デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

シェアリングエコノミーはジョン・レノンの「Power to the People」

初めてUberを利用したのは中国・成都(チェンドゥ)でのことだ。中国人の友人のコンドミニアムにお邪魔していた。成都は地下鉄があるが、網状に発達しているわけではなく、バスもあまり便利ではない。他の中国の大都市と同様、最大5車線程度の太い格子状の道路を乗用車で行き来するのが一番便利な方法だった。

Uberの運転提供者たちはすべからく日本人のぼくに興味を示し、ぼくたちはたどたどしい英語でしゃべった。彼らは村上春樹か宮﨑駿のどちらかが好きなケースが多かった(この2人には中国旅行中本当に助けられた)。Uberはライドシェアのプロセスがかなり明確なので、ぼくは運賃の交渉のようなことに気を取られる必要がなかった。ただ彼らは目的地につくと、素早い動作で降りることを要求した。

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彼らは車を買った際の債務返済のためにUberでのライドシェアをしていると話していた。 UberAirbnbは、シェアリングエコノミーという言葉でくくられるようになっている。ぼくはこれがすごく面白いと思う。なぜなら、シェアリングエコノミーは社会リソースの分配を最適化するチャレンジ(資源の最適化)だし、20世紀の大量生産・大量消費社会が生み出した人間の固定観念(=文化)を取り外す素晴らしい入り口のように思えるからだ。

1.経済学の再定義、あるいは解体

現在のマクロ経済学がすべてを明らかにしていないことは確かだ。今年1月、ダボス会議に出席した経済学者たちは、測り方を進化させるべきだと主張した。GDPのような様々な指標は「測り方」によってどうにでもなる。そもそもGDPで測るのが正しかったんだっけという話もある。

GDPのもつパースペクティブ自体が時代にそぐわない可能性すらある。GDPはわれわれがあらゆる資産を生産/消費していることを評価する。だが、乗用車が駐車場で四六時中寝ている非効率性を責めない。それを購入し、駐車場代や車検代を払うことを褒め称える。 現在の経済秩序は国家とは切っても切り離せない。だけど、いまは個人の時代である(これからもっとそうなる)。

UberAirbnbもC2C(個人間のやりとり)が起点だ。個人間のやりとりを経済学は測っていない。それからフリーミアム的なものも測定できていない。例えば、音楽コンテンツをただで手に入れられる時代になったが、これによりぼくたちは、さまざまなアーティストに出会えたり、色々選んだ末にライブに行ったり、と面白くなった。でも測れていない。

公共財」の提供に関しては経済学はかなり苦しんでいた。公共財にはフリーライダーがつきものだったり、公共財の恩恵が一部に偏ったりする。 政府が公共財の提供者になるが、一部の公共財の提供プロセスは政治家、官僚、各種業者の懐を膨らます装置になっている。現状のまま成功しているモノはそうだが、改善の余地のある公共財は再定義しよう。

「共有財」がいい気がする。みんなで利用するものを共有している。そのコストはみんなで払っている。そこに権力関係という無用なものはもちろん生じない。 シェアリングエコノミーはクラウドベースエコノミーとも呼ばれる。クラウドから自分の必要な分だけそれを利用できることは、所有から利用への移行である。

AWSは格好の例だ。AWSはスタートアップの起業を簡単にした。失敗のコストは目を見張るほど小さくなっている。シェアリングエコノミーの拡大は、同様のことが様々な領域に広がっていくことを示している。

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AWS的なものがあらゆる領域に拡大していくと、インターネット産業以外でも、マイクロアントレプレナーが無数に増えていくことが考えられる。経営に必要な資源をすべて「利用」ベースで安価に融通することができる。 自分の評判(Reputation)により協力を呼びかけることで、労使関係ではない関係、パートナーシップで仕事をするようになる。収益の分配に関しては自動的に執行されるコントラクトを活用するといいよね。

アグレッシブな予測によると、2020年には「労働者」(この言葉も見直しが必要になるだろう)の40%が契約ベースで働くようになっている。この時代に向けて労働関係の法規や、賃金の慣習などを変えないといけない。正社員もフリーも皆同じ土俵で稼げるようにしないといけない。ここに社会階層をつくろうとするのは20世紀的だと思う。それからベーシックインカムも整備していくことで、人の働き方は変わるし、生き方も変わる。

3.リソースの活用を最適化する

これはシェアリングエコノミーという言葉に含まれているかどうか定かではないが、シェアリングエコノミー関連のプロジェクトの多くには「資源配分の最適化」の意味合いがある。 ぼくたちの社会はロスばかりを抱えている。駐車場で眠るクルマ、クローゼットで眠るバッグ、人々にたどり着かず捨てられる多量の食品…。 f:id:taxi-yoshida:20161009201953p:plain

青丸=消費者に届く前に捨てられる食品、オレンジ丸=消費者自身により捨てられる食品(Table : Via FAO)

シェアとは資源配分の最適化は似た文脈がある。自分一人で抱えていては価値が最大化しないモノの利用権をオープンにすることだ。消費させることに血眼になっているけど、大量消費は、大量生産が生まれたから、生まれた。大量生産は悪いことじゃない。大量生産のおかげでコストは下がっている。

でも、もっと最適化された生産、最適化されたデリバーリング、最適化された消費があるならそれのほうがいい。大量消費の本質は「欲しいものが欲しいわ」だから、人々にとっては、それが最高じゃないだろう。リーマンショック以降の日本やアメリカの若者の消費性向はとっくにそれを示している。

3Dプリンタなどのパーソナルな生産機器が進歩すると、皆ほしいものを自分でつくる方が楽しい。コネクティビティは生産までパーソナライズする。仮に3DプリンタにまでAIが絡むようになるなら、どんどんパーソナライズしていくだろう。 つまり、一人ひとり違う人間に対して、パーソナライズされたサービスを渡すことで、リソースを最適化できる。事業者サイドは定額制のような収益化方法で、持続可能性が担保されればいいのだ。

4.所有の「苦しみ」からの解放

所有はときに人々を資源をうまく活用できない苦しみに陥れる。私の両親も一生の短くない時間をマンションのローンの返却に割いた。その期間、彼らは変化することができなくなった。

これほど大きい変化が連続的に起きる時代には、もちろん自らのあり方を変え続けていかなければならない。というか、元来世界とはそういうものだ。1945年の前と後ろで日本は決定的に異なっている。日本に住んでいた人はそれに対応した。ナショナルジオグラフィックの番組をみていると環境の変化に常に対応する生き物たちをみることができるだろう。所有はときにそういう力を奪いかねない。

あるソフトウェアのライセンスを購入するとしよう。しかもそのソフトウェアはバージョンアップを繰り返すので、定期的に買い替え圧力にさらされる。買い手にもかかわらず、一度買ってしまうとかなり不利な立場に追い込まれる。所有があなたの立場を難しくするのだ。

日本でiPhoneを大手キャリアとの契約込みで購入するのもシビアだ。個体に対する代金とともに2年間の契約が確定する。Simフリーなら数分の一で済むのだが、談合状態のプライスに同意したことになる。iPhoneの能力自体も他がとっくにキャッチアップしている。中国には300〜400ドル程度でiPhoneの最新機種のスペックを表現するブランドが存在する。

iPhoneサブスクリプションモデルで利用できるのならば、それのほうがいいよね。月30ドル〜40ドル通信料にプラスで払う。好ましいなら使えばいいし、その人は年間360ドル〜480ドル払うので、2年使うと適正と思える個体価格の水準には達する。途中で契約はやめられる。気に入らないならファーウェイやシャオミーにしちゃえばいい。

5. 非中央集権化する

基本的にはエコノミーがC2Cに落ちていく。これはステークホルダーの粒が細かくなることを意味している。政府がこれらのすべてを把握し、直接レギュレーションを適用するようにはならない。政府のガイドラインにそってプラットフォームがさまざまなレギュレーションを執行するという方法が考えられる。

中央集権的なガバナンスがフィットしなくなる可能性が高い。すでに為政者による規制が、規制の罠に陥るケースは少なくない。おそらく大雑把すぎる。権力が「こうしろ!」としたり、見せしめで誰かを引っ張ったりするのは、本来の課題の解決にあまり効果を発しないことが多い。世界は目もくらむほど複雑で、杓子定規を適用しても、あまり意味がない。

結論:Power to the People

シェアリングエコノミーは個人をエンパワーするものだ(Power to the People)。

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個人がインターネットの力を借りて、シェアをすることで、それぞれが考える本当の価値を実現する機会が与えられる(それをうまく活かせるかはその人次第だ)。

その時代に適したガバナンスが必要になるが、非中央集権的な方がワークするはずだ(ガバナンスとは別の言葉を見つけないといけない)。メルカリの記事に書いたように、シェアリングエコノミーの世界では、標準化された評判システムが大事だと思う。これについては今度まとめよう。似たようなことはこのスライドでも触れている。ぜひ読んでほしい。