デジタルエコノミー研究所

”経済紙のNetflix”を作っている起業家の日記

#4 創業株主間契約 スタートアップ起業家が資金調達前に調べてみた

創業株主間契約にはある程度標準化された手段が存在するので、オリジナリティを発揮するのは全く割に合わないと僕は考えています。

この契約は主に仲違いで共同創業者が去ったときにケースを想定しています。FacebookTwitterなど共同創業者の仲違いで危機的な状況を迎えたスタートアップは枚挙に暇がありません。辞めた役職員が引き続き会社の株を保有していると会社経営がデッドロックに陥ったり、悪意の攻撃を受けたりする可能性が生まれます。

AZX総合法律事務所の雛形は以下のようになってます。

www.azx.co.jp

土台はこの雛形で補完できますが、ある程度のチューニングが必要になってきます。僕がチューニングする必要があると感じるのは以下の点であり、おそらく創業株主間契約のキモである部分です。

リバースヴェスティング

リバースべスティングとは、勤続年数に応じて保有できる株式比率が変化していく仕組みのことです。1年未満で辞めた場合はその人が持っている株の割合のうち、100%を返還しなければいけませんが、1年以上、2年未満の期間働いているのならば25%の株を保持できる(以後、1年ごとに所持比率が25%増加)……というように、年々保有できる株式の比率が増えていく仕組みです。この1年毎に25%付与が最も重要な一般的です。創業者間契約の中であらかじめこの条件を埋め込んでおくのです。

これに対して、Shion Okamotoさんのブログはこう指摘します。

リバース・ベスティングの条項はシリコンバレーの実務において一般的であると言われています。もっとも、私見ですが、日本のベンチャー実務においてはまだ一般的とまではいえないように思います。リバース・ベスティング条項がある場合、一定期間経過後は退任創業者に株が残ることになりますので、上記1で記載したような困った事態が生じるリスクが残ることになります。勤続年数に応じた株式を共同創業者にも与えるというのはフェアな条項である一方で、万が一の場合に会社運営を困難にするリスクをはらんだ規定でもありますので、慎重にメリット・デメリットを検討することをおすすめします。

medium.com

買い取り

ということで、創業者間契約の中には退任時に「株をおいていく」ことを埋め込んでおく方法もあります。買い取りの価格は勤めた年数と退任する理由に基づいて「場合分け」をするのが通常のやり方です。Taejunさんの『スタートアップ資本政策の6箇条』から以下の図を引用します。

f:id:taxi-yoshida:20190225141643j:plain

またこのようなタームも記述しておくといいそうです。

  • 退職後X年間は同業他社で働かないこと
  • 退職後X年間は同種の事業を始めないこと
  • 自社の業務を通じて得た情報について、秘密を保持すること
  • 退職後自社についてのネガティブキャンペーンを行わないこと

note.mu

始めた時は蜜月関係にあっても、人間関係がほころぶことはよく起きる。そして、創業者間契約を結んでいないと、30%の株を持っている共同創業者が退職して類似事業を始め、彼の持っている株を買い取れない、なんてことになる。こういう最悪の事態が時々起きる。こういったトラブルを抱えた会社が外部投資家から出資を受けることは難しいし、それが解消されるまでは会社が前に進むことはできない。そうやってゆっくりと時間を浪費しているうちに、同業他社があっという間にキャッチアップして自社を追い抜いていく、なんてことになったら悪夢だ。

創業者個人が買い取るのがメジャーな手段です。共同創業者3人のときは「三国志」ライクな争いが起きてしまう気がします。

コメント

僕はMVPの作成、事業可能性の検証等など一人で済ませました(途中途中で参加者はいましたが)。そのため仮に今後「パートナー」に類する人を招き入れてもこの創業者間契約が想定する株の断片化の状況にはならないのかな、と想定します。序盤戦は僕が支配株主として状況をコントロールし、私の持ち分の20%程度を初期参画者たちに渡すことにする予定です。

問題は私が退任しないといけないケースです。この場合、誰に株を売ればいいのだろうか? なるほど、こういうときの「転んだ先の杖」として投資家は共同創業者を立てることを奨めるわけですね。まあ、会社の二人目(二人目が辞めていたら三人目)以降に譲渡するようにしておけばいいでしょうか。あるいは、役職員のためにプールされる形にすればいいでしょうか。そうすると、新たな争いの種になる気はします。会社に関わるすべての人にとって好ましいメカニズムを設計したいという気持ちと、自分のプロジェクトが崩壊する脆弱性を塞いでおきたいという気持ちがまだうまく釣り合いが取れていませんね。幻影旅団のような感じの組織運営でいけばいいんですが、あれは漫画の中の絵空事ですよね。人間はもっともっと人間らしいものです。