デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

#2 種類株 スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

起業家の僕は、資金調達に際して資本政策に関する知識を学ぼうとおもっています。調べてブログを書くことが、自分にとって好ましい学習法であり、このブログを将来の社内文書の土台にしようという目論見もあります。

このブログは完璧ではありませんが、スタートアップの起業家や参画者の方の「はじめの一歩」になるようには努力しました。あなたがここに書いてあることを実行する際は法律家等の専門家とよく話し合うことを推奨します。

種類株式の種類

種類株式にはさまざまな種類があります。会社法に照らし合わせて大別すると定めることができる内容はこの「種類株式を活用して創業メンバーの会社支配権を守る方法」(高谷 裕介弁護士)のテーブルがわかりやすいです。勝手に転載して訴訟を仕掛けられると困るので、リンク先を参照してください。会社法108条がこれらを規定しています。Wikibooks ”会社法108条”を参照、一部読みやすく改変しています。

1)剰余金の配当

2)残余財産の分配

3)株主総会において議決権を行使することができる事項

4)譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。

5)当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。

6)当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。

7)当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。

8)株主総会取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第478条第8項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの。

9)当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第9号及び第112条第1項において同じ。)又は監査役を選任すること。

これを明快に表現すると以下のようになります。

  1. 剰余金の配当
  2. 残余財産の分配
  3. 議決権制限株式
  4. 譲渡制限株式
  5. 取得請求権付株式
  6. 取得条項付株式
  7. 全部取得条項付株式
  8. 拒否権付株式(黄金株)
  9. 役員選解任権

法律家はこれらの種類株式の特性を組み合わせて、スタートアップファイナンスに適した株式を設計します。2について投資家に一定の優先規定を設けることがあります。それは後ほど”優先株”で触れようと思います。3は株主総会での議決権を制限できます。4は株主が株式を第三者へ譲渡する際に会社の承認を得る必要があり、株主の意思だけでは自由に譲渡することができない株式であり、株主が頻繁に入れ替わる状況を防ぐために利用されます。5に当たる「取得請求権付株式」とは株主が発行会社にその取得を請求する権利が付与されている株式です。スタートアップの場合、金銭に変える、普通株式に替える、この両方を定めていることが多いようです。

6の「取得条項付株式」は会社側から株主に対して、強制的に株を買い取ったり、優先株式(後述)を別の種類の株(普通株式など)に替えることができる株式です。株主の中には、今はまだ上場すべきタイミングではないとして、普通株式への転換を拒否する株主が出てくる可能性があります。上場することが確定したら、会社側から強制的に種類株式を普通株式に転換できるように設計しておけば、強制的に普通株式への転換が行えます。

7の全部取得条項付種類株式は会社が株主総会の決議によって、その全部を取得することができる株式です。M&AMBO、完全子会社化など、様々な場面で、分散した株式を集約するべく少数株主を締め出すために利用されていました。税制面でもっとも扱いやすのが採用の主たる理由ですが、会社法改正後は株式併合の方が目的に合致しているとされています。

8の拒否権付種類株式は「ベンチャーキャピタルが少数株主となりつつ、新株発行やM&Aなど一定の重要事項のみ拒否権を持つケースが典型例」と言います。これは「黄金株」と呼ばれます。黄金株の典型的な利用例は、敵対的買収です。合併・株式交換・営業譲渡などの事前に規定されたことに拒否権を発動することができます。拒否権を所与の条件としたとき、攻撃者の攻撃の誘因が減ります。詳しく知りたければこちらの『持株会社における敵対的買収防衛策の検討』(http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/graspp-old/courses/2007/50010/documents/50010-4.pdf)を読んでください。ただし、敵対的買収防衛策には「デュアル・クラス・ストック」が好ましい場合があります。これについては後で触れます。

9の役員選解任権は名前の通り役員を選任、解任する権利をもつ株式です。

優先株

いわゆる”優先株式”では、増島雅和さんのStartup Innovators『優先株式の基礎』が明快な説明と感じました。増島さんは優先株のスコープを以下の4点に定めています。

  1. 創業者のフリーライド防止(投資家の優先権確保)
  2. ストック・オプションの実効性確保
  3. 稀釈化防止(優先株式の価値の維持)
  4. ベンチャー企業のモニタリング等

多くの優先株の説明は1をなぞるものが多い印象です。2、3、4についてはとても勉強になったという印象です。3はダウンラウンドを想定したもので、普通株式ベースでの持株数を増やすことで、エグジットの際の既存投資家の取り分を保全することを目的としています。4では取締役選任権を株の要件にくっつけることで、投資家が取締役としてベンチャー企業のモニタリングを実施する枠組みです。

優先株式という名称は、投資家が最も興味のある剰余金、残余財産の分配での優先権にフォーカスしていますが、上記の種類株式のさまざまな特性をミックスしたものです。”優先株式”という言葉自体は会社法の中にはなく、おそらく投資家、法律家ごとに”優先株式”が指すスコープが異なると僕は推測しています。上記の定義も増島さんが好ましいと考える”優先株式”のかたちだと考えられます。投資家との交渉時に、投資家が優先株式の活用を好んだ場合、「おれの考える最高の優先株式」が起業家のあなたに提示されることが想定されます。優先株式はかなりスタックが深く、同時に重要性が高いので別のポストで触れます。

起業家としては、信用ベースで普通株の取引ができたほうがものごとが簡明ですし、リーガルコストも圧縮できると考えています。

付記) デュアル・クラス・ストック

デュアル・クラス・ストックは、その名前が示す通り「2つのクラスの株」を発行する仕組みです。クラスAとクラスBという2種類の株式を発行します。これら2つの株式は、金銭的価値は同じなのですが、各株の持つ議決権に差をつけているのです。有名なグーグル社の場合は、クラスAとBとで議決権に1:10の差をつけているのです。

持株比率と議決権の比率を分離することによって、株式市場からの資金調達という上場会社のメリットと、創業者や経営者が会社のコントロール権を持ち続けるという非上場のメリットとの両方の利点を享受できることになります。

攻撃者が敵対的買収を仕掛けたとしても創業者が腰を割らなければ企業支配権は攻撃者の手に渡りません。デュアル・クラス・ストックの採用は上場直前に勘案するのが自然と想定しています。