デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

WELQのくそハックはコンテンツ流通に季節の変わり目が来たしるし

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WELQの件はコンピュータが意味的(セマンティック)な部分を理解できるか、という部分が問われている気がします。現状はそのコンテンツが正しいかどうかを読めない。Googleは騙されました。

少し前にGoogle翻訳ニューラルネットワークが、英日、英韓の相互翻訳をマスターしたら、ひとりでに日韓の相互翻訳もできるようになり、もしかして、セマンティックな部分まで理解し始めたんかいな、と話題になりました。

だから、意味の理解が進むとGoogleが「この記事クソだな」と「考えて」、マズいものの検索結果を下方に落とすことができるかもしれません。もしかしたら、悪い記事が排除され、いい記事だけに出会えるようになるかもしれません。

何を持って良いとするか

しかし、ここで問題があります。記事の質の評価をどう下せばいいのでしょうか。世界には多様な考えがあり、どれが一番優れているかを判別する方法はありません。多様性と確実性がトレードオフなっています。

ちょっとSFじみてますが、数十年後にすごい機械知能が現れて、いまの司法が担っている役割をテイクオーバーできたらいいかもしれません。エヴァンゲリオンに出てくるマギコンピュータみたいな感じでしょうか。コンテンツディストリビューション専用のそれがあって、情報爆発の面倒を見て、いい情報に会いやすくする。Embed Intelligenceやパーソナルアシスタントがそういう役割を担うことになるかもしれません。

情報は偏在している

ただし、現状の機械知能は「考える」という部分に達していないことに留意したいです。人間が設定した課題、問に対して答えを出す存在でして、不確実性が増えると効果的ではなくなります。

社会がWELQが悪質だと判断できたのは「肩こりが霊の仕業」というような異常値を優れたライターたちが検知したところが発端です。そこから、コピペなどの著作権の問題や富岡製糸場のような製作体制などのインモラル性が分かってきて、これは問題だ、となっています。いわゆる倫理を持って、WELQに厳しいジャッジを下したわけです。

これはGoogleが手を下さない部分です。人間社会では情報は驚くほど偏在しています。隠されたり、埋もれたりしているそれを見つけるのは、伝統的かつ効果的な情報産業の手法だと思います。週刊文春です。

それでも、少しずつ、機械知能がセマンティックな部分を理解するときに備えないといけません。機械知能が情報を拾い出して、組み合わせてわれわれに提供するときはそんな遠くありません。


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機械はメディア産業のマニュアルレイバーの一部を自動化できます。そこで働く人の能力を拡張できます。人によっては成果を数倍、数十倍に拡張できます。

これはメディア人の仕事を高度化させていくことになります。情報の収集だったり選定の部分を機械化し、その上でメタの情報を生み出すことにニーズが生じると思います。やっぱりぼくたちも機械知能を操れないといけない。

Googleは評判に基づくオーサーランクを導入し、被リンクを外すと2014年に言っていたようです。その方針が貫かれていたとしたら、今回のは抜け穴を作られたと言うことでしょう。

インターネットはロングテールを許容します。それは古い世界では起き得ないことで画期的です。ただし、概してロングテールは玉石混交の度合いが大きいです。今回のWELQは石の部分が玉を完全に圧倒した例だと思います。いわゆる「悪貨が良貨」を駆逐するということです。

くそハックから新しいハックを

しかし、WELQのGoogleくそハックはかなり学ぶことが多いです。WELQのような労働集約性とクリエイティビティのない記事製作方法がメインストリームをとっていたら、人々はどんどん賢くなくなっていくと思います。なぜ、こういう記事が人気を集めるに至ったのかは、いわゆる鶏と卵です。でも、メディアと教育を現代化できれば、現状の問題は解決できるのではないかと思うのです。

先の記事で、オーサーランクはレピュテーションに基づいてつくられると説明されています。大きすぎず小さすぎないニッチな空間では、レピュテーションはワークすると信じています。現状のシステムをいい方向にハックすればいいだけです。生まれるものは、たぶんもうメディアと呼ぶべきものではないだろうなと思いますが。

新しいコンテンツ流通に沿う新しいメーカーが生まれる季節が来たかもしれません。

photo by pixabay