デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

【旅行記】大陸と島の間で(香港・台湾・中国)

f:id:taxi-yoshida:20150410231242j:plain

#1香港人と大陸人

 今日は深センに行きました。滞在する香港の目と鼻の先です。一国二制度でちょと面倒な入管手続きがあったが、すっと行くことができました。深センに向かう電車が国境に近づくと、周りの人間の変化に気づきました。香港人から中国本土の人、いわゆる大陸人になりました。

 上海から台北、香港の順で旅行してきたが、正直言うと、台湾到着らへんから「ああやっと都会に来た」と感じていました。都市の規模で言えば一番大きいのは上海だけれども、上海はワイルドで台北、香港は洗練されていた印象です。

 つまり島に住んでいる人と大陸人の間には決定的な違いがあります。マナーや振る舞いです。爆発的に増えた中国人観光客への不満という形で、世界的な反応も出ています(*1)。

 返還以来どっと押し寄せる大陸人にイライラを募らせる香港人は、大陸人を「蝗虫(フアンチョン)」と蔑称をつけています。いなごという意味です。これに対し、多くの香港人は異様に洗練されています。女の子は渋谷にいる女の子のように極限までつくり上げていますし、男もだいたいオシャレでやわらかい感じです。大半の人が礼儀正しく穏やかだと感じています。

 もちろん大陸人からの恩恵は多分にあると思います。中国マネーの流入が各セクターで拡大し、小売り店の売り上げがスカイロケットしました。中華系の両替商は皆人民元香港ドルレートを店頭にデカデカと掲げています。しかも「基軸通貨」の米ドルの両替レートは全然悪く、人民元はぎりぎりの刻んだ両替レートを示していたりします。人民元の流通がかなり浸透しているんでしょう。

 余談ですが、これはシンガポールのチャイナタウンでも同じ光景に出会えます。中華系の経営する両替商に並ぶ華人たちが両替するのは人民元の札束なんです。つまり、米ドルをかざせば「はは〜っ」となる世界は終わりました。

 しかし、先のエントリーで触れたように住宅・不動産の急激な上昇、物価上昇などの形でネイティヴ香港の生活を圧迫しているようです。さらに中央が香港を中国化しようとするうごきに、香港人としてアイデンティティが震えていると言われています。

#2台湾人と大陸人の確執

 別の例をあげましょう。上海のドミトリーでの出来事です。ドミトリーでは入室時にだいたい自己紹介して打ち解けるのが通例になっているような気がします。同じ部屋で寝ることになり、相手が寝ている間に音を立てることもあるので、最初にアイスブレーキングしておくのが、都合が良いわけです。もし意気投合したら、その後夕食を食べたり酒を飲んだりするという流れです。

 その日は台湾人と大陸人とぼくの3人が同じ部屋になりました。5×5メートルの部屋に段ベッドが2つ並んでいる狭い部屋でした。台湾人はビジネス出張だそうで職業的良心を漂わせるジェントルマン。大陸人もパリに2年ほど留学していて、上海でシューカツ中の若者。つまり3人とも似たような東洋人で穏やかで静かでああ今日は楽なドミトリーな日だな、のんびりしようと思いました。

 でも、そうじゃなかった。その二人は全然仲良くならず、個別にぼくと話すという感じになってしまいました。

 台湾人は最初のうち「中国人のマナーとかってどう思うか」とやんわりと聞いてきたので「日本だと堅苦しいなと感じる時があるけど、中国ではルールがない感じなんでリラックスできるなあ」とかまあ波風立たないようにしていたんですけど、最終的には大陸人がいないときに「自分のクニが中国にヘイコラしていて、前のめりに中国と接近する国民党のに不満がある、だが国民党の影響の強いメディアが大半を占めているので、本当の言葉が出てこない」という熱い話をしてくれました。こういうのは後々大きな糧になる。

 彼の話し振りからは、年々強まる中国の影響力への危機感を感じているのと、台湾人という中国とは別のアイデンティティを強く持っていることがうかがえます。先の香港人とも共通しているんです。

#3雨傘革命はシティになりたい?

 香港は昨年、通称「雨傘革命」がありました。学生と運動家らが、親大陸の人物を選ぶことになる、香港トップの選出制度に反対し、中央に対して香港での民主主義の包括的運用を求めて中環(セントラル)を占拠しました(冒頭の写真のとこです)。

 もちろん、先に触れた香港人/大陸人の対立という面でもストーリーが組み立てられます。ソーシャルメディアでつながった人々が政治的意思を明らかにする、オキュパイウォールストリートなどの傾向も読み取れます。

 ただ、これはぼくの妄想ですが、抗議には「香港をイギリスのシティにせよ」との含みがあるんじゃないか。ロンドンの金融街シティはエリザベス女王も配慮しなくてはいけないほどの特権的な自治を持っています。中国の金融街として香港にも同様の立ち位置をください、ということです。
 香港は金融センターとして中国ののど元に突き刺さっています。香港貿易局によれば、2012年末までで中国の対外直接投資の6割が香港経由でされたか、香港に向けたものです(*2)。他方、ジェトロの資料だと、2013年上半期の対中直接投資で香港のシェアは58.8%と大トップなんです(*3)。
 習近平政権は金融の肝要な部分を「一国二制度」に握られているのは我慢ならないでしょう。この状況を打開しようと金融センターを上海に動かしたい考えです。ただ香港にはグローバル金融コングロマリットが居を構えています。彼らがどっちでビジネスしたいか、より自由で税金も少なく「あらゆることがうまくやれる」場所に決まっているでしょう。

#4ひまわり学生運動

  台湾でも状況は似ています。昨年3月、ひまわり学生運動がありました。中国とのサービス貿易をめぐる法改正審議をしていた議会を、学生が占拠しました。昨年11月の統一地方選で与党の国民党が大敗し、中国との経済協力のスピーディな深化など馬英九総統の路線にノーが突きつけられました。

  この経緯を見れば、ドミトリーの台湾人がぼくに熱く語ったわけがよく分かります。ちなみに学生たちは歌も作ったようです。なにやら楽しそうですね。


台湾 加油!! ヒマワリ台灣学生運動 空撮動画(20140330当日) - YouTube

*5中国の経済成長

 そして中国の経済成長がどうなるか、ムズカしくなっています。中国は人口ボーナス期を終えてしまい、過去の政権がほったらかして「飛ばし」てきた問題が噴出している。沸騰しすぎた不動産市場やシャドーバンキング、生産性がまだ高まりきらないまま賃金が上昇してしまったことなどなど。(*4に詳しい)

 これが香港と台湾という二つの島の態度を左右するかもしれない。未来は「どんどんデカクなる中国に飲み込まれる二つの島」という構図ではないかもしれない。

 そして日本も二つのクニと似た「島」でしょう。香港、台湾で起きたことは日本も他人じゃないんです。中国の成長が減速していくにしても、大国であり続けることは間違いなく、われわれは大陸人と関わり続けていくことになります。中国との貿易や相互の投資を失えば日本は奈落の底に落ちます。だからしっかり見つめなくてはならないと思いました。

*1economist=http://www.economist.com/blogs/analects/2013/11/chinese-tourists
*2http://www.hktdc.com/mis/coi/en/s/overview.html
*3https://www.jetro.go.jp/jfile/report/07001548/07001548.pdf 56~57ページ
*4http://www.nikkei.com/article/DGXMZO85433440Y5A400C1000000/?df=2