自分の常識の外にある新しい世界を常に獲得する:映画『メッセンジャー』感想
映画『メッセンジャー(原題Arrival)』を観賞しました。本筋とは異なりますが「異なる言語を習得することは、新しい世界を獲得すること」に類するセリフがあり感動しました。拙い英語と冗長なインドネシア語を話すぼくは、そのふたつの習得の過程で自分が変わるのを感じたからです。
知識量により人間は見える風景が変わっていくと思います。それは単純にいい点だけがあるかというと、そうでもなく悪い点もあるはずです。
羽生善治三冠は七冠王になった後にスランプに陥りました。知識量が増えすぎたせいで踏み込めなくなったと語っていたと思います。知識をヤフー検索のようにディレクトリ型で溜め込んでいくのは望ましくないはずです。暗記マシンの価値は急落しています。だから知識が増えていくことで現れる悪さをいい感じに和らげながら生涯学習を続けて行けばいいと思います。ガラクタモデルでストップしている大人にはなりたくないのです。
戦略性と対話
映画では突如来訪した異星人に敵対的なアプローチをとる軍人と、相手を知ろうとする言語学者の主人公が対比的に描かれています。
中国の軍人が麻雀牌でコミュニケーションを取ろうとしていることを知った彼女は、麻雀の敵対する四者間のゼロサムゲームという特性から、異星人と中国の関係が敵対、妥協だけの関係に落とし込まれると指摘します。主人公は異星人とゆっくりとお互いの言語を交換し、コミュニケーションを築いて彼らの意図を知ることになります。これも心を打たれました。
DIGIDAYの私の記事を読めばわかりますが、ビジネス上の戦略をテーマにしたものやプレイヤー間の戦略をめぐるインサイトなどがテーマです。記事だけでなくあらゆる局面で私は戦略性に絡まれています。人間は不必要なほどに戦略性をもった関係を築きます。そして遺伝子が生まれもった利己的な特性や、その利己的な特性を増長する組織やシステムのあり方のせいで、ときに不快な存在です。だからこそ彼女の対話のアプローチが素晴らしいと思いました。
定期的に当然を覆す
彼女は異星人たちが持つ、人間とは完璧に異なる時間の感覚を手に入れます。彼女はつながっている時間として、人間が未来と考えている光景を体感することができます。異星人という人間ではない存在を置くことで、私たちが当然と思っていることが覆りそうになる、そういう体験こそ知識量の増加をポジティブに活かすためのコツではないでしょうか。