データで見ると錦織は大差勝ちじゃない?
錦織圭は今日ロジャース杯モントリオールで元世界1位のラファエル・ナダルを「圧倒」しました。2セットを立て続けにとりストレート勝ち。「ナダルは全盛期の力を失った」などと評する声もあります。
じゃあデータで見てみましょう。下のStatsはオンラインベッティングサイト「netbet」から引用しました。お金を賭ける人は真剣にデータを見るんでしょうね。
6-2、6-4で「横綱相撲」に見えますが、総ポイント数でみると、59−47で錦織がナダルの1.25倍のポイントを収めたにすぎません。
ブレークポイント奪取(相手のサービスゲームを奪取するポイント獲得)「break point won」を見ると、ナダルにもブレークポイントは3回訪れています。ただ、彼はそのうちの1回のみ、獲得したにすぎません。錦織は逆に4回中4回モノにしています。
サーブを交互に打ち、4ポイント先取制のゲームを繰り返すというテニスの独特なルール。そこで最も決定的な部分(ブレークポイント獲得)で錦織は相手に差をつけたと考えられます。
「微差が結果の大きな差を生んだ」とも言えるでしょう。この場合は、ある程度勝敗に関与した数値が、特定できました。
たくさん得点しても勝ちとは限らない
でも毎度毎度そういうわけには行きません。
今度は世界1位ジョコビッチと5位スタン・ワウリンカによる全豪OP準決勝のデータを見てみましょう。総ポイント数ではジョコビッチは161でワウリンカの153を凌いでいます。ファーストサービス成功率も、15%ジョコビッチが上回り、他の指標も拮抗しています。
しかし、5セットに及ぶ激戦を制したのはワウリンカです。何が勝敗に強く関与したのかよく分かりません。何がどう作用したのかも、このスタッツからは計り知れません。複雑怪奇ですが、常に勝敗がどちらかに下るようにルールがつくられている、それがテニスです。
野球もどうもなんだか不可思議だ
この前は神宮球場で野球を観ました。夏の夜の屋外野球観戦は素晴らしく、5回裏には花火が上がり、私と友人はビールをたくさん飲んでしまいました。ただ、少し気になったのは、私が応援するヤクルトは安打14本とたくさん打ったのにも関わらず、得点は6点にとどまりました。残塁が多かったということです。
Watching baseball game, at jingu atadium, tokyo
<安打は必ずしも結果につながりません。四死球を含めた「出塁率」を重視する傾向が、浸透しています。そのはしりがデータで野球に迫ろうという「セイバーメトリクス」です。ブラピ主演で映画化もされた「マネーボール」。低予算の弱小チームをセイバーメトリクスで強化していく様子を描いていて、面白いです。
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でも結局、何がどう勝敗に影響しているのか、「完璧な地図」を手に入れることは難しいようです。それはリーグ戦の一覧表が明らかにしてくれています。
(出典スポーツNAVI)
1位・阪神と最下位・中日の得点から防御率までの数字を見比べて下さい。 おおむね最下位の中日の方が数字が優れています。しかし、阪神が勝率0.533、中日が勝率0.419と大差がついています。何がこの結果をもたらしているのか、やはり、よく分かりません。中日はうまくやっているはずなんですが。
うーむ、複雑ですねえ……野球も。
将棋—結果とプロセスの相関を理解するのは難しい
最後は将棋。これもまた複雑怪奇なゲームです。
今年8月5、6日に指された第56期王位戦七番勝負第3局、羽生対広瀬は、棋譜ログによると、序盤から中盤にねじり合い(主導権をとるための駆け引きすること)を繰り替えし、羽生が優勢を築いたのですが、いつの間にか、広瀬が勝ちを手にしたのです。
将棋の場合一手ごとに80くらいの選択肢があり、ほぼ無限の世界を棋士は彷徨しています。もし羽生と広瀬レベルの選ばれた棋士が、拮抗した闘いを繰り広げたならば、最終的に得られた結果を説明することはほとんど、不可能です。
対局後の会見では二人はこういいました。
広瀬「5六の銀を取られて、あそこはハッキリダメだと思いました」
羽生「ずっと自信がないです」「終盤の入口辺りは難しくなったと思ったのですが、読みきれなかったです」
実力者をもってしても分からないようです。なんて難解なんでしょうか。
結論:分からないんだったら、むしろがむしゃらに
テニス、野球、将棋に限っても、勝敗を決するプロセスは謎だらけです。結果がどう導きだされているのか、さっぱり分かりません。そもそも勝ち負けにこだわらなくてもいいのかもしれません。それは人が納得できるために存在するだけですから。
だから自分が何かをしていて、それがうまくいかなくても、落ち込まなくていいかもしれません。決定的なミスをおかさなければ、その「負け」の理由を説明することすらできないんですから。
逆に何かをうまくやり遂げたとしても、鼻持ちならないビジネス自叙伝とか出版しないでください。たぶん、それはおおむね偶然だと思います。
人は分からないことを「物語」にはめてとらえるのが大好きです。物語は美しくて映画館で見るのに最適ですが、真実ではありません。私は、断片的な情報ですべてをとらえないよう心がけたいと思います。そして何事も分からないのだから、どんな結果にも諦めずに試行錯誤を続けていくしかないと思っています。