ぼく:在庫状況がわからない、どの商品がすぐれているかも、わからない。店員:在庫状況がわかる、どの商品がすぐれているかも、わかる。
![ヤバい経済学 [増補改訂版] ヤバい経済学 [増補改訂版]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51akOFFAMBL._SL160_.jpg)
- 作者: スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー,望月衛
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2007/04/27
- メディア: 単行本
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ブローカーが売り手と買い手を欺くインセンティブが存在する。この状況はさまざまな業界であることだと思う。
売り手が買い手に対して、最適なものを売ったとき、ブローカーが最適な取引を助けたとき、参加者がもっとも報われる仕組みがあるといいな、と思うわけだ。そうすると、売り手と買い手のインセンティブが反発しあわない。相手を泣かせることが自分の利益にならないのなら、普通の人はそうしない。
P I C S Y - Propagational Investment Currency SYstem - Project
■PICSYの基本原理
PICSYは、「その人がコミュニティに与えた貢献度に応じて貢献を受ける権利(購買力)を得るべきである」という互酬制原理とよぶ考え方に基づいています。互酬制原理をひとたび認めれば、あとは、「いかにしてその人がコミュニティに与えた貢献度を測るか」という問題と、「貢献度をいかにして購買力に結びつけるか」という問題に答えを与えればいいことになります。最初の問題については、行列計算とよばれる数学的な手法を用いて、「一瞬一瞬を均衡させる」ことによって解決します。次の問題については、貢献度に応じて高額のモノを買うことができる仕組みを用意します。互酬制原理は、「より公正な貨幣」を目指しています。そのためには、「価値が伝播する貨幣」でなくてはならないので、必然的にそれは「すべてが投資の貨幣」になってしまいます。
店員Aが、ぼくにとって最適なトレーニングシューズを提供することが「投資」となるような仕組みをPICSYは持っている。ぼくが素晴らしいトレーニングを積み、心身ともに健康になり、仕事で大成功すると、店員Aにも報酬が舞い込み、(アマゾン・ヤフオクのレビューみたいに)信頼性が高まって仕事がやりやすくなるなら、ぼくと店員は協調してシューズを選べたのだ。
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このPICSYには課題もあるかもしれない。
(1)テクニカルな部分は正直未知数。
どうやって開発し、どうやって実現するのかはよくわからない。また行列計算でその都度均衡させる、というのが実現可能なのか、も気になるので、広範な範囲に適用できるかもよくわからない。さらに「貢献」などの判定をどうやるのか。オーウェリアンが恐怖するような巨大権力がそれをやるのは、やっぱ怖い。相互的に互いを評価しあう仕組みをつかうのか。それこそ、フェイスブックで「いいね」をどれだけ集めたか、的なやり方でやるのか。
(2)少数の大勝と多数の大敗
スポーツ店員を例にすると、客に対し超最適な靴やらウェアやらを提供し、運動能力を40%UPさせて他の店員に差をつけているヤツがいると仮定する。みんなこいつから買いたがるようになるので、こいつはどんどん儲かり、信頼性を跳ね上がらせる。そいつはインターネットでスポーツ用品を売り始め、ものすごい数の客を一人でさばき始める。そんなヤツがひとりか、あるいは数人かでスポーツ用品店員業界を支配するようになるかもしれない。
――貧富の差の拡大の可能性は「なめらかな社会とその敵」でも触れられている。
それでも、この貨幣にこもっている思想は愉しいと思う。この世の中の難しい部分をより楽しくしていくことに繋がりそうだからだ。
PICSYでは、「投資」することが、奨励されている。目の前にいる人を騙して、短期的に利益を得るよりは、その人のためになることをして、長期的利益を築こうということだ。ゲーム理論においても、利他的な行動は利己的な行動のオプションとして存在する。つまり、荒っぽく言うと、利他的行動は合理的なのだ。
そう、利他的行動と長期的利益を考えることが、一番利己的に考えた時に「おいしい」ケースはまあまああるとぼくは信じている。だから他人に利益をわたし、未来に投資する(もちろん不合理な行動に裏切られ、ムカムカすることが連発するのだが)。
ただし人間は不合理な生き物なので、インセンティブ以外のスパイスも必要だなーと思う。フェイスブックのような閉鎖空間も一つの答え。宗教は伝統的かつ古くないやり方かもしれない。定期的に儀式をし、超越的な存在を信じることで、ヤバいことをしないよう抑制する部分がある。
でも、抑えたり、閉じたりするのとは違う方法はないのかなーー、と考えてしまう。