デジタルエコノミー研究所

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『ゼロ・トゥ・ワン』と『Hard Things』を読み返してみた

お正月ということで一旦いろいろリセットするということで、著名な起業家、キャピタリストの本を読み返してみました。両者ともドットコムバブルの津波のなかで生き残った数少ない成功者であり、その経験に基づく洞察と、類推できる時代背景がとても愉しかったです。起業した後に読み返すと味がぜんぜん違いました。学びをメモしておこうと思います。

『ゼロ・トゥ・ワン』

スタートアップの成功には運が大きく関与しており「宝くじを引いている」側面は否定できません。しかし、複雑な世界の中では、起業家とそのチームが他者に対して大きく差を付けるポイントが存在している気もします。ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン』はまさにその考えに立脚しています。

『ゼロ・トゥ・ワン』のユニークな点は、明確に独占を賛美していることです。完全競争市場では利益はゼロに近くなって行きます。だけど、人々は競争が好きです。他人と同じフィールドに立ち、同じことをしていることに安心できるからでしょう。競争相手をやっつけることに思考をさくので、新しい何かを創造するよりも、むしろ「奴隷的な発想」で熱中できます。

ティールは独占を成し遂げるためにはマーケットにおいて5倍以上の競争力を持ったり、ネットワーク効果を起こしたりするのが良いと指摘しています。ニッチから初めてニッチを独占することからスタートアップの急成長は実現されると説くのです。

プロダクト開発の観点から考えると、まさしく小さな顧客層からスタートを開始することが重要だとわかります。Twitter創業者(諸説あり)のジャック・ドーシーはプロダクト開発に関して、早稲田での講演でこう説明しました。「最初はとにかく小さく。自分が使ってみたいものを作る。次は友達に勧める。フィードバックと更新を高速化して、どんどん良くしていく」。

独占を成し遂げるには他者がしないことをして、これまで存在しなかった価値を創造することが重要だとティールは説いています。ティールのチームのプロダクトをコピーして追走してきたX.comのイーロン・マスクは馬鹿に見えることをするのが合理的だと語っています。

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

 

Hard Things

伝説のスタートアップ、ネットスケープに参画し、シリコンバレー最上級VCのアンドリーセン・ホロウィッツを率いる、ベン・ホロウィッツのこの本は素晴らしい読み物でした。クラウドというビジネスアイデアが90年代後半に会ったことに驚きます。

ホロウィッツが歩んだネットスケープ、ラウドクラウド、オプスウェアという歩みは、サーバークライアントからクラウドへの時代の変遷を見ることができます。仮想化技術の発展がオプスウェアの売却を決断させる一要因になったことが記されていますが、いまのクラウドサービスはまさしく仮想化をその成長の土台にしており、ホロウィッツの判断が正しかった。

ホロウィッツは、合理的な思考だけでは答えに到達できない決断を繰り返し、何度となく訪れた「死」を乗り越えることに至った経緯を記しています。スタートアップは常に「多腕バンディット問題」にぶつかっています。「どれを選択するれば最も効果が高いかを問われ続ける」ということです。その解答を探すのはペーパーテストとはわけが違います。奇妙なところに答えがすべて隠されていたり、まったく異なるロジックと不足した情報でプレーするプレイヤーが他の合理的なプレイヤーが獲得できる機会を大きく左右したりするのです。

そういうときにどうプレーすればいいのか、難問と困難が与えられたときに「死なない」ことが、生き残る術になるとホロウィッツは言います。スタートアップはどこまで行っても人間ドラマではあるのだな、と感じさせられました。

HARD THINGS

HARD THINGS

 

 まとめ

この二書を読みかえし、とてもやる気が出てきました。両者がオープンにしてくれた経験のおかげで、訓練すべきものが見えてきた気がします。小さなカテゴリで独占を築く力、困難な判断をする力は訓練次第で養えると考えられます。それを想定した、ロバストなチームを創るのにも、一定のいいロジックがある気がします。

誰もが「1995年のAmazon」からスタートするからやり続けるだけ

 

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1995年。投資銀行での成功を全て捨てて、Jeff BezosがAmazonを始めた時のオフィス。 投資会社のSVPで高給取りだったBezosがイケてないオフィスで一人で作業をしています。何事も始めるときはこういう時期を経験するものです。私も起業してから2ヶ月程度ですが、いままさにそういう時期にあります(笑)。Axionの運営は私とパートタイムで手伝ってくれる数人によって行われていますが、基本的には1日の大半を一人で作業しながら進めています。

起業したことによって驚くのは、既存のカイシャがもつリソースの豊かさとそのリソース活用の非効率さの両面でした。イチからやってみると「なぜこんなことをやらんとあかんのや」というタスクが無数にあり、カイシャがそれを省略してくれていたことに気づきます。他方「4、5人使っていたあの仕事って、あのライブラリ使えば一人でできちゃうやん」「あの人が勝ち誇っていた功績って、南極に豪邸を建てたようなものなのやん、周りの人を騙していたのか、あきれた」ということが多々あります。

誰も掘らない穴を掘っている

一方、1人だと見通しが正しくともなかなか船が進むのが遅いのは確かで、いつもやきもきしてしまいます。タスクをホワイトボードにまとめていると、文字の塊ができてしまってやる気が削がれてきます。本当に本当に肩の凝るお仕事です。しかも私は長期的利益を評価する傾向が極めて高いので、いまは報酬を貰わずして将来に向かって仕込んでいるフェイズにあります。武田信玄土竜攻めのようにずっと穴を掘り続けていき、最後には城の中に坑道がつながる手法に似ています。一人で穴を掘るのは大変ですし、リターンを得るまでにかかる時間のうちに状況が変化するとそれでオシマイ。これはメンタルにきいてきます。

でも、ぼくはこのゼロから何かを生み出すことを楽しんでいます。何かを創ることは初めての経験ではない。大学卒業後はインドネシアでゼロから現地の政治経済社会について学び、イ情勢に関しては大学教授や大使館、商社、コンサルが私の功績を引用なしパクるレベルに達しました(それほど情報ギャップがあったと自負しています)。帰国後はDIGIDAYの立ち上げに参画し、ここもゼロから学習し、マーケティング広告にインパクトを与え、一定のポジションをとりました。技術部隊が欧米にあり、日本には営業・マーケしかいない構成の外資と、新手法の理解・採用が牛歩の内資でできているデジタルマーケティング界隈は、宝の山でした(この段落の表現はなんかイヤな感じですね)。

もちろん、DIGIDAYのときは元々アメリカで確立したブランドでしたし、会社がある程度のリソースを提供してくれたため、立ち上げはもっと容易でした。主に金、人、評判が最初は不足していると感じさせられます。

しかし、続けていけばうまくいくのは明確です。世界は相関し合う無数の変化群に晒され続けていて、それが未来を常にぐにゃぐにゃ変えています。この環境下では、既存の組織を変革するより、ゼロから新しいものを作ったほうが速いのです。

それにこれは私の精神を若くしてくれています。未だに高校出たての18歳のマインドです。そして学習し推論するモデルとしての自分が急速に成長しているのも感じます。スキルは自分で何かをやった方が断然つくのを実感しています。

ぜひ我がオフィスに遊びに来てください。

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【報告】テックメディア「Axion」を創業していました

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最近ブログの更新が滞っています。なぜなら私が9月にDIGIDAYを辞して10月の末からテックメディア「Axion」を立ち上げたからです。

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Axionのプロパティは現在上記のWebアプリケーション、Youtubeチャンネル、Facebookページと最低限の陣容で進めています。Axionはどんなメディアかというとビジネスパーソンが最先端テクノロジーを理解し、それが引き起こす変化への対応力を提供する」です。率直に書きますと、伝統的な日本企業は広範な範囲で、最先端テクノロジーの理解とそれがもたらす変化に余りにも鈍感です。今月ロスで開催された機械学習のトップNIPSでも日本勢の存在感は大きいものとは言えないようでした。基本的にこのテックが経済や社会を大きく変えていくというビジョンをもつメディアは日本にはありません。

日本映画はわかりやすいメタファーかなと思います。日本映画は特撮は得意ですが、SFは余り得意ではない。日本の市民社会のカルチャーはどこかで科学を軽くみています。青色発光ダイオードNAND型フラッシュメモリの発明者は日本国内では不遇でした。

Axionは権威主義社会の外側で、日本だけでなくアジアで、テックで新しいビジネス、経済、社会を作るというコミュニティを生み出すことを目的としています。そしてさまざまなレイヤー、属性の人々が学習するプラットフォームになろうというのが目標です。だから表題にテックメディアと置いてますが、とりあえずです。メディアという言葉がまあわかりやすいかなというだけなのです。

私は知識が人間をより自由にするという信念を持っています。金融や不動産の知識がないまま結婚をし子どもを作るとカップルは往々にして多量の負債に苦しむことになります。預金という余りにも不適切な資産運用方法を信じ、ATM/現金を都度利用して手数料を持って行かれます。

正しい知識を効率的に摂取する手段があれば、人間は権威的なサードパーティから搾り取られることを回避できるようになり、未来に投資できます。

私たちのプロジェクトは20世紀型の「メディア」ではなく、人間が認知するMediumの生成を科学することです。動画は一つの手段に過ぎません。

われわれは人が学習をするための媒介のあり方を検討しています。ひとつは動画であり、素人仕事ですが、こんなものを作っています(YouTubeチャンネル登録お願いします)。

https://www.youtube.com/watch?v=h3rTj1YhyX4&t=134s

動画製作に学習していると、画像生成にまつわるサイエンスの理解が深まってきまして、将来的にはAxionを深層学習、コンピュータビジョン、仮想現実、複合現実などの領域と融合していきたいと考えるようになりました。

今起こっていることは「アナログからデジタル」「テキストから動画」というシンプルな線形の変化ではなく、コンピューティングの進化と適応領域の拡大が、さまざまなものごとをゼロから設計できるようになり、しかもそれはさまざまな領域で同時多発的におこる技術的進歩に常に影響されている、ということです。

この波に乗って新しいことをやってみたいと思います。3年目の東京ですが最近はやっと楽しくなってきました。