デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

「ついにあなたの脳みそを支配するときが来た」と警官は言った

伊藤計劃の「ハーモニー」の映画版を観た。人間のステータスをすべて中央集権的な権力が支配している。ミシェル・フーコーが恐れた世界だ。最終的には意識をも支配する世界が訪れる。

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

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人間のこころを支配するという思想は広告も同じだ。ブランディングは意識よりも無意識に効いているという考えがある。「コカコーラは最高の飲み物だ」という刷り込みは、意識にのぼらない。"なんとなく"われわれはコカコーラ製品をレジに持っていく。

ニューロマーケティングとは、脳科学の立場から消費者の脳の反応を計測することで消費者心理や行動の仕組みを解明し、マーケティングに応用しようとする試みです。神経マーケティングとも呼ばれており、関連する分野としては、実験経済学の延長として予測や報酬について研究する神経経済学が挙げられます。 通常、消費者の意思決定プロセスはアンケート調査のように認識可能で、言葉で表現できる情報でしか捉えられていません。一方、感情の動きなどの無意識下の決定プロセスについて人は正確に語ることが出来ません。そこでこうした無意識のプロセスに迫るべく、ニューロマーケティングが注目を浴びています。(出典J-marketing.net)

ニューロマーケティングはまあまあ人間の自由な意思を否定している。この分野が画期的な進歩を遂げれば、従来的なマーケティングは死滅する。人は意思を持たず、導かれるままに、ものを買うようになる。マーケティングが少しばかり含んでいたロマンチシズムは消えてなくなり、純粋な人間マネージメントのためのテクノロジーになる。

欲望をつかって人間をコントロールできるというのは、クラブのフロアで往々にして感じられることだ。人は欲望をあらわす時を心待ちにしていて、そのトリガーをうまく引ける人―有名DJとか―がそれをすると、人々はいとも簡単に欲望を発露する。

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 steve aoki by Jared eberhardt

人間は「人間を支配する術」を急速に身につけつつある。そのノウハウが人間を支配する時代はそんなに遠くないかもしれない。でも、それで「愉しい」のか。

「支配」がキーワードだ。ただし、この権力の関係がかなりパフォーマンスが悪いことは世界史の教科書が最高の類例たちを紹介してくれる。学生時代には政治学を学んでいた身としては、政治学とは権力の運営において起きる、不埒な問題をできるかぎり抑制するものでもある。概ね人間は権力の行使が不得意だ。最悪のなかの最高が、民主主義ということになっている。

支配が正当化されるのは、従来的な社会においてだろう。

現代では支配は正当化されない。スキューバダイビングをすると海の中の素晴らしいエコシスムをみることができる。彼らは関係し合い、捕食し合い、助け合う。そんな非中央集権的な世界は夢幻の如く、ではない。

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支配をできるかぎり除外した、あるいは支配をやわらかくした方法があればいいと思う。それがコミュニティだと思う。そのコミュニティがどんな形になるかはよくわからない。支配は人々の無意識に刷り込まれた完璧な偏見だ。この偏見とうまく折り合いながら、新しい物をつくりたい。偏見を偏見と、マインドセットをマインドセットと、わかる、脳科学的バイアスから自由な人間はそんなに少なくない。

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ジム・ジャームッシュの「The Limits Of Control」はそういう意味で素晴らしい。

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買い物する脳―驚くべきニューロマーケティングの世界

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権力と支配 (講談社学術文庫)

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