に株が残ることになりますので、上記1で記載したような困った事態が生じるリスクが残ることになります。勤続年数に応じた株式を共同創業者にも与えるというのはフェアな条項である一方で、万が一の場合に会社運営を困難にするリスクをはらんだ規定でもありますので、慎重にメリット・デメリットを検討することをおすすめします。

medium.com

買い取り

ということで、創業者間契約の中には退任時に「株をおいていく」ことを埋め込んでおく方法もあります。買い取りの価格は勤めた年数と退任する理由に基づいて「場合分け」をするのが通常のやり方です。Taejunさんの『スタートアップ資本政策の6箇条』から以下の図を引用します。

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またこのようなタームも記述しておくといいそうです。

  • 退職後X年間は同業他社で働かないこと
  • 退職後X年間は同種の事業を始めないこと
  • 自社の業務を通じて得た情報について、秘密を保持すること
  • 退職後自社についてのネガティブキャンペーンを行わないこと

note.mu

始めた時は蜜月関係にあっても、人間関係がほころぶことはよく起きる。そして、創業者間契約を結んでいないと、30%の株を持っている共同創業者が退職して類似事業を始め、彼の持っている株を買い取れない、なんてことになる。こういう最悪の事態が時々起きる。こういったトラブルを抱えた会社が外部投資家から出資を受けることは難しいし、それが解消されるまでは会社が前に進むことはできない。そうやってゆっくりと時間を浪費しているうちに、同業他社があっという間にキャッチアップして自社を追い抜いていく、なんてことになったら悪夢だ。

創業者個人が買い取るのがメジャーな手段です。共同創業者3人のときは「三国志」ライクな争いが起きてしまう気がします。

コメント

僕はMVPの作成、事業可能性の検証等など一人で済ませました(途中途中で参加者はいましたが)。そのため仮に今後「パートナー」に類する人を招き入れてもこの創業者間契約が想定する株の断片化の状況にはならないのかな、と想定します。序盤戦は僕が支配株主として状況をコントロールし、私の持ち分の20%程度を初期参画者たちに渡すことにする予定です。

問題は私が退任しないといけないケースです。この場合、誰に株を売ればいいのだろうか? なるほど、こういうときの「転んだ先の杖」として投資家は共同創業者を立てることを奨めるわけですね。まあ、会社の二人目(二人目が辞めていたら三人目)以降に譲渡するようにしておけばいいでしょうか。あるいは、役職員のためにプールされる形にすればいいでしょうか。そうすると、新たな争いの種になる気はします。会社に関わるすべての人にとって好ましいメカニズムを設計したいという気持ちと、自分のプロジェクトが崩壊する脆弱性を塞いでおきたいという気持ちがまだうまく釣り合いが取れていませんね。幻影旅団のような感じの組織運営でいけばいいんですが、あれは漫画の中の絵空事ですよね。人間はもっともっと人間らしいものです。

精神と時とファイナンスの部屋 今週の進捗#19

今週はファイナンスの学習をしました。資本政策を最も好ましい形で進めたいからです。学習をすればするほど自分が何も知らないまま物事を進めようとしていたことに気づきました。基本的には Yコンビネーターの教えるところを日本の状況に適合しスタートアップを前に進めていきたいと考えています。

Yコンはシード期のスタートアップにコンバーティブル・エクイティを推奨しており日本にも同様の枠組みが存在します。コンバーティブル・エクイティには好ましい調達額の上限が存在しており1億円以上の調達の場合は通常の株での調達を検討するほうが好ましいという説明があります。これは次の調達がどのくらいのサイズになるかによって決めようと思います。

最初に参加した人にどのくらいの生株を渡すべきかからストックオプション付与の仕方、法的手続きなどワイコンビネーターには「標準化」されたスタートアップの作り方が用意されています。もちろん 日本とアメリカでは法規や税制、ビジネス慣行も異なるのでそのまま適用するわけにはいきませんが、 日本の状況を詳しく学習することによりかなり上手くやれるのではないかと想定しています。同時にこれらを日本化する 試みを しているエコシステムの構成員の方々にとても感謝しています。

企業価値評価については有名なマッキンゼーの本を読んでいますが、スタートアップの評価はよりアーティスティックに決められていると思います。近年は後ろの方のラウンドでプライベートエクイティなどが投資をするケースがあります。その時は 一応厳密な企業価値評価をしているとは考えられます。しかしこの評価の枠組みはあまりサイエンス とは言い難くむしろテクニックと呼ぶべきものでしょう。

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

ストックオプションの税制はとてもややこしいと感じています。国税庁のコメントが出てはいるもののあまり明快でない 部分も存在しているので、この分野では 行政立法の方々に努力していただいて明快かつ簡潔なものにしていただけたら幸いです。ストックオプションの発行量を どの程度にすればいいのかには様々な意見が存在します。株を希釈化させるので既存株主あるいは未来の株主からは抑制的にして欲しいとの要望があります。10%というのがしばしば日本の投資家が引きたがる線ではありますが、 メルカリの先行例では20%まで発行 しています。 つまり事業が成長してストックオプションでさらに優秀な人材を集めることでその成長が加速するならば、既存投資家も ある程度は許容してくれるのではないかと想像しています。Google の新規株式上場時のレターでは会社はまあ株主のものではあるが、社員のものでもあるというニュアンスがあります。先に触れた企業価値評価の本でも、社員に対する報酬の高さはその企業への Return of investment Capital の高さ と相関することに触れられています。ワークルールズという Google の職場環境に関する本では報酬は不公平に設定するべきだと指摘されています。つまりストックオプションなどで担保できるインセンティブは年俸とは別に不公平に付与するべきではないのかもしれません。例えば、最初期の参画者にはとったリスクに応じて大きなパイを渡すのは合理的でしょう。同時に会社の未来に対して大きな可能性を与えた、あるいは与えうる人にも、同様に大きなパイを渡すことは合理的でしょう。

今週学習した内容はこのブログの後ろの三つのポストに書いてあるので興味があったら読んでみてください。来週も腰を据えてファイナンスの勉強を継続します特にタームシートについて知識を深めたいと思っています。実際の資金調達時にはもちろん専門家のレビューを受けて物事を進める用意がありますがそれでも自分で物事が理解できるのならおそらく条件や進行速度が著しく改善すると予測します。12月は経済学を学んで1月はソフトウェア開発を学んで2月は金融を学んでいます。

ということで来週もよろしくお願いします。私と話したい人は連絡してきてね。

運動

4000㍍泳いだ。60キロ歩いた。花粉症に気をつけよう🙂 f:id:taxi-yoshida:20190223144416j:plain

#3 優先株 スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

前回のこの記事では、種類株式の話をしてみて、今回は優先株について調べてみようと思いました。「優先株」というのは、普通株に対して特定の権利を追加で有し、投資家により有利な条件で発行される株式のことを指します。

増島雅和さんのStartup Innovators『優先株式の基礎』が明快な説明だと思いました。増島さんは優先株のスコープを以下の4点に定めています。

  1. 創業者のフリーライド防止(投資家の優先権確保)
  2. ストック・オプションの実効性確保
  3. 稀釈化防止(優先株式の価値の維持)
  4. スタートアップのモニタリング等

優先株式を採用する最も主要なモチベーションは1です。

同時に優先株主の権利を保全するための「装置」が組み込まれています。優先株主の権利は、新株発行によって希釈化されるため、投資家は経営陣による一定の新株発行を防止するための規定を設けます。投資家は他にも普通株主と経営陣が優先株主の権利を害するさまざまなケースを想定し、優先株の付帯条件を設計します。それは、会社資産の流出、優先権の劣後化、経営陣の私的利益、経営陣によるリスクテイク、経営陣によるアーリーエグジットです。それぞれこれらを防止する条件があります。詳しくは『優先株主の権利の毀損とそれに対応する契約上の規定』(喜多野 恭夫)を参照ください。

残余財産分配権

残余財産分配権は、ベンチャー投資で用いられる優先株式の権利の中でも、最も重要なもののひとつです。

この優先株式は「参加型」と言って、分配額が増えれば増えるほど、株式数に比例してたくさんの分配を受けられるようになっています。たとえば残余財産が10億円の場合には、先に優先株主に2億円を分配したあと、残りの8億円を、創業者と投資家の持株比率で分配することになります。

これが優先株の核となる部分です。こういう条件になっているからこそ、投資家は、リスクの高いシードステージやアーリーステージのベンチャーに対しても、思い切った額を投資できるわけです。

ただし、精算時の残余財産が、投資された資金の総量を上回る場合、最初に投資額を優先株主に戻してから、持ち株比率で分けるスキームをとると、誤差が出ます。残余財産の規模が大きければ大きいほどその誤差は許容し難くなってくるはずです。『起業のエクイティファイナンス』磯崎哲也)では分与の仕方として「AND型」「OR型」「3倍」などを紹介しています。詳細は書籍に譲りますが、私は「OR型」を好みます。優先株主が投資額を保全した後は、普通株主と同様の分配に沿ってもらうのが最もフェアだと感じます。アーリーステージ投資家にとっては「AND型」「3倍」(投資額の3倍に対する残余財産への優先権)で、麻雀で言うところの「ドラが乗る」のが嬉しいのかもしれませんが、優先株の目的は「OR型」で満たせます。「AND型」でドラを付ける必要はありませんし「3倍」に関してはドラがのりすぎです。これは資金調達を経験する前である現段階での個人的意見です。

ストックオプションの実効性

ストックオプション普通株への転換が規定された新株予約権です。ストックオプションを割り当てるとき、投資家に対して優先株式ではなく普通株式を発行した場合、おおむねストックオプションの行使価格は、投資家に対する普通株式の発行価格よりも高くなければ税制適格要件を満たしません。これはストックオプションホルダーのキャピタルゲインの圧迫要因になります。

優先株普通株よりも高い価格でも取引されても良いというのがシリコンバレーでは一般的になっています。ストックオプション普通株に転換するときの価格を、その時点での優先株価格よりかなり低く設定することも可能になっています。ストックオプションのホルダーのキャピタルゲインを大きくし誘因の作用を高めます。これを優秀人材確保のために活かせるはずです。日本でも経産省のサイトで種類株の取引価格を普通株の価格とはしなくてもいいということが確認されています。

希釈化防止

3の希釈化防止では種類株における転換請求権が活用されています。転換請求権はいわばダウングレード請求権です。Startup Innovatorsの『転換請求権 (2/2)』で増島さんはこう説明しています。

A種優先株主としては、このような株式価値の低下が自らのあずかり知らないところでB種優先株主の引受投資家と創業者との間で決められてしまってはたまりません。そこで、A種優先株主は、このような形で自らの株式の取得価額よりも低い価額で新規投資が行われる場合には、その時点のA種優先株式の転換価額を下方に調整し、普通株式転換ベースでの株式数を増加させることで、保有株式の価値の維持を図ることを考えます。このための仕組みが稀釈化防止条項(Anti dilution provision)と呼ばれるものです。

希釈化防止条項には以下の三種類があるそうです。

① フルラチェット方式(Full Ratchet Adjustment) ② ナローベース加重平均方式(Narrow-based Weighted Avarage Adjustment) ③ ブロードベース加重平均方式(Broad-based Weighted Avarage Adjustment)

この話は細かいので、リンク先にも詳細な説明がありますし、もっと知りたい人はぜひ自分で調べてみてください。正直、自分が調べた限りではどれがベストプラクティスかはわかりませんでした。「何をもって正当とするべきか」はやはりとても主観的なものなのです。

強制転換条項

優先株には一定の条件が成立したときに会社の決定によって優先株を一斉に普通株に転換することができる旨の条項が含まれています。会社法では取得条項と呼ばれます。強制転換条項が発動する条件としては、IPOと経営悪化時が考えられます。優先株式が残存している状態でIPOを行わないのが現実的であること、会社の経営状態が悪化したときに、一度すべての優先株式普通株化した上で新たな投資家を募ることがこの条項に含意されています。

普通株への転換は比率1対1が通常のようですが、転換する株式数に細かい調整を付けるケースがあるようです。正直、余分な労力を割いているのではないかというのが現時点での僕の感想です。

拒否権

それを防ぐためにさまざまな”防衛手段”を優先株の中にビルトインしておくという考え方があります(優先株主の権利保護のための拒否権(Protective Provisions)(1))。

拒否権はそのひとつで、投資家に一定の重要事項に拒否権を持てるようにします。拒否権の適用範囲が広ければ広いほど会社運営が大変になってきます。新株発行やM&Aなど優先権を脅かすのに十分なものに絞るのが好ましいとされています。

タグアロングとドラッグアロング

タグアロング(Tag Along right)は特定の株主が株式売却の際、他の株主も同条件で買い手に売却する権利を指します。「あなただけ売り抜けるのはずるいから一緒に売却させてね」という感じ。大株主が大きな影響力をもっている場合、当該大株主の離脱は企業価値に大きな影響を与えるため、少数株主が大株主の売却条件と同条件で買手に自己の株式を売却するケースはひとつの典型です。この場合は少数株主の保護が目的とされています。

ドラッグアロング(Drag Along right)は大株主の株式売却に際して、他の株主も同条件で売却をしなければならない条項をさします。典型例としては、優先株主の総議決権の3分の2以上の承認等の一定の要件を満たす場合に、他の株主に対して買収に応じるべきことを請求できる権利があります。大株主が事業売却案などを即時的に実行すべきと判断した際に即時的に実行できるので、機動性のメリットがあると考えられます。この条項が盛り込まれるというのは大株主への信頼が優先株主の間で確立していることの現れにも見えます。

汐留パートナーズグループCEO 公認会計士前川研吾のブログの『タグアロングとドラッグアロング』では、「タグアロングは権利であり、ドラッグアロングは義務であるということが、両社の大きな相違点です。いずれも、投資家株主間の問題として、「少数株主の保護」と「大株主(支配株主)のエグジット」を調整し実行するための権利調整です」と説明されています。

役員選解任権

文字通り、優先株主が◯人の取締役を選任、解任する権利です。投資先を多数抱えるアーリーステージ投資家の場合、コストがとてつもないのでむしろ付けない、という考え方をするのではないかと推測します。好ましいスタートアップの選定に時間を割いて、逐次取締役会に参加するコストを無くすようにするのではないでしょうか。

優先株のコスト

優先株を発行した場合、会社は種類株主総会を通常の株主総会とパラレルに開催しないといけません。開催は成長期にあるスタートアップにとって大きな負担となります。この開催を忘れていたことが上場審査においても問題になるケースがあったそうです。種類株主総会については『種類株主総会はどのように運営すればよいか』(高谷裕介 弁護士)が詳しいです。これが優先株発行の主要なコストであり調達資金の多寡によりコストを許容できるかいなかが異なるそうです。

猪木俊宏さんは 『優先株の普及と問題点ーースタートアップ目線で考える最近のシード資金調達(1)』で「シード投資において優先株を利用するのは、種類株主総会の負担と開催忘れリスクを考えるとまだ難しいと考えている人が多いのが現状です」と主張しています。猪木さんは『シード期における優先株利用の可能性ーースタートアップ目線で考える最近のシード資金調達(3)』では、こう説明しています。

現在でも、普通株での投資を行うシード投資家は少なくありません。その理由は、普通株での他の投資方法に比べて圧倒的にシンプルであり、起業家・スタートアップと投資家双方にとって理解しやすく、事務的・費用的な負担がかからないことが基本であり、特にエンジェル投資では、投資契約(株主間契約)も締結されず、登記に必要な書類のみで投資されるケースも多く、シンプルさは際立っています。

優先株をシード期に用いることは、スタートアップにとっていくつかの問題があることは、第1回で見たとおりです。その中で残された最大の問題は、現在のところ、種類株主総会開催の負担と開催忘れリスクによる上場審査への影響ですが、これを軽減する環境が整えば、シード段階でも優先株が利用されるようになる可能性も高いと考えられます。

シリーズA以降で優先株の利用が進んだことにより、当然、種類株主総会の開催事例も増加しており、実務的な知見も蓄積してきています。

スタートアップにとっては、種類株主総会の開催を含めた事務的・費用的な負担を受け入れるだけの金額を調達できるか、という点が重要になると猪木氏は説明します。

現時点で調達金額と優先株の利用について、スタートアップ目線で大雑把にいうと、1億円以上の調達は優先株で問題ない、5000万円以上1億円未満はケースによる、3000万以上5000万未満は優先株を使うのはケースによるが基本的にはやや微妙、3000万未満はかなり微妙なので基本的にやめた方がよい、という感じですが、今後種類株主総会についてのノウハウがまとめられ、かつ、シード期にふさわしい優先株の設計がなされれば、シード期において優先株が利用される事例が増加する可能性も高いと思います。

コメント

投資家のリスク防衛、経済的利得の最大化のためのスキームだと僕は感じました。起業家の中にはモラルハザードをする人もいるのでしょう。起業家の僕としては、この条件群は好ましい企業価値評価とセットならフェアになりうると思います。私も実戦を践んでいないのでなんとも言えませんが、実戦で目にする優先株については「善意の第三者」となりうる法律家のレビューを受け、自分自身でも深く読み込まないといけないでしょう。実戦を践んだ人の多くはNDA等で縛られていて何も語れないことが多いので、このように推測しています。

自分のプロジェクトは自己資金でコンバーティブルエクイティが好ましい段階を越え、投資家が好むのなら優先株を採用する、というレンジにあると想定しています。

「僕が考える最高の優先株」を一度作ってみたいです。

  •  盛り込まれる条項については、シンプルなものに留め、リガールコスト、オペレーショナルコストを削減する
  • 信頼できる可能性が高い人と取引をする
  • インセンティブの一致が信用できる人と取引をする
  • いいアドバイザーを見つける

これらのことに留意していきたいです。