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デジタルエコノミー研究所

デジタルが生み出す新しい経済を知りたいビジネスパーソンのためのブログ

インドネシアのライドシェアGo-Jekが東南アジアの巨大テック企業に化ける理由

ライドシェア界隈はとても騒がしい。Didi Chuxing(滴滴出行)がUberの中国部門を買収。中国は欧米系のテック企業の横展開をまたしても弾き返した。

ソフトバンク含む投資家がマレーシア・フィリピンのライドシェアGrabに6億ドル出資している。このなかでインドネシアのGo-Jekが5.5億ドルを調達し、バリュエーションが13億ドルに達した

Grabも東南アジアのGDP4割のインドネシアのライドシェアを掴みにかかっている。Go-JekはGrabとかとの競争に勝てるのだろうか。

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Naufal Hadyan

1.創業者がHBS出身の「らしくない」インドネシア

創業者、CEOのNadiem Makarimはシンガポール生まれのインドネシア人で32歳。アイビーリーグの米ブラウン大で国際関係論の学士、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)でMBAを取得。マッキンゼー、東南アジアなどのテック企業に出資・経営する独ロケットインターネット傘下のファッションECのZalora、決済スタートアップKartukuを経て、Go-Jekを起業している。

Grab CEOのAnthony TanがHBSの同級生で友人という。2人は自国に返り同様の「Uberクローン」ビジネスをやっているという奇遇。Nadiemは英語でのプレゼンも普通にやるのが、インドネシアの伝統的なリーダーと完全に異なる。

https://www.youtube.com/watch?v=X1bB6qU8e4k

インドネシア人の友人は「こういうタイプの人間がインドネシアにとって重要だ」と話している。ギトギトのコネ社会でムラ的な年功序列型が浸透しているインドネシア国内だけでキャリアを積むとこういう起業家タイプには育たない。同様のタイプのスリ・ムルヤニ財務相については先月記事を書いた。

taxi-yoshida.hatenablog.com

ジョコウィ政権になってから能力主義の人事が出てきていて、Nadiemの成功も相当いい兆候だと思う。「金持ちはもっと金持ちに、貧乏人はもっと貧乏」という失望感のある超格差社会で、若い人が大きなビジョンをもってチャレンジできるようになるかもしれない。

2.インドネシアのテンセント化する?

Go-Jekが独特なのは、乗用車ではなくバイクタクシーのライドシェアから事業を開始したことだ。インドネシアの渋滞は最悪なので、バイクタクシーがかなり役に立つ(よく使っていた)。

しかもGo-Jekはトラック、バンのシェアリング、送金などさまざまな機能を増やしている。アジアではテンセントとアリババのビジネスモデルが最高の成功例とみられているがそれをなぞろうとしているようだ。

digiday.jp

digiday.jp

インドネシアのモバイルアプリでは、EC・旅行・ゲームがシンガポール勢と地場勢が競っており、コミュニケーションアプリはLINEとブラックベリーとWhatsApp、ソーシャルは欧米系だ。決済、オンラインバンキング、動画・音楽ストリーミングなどが余っているので、ここを獲れば、Go-Jekは人口2.6億人のインドネシアのテンセントになれる。

米コンサルIHSによると、インドネシアGDPは2020年には1兆ドルを超え、2030年段階には3.7兆ドルに達する。日本が横ばいだと想定すると肉薄し始める。クレディ・スイスの2013年の予測だと、インドネシアは2030年に世界7番目のエコノミーになっている可能性もある。インドネシア市場を掴む意味はとてつもなく大きいわけだ。

この記事で触れたGoogle・テマセクのレポートで、東南アジアのインターネット経済の規模が2025年に2000億ドル(約20兆円)を超えると言われており、なかでもインドネシアは一番大きな役割を果たすわけだ。

digiday.jp

このコングロマリット化を支えるのがファンディングだ。Googleへの初期の投資で有名なSequoia、今回がプライベートエクイティ。どれだけ赤字を出しまくろうが、インドネシアを制覇すれば後々ペイするのは目に見えるだろう。

3. Go-Jekのホーム勝率は広島カープ並みになる

正直、インドネシアのライドシェアでは、Go-Jekはかなり有利だと思う。98年まで32年続いたスハルト独裁政権下で人口5%程度の中華系インドネシア人が経済のかなりを牛耳るという構造になっているなか、ジョコ・ウィドド政権は「汚職フリーな才気あふれるインドネシア系の起業家」を育てることを目指している。Nadiemはどう考えても適任だ。

インドネシアで事業拡大する際にさまざまな面でNadiemの出自が有利になっていくのは目に見えている。行政方面の調整、人脈、ハイレベルな人材の獲得などだ。

Grabはマレーシア人のAnthony が経営している。インドネシア人は驚くほどマレーシア人が嫌いな人が多い。Uberは米国人経営だが、欧米系がインドネシアで本当の意味で活躍するには数年の「鍛え」が必要で、現地で長い欧米系企業にはインドネシアに定住しているそういう人物がいるが、Uberにはまさかいないだろう。世界は多様で、インドネシアは単体でも超多様でユニークな国なのだ。

Grabはマレーシア、フィリピン、タイなどにリソースをバラしているが、Go-Jekはインドネシア一点集中だ。この部分もかなり有利に運ぶだろう。

3.開発力の弱さ

少しまずいと思うのが、インドネシアにはシニアレベルのエンジニアがほぼいないし、エンジニアの数・質も低いことだ。この部分を海外からなんとか招き入れたり、外注したりしているが、他社を圧倒し新規参入を弾き返す、強烈なグロースを目指すならきつい。

Go-JekもSequoia(インドに傘下VCをもっている)の仲立ちでインドのスタートアップ2社を買収し、開発能力を確保してはいるが。

長期的にはインドネシアのエンジニアの育成能力をレバレッジしないといけないだろう。インドネシアの教育はすごい文系教育でかなりマズい(日本の暗記教育もかなりマズい)。科学ドリブンな教育に変えて「コンピュータサイエンスまじかっこいい」にしていかないといけないだろう。

また、テック分野のビジネスディベロップメント人材などもあんまりいない気がするのでそこも課題になりそうだ。

結論:インドネシアの奇跡

インドネシア国内はかなり有利。テンセントストラテジーを実現できるならテックジャイアントになる気もする。お金の出し手もライバルたちに遜色しなさそうだ。Go-Jekの登場は「インドネシアの奇跡」だと思う。あの国に長く住めば住むほどこういう新しいテクノロジービジネスの誕生が信じられないはずだ。

GarenaとかLazadaとかシンガポールカンパニーだけが、東南アジアのテックで勝つのはマジでつまんないし、地域が抱えるシンガポールの総取り問題を深くするだけだ。Go-Jekは本当に面白い。