デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

AmazonとGoogleのコア事業が衝突:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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今週はGoogleWalmartの提携が最も大きなニュースだった。Google ExpressでWalmartの商品を注文し、発送されるようになった。デバイスはラップトップ、モバイルだけではなく、Google Homeを通じた音声での注文も可能になったという。

AmazonがWhole Foodsを買収しリアル小売に参入しており、敵の敵は味方の論理で、今回の協働に至ったと考えられている。Google ExpressはすでにCostcoなどを取り込んでいるが、GMV(総流通額)で大きなインパクトを出せていない。Walmartも自らのECを展開するものの、ECに関してはAmazonの支配力は本物だ。

Googleはコマーシャルハードウェアは余り得意ではない、というのが定説だが、物流などのとても泥臭い部分には知見はなく苦手そうな気がする。だからこそGoogle Expressに既存小売業者を載せる形態を採用しているだろう。

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収益規模ではWalmartAmazonを大きく突き放しているが、金融市場の評価ベースではAmazon時価総額4700億ドル)はウォルマート(同2400億ドル)の約2倍で、立場が逆転する。

購買行動の変化

今回の提携の興味深い点はGoogle Homeを利用してWalmartの商品を購買することが可能になることだ。音声デバイスを利用した購買がどの程度拡大するかは今後の状況を追うしかないが、音声での購買ではユーザーは少ない情報量で、購買の決断に至る可能性がある。特に日用品に関しては同じものを買い足していく可能性があり、スマートホームとの連携が高度化すれば、冷蔵庫の中のある製品が足りなくなってきたから購入するかと、パーソナルアシスタントが尋ねてきて、購買が終わる可能性もある。将来的には自動的に日用品の不足を補うスマートホームも考えられ、月定額で日用品を補充するサービスも検討されるだろう。

Voice Enable vs Serch

Googleはパーソナルアシスタントが普及した後の世界でどう収益源を探すのだろうか。検索広告はGoogleの収益の4割程度を占めていると推測される。

仮に購買行動が「すべてを音声で済ませる」方向に向かえば、検索後にスクリーン上で広告を見るプロセスは省略される。ボイスイネーブルとスマートホームや各種プロダクト / アプリケーションの連携はその方向性を帯びている。この流れはGoogleの主要な収益源の不安要因になりかねない。

一方でAmazonはコマースのバリューチェーンをがっちり握っておりユーザーは広告を見ようが見まいが関係がない。買ってもらえばそれでいい。音声認識によるコマースはAmazonに有利に働く可能性もある。

AmazonWhole Foods Marketのプライシングを28日から下げると明らかにしている。Whole Foodsの価格は高いと言われていた。Amazonがもつオンライン購買データやダイナミックプライシングなどのノウハウとミックスすることで、価格戦略を改善できるだろうか。ダイナミックプライシングは需給状況に応じて価格を変動させることによって需要の調整を図る手法であり、繁忙期の飛行機の値段などが上がるなどの例が最も有名だ。Amazonは、今後Amazon Prime会員のベネフィットを積みましていくと考えられる。

各地で狼煙が上がっている

GoogleAmazonの攻防はかなり熾烈になっている。Amazonは独自のモバイル、タブレット、OSを開発したが、市場は歓迎しなかった。Amazonが人々が高頻度で接触するデバイスやアプリケーションを持ちたいという欲求を叶えたのが、Amazon EchoでありAlexaだ。これらがスマートホームの時代にどれだけの価値を囲い込めるか。

また、今回のGoogleWalmart提携で小売での競争も激化し始めたが、AmazonGoogleの重要な収益源であるデジタル広告に厳しい攻勢をかけ始めている。AmazonのQ2のアーニングコールでは広告セールス部門の拡大が明言されていた。

Googleの巨大なデジタル広告の牙城の中で最も重要なのは検索広告で、ここは依然として競争相手を吹き飛ばしている状態が続くと考えられる。

ただし、ディスプレイ広告に関してはGoogleが買収したダブルクリックのエコシステムを育てた部分にAmazonがにじり寄っていると迫っていると考えていいだろう。もちろん、Googleはディスプレイ広告の重要な要素をがっちり固めていて、良い広告在庫は概ね自分らで扱える(他者はあんまり扱えない)状況を築いている。

ディスプレイ広告の景色を変えるか?

ここにAmazonはヘッダー入札という技術にテコを掛ける形で、広告在庫の流通を変えにかかっているのだ。ステークホルダーの多くがGoogleの支配力に不満を持っていると考えられるなか、Amazonが他者にどの程度のベネフィットをもたらすかが気になる。バイサイドのテクノロジーはすでに素晴らしく、ECに誘導する商品開発も興味深い。

しかし、Amazonは取引形態を変えていく欲望をもっていて、その結晶が「Transparent Ad Marketplace (TAM) 」だ。Googleが現行主導している取引形態とは以下が異なる。

  1. サーバーサイドでのソリューション提供によりクッキーのマッチングを改善できる、レイテンシの克服
  2. エクスチェンジが提示する「本当」の最高価格をとれる(?)
  3. ソフトウェアアズアサービス的な手数料形態の導入

Amazonの主張だけを聞いていると、かなりダブルクリックに優位な気がしてくるが、知らないことがたくさん潜んでいるのがアドテクの世界だ。

小売、広告とAmazonGoogleは両者のコアを攻めあっている。

 

 

 

 

 

 参照

 

https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-08-25/amazon-primes-whole-foods-for-more-visitors