デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

スタートアップの必読書『Founders at Work』

スタートアップに関する本は、自己啓発本に似ていたり、ない中身をマーケティングハイプでもりもりにしたりしているので、読まないほうがいい。英語で検索できて読めるなら、間違いなくWebがいいだろう。だけど、少ない例外に今日出くわしてしまったのである。

『Founders at Work 33のスタートアップストーリー』は必読書である。少し古いけれど、日本のスタートアップエコシステムは数周遅れなわけだし、勇者たちの冒険の記録はいつだって参考になるものだ。PayPalの共同創業者マックス・レプチン、Appleの立役者スティーブ・ウォズニアック、Exiciteのジョー・クラウスなど最高のメンツが後に巨大企業に変身する草創期について語っている。インタビューするのが、Yコンビネーターのポール・グレアムの夫人である、ジェシカ・リビングストンで、素晴らしいジャーナリズムを発揮してくれている(不倫を暴くとか政府の広報をするみたいなのとは別ジャンル)。

Founders at Work 33のスタートアップストーリー

Founders at Work 33のスタートアップストーリー

 

成功する起業家の特徴がわかったなどというわけじゃないが、何をするべきか、どんな時間を過ごすことになるか、どんな落とし穴があるか、何が問題を引き起こすか、などの参考情報を知ることができた。まあ情報が少なくとても不確実な世界だから、ダンジョンをクリアした人の話を分解していくといろいろわかる。『トルネコの大冒険』よろしく、ダンジョンは動的に変化しているから、それをそのまま応用できるわけではないけれども。

エヴァン・ウィリアムズはぼくが好きな起業家の一人だが、自分以外を全員レイオフして、友人関係をぶち壊しにして、ブロガーの開発にとどまって全部自分で開発してしまったところなど、なかなか尋常じゃない判断をするものだなと感じる。彼はその後Twitterに生命力を授けたり、Mediumを作ったりとデジタルパブリッシングに貢献を続けている。Mediumでも、エヴはフェイクニュース問題が大きくなるにつれて広告モデルを捨て、広告関連のスタッフを全員レイオフしてサブスクリプションモデルにシフトした。

話を聞いているともっと器用にやればいいのに、と感じるけれど、自分も結局たくさんの人にプロジェクトから去ってもらって、今は一人でやっていて、友人の評価としては、エヴと同じような「変人」の称号をもらっている。でも、プレイヤーになるとわかるが、その時々にエクストリームと考えられる判断を即座に下すような奴にこそ、生き残るチャンスが微笑んだりする。

昨日からEpicのTim Sweeneyのことが気になり、インタビューを読んでいるが、この人はとても頭がいいし、未来が見えている気がするし、何よりも自分の信条に合致するならばエクストリームな判断をかんたんに下してしまうところがある。

他の成功した起業家にもこの傾向を持つ人はたくさんいる。普通な人は早い段階で淘汰の網にかかるのかもしれない。あるいはただの生存バイアスかもしれないけれども。

ダンジョンは生半可ではない

もう一つ気になることがある。それはダンジョンでは落とし穴にも気をつけないといけないことだ。本書で赤裸々に語られる経験談には学ぶことが多い。なるほど、資金調達と謎のトークくらいしか行わない起業家が、この東京シティにひしめいているのには、こういうバックグラウンドがあるんだな、と知識を深くしたのは大きな収穫だ。専業のポーカープレイヤーとプロダクトをつくる兼業のポーカープレイヤーの試合では、専業の旗色が良さそうだ。だからしっかり準備をしないといけないようだ。この状況は、スタートアップという資本パンプの場から世界を変えられる可能性がある人を遠ざけ、自分はそうだ、と偽るいかさま師を招いている気がする。そう、しっかり準備をしないといけないようだ。