デジタルエコノミー研究所

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"Monetizing Online Content: Digital Paywall Design and Configuration"を読んだ

Robert Rußell et al. の"Monetizing Online Content: Digital Paywall Design and Configuration"を読んだので、きになった部分の抜粋と感想を書いておこう。

抜粋

メディア企業のシステムアーキテクチャは、一般的にCMSCRMERP、Webサイトやアプリケーションで構成されている。CMSの中では、コンテンツの企画・制作・変更を行うエディトリアルシステム、コンテンツの保存・取得を行うコンテンツリポジトリシステム、コンテンツを様々な出力形式に変換する出版システムがある。CRMシステムは、過去の顧客データを文書化し、顧客との関係を管理する機能を提供する。最後に、メディア販売を統合したERPシステムでは、顧客データや取引データの管理・集約が可能だ。

アクセス制御管理(ACM)モジュールの主な機能は、ウェブサイト上の個々のユーザーを識別し(認証)、要求されたコンテンツへのアクセスを許可するかどうかを決定する(認証)ことです。最初に、ユーザは、ウェブサイト上の特定のコンテンツ単位へのアクセスを要求する。ACMモジュールは、クッキーまたはJavaScriptのような技術を使用して、利用可能な多数の識別パラメータを収集することにより、個々のユーザを追跡し、識別する(Papadopoulos et al. 2019)。ユーザーがコンテンツにアクセスする資格がある場合、サーバーがコンテンツページを配信し、アクセスが許可される。そうでなければ、ACMモジュールは、ユーザの資格情報を検証するために、ユーザをログインページに誘導する。検証が成功した場合、許可されたユーザーは要求されたコンテンツにアクセスすることができる。しかし、検証が成功しなかった場合、ACM モジュールは、ユーザーが認証されるまで、要求されたコンテンツへのアクセスをブロックする。

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図1. Paywall System

サブスクリプション&アクセスポリシー管理(SAPM)モジュールは、アクセス制限と価格設定ルールを設定することで、ACMモジュールの運用を管理する。特定のコンテンツユニットへのアクセスを制限したい場合は、CMSへのインターフェースが必要。アクセス制限と価格設定のルールは、人間によって調整されてもよいし、様々なデータソースに基づいたアルゴリズムによって自動化されてもよい。したがって、コンテンツ・プロバイダーのアクセス可能なデータ・ソースへのインターフェースが、ルールを定義し、その後に関連情報をACMに提供するために必要とされる。支払インターフェースは、SAPMの一般的に統合されたサブモジュールであり、異なる支払方法や支払サービスプロバイダへのリンクを提供する。支払いインターフェースは、CRM システムや ERP システムと購読者データやトランザクションデータを交換する。

ペイウォールと機械学習

デジタルペイウォールシステムの機能は、様々なデータポイントに基づいてソリューションの設定パラメータを調整し、組み合わせることで強化することが可能である。これにより、デジタル・ペイウォールを利用することで、コンテンツ・プロバイダーは、(1) ウェブサイト上での利用者の行動に応じてアクセス制限や価格設定を個別に設定することができ、(2) 特定のコンテンツを無料コンテンツか有料コンテンツかの分類体系を改善することができる。

具体的には、MLでは、ユーザの行動データの時間的なパターンを認識することで、アクセス制限や価格設定のルールを変化させることができる。MLモデルは、まず過去のデータを用いて学習する必要がある。そこで、ある反応(例えば、ユーザーのコンバージョン)を示すオブジェクト(例えば、ユーザー、コンテンツ単位)と、反応を示さないオブジェクトとの間のデータパターンの違いを学習する。これらのパターンに基づいて、モデルは、特定のユーザに最適なペイウォールの構成を決定することができる。ペイウォールとユーザーの相互作用は、ペイウォール構成を継続的に改善するための基礎となる。

データ分析の能力とは別に、デジタル・ペイウォール構成を最適化するために ML を使用するための基本的な要件は、匿名の訪問者データ、登録ユーザーや顧客からのパーソナライズされたデータ、コンテンツ・データ、追加のコンテクスト・データなど、様々なデータ・ストリームを抽出して同期化するための強固なデータ・インフラストラクチャである。

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図2. データの抽出と保存からモデルのトレーニング、適応型デジタルペイウォールまでのワークフローを定型化したものだ。

静的なペイウォールをアルゴリズムが設定するダイナミックペイウォール(あるいはAdaptive Paywall)に変換するためのMLの3つの応用について説明する。

  • 第1に、コンテンツプロバイダは、行動データ(例えば、訪問頻度や訪問頻度)に基づいて、ユーザのコンバージョン確率スコアをモデル化することができる。このモデルは、(個々の)ユーザーのコンテンツ消費とコンバージョンパターンを学習し、ペイウォールソリューションの構成(例えば、無料コンテンツ単位の量)を動的に適応させる。
  • 第2に、コンテンツプロバイダは、MLモデルを使用して、どのコンテンツが無料コンテンツまたは有料コンテンツとして最も適しているかを識別することができる。コンテンツ価値スコアは、コンテンツのテーマなどのコンテンツ関連のメトリクスと、粘着性(ユーザーが特定のコンテンツを読む時間)などの利用関連のメトリクスによって予測することができる。このモデルは、コンバージョンを促進するコンテンツを特定し、それに応じて分類することができる。
  • 第3に、ペイウォールシステムは、コンテンツの分類とペイウォールソリューションの設定の個別化を同時に最適化することができる。さらに、コンテンツプロバイダーは、MLアルゴリズムに時間帯や外部イベント(選挙など)などの文脈に沿ったデータを与えることができる。その結果、動的に調整されたデジタル・ペイウォール・ソリューションが実現し、個々のユーザーやセグメントに対して異なる(無料と有料の)コンテンツを提示することが可能になる。

感想

  • この論文では、CMSCRMと表現されているが、これらはすべてクラウド上で再現することができる。弊社で採用する際には自ら開発しておこう。
  • コンバージョン確率スコアを設計するのが、ダイナミックペイウォールを作る際の最もシンプルなやり方だと思う。他にもユーザーの効用とコストを推定し、ペイウォールを逐次決定過程問題として捉える手法もある。

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