【旅行記】社会主義、カースト、仏教、キャッシュフローをめぐる日々
*社会主義が悪い?
ホステルの主の家に間借りしている男性が「あなたはジャーナリストなんだね」と声をかけてきた。彼もまた政治・社会分野のライターらしい。インドの状況を聞くと「政治はまあいいが官僚機構が悪い。彼らにしみ込んだ社会主義が問題だ」と話していた。
インドは冷戦時代は非同盟諸国であり、ソ連と接近するほど東側陣営に近かった。80年代までの歴代政権は社会主義を掲げて、国内産業を極端に保護し、政府がかなり深く関与した経済運営進めてきた。これにより官僚機構が利権で太り上がり、癒着、汚職などを生んできた、らしい。
ライターは「資本主義にシフトした後も官僚たちの腐敗は続いている。政党にも社会主義の傾向は強く残っている。社会主義の結果、一握りの人たちが富を手にするふうにこの国はなっている」と話した。
彼の言う社会主義は社会上層の「なあなあ」のことを差しているようだ。インドはクローニーキャピタリズム=縁故資本主義=とやゆされている。イギリス植民地時代に産声をあげた財閥などが、政府と「なあなあ」で経済を回してきた。
モディ首相のインド人民党はインド的な社会主義の、ガンディアン・ソーシャリズムを党の方針に入れている。インドにはインドの独特の政治文化があるようだ。
(写真上)イギリス時代にできたドービー・ゴート洗濯場を訪問。夕方、帰りの電車で工学を学ぶ大学院生アンバダスさんに話しかけられた。ムンバイではしばしば話しかけられる。好奇の目を向ける者も入るが、そこから一歩進んで話しかけてくる。電車に乗っている外人はほぼゼロに近いからだろうか。
彼は「トマス・ピケティは知っているか。『21世紀の資本』は読んだか?おれの大好きな本だ」という。彼はエンジニアの卵だが経済にも興味があるようだ。修士号取得後はドイツで働く機会を探っている。日本もいいけど日本語がしんどいそうだ。ドイツ語がアルファベットだから大丈夫。
「カール・マルクスは読んだか?国民総幸福量を知っているか。一位はブータンだぜ」経済はふくらめばいいものでもない。今の社会はカネで何でも動いている。ドバイの砂漠に巨大な街ができるじゃないか。でもそれは間違いだ」
マルクスか……。昼のライターが社会主義について話したことを思い出す。
「モディ政権で経済はいいかもしれない。ただ社会的な緊張が高まっている」。モディ首相の政党=インド人民党=はイスラム教やキリスト教をインドの価値観に合致しないとしている。「インドの民主主義は極めて悪い状況にある。カーストだ。知ってるだろう。インドではたった3.5%の上位層が他を支配しているんだ」
彼はぼくが日本人と言うことで、少数の侍が農民から米を巻き上げることをモデルとして、カーストを説明してくれた。
廃品回収をする女性。
*カネから自由になるにはカネを手に入れないといけない
それにしても余りにも忙しい日だった。
夜はホステルの主、人生の導師?パンカジ氏の講義が待っている。
ぼくは市内の富裕層の集積する地帯、郊外のショピングモールなどの中間層の場所、低所得者集落を訪れたことを話して「ムンバイは前に進んでいるように見えるけど、低所得者の状況はあんまりよくない。彼らの所得が押し上げられればもっと経済が強くなるし、人的資源の底上げができるし、インドが発展していくなどのいい部分があるんじゃないか」と意見を伝えた。
インド着1週間もたたずに知ったかぶりであるww
パンカジさんはムンバイの貧困をセンセーショナルに扱わないことに満足していたようだった。
パンカジさんは一日六時間くらいしか職場で過ごさない。「日本だと考えらないことだ」というと、「自分は価値のある仕事をしているから問題ない、結果を見てもらえればいいんだ」という。「カイシャの他の人たちは俳優をしているようなものだ。ああ、苦闘していますよ。ああ、ぼくは頑張っていますよ、と演じているんだ。でも結果を見ると大したこともない。他の人は自分に長く働くよう圧力をかけてきたりすることもあるが、ぼくは動じないんだ」。
かなり共感できる意見だった。だらだらと長時間働いたあげくパフォーマンスが悪いことがまあまああるんだが、「おれたち頑張ったよな」みたいなノリで美化されたりする。パンカジさんは日本のサラリーマンに関しても知識が豊富である。「夫が六時に帰ってくると、妻は夫が仕事ができない人だと心配するんだろう、日本では」。われわれは20―30年かけてマンションを買うことに違和感を感じ、シェアリングエコノミーに可能性があると一致した。
パンカジさんは幸福を優先した生活を送りたいと考えている。そのためには経済的な部分がおぼつくと難しいので、ある程度のキャッシュフロー(現金収入)が必要だという現実的な考えも持っている。矛盾しているけど、資本主義社会でカネから自由になるには、カネをいっぱい持たないといけない。カネに困っていると全然自由になれない。
そのため、株式を売ったお金で家を買い、ホステルや借家にしている。放っておくだけでもカネが入ってくる仕組みにしている。それからおれにヨガの本も売った(笑)。
パンカジさんの哲学の源泉はこの本。
ロバート・キヨサキの「金持ち父さん貧乏父さん」。「この人は日系米国人だから知っているよね?」
- 作者: ロバートキヨサキ,シャロン・レクター(公認会計士),白根美保子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2000/11/09
- メディア: 単行本
- 購入: 71人 クリック: 1,223回
- この商品を含むブログ (540件) を見る
パンカジさんはいまは賃料収入を得ているにすぎないが、今度は事業を興す段階を探っているらしい。自由になりたい、好きな風に生きたい、と考えると、自然と人のやることは似てくるかもしれない。