デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

高成績・低ランクな人を作らない評価体系とは?

テニスのATPランキングは非常に「明確」な仕組みをしています。プレイヤーがどれだけトーナメントを勝ち抜いたかが重要であり、対戦相手は考慮されません。新人が組み合わせに恵まれてトーナメントでベスト4を連発すればランクはぐいぐい上がっていきます。

デル・ポトロ問題

しかし、このシンプルなレーティングは対戦相手の有利不利を全く考慮に入れません。これを「デル・ポトロ問題」と呼びましょう。アルゼンチン人テニスプレイヤーのフアン・マルティン・デル・ポトロは2017年6月27日現在、ATPランキング31位です。彼は2009年に当時世界最強だったロジャー・フェデラーを破って全米オープンを倒した実績があり、その後も上位ランカーにコンスタントに勝ち続けています。しかし、ケガが多いので参加トーナメント数が物を言う現在の仕組みでは評価は低いのです。

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Via WIkimedia Commons

これを対戦相手の強さをもとにスコアを与えるElo Ratingで測ると彼は世界5位です。このレイティングの方が彼のようなタイプを評価できます。錦織圭も6位に上がります。とても興味深い結果となりました。

では、これを一般的な日本企業に応用してみましょう。よくあるストーリーを組み立ててみました。

簡単な問題を優雅に解くA君

皆が理解できる簡単な問題を見つけて説くのが大好きなA君がいます。A君はセルフブランディングが上手です。大したことのない問題を、大げさに困難を乗り越えたふうに見せることが上手です。A君は他の人が同じような簡単な問題を格好つけて解くのを見つけると、その人にプレッシャーをかけて皆の前で失敗させます。評価は相対的なものですから、それがA君の利益にかなっています。

A君は多くの人の関与により成功した仕事において、自分の貢献が最大だったという評価をつくることにも精を出します。彼は周りの人たちに「デキる人」という評価を刷り込むために、仕事をする以上の時間を割くのです。先輩や後輩と飲みにいって静かにシグナリングを繰り返します。経験不足の一部の人はその偽情報につかまり、A君をヒーローのように崇めます。

難しい問題を静かに解くB君

一方難しい問題を解くB君がいます。B君は難しい問題を解くためにいつも四苦八苦していますが、表面上静かにそれをクリアします。難しい問題はタフなので、一喜一憂したり演技をしたりしていては全然解けません。そもそも彼が解いている問題の難しさを理解する人がまわりにはいません。彼はそれをまわりに説明する時間が惜しいとすら考えます。B君が難しい問題を解いたことが、大きな要因としてもたらした成果は、A君のようなタイプの手柄として記憶されます。B君は自分が出した成果のほとんどを報酬への還元として楽しみません。

成果と関係のないクジャクの羽

ということで、組織がレーティングを誤った形で進めていくと、皆が皆「クジャクの羽」をきれいに見せることに精を出します。クジャクの羽は生存競争そのものにおいて、獲物に狙われやすくなるというディスアドバンテージしかありません。しかし、クジャクのメスはオスの「羽」を評価しますので、クジャクのオスは本質と関係のない場所に一番リソースを割きます。馬鹿げた状況ですが、これはあらゆる組織で起きていることではないでしょうか。

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クジャクのオス・メスと人間の男女は対応しません。私は性差別主義者ではありません!Via Pixabay

こういうことが起きると組織からは難しい問題を解く人がいなくなり、A君のようなタイプやA君のような人と仕事をしていて心地いいタイプばかりになり、評価のハックに精力を注ぐモラルハザードが蔓延します。結果として組織は著しくパフォーマンスを失っていきます。

偽物をどう定義するか

B君とデル・ポトロは本当に似ています。A君のような偽物を発見し、どう低く評価するかも重要です。私たちが組織の中で下す評価はときに誤っています。誤っていても皆が納得している「説明」と、複雑だけど合理性はある数理のどちらを採用するべきでしょうか。悩ましいですが、前者でないことは確かです。