ものすごい取材が重なり、テープ起こしする時間がない。いつも自分で人力でテープ起こししてきたけど、もの凄い労働集約的でスケーラビリティがないことは前から分かっていた。この単純作業から人類を解放すべく、さまざまな音声認識の手段にトライしてきたが、まだうまくいかない。
そこで気づいたのは、われわれはさまざまな音の中から、ノイズを排除して人の声に集中している。そういう機能を持っている。これが、Listen(聴く)。まだコンピュータはこれがうまくできない。
渋谷のハチ公前交差点でふっと息をして、意識をどこにも集中させないようにすると、余りにも多くのサウンドに囲まれていることが分かる。眼球の緊張を緩めてぼうっとすると膨大な物理的個体たちに囲まれていることが分かる。そして都市の中で巨大な情報に常に触れていることを思い出させてくれる。
意識は狭いポイントに集中し、必要ないと判断された情報を排除しているのだ。
耳自体がサウンドのすべてを受けいれていることがHear(聞く)だ。聞くことにより、ぼくたちが常にノイズの海の中にいることがわかる。
リアルタイムで聞いたもののノイズを取り、音声としてクリアにする。さらに意味体系と照らして、相手の言うことの意味を受け取る。これによりコミュニケーションを繰り返す。人間の脳みそはとても優秀だ。今のところソフトウェアはそこまで行っていない。
音と空間の強烈な関係と、意識の箱の感じ方
大学時代、サウンドアートにハマった。池田亮二、カールステン・ニコライ、アルヴァ・ノト。彼らの作品は音響という観点と、音楽だけでなく空間のデザインにも染み渡っていた。
とてもシンプルな、シンセの最低単位というべき音により、音と空間が密接につながっていることに気づかせてくれる。そうListenとHearの関係は、空間に関する部分が大きい。有名な「4分33秒」は4分33秒間何の演奏もされない。我々はコンサートホールでいつもひとつの音楽に聴力を集中させるという異様なことをやっていることがわかる。
ブライアン・イーノが提唱した「アンビエント・ミュージック」。これも聴くことは必要なく、サウンドとしてわれわれのまわりにあることを目的に造られた人工的なノイズだ。
聴く(Listen)ということはインナーワールドと関係している。聞く(Hear)ということはアウターワールドとつながる(Connect)ことを示している。つながることにより人は自分をどんどん拡張できるんだと思う。その拡張した先が皆が混ざり合い融け合うことだというのが、(もしかしたら)エヴァンゲリオンが意味するものだったけど、ぼくはそんな宗教的ではない。もっと自然界に存在するような形、分散・自律したものたちがつながりあい、エコシステムを作り上げていく形になるはずだ。
この聴く/聞くという仕組みを比べるだけで、われわれの意識/思考は常に箱の中に閉じ込められていることが立証される。聞く(Hear)ことで自分の意識やバイアスの作用を意識する機会を得られる。自分が世界に対して小さい存在であることを理解できる。そして時にはドラマティックな意識の収縮に身を任せて、思いっきり興奮してみたい。
(以下学生時代に読んだ参考文献)
テクノ/ロジカル/音楽論 シュトックハウゼンから音響派まで 佐々木敦著
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「4分33秒」論 ──「音楽」とは何か (ele-king books)
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