デジタルエコノミー研究所

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JPモルガン「詐欺」発言にアオられない方法:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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予測

  • 暗号通貨では、価格やレガシー金融機関、中国政府の規制など、外的要因で大きな変化がありましたが、技術面は進展を続けています。最も重要な暗号通貨のファンダメンタルは技術と考えられます。人々は与えられるベネフィットに対してやがて率直な態度を示すようになると予測できるでしょう。

検討

レガシーは繰り返す

今週は暗号通貨界隈の話題が豊富でした。まずJ.P.モルガンのジェイミー・ダイモンCEOが「ビットコインは詐欺」と言いました。暴落の後にスウェーデンの取引所でJPモルガンが大量購入をしたとするスクリーンキャプチャがTwitterで出回りました。それがブローカレッジ用のポジションだったのか、自ら買い込んだのかどうか真偽の程はわかりません。ダイモンCEOはビットコインを扱ったトレーダーはクビにすると言っていましたが。

「こっちも世界金融危機のことを忘れていないぜ」と言い返したいところです。

JPモルガン世界金融危機のダメージが厳しかった。JPモルガンの最高投資責任者(CIO)はウォーレン・バフェットが「大量破壊兵器WMD)」と呼んだもの、つまりデリバティブに1000億ドルのベットをしていました。 CDS(クレジットデフォルトスワップ)などのさまざまなポジションが焼け付き、政府による250億ドルの巨額救済をうけています。あの狂乱のさなか、クレイジーなデリバティブの設計、顧客と利益相反する自己勘定取引、度重なるモラルハザードなどが公に知られました。

ビットコインには金融危機の後という文脈の中で、Banking(金融機能)をBank(金融機関)のものから個人のものに変えるという背景があります。この記事で紹介したとおり、ビットコインにはサイファーパンクの系譜があり、個人のプライバシーを為政者から守ろうとした人々のなかから生まれました。

最近の暗号通貨に関する報道の多くがプライスや規制、ICOなどに関するものなんですが、BitcoinやEthereumがオープンソースプロジェクトであるという側面はとても重要です。長期的な価格の構成要素でもあるはずですし、大手メディアの報道とそのものはかなり異なる形をしていまして、技術を見つめていると低質情報に踊らされずに未来を見つめることができます。7月末の「ネクストコンテクストカンファレンス(NCC)」ビットコインコア開発者のRusty Russell、Eric Lombrozo、Cory Fieldsの講演を聞いて「オープンソースプロジェクトなんだ」という実感が持てました。

今週はたくさんの暗号通貨の技術的アップデートが行われました。

Bitcoin

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Via Blockstream

  • 14日に「Bitcoin Core 0.15.0」がリリースされました。サトシ・ナカモトが9年前に提供したBitcoinソフトウェアクライアントの第15世代に当たります。このアップデートには≒100人の技術者が関わり、組織としてはChaincode Labs、 Blockstream、MIT’s Digital Currency Initiativeが関与しました。
  • 手数料算定部分で高止まりする手数料への対策が打たれました。マイナーは最も高い手数料を払うトランザクションをブロックに格納することを優先してきました。もしユーザーがクイックなカンファメーションを求めるなら、高い手数料を容認しないといけませんでした。Bitcoin Core 0.15.0はこの手数料の不確実性を低下させます。ソフトウェアの最新バージョンには、手数料を見積るアルゴリズムが大幅に改善されているそうです。
  • チェーンステートデータベースの再構築。新しいデータ構造の最大の利点は、新しいノードの初期同期時間が約40%短縮されることです。また、よりシンプルなコードを導入し、メモリ使用量を削減します。
  • Multiwallet。1つのBitcoinコア実行プログラムで複数のウォレットを簡単に管理できるようになりました。この機能はまだまだ新しく、エキスパートユーザーのみが利用できますが、今後はグラフィカルユーザーインターフェイスで利用できるようにしたいと考えています。
  • Blockstream - Gregory Maxwell Talks About Bitcoin 0.15

Ethereum

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うどんさんのブログにRaiden Network公式サイトの超意訳が載っていますので、そのまま引用します。

Ethereumのペイメントチャンネルネットワーク

Raiden は、オフチェーンネットワークを使って、資産移転において優れた特徴を持つEthereumを拡張するテクノロジーです。

  • スケーラブル:参加者の数に比例して性能が良くなります。(1,000,000tps以上が可能に。)
  • 高速:1秒未満で送信完了
  • 機密性:すべてのトランザクションがEthereum Blockchainに書き込まれるわけではない。
  • 互換性:Ethereumの標準化されたトークAPI
  • 低い手数料:取引手数料は、Ethereum Blockchainをそのまま利用するより7桁分手数料が低いかも。
  • マイクロペイメント:トランザクションの手数料が安いので、小さい金額を効率的に送受信可能

OSS間の熾烈な開発競争が透けて見えます。Bitcoinのレイヤー2の中にはEthereumのコア・バリューであるスマートコントラクトを取り込もうというプロジェクトが存在します。Ethereum側もRaiden Networkでビットコインが導入を目指しているマイクロペイメントの包含を狙っています。

  • 開発者はノードソフトウェアGethの最新版をリリースしました。イーサリアムのアップデート「Metropolis」の最初の段階である「 Byzantium(ビザンチウム)」ハードフォークが来月内に予定されています。 いくつかのアップデートはまだ最終確定していませんが、最終的にはピアツーピアプロトコルの帯域幅要件を33.6GBから13.5GBに削減することを約束しています。さらにメモリキャッシングの速度が向上も含まれます。 Megeraへのアップデートにはトランザクションプールの改善も含まれています。 これまでのバージョンのGethでは、高額トランザクションが無差別に優先順位付けされていましたが、この新しいバージョンでは、Gethユーザーのトランザクションは金額に関係なく優先されます。
  • Metropolisのデプロイにより「セキュリティ向上」「手数料の自由化と確認方法の改善」「アプリケーション構築作業の軽減」「マイニング報酬量の減少」「 PoWから PoSへの転換」が想定されています。

 結論

SegWitをめぐる停滞から一転してビットコインコアの動きは活発になっています。EthereumはMetropolisがどの程度のインパクトがあるアップデートなのかを見定めたいところかもしれません。二つのプロジェクトの進展する速度が加速している印象で、早い段階で暗号通貨クラスタ外にももっとインパクトを与えるのではないかと期待しています。

参照

邪悪になるな、iphone搭載の顔認識の光と影

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iphone Xに顔認識が搭載されました。多くの人が買い求めるiPhoneで、大規模なフェイシャルデータが集まることが想定できます。「Face ID」により今後は顔により様々な認証を行うことが可能になったり、 上の画像のように顔の動きとアバターの動きを同期させたりできるようです。顔認識技術自体は取り立てて新しい技術ではありません。Facebookの画像の被写体へのタグ付けは有名です。同社の顔認識研究プロジェクト「DeepFace」のソフトウェアは、人間の認識精度を2014年の段階で超えていました。精度は100%に近づいています。

プライバシーや監視社会の可能性

顔認識の活用に関してはプライバシーの議論があります。エコノミストは、万引き犯の検出やサッカーの試合中に違法行為を働いた人を摘発するほか、配車サービスの運転手の身元確認や決済における認証などへの応用を評価する一方、顔認識によりその人のセクシュアリティが暴かれたり、法執行機関が荒々しく利用したりとプライバシーの危機に警鐘を鳴らしています。この技術は他者を支配するという哲学で利活用されるとなるとかなり危険になります。個人の領域を力強く暴き出し、その行動を監視することに利用するができます。それこそ同性愛者の哲学者ミシェル・フーコーの論を思い出さざるを得ません。

Amazon, IBM, Microsoftは顔認証APIを提供しています。主に以下のようなことが可能になります。

  • 人間の顔を検出し似ているもの同士を比較
  • 類似性に基づいて画像をグループ化
  • タグ付け済みの人物を画像内で特定

以前から小売、セキュリティ関連で顔認識は導入されていました。特に万引被害が多い海外の小売業者は多数の監視カメラを配備して利用してきました。しかし、APIの登場により導入コストが落ちたため、多くの人・企業が顔認証を使うようになるでしょう。画像のなかの人物にタグを付ける機能を実装したアプリケーションが多くの人の手に渡っていくでしょう。

ただロシアの写真家Yegor Tsvetkovがその危うさを示すことに成功しています。彼は「Find Face」という顔認識アプリケーションを利用し、地下鉄で撮影した人々をSNSから探し出しそれを公開するというプロジェクト"Your Face Is Big Data (あなたの顔はビッグデータ)"を行いました。地下鉄で見ず知らずの人々を撮り続け、顔認証アプリ「Find Face」に画像を入力し、ロシア最大のSNSサイトVkontakteから本人を探し出した。結果、約7

顔認識を何に使うか?

顔データを何に使うかという点が重要です。マーケティングも有力な応用範囲の一つではあります。

消費者の購買行動がより細かに分かる可能性があります。買い物時の感情や検討した商品を把握し、その途中でその人がスマートフォンで情報収集をしたりしたとしても、それもスマホ経由でデータを取得できるかもしれません。最終的に購入したものも決済データから理解できるとします。

断片化しているこれらデータ群を統合できると仮定すると、一人ひとりのすべての購買に至るまでの行動に関してより細やかに理解することが可能になるかもしれません。それにより商品開発、マーケティング、生産計画の最適化が図れるかもしれません。もちろん顔認識だけでなく、大規模かつきれいなデータが手に入ることやそれを高度に解析する能力が必要になり、これらも一朝一夕の世界では成し遂げられません。

顔から感情を把握できる

もっとシンプルに利用者の顔から感情を読み取り、顧客体験の向上を図ることにも使えるでしょう。顧客から「楽しい」「幸福」などのポジティブな感情が発現されている割合が高ければ高いほど、いい店舗と呼ぶことはできそうです。品揃えや商品配置のほか、顧客から退屈を読み取ればゲリライベントやタイムセールなどのカンフル剤を入れたり、静かに商品価格を上下させたり(これはどうなんだろう笑)できるかもしれません。

飲食店で新商品を試す際にもこっそりカメラから感情を抽出して、新商品への感触をしることができるかもしれません。その商品の良さがうまく伝わらないせいで、人気化していないが、やり方を変えればヒットするものが、すぐに打ち切られてしまうという例もあるはずです。逆に人気商品ではあるものの、じわじわと顧客満足を削っている商品もあるのではないでしょうか。

結論 

顔認識技術を採用するにあたり「暗号化」ができるようにしたほうが良いと思います。「Be evil」な企業/政府/捜査機関などが巨大なデータを持ってしまうと私たちのあらゆる行動や感情を把握するビッグブラザーを生みうる技術であることは確かです。いままでのようにSocialで顔を晒していたいです。

参照

 

カーボンファイバーが自動車をプログラム可能にする:デジタルビジネスの野蛮な一週間

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近年注目を浴びる炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced PlasticsCFRP)は金属類より軽く、強く、疲労も少ないといわれます。炭素繊維は航空機、風力発電ブレードなどで採用されていますが、巨大市場の自動車業界も触手を伸ばしています。

現状、自動車メーカーはホイールなどの部分でカーボンを採用しています。部品点数10万点といわれる自動車ですが、CFRPを使った製品をオートメーションで大量生産するするメソッドがその10万点に行き渡っていません。その活用が高価格帯の自動車に偏るのは、生産ロット数が豊かになっていないからでしょう。また、CFRPのリサイクル手段もまだ確立していません(金属はリサイクルが可能ですが、その過程で溶かす必要があるため効率的なリサイクルと言えるかは別です)。とはいえ、今後はさまざまな部品にCFRPを活用した部品生産の自動化の波が訪れることになるはずです。

炭素繊維の生産に関しては、東レが世界シェアの約4割を握り、2番手の帝人三菱レイヨンを足した3社で世界生産の6割超を占めています。中国などのアジア企業も参入済みですが、日本勢とは品質で大きな差があるそうです。

ただし、自動車業界に炭素繊維が普及する決定打があり、それが炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)という成形コストがやすい炭素繊維が出てきたことです。これによって広範な範囲での炭素繊維の活用が進むと考えられ、リサイクルの問題も解決できました。

2020年から2025年にかけて自動車用を中心にCFRTPの採用が進み、2030年にはCFRTPが炭素繊維複合材料市場の金額ベースで約10%、数量ベースで30%を占めるようになる見込みだ(中略)。

CFRPでは困難だった高速プレス加工や、スチール溶接並みの強度を持つ接合が可能になる。また、CFRTPに使うマトリクス樹脂がリサイクル可能であるため、生産工程で発生する廃棄材料や不良品、廃車後の部品を再利用できる。

炭素繊維強化プラスチックの世界市場、自動車用で熱可塑性が急成長へ - MONOist(モノイスト)

電気自動車の能力を拡大

同時に電気自動車のトレンドにも注意を払わなくてはいけません。内燃機関を搭載する必要がなく、部品点数はガソリン車より少なくなっていきます。ここに炭素繊維という素材革命が影響するはずです。電気自動車は電力のチャージをしなくてはならず、その充電ステーションを整備することや、バッテリーが貯めれるキャパシティを拡大する必要があります。車体自体が軽くなれば消費電力は減るので、充電の頻度を減らすことができます。自宅の屋根で太陽光発電し、自動車がそこから充電することで「化石燃料に頼らないモビリティ」を実現する。このビジョンを加速させる重要な一要素なのです。

さらに自動走行車のトレンドとの関係も考えてみましょう。自動走行車は理論上、都市を走る自動車の数を減らすと考えています。市民へのモビリティの提供をより高度化するからです。となると、そもそも自動車を大量生産する必要がなくなります。

結論:プログラマブルな自動車

だから自動車は部品が減るし、素材もどんどん質が高まります。Autodeskなど人間が高度な設計・デザインを行うことを助けてくれるツールも増えています。誰でも作れるようになっていくでしょう。20世紀型産業の覇者である自動車は、21世紀にはどんどんプログラマブル(プログラム可能)になっていくのではないでしょうか。ソフトウェア企業は、自動車という物体ではなく、モビリティという価値に焦点を当てたプロダクト開発を進めています。多層垂直型の産業構造で知られる自動車業界ですが、インターネットが通信などでおこした水平化の衝撃を受けることになるでしょう。そしてもちろん自動車それ自体も「接続」されることになります。

付記

私は高校時代にテニス部でした。当時カーボンファイバー製のラケットが登場してメインストリームを獲得するタイミングでした。カーボン製のラケットはショットの速度を飛躍的に向上させ、テニスを高速化しました。その結果、選手は超人的なフィットネスを要求されるようになっています。錦織圭さんはあの身長で強烈なショットを叩き出し、それを連続して行うスーパーマンなのです。