ムンバイってなに?
そんな感じだと思う。ぼくも未だにそうだ。
理解するのに映画「スラムドッグ$ミリオネア」(監督ダニーボイル)がわかりやすい入り口になってくれた。
1992〜93年にムンバイではヒンドゥーとムスリムの暴動が起きた。最悪の暴動で900人がなくなった。有名なスラムのダーラーヴィー地区(Dharavi)で生まれた主人公は暴動で親と引き離され、ストリートチルドレンになる。主人公の親友は少数派ムスリムで社会参入が難しくてギャングになっている。彼は自分の命と引き換えにギャングにとらわれた主人公の幼なじみの恋人を逃がして、主人公と恋人が結ばれる。感動の物語だ。
このダーラーヴィー地区でのスラムツアーに行った。リアリティという英国人が立ち上げたNGOがツアーをしきり、スラム内につくった学校などを運営する原資にしている。映画でこの地域は外人が訪れてみたくなる地域になっていて、BBC、CNNなども「彼らなりの世界観」から報道してきた。わかりやすいジャーナリズムだ。
ぼくは13ドルツアーに払った。この8割が活動費になると説明されている。学校では主に英語を教える。ツアー同乗のインド女子学生によると、インドでは地方ごとに言語が異なるので、いい仕事を得るためには必ず英語が必要になる。英語教育が彼らのジャンプ台になるはずだ。
その学校も訪問したが、NGO特有のパワフルな母性のようなものを感じる場所だった。子どもの声が響いている。
リアリティはかなり洗練されている。上のウェブサイトを見れば一目瞭然だ。地元インド人が務めるガイドも欧米人が好みそうなストーリーを語ってくれる。たぶん脚本やガイドブックが入念につくられている。
ビジネスのスキームに精通した人物が動かしていて、モデルがデリーなど他の都市に広がっているそうだ。ビジネスだからダメじゃなくて、ビジネスだから素晴らしいと思う。NGOに絡む人間がしっかり稼げて、関係者が最低限の幸せを手にして、こういうのは回っていく。モデルができるとフランチャイズできるので、一気に発展していく(はずだ)。
*高度産業化スラム
上はスラムの建物の屋上から撮影。
ツアーコンダクターの説明はこんな感じ―――
スラムはプラスチックのリサイクル業や偽ブランドバック、偽ブランドアパレル製品の製造、つぼの製造などで産業化されている。だから、仕事を得るのはカンタン。労働者はカネを貯めるために地区に逗留する。
スラムには地方や他国からの人々が年に9カ月間働いて、洪水気味になる雨期の3カ月は地元に帰るそうだ。スラムは「5つ星スラム」の状況で土地は4つの鉄道駅に囲まれた一等地にあるにもかかわらず家賃は安い。衣食住がそろうので多くの人はスラムだけで生活を完結させてカネを貯めて帰郷する。居住者の9割弱が男性で彼らをあてこんだ売春もある。
トイレは400〜500人に1人の状況で衛生状況は最悪。ヒンドゥー教徒とムスリムは居住区を分けているが、ムスリムがヒンドゥーの寺を建てるなどして交流を持っている。例の惨事を招かないために。
環境は凄まじく悪い。プラスチックや金属を処理した後の排水が垂れ流しで、プラスチックを加熱する際に生じる煙がもわもわで、鼻と目を刺す。写真は人々のプライバシーの観点でとれなかったが、いかにもの人もいるし、スラム内事業に成功して私立学校に子どもを通わせる層もいる。面白い。
政治家は一等地から人々をどかそうと画策しているそうだ。地区が面する鉄道西部線(ウェストライン)沿いでは開発が進んでいる。州政府はムンバイを第二の上海にすると宣言している。だが、いまのところ立ち退きにまで発展していない。